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採取産業透明性イニシアティブ
(EITI)の仕組みと動向(その1) <ロンドン事務所 フレンチ 香織 報告>
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1. EITIとは 2002年9月に英国のブレア首相が、ヨハネスブルグ環境開発サミットで資源開発事業に伴う資金の流れの透明性を求めるために、”EITI”(Extractive Industry Transparency Initiative)を提唱したことから始まった。 EITIの目的は、『石油・ガス・鉱物資源の採取産業から資源産出国政府への資金の流れの透明性を改善し、国際基準に則した資金管理の責任を高めることによって、健全な統治(Good Governance) を向上すること』であり、最終的には政治腐敗の予防及び貧困撲滅に繋げることを目標としている。 提唱の背景には、石油、天然ガス、鉱物等の資源開発を行う際に、開発企業(採取産業)から資源国に支払われる税金、ロイヤリティといった資源国の歳入が、資源国の経済発展に適切な用途に利用されていないという実態があった。本来、資源開発産業からの収益は、持続可能な開発に向けた経済成長の推進力となるべきである。しかし、天然資源が豊かであっても、相対的に発展が遅れている国が多く、天然資源の豊かさと貧困とに相関関係があると言われていた。そのため、開発企業からのロイヤルティ等の支払額、ホスト国の歳入等を資源国政府が公表し、その歳入の使途の透明性向上に役立たせることにより、天然資源開発からの収益の効率的かつ公正な方法での使用を促進すると共に、資金の不正流用などのリスクを低減させようとする仕組みがEITIである。 各国政府がEITIを実施する際には、2つの条件が設定されている。先ず、全てのEITI実施プログラムが、国際的に合意されたEITI原則及びEITI基準に則さなければならない(付属1、2を参照)。もう1つは、EITI実施の柱となる各国の作業計画(Country Workplan)が、政府、企業、市民社会によって構成されるマルチ・ステークホルダー・ワーキング・グループ(以下、『MSG』)によって決定され、遂行されなければならない。 基本的には、この2つの条件を満たせば、各国政府はその国に合った、最も効率的な組織構成・運営内容を決定した上で、資金的な支援を受けつつEITIの具体的活動を進めることができる。
2. EITIの実施体制 (1) 事務局 EITIは、当初、英国国際開発省が事務局としてコンファレンス等を開催してきたが、2007年9月にノルウェー・オスロに国際事務局を設置した。 (2) 支援体制 EITIは、世界銀行(WBG)及び国際通貨基金(IMF)との緊密に連携・協力のほか、様々な国際機関、産業団体、NGOなどが支援を表明している。 例えば、国際連合、G8、G20、アフリカ連合やその他の国際金融機関(EBRD等)がEITIへの支持を表明しており、国単位では、豪州、ベルギー、カナダ、ドイツ、フィンランド、フランス、イタリア、日本、オランダ、ノルウェー、カタール、スペイン、スウェーデン、スイス、英国、米国などがEITI支援国として認識されている。 また、産業団体からは、国際金属・鉱業評議会(ICMM)、米国石油機関(API)、石油ガス生産国機構(OGP)等、採取産業企業からは、石油企業のBP、シェル、トタール等、そして、鉱山企業のAnglo American、BHP Billiton、Rio Tinto、三菱マテリアル、日鉱金属、住友金属鉱山等がEITIへの支持を誓約している(現在、石油・鉱業合わせて46社がEITI支援企業である)。 具体的にEITI支援国/支援機関となる公式な必要条件は、本イニシアチブを支持するという明瞭な公式表明を行うのみである。一方、これらの支援国政府や国際機関の多くは、EITI運営のための金融支援や、資源開発産業における収益や資金の流れの透明性を改善するためにも、他国へのEITI加盟への呼びかけや、EITI実施国との協力関係の円滑化を自主的に行っている。また、EITI支援企業となる公式な必要条件は、本イニシアチブを支持するという明確な意思表明を行うことと、本イニシアチブを助長することのみと記されているが、実際には、EITI運営のための金融支援を自主的に行ったり、自社が事業を行う国のMSGに参加したり、または、国際レベルや産業団体レベルでのEITIに準ずる資金流入の透明性に誓約することで、積極的にEITIプロセスに関与している。 (3) 支援策 EITIでは、各国からの拠出金による基金(2010年3月時点のThe EITI Multi-Donor Trust Fund:30.8百万US$)を有しており、世界銀行が全体のとりまとめをしながら、EITI実施国がEITI活動を実施するための資金的な支援を行っている。既に12か国以上で資金提供の実績があり、さらに10件以上の活動が承認されている。 (4) EITI実施国 EITIを実施する国々は、『候補国(Candidate Country)』と『遵守国(Validation Country)』の2段階に分けられる。先ず、EITIに誓約するために、4つのEITI基準に公式に署名した国は、『候補国』に認定される。その後、EITIを実施して、その実施結果が国際的なEITIの認証基準に達していると認証された場合は、『遵守国』へと移行される。
3. 候補国から遵守国へ移行するプロセス EITIでは、多くの資源産出国がEITI実施を表明すること自体が有意義とされているが、国際的なEITI認証基準に準拠しない限り、本イニシアチブの目標には達せられないと考えられている。従って、候補国と認証された後は、原則として2年以内に遵守国に移行しなければならない。但し、原則として、候補国でありながらも有意義な進歩が見られない国は、候補国のステータスから除外されることとなっているが、動機付けのためにも、2年以内に遵守国に認証される必要条件に満たしていない国であったとしても、EITIに則して良い進歩を成し遂げている国は、猶予期間を申請することができる。
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『候補国(Candidate Country)』に承認 ↓
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『遵守国(Validation Country)』に認証
4. EITI報告書のテンプレート内容 EITI報告書のテンプレートは、2005年3月に発行されたEITI手引書(EITI Source Book、文末にウェブリンクを紹介)に基づき、MSGによって作成される。テンプレートの見本は、本手引き書の付録(Appendix)に紹介されているが、内容は収益税やロイヤルティ等の項目が含まれている。 但し、テンプレートは各国によって内容が異なる。例えば、モンゴルでは関税も含めており、ノルウェーでは炭素税などの項目を追加している。また、後述7.のとおり、モンゴルは、本報告書に地方自治体への企業の支払いも含めている。従って、EITIに対応する企業は、各国のMSGが規定するテンプレートの項目内容に応じるべきとされている。 5. 採取産業企業のEITI参加内容 天然資源の採取産業に投資している国が、EITIの実施を表明した際、企業からの以下の活動参加が期待されている。但し、EITI国際事務局に問い合わせたところ、EITIの原則は『自主的な参加』であるが、国によっては政府の決定で『義務』になることもあり得る。 [1]EITI実施国の作業計画を草案、管理するMSGへ任意で参加する ⇒天然資源の採取産業に関与する企業が、MSGのメンバーになるかどうかは任意である。通常、その国での採取産業の代表的な企業が勧誘される。 [2]EITI実施のための作業計画に対して、意見を述べる ⇒国のEITI作業計画はMSGによって決定されるが、MSGメンバー以外でも、EITI作業計画案に対して意見、コメントを述べることができる。作業計画には、EITI報告書のテンプレート、その国のEITIでの目標、EITI実施における各段階の施行期限、EITI運営資金の入手先、責任者などの重要な決定が含まれている。従って、強制的では無いが、その作業計画を実行可能性の高い形に近づけるためにも、企業の意見が重要とされている。 [3]EITI報告書のテンプレートを記入する ⇒事実上、MSGのメンバーに選任されなければ、EITI報告書の作成が開始されない限り、特に何もする必要は無い。他方、EITI報告書の作成が開始すれば、Material level(*MSGが定めるEITI報告書を対象とする企業規模、支出の規模)を超える企業は、指定された期限以内に、MSGが規定するテンプレートを記入し、提出することが求められる。重要なことは、報告する方法、対象企業を定めるMaterial Level等すべてにおいて、企業が採取事業を行う国が発表するEITI作業計画(Workplan)に則ることとなるため、採取産業に関わる投資国がEITIを表明すれば、作業計画の公表時期、そして作業計画の内容を予め認識しておくことが薦められている。 なお、本テンプレートの記入は、自動的、強制的または任意なのかは不明瞭である。例えば、EITI原則(付録1)の第11条では、「支出に関する情報公開においては、その国の採取産業に属するすべての企業が含まれていなければならない」とされているが、EITIの別の公開資料では、「EITIは、企業に対して、政府への支払いに関する情報を公開することを推奨する」と記載されており、明確では無い。国によっては、政府がEITIの財務報告を『義務』と定める場合もあり、また、後述のリベリアのケースのように、未記入企業の名指しの公開もあり得る。 6. EITI報告書の準備における実施例 (リベリア) リベリアは2009年2月、第二回EITI報告書を発行した。本報告書リベリアのEITI報告書(2009年2月)では、報告書の作成過程が以下のとおりであったと報告している。(参考:http://www.leiti.org.lr/doc/LEITIADMINISTRATORSREPORT01.pdf、ページ9) [1]Liberia EITI(以下、『LEITI』、MSGを示す)は、4箇所の政府省庁と、同国で石油・鉱業・森林部門の事業を行うすべての既存企業(All known companies)に、EITI報告書のテンプレートを配布した。 ↓
[2]LEITIは、17企業のみから、期限内または期限直後に記入済みのテンプレートを回収できた。↓
[3]後に、LEITIは、政府から記入済みのテンプレートを回収した。その政府の回答では、全42企業からの収入について記載されていた。つまり、LEITIは、25企業が未だEITIテンプレートを記入していないと認識した。LEITIは、政府から未知の企業25社に関する連絡先を入手した。↓
[4]LEITIは、テンプレート未提出の重要な企業へ催促を続けた。加えて、政府から入手した新たな企業連絡先にも、テンプレートの提出を求めた。また、推進する媒体として、ラジオや地元新聞を起用した。↓
[5]後に複数の企業が返答し、合計30社の政府への支払いを含めた報告書を作成することにした。なお、Texas International Groupは、LEITIの者が同社を訪問し、テンプレートの提出を要請したが、報告書の作成期限以内に回答が得られなかった。従って、本報告書には同社の支払いは省かれている。また、Ark & Coral Mining Limitedという企業から回答が得えられたが、本企業の支出額はMaterial levelより低かったため、考査しないことにした。このように、過去のリベリアEITI報告書の例では、企業のテンプレート提出は強制的ではないが、Material level以上の企業であれば、EITIテンプレート作成の枠組みに自動的に入れられ、企業が回答しなければ催促は続き、また代表的な企業から記入済みのテンプレートを提出しなければ、その企業の名前が公開されていた。 7. EITIの成果と今後の課題 2010年1/2月号のMining Journal別紙『Mining Environment Management』のEITI特集では、持続可能な国際協力開発を専門とするドイツの政府機関GTZと、石油・ガス・鉱業ガバナンス問題を取り扱うコンサル会社SEB Strategy Ltdが、以下のEITIの成果と、今後のEITIに関する課題を紹介した。 [1]EITIの成果
2002年からの8年間で、EITI実施国は31か国に拡大し、現在までに22か国がEITI報告書を作成・公開した。EITIが導入された当初は、産業界から、会計法や期間などが異なるだけで、既にGRI(Global Reporting Initiative:オランダに本部を置くNGO。企業が、経済、環境、社会的な発展に向けて、CSRの観点から「持続的可能報告書」の作成を支援)で実行していることと類似で、単に追加的な負担になるのではないかという懸念が多く集まったが、国際機関及び政府の協力、そして産業団体からの斡旋とともに、多くの企業がEITI報告書の作成に協力してきた。そのため、EITIは現在までに、世界全体で汚職撲滅の動機付けを高めながら諸々の成果を上げてきた。 さらに、EU政府では、Raw Material Initiativeの一環として、使用済み製品の不正輸出問題への対応としても、EITIのような仕組みを応用できないか模索する動きがあるなど、今後もEITI実施や活動はさらに活発化することが予想され、前述7.の課題にも取り組みながら、汚職撲滅に向けて、さらに発展すると世界的にも期待されている。 他方、2010年4月16日に開催されたEITIの重役会議では、候補国から遵守国になるための条件を満たすのが遅延しているという問題が、今後の大きな課題として認識された。本会議の決定により、赤道ギニア及びサントメ・プリンシペは候補国のステータスから除外された。また、延長を申請したほとんどの候補国でも、期間の延長は承認されたものの、2010年9月までという短い期間に、遵守国となるためのEITI国際基準をクリアしなければならない。 過去の実例から、資源産出国がEITIの4つの誓約に署名し、候補国になると意思を示すことはさほど難しくないと言える。しかし、遵守国と認証される工程が2年以内に完了する国々は少なく、今後も認証工程の遅延申請が続き、万が一候補国から除外されるようなEITIの決定が続いた場合は、資源産出国の動機付けに影響し、EITIの求心力が低下することが懸念されるなど、これはEITIの今後の課題であると考えられる。 [付属1] EITI 原則 (2003年6月、第一回閣僚級会合にて合意)
[付属2] EITI基準 (2005年3月、第二回閣僚級会合にて合意)
参考資料: EITI公式ウェブサイト:http://www.eiti.org EITI Source Book(2005年3月):http://eitransparency.org/files/document/sourcebookmarch05.pdf EITI Business Guide(2008年5月): http://eiti.org/document/businessguide EITI Fact book(2010年5月): http://eiti.org/files/2010-05-10%20EITI%20Fact%20Sheet.pdf EITI How to become a supporting company(2009年11月): http://eiti.org/documents/supportingcompany/extractive/factsheet EITI Advancing the EITI in the Mining Sector: http://eitransparency.org/document/mining Mining Journal別紙「Mining Environmental Management」p.8-11(2010年1/2月号): http://www.miningenvironmental.com/mining-environmental-issues/januaryfebruary-2010 外務省主催の国際セミナー『責任ある資源開発に向けた新たな潮流~投資国と資源国のWin-Win関係を目指して~』(2010年1月29日): http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/commodity/gh_seminer1001.html JOGMEC カレント・トピックス(2003年5月): http://www.jogmec.go.jp/mric_web/current/pdf/03_10.pdf JOGMEC金属資源レポート(2006年7月): http://www.jogmec.go.jp/mric_web/kogyojoho/2006-11/MRv36n4-12.pdf | ![]() |
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