カレント・トピックス
 
 
 
ご意見・ご感想はこちら
 

  平成21年 4月 23日 2009年21号
リチウムの資源と需給
-Lithium Supply & Markets Conference 2009(LSM’09)参加報告-


<サンティアゴ事務所  大野克久 報告>

 2009年1月27及び28日の両日、サンティアゴ(チリ)において、Metal Bulletin(英)主催のLithium Supply & Markets Conference 2009(LSM’09)が開催された。本カンファレンスは世界初のリチウム国際会議で、次世代自動車用バッテリーとして世界的にリチウムイオン電池に関心が集まっている中、リチウム生産企業、大学等研究機関等から約150名(うち日本から25名)参加の下、リチウム需給の現状や予測等についての発表が為された。
 翌29日及び30日の2日間は、チリ北部Atacama(アタカマ)及びAntofagasta(アントファガスタ)において世界的なリチウム生産企業であるSQM及びChemetallのプラント視察現地調査が実施され、JOGMECは本部及びサンティアゴ海外事務所から参加した。
 本稿においては、カンファレンスの発表に基づき、世界のリチウム資源とその需給の現状についてレビューするとともに、現地視察の概要について報告する。
 なお、別途、技術的事項を主体としてまとめた金属技術トピックス『Lithium Supply & Market 2009報告(その1、2)』(http://www.jogmec.go.jp/mric_web/tec_index.html)も併せて参照されたい。

1. リチウム資源量について
 リチウム資源は、塩湖かん水及び鉱石の2種類に大別され、両者を合わせた資源量は金属リチウム換算で約2,916万tと試算され、その比率は2:1である。
 また、塩湖かん水全体の資源量1,866万tのうち、チリ、ボリビア及びアルゼンチンの3か国で80%を占め、鉱石資源量1,050万tのうち、米国が47%を占めている。

図1.世界:リチウム資源量の内訳
図1.世界:リチウム資源量の内訳


(※図中凡例: 国名,資源量(万t),割合(%))
図2. 塩湖かん水資源量(国別) 図3. 鉱石資源量(国別)
図2. 塩湖かん水資源量(国別) 図3. 鉱石資源量(国別)

2. 世界のリチウム生産量
 2008年のリチウム生産は、塩湖かん水及び鉱石合わせて約12万t(炭酸リチウム換算)であり、その生産比率は、60:40である(SQM試算)。
 塩湖かん水からのリチウム生産は、SQM(本社:チリSantiago)、Chemetall(本社:独Frankfurt)、FMC(本社:米NC(ノースカロライナ)州・Charlotte)といった各企業及び中国で行われており、その比率は各々29%、28%、16%、27%とされている(2007年FMC試算)。
 鉱石生産では、Talison Minerals(本社:豪Perth)がPerth南東250kmのGreenbushesに所有する世界最大のタンタル・リチウム鉱床(リチウム生産対象はSupodumen(リチア輝石:LI20・Al2O3・2SiO4)、資源量35.5百万t、Li20 3.31%)から世界生産の約70%を採掘しており、そのリチウム精鉱の2/3(グロス量で約10万t)は中国へ輸出され、新疆ウイグル自治区、四川省及び江西省で炭酸リチウムが生産されている。

3. 主要なリチウム生産企業
  塩湖かん水からのリチウムを生産している企業概要は以下のとおり。
(1)SQM(本社:チリSantiago)
 SQMは、チリ第Ⅱ州Atacama塩湖のかん水を利用して世界シェア49%を占めるカリ肥料(KCl,K2SO4)を生産しており、炭酸リチウムは肥料生産の副産物との位置付けである。
 同社がAtacama塩湖に保有する鉱区のリチウム埋蔵量は、炭酸リチウム換算で4,000万tと試算されている。また、現在の生産能力は炭酸リチウム換算で40,000t/年であるが、2010年には60,000t/年に拡張予定である。

(2)Chemetall(本社:独Frankfurt)
 Chemetallは、1923年のMetallgesellschaftによるリチウム生産に端を発し、その後買収等を経て、現在はRockwoodグループ(本部:米NJ(ニュージャージー)州)傘下となっている。
 リチウム部門では、炭酸リチウム、水酸化リチウム、金属リチウム等を生産しており、リチウム化合物全体では世界の50%以上のシェア、炭酸リチウムでは約30%の世界シェアを有している。
 主要生産拠点は、Atacama塩湖及び米NV(ネバダ)州Silverpeak(Las Vegas北方350km)であり、Atacama塩湖のかん水からは炭酸リチウム及び水酸化リチウムを生産している。
 2008年の生産規模は炭酸リチウム27,000t、水酸化リチウム4,000tであり、2020年には各々50,000t、15,000tに生産規模拡大を予定している。

(3)FMC(本社:米NC(ノースカロライナ)州・Charlotte)
 FMCは、肥料、農薬等の化成品メーカーで、ソーダ灰生産では世界最大である。
 同社のリチウム事業参入は、1986年のLithCo買収に端を発し、当初はリチア輝石からリチウムを製造していたが、1997年からアルゼンチン北部(チリ国境沿い)のHomble Muerto塩湖のかん水からリチウムを生産しており、現在の生産規模は、炭酸リチウム換算で17,000t/年である(操業は100%子会社であるMinera del Altiplanoが実施)。

4. リチウム需要及び用途
 世界のリチウム需要は化合物全体で、2004~2008年間の年平均伸び率は5~7%であるのに対し、二次電池用リチウム需要は20~22%と著しい伸びを示している。2008年のリチウム化合物全体の需要は115~118千t(炭酸リチウム換算)であるが、2007年比伸び率は1~2%と低率である。これは世界的な景気低迷の影響によるもの見られる(SQM)。
 また、2007年の地域別需要については、日本、中国等アジアが世界のリチウム需要の53%を占め、最大の市場となっている(FMC)。

図4.リチウムの要(用途別、2008年)
図4.リチウムの需要(用途別、2008年)


図5.リチウム需(製品別、2008年)
図5.リチウム需要(製品別、2008年)

表1.リチウム化合物種別需要
製品名 主要用途
炭酸リチウム リチウム・イオン電池、耐熱ガラス・陶磁器等の釉薬、鉄鋼連続鋳造、タンタル酸リチウム・ニオブ酸リチウム原料
水酸化リチウム 耐熱・耐圧グリース ( 自動車、鉄道、建設等 )
金属リチウム リチウム・イオン一次電池負極材、合成ゴム重合触媒用ブチル・リチウム原料
塩化リチウム 金属リチウム生産原料、軽金属溶接用フラックス、医療用他

図6.リチウム需(地域別、2007年)
図6.リチウム需要(地域別、2007年)


5. 今後の需要予測
 SQMでは、2009~2018年の10年間でリチウム化成品需要は、ハイブリッド/電気自動車(HEV/PHEV/EV)用1※を除き3~5%成長、2020年のハイブリッド/電気自動車用需要では、控えめに見積り20~30千t、多めに見積り55~65千t(ともに炭酸リチウム換算)と試算している。
 イリノイ工科大学では、HEV/EV1台当り10lb(4.536kg)の炭酸リチウム(換算量)が必要で、2015年には250万台が生産されると仮定すると、2015年には炭酸リチウム換算で11,000tが必要になると試算している。
 Chemetallでは、2020年時点でのハイブリッド/電気自動車用リチウム需要の控えめな予測量30千t、多めな予測量60千t(ともに炭酸リチウム換算)と試算している他、コンサルタント企業であるTRU Group(米)は、現在開発検討中のプロジェクトを含めても、2017~2018年にはリチウム不足が生じると試算している。

6. Atacama塩湖現地調査
 LSM’09カンファレンス後の1月29、30日の両日、Santiago北方約1,500kmに位置するAtacama塩湖において、SQM及びChemetalI(両社で世界の約45%の炭酸リチウムを生産)のリチウム濃縮工程及びCarmenにおいて両社の炭酸リチウム精製プラントの現地調査にJOGMEC調査団は参加した。


図7.Atacama塩湖位置図
図7.Atacama塩湖位置図

1※HEV:ハイブリッド自動車、PHEV:プラグイン・ハイブリッド自動車、EV:電気自動車

 Atacama塩湖で操業中のSQM及びChemetallにおけるリチウム濃縮工程は同一で、Atacama塩湖でかん水を汲み上げ、広大な蒸発池(SQM:1,000万m3)を利用し、SQMでは8か月、Chemetallでは12~15か月間をかけて、かん水中のリチウムを0.2%から6%まで濃縮する。濃縮かん水はAtacama塩湖西方230kmのAntofagasta近郊Carmenに所在する精製プラントまで運搬され、炭酸リチウムが生産される(生産能力SQM:40,000t/年、Chemetall:27,000t/年)。なお、SQMでは、水酸化リチウムも製造(6,000t/年)している。

図8.Atacama塩湖での濃縮工程
図8.Atacama塩湖での濃縮工程

図9.リチウム精フロー(Carmenプラント)
図9.リチウム精製フロー(Carmenプラント)

おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。

 ページトップへ