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  平成23年12月15日 2011年67号
ザンビアにおける政権交代の実現と対中関係への影響
-さらなる蜜月の時代へ-


< ロンドン事務所 小嶋吉広 報告 >

図1. ザンビア及び周辺諸国
図1. ザンビア及び周辺諸国

 1991年の複数政党制の導入以来初めての政権交代が2011年9月ザンビアで実現した。新たに大統領に就任したのは、それまで野党第一党であったPF(愛国戦線)の党首サタ(Michael Sata)氏である。サタ氏はこれまで、中国からの投資に対し批判的な立場を取ってきたため、大統領就任後の具体的な政策内容及び手腕に内外の注目が集まった。しかしながら、大統領就任後は中国への批判的な立場を一変させ、中国との関係強化を重視する政策に転換した。
 本稿では、これまでのメディアによる報道や当事務所が発信してきたニュースフラッシュでの関係記事、在ザンビア中国大使館のホームページの情報等を基にサタ新政権誕生から現在までの動きを追いながら、サタ大統領の中国投資に対する姿勢の変化や鉱業への影響について報告したい。
 なお2011年9月の大統領選挙及び国会議員選挙の結果に関しては、在ザンビア日本国大使館のホームページに江川特命全権大使の執筆による詳細な選挙結果分析が掲載されており、本稿作成に当たって参考とさせて頂いた。この場をお借りして御礼申し上げたい。


1. ザンビアの概要

 ザンビアの2010年銅生産量は770千tであり、世界全体で見ると第7位(シェア4.8%)、アフリカでは第1位の生産国である。国内における主要な銅生産プロジェクトは表1のとおりである。ザンビア政府は今後も銅生産を拡大させる計画であり、2015年には1,500千t、2020年には2,000千tまで生産を上げる予定である。


表1. ザンビアでの主な銅鉱山

鉱山名 保有企業 2010年
生産量
(千t)
Chambishi -China Nonferrous Metals Group(中国有色鉱業集団有限公司)(85%)
-Zambia Cnsoildated Copper Mines Ltd(ZCCM)(15%)
8
Chibuluma South -Metorex Ltd.(85%)
-ZCCM(15%)
17.1
Kansanshi -First Quantim Minerals Ltd(80%)
-ZCCM(20%)
234.9
Konkola -Vedanta Resources plc(79.4%)
-ZCCM(20%)
78.9
Luanshya -China Nonferrous Metal Mining Corp(80%)
-ザンビア政府(20%)
24
Lumwana -Equinox Minerals Ltd(100%) 146.7
Mufulira -Glencore International AG(73.1%)
-First Quantum Minerals Ltd(16.9%)
197.4

2. 政権交代の実現とサタ新大統領の就任

 ザンビアでは複数政党制に移行した1991年以来、MMD(複数政党制民主主義運動)が20年間政権を取ってきたが、2011年9月20日に行われた大統領選挙と国会議員選挙で政権交代が実現した。大統領選挙では、これまで野党であったPF(愛国戦線)のサタ党首が前職のバンダ大統領を得票率7%の差で制し、大統領に就任した。また、同じく行われた国会議員選挙でも、サタ氏率いるPFが第一党となり、政権を担うこととなった。
 野党時代のサタ氏は、過激な発言から「キングコブラ」とも呼ばれ、特に中国からの投資に対しては批判的な立場を取ってきた。2006年の大統領選挙で立候補した際は、中国企業が支払うザンビア人鉱山労働者への賃金が低すぎるとして「奴隷的な賃金水準である」と非難した。また、中国企業を国外追放し、中国との親密な外交関係を見直すべきであるとも主張していた。
 サタ大統領は9月23日に行った就任演説で、鉱業分野への外国投資は引き続き歓迎するが、投資に当たっては労働法を遵守するよう訴えた。就任演説後、大統領として最初の会談に臨んだ相手は周欲暁・在ザンビア中国大使であった。会談でサタ大統領は、中国からの投資は歓迎するが、両国に裨益するものでなくてはならないと伝え、多数の中国人がザンビアに滞在していることに対し懸念を示した。選挙期間中は中国批判を控えていたサタ氏であるが、大統領就任後すぐに中国側へクギを刺したことから、今後、反中政策が具体的に展開されるのではと多くのメディアは推測した。

3. Chambishi鉱山でのストライキ発生

 サタ大統領の就任は、これまで賃金が低く、労働環境が悪かった中国資本鉱山の労働者にとって、労働環境の改善を大いに期待させるものであった。今回の選挙でサタ大統領は、多くの銅鉱山が立地するカッパーベルト州で得票を伸ばしている。サタ大統領の得票率は全国平均では42.0%であるが、カッパーベルト州での得票率は67.7%で、同州は最も得票率が高い州の一つであった。
 大統領就任から約2週間経った10月5日、カッパーベルト州で中国有色鉱業集団有限公司(CNMC)が操業するChambishi銅鉱山において、サタ大統領の就任に触発される形で労働者のストライキが発生した。
 約500人(一部報道では1,000人とも)の労働者がストライキに参加し、賃金水準をVedanta(印)が操業するKonkola銅鉱山やGlencore(スイス)が操業するMufulira銅鉱山と同等水準にするため、現在の平均月給1.67百万クワチャ(330 US$)を2百万クワチャ(400 US$)に引き上げることを要求した。Chambishi鉱山でのストライキは、同じくカッパーベルト州で銅の加工を行う中国系企業Sino Metalsにも飛び火し、Sino Metalsでは数百人の労働者がストに参加した。CNMCは今回のスト発生は政治的影響が強いため、政府に対し何らかの解決措置を要求したところ、10月11日にSimuusa鉱山・鉱物資源開発大臣がCNMCと労働者側の調停に乗り出し、ストライキは一旦収束の気配を見せた。調停においてSimuusa大臣は労働者側の要求を受け入れるようCNMC側に働きかけたが、CNMC側は来年度の賃上げ交渉を11月から行うことについて既に組合側と合意しているとして、調停案を却下した。このため、全従業員の2/3に相当する約2,000人が本格的にストライキを展開することとなった。10月19日、CNMCは労働者に対し24時間以内に職場に戻らない場合は解雇する旨の通達を出した結果、10月21日時点で約9割の労働者が職場に戻り、操業再開に至った。今回のストライキにより労使間で妥結した賃上げ率については、一部メディアでは100%の賃上げ率が認められたと報道されているが、詳細は不明である。
 Chambishi鉱山での大規模なストライキは2006年にもあったが、今回のストライキは2週間に及び、過去最大のものとなった。Chambishi銅鉱山では今回のストライキにより1,000 tの銅生産(7百万US$相当)に影響が出た模様である。

4. サタ大統領の親中路線への転換

 今回のストライキは、サタ大統領が親中路線へ転換するきっかけとなった。サタ大統領は今回のストライキによって、中国投資への批判は国民の支持が容易に得られる反面、実際に政策として実行に移すとなると、非常にセンシティブな問題であることを痛切に認識させられたと考えられる。20億US$以上とも言われるこれまでの中国投資の受け入れ実績、28億US$の対中貿易額(2010年)そして22億US$の対中貿易黒字(ザンビアの外貨準備高とほぼ同額)など、ザンビア経済における中国の圧倒的なプレゼンスを考慮すると、安易に実行に移せる政策ではないと改めて思い知らされたのである。サタ大統領の就任に鼓舞され、反中運動の先駆としてストライキに立ち上がったChambishi鉱山の労働者にとって、自らの起こした行動が、図らずもサタ大統領が反中国から親中国へと転換する分水嶺となってしまったことは大変皮肉な結果と言えよう。
 また中国側にとってもザンビアは、1970年代のタザラ(タンザン)鉄道整備を皮切りに、最近ではカッパーベルト州での「ザンビア-中国経済特区」の整備(2007年、胡錦濤主席の訪問時に設置が決定(図2参照))など、南部アフリカ地域における中国進出の拠点であり、また銅の供給ソースとしての重要性があるため、サタ大統領による中国批判に対しては相当の注意を以て見守っていたことであろう。
 さらに銅価の状況もサタ大統領の方針転換に作用した。奇しくもサタ大統領の就任と同じタイミングで銅価は8,000 US$/tを割り込み、中国やインド等の新興国における経済成長率が下方修正されるなど、景気の先行きが不透明な状況になってきた。ザンビア経済は銅及び銅製品の輸出が輸出額全体の64.6%(2009年)を占め、国家財政が銅の市況に大きく依存しているため、サタ大統領にとっては旗色が怪しくなってきたと言える。
 サタ大統領のこのような方針転換に関し、今回のストライキが労組の正式な承認を得ずに行ういわゆる「山猫スト」であったことから、『「キングコブラ」が「山猫」に負けた』と痛烈に批判するメディアもある。

図2. 胡錦濤主席の訪問国(2004~2009年)
図2. 胡錦濤主席の訪問国(2004~2009年)

5. 親中国路線の邁進

 Chambishi鉱山でのストライキが収束して1週間経った2011年10月28日、サタ大統領は、周・中国大使やザンビア国内の中国企業の幹部約100名を大統領官邸での昼食会に招待した。昼食会の冒頭挨拶でサタ大統領は「本日ここにお越しの親愛なる周大使及び中国企業関係者の皆様のザンビアでのご活躍を心より讃えたい。中国はいかなる時でもザンビアの友である。」と歓迎の意を表した。周大使はこれに答礼する形で、「胡錦濤主席はサタ大統領に対し、ここ1か月間で2通の親書をお送りした。親書において胡錦濤主席はサタ大統領の就任を祝福するとともに、中国政府はザンビア政府との友好的互恵関係を一層強化する用意があることを伝えた」と祝辞を述べた。
 さらに昼食会でサタ大統領は、「ザンビア建国の父」であるKenneth Kaunda氏を特使として北京に派遣し、ザンビアへのこれまでの投資及び援助に関し中国政府に対し感謝の意を伝えたい、と表明した。Kaunda氏は1950年代よりザンビア独立闘争に参加し、その後、初代ザンビア大統領(任期:1964~1991年)となった人物である。Kaunda氏は既に政界を引退しているが、現在でも国民から広く慕われ、国民に対する影響力も大きいと言われている。また、Kaunda氏は大統領在任中に毛沢東主席や周恩来首相とも親交があり、中国側の信任も厚い。Kaunda氏を北京に特使として派遣する真の意図は、サタ大統領が親中路線へ転換するに当たり、反中国路線の維持・推進を期待する従来の支持者への懐柔を狙ったものであると分析する専門家も少なくない。Kaunda氏は11月24日、北京を訪問し、習近平副主席と会談した。会談でKaunda氏は、サタ新政権は中国との友好関係を発展させていく方針であることを改めて伝えた。

写真1. Simuusa鉱山・鉱物資源開発
写真1. Simuusa鉱山・鉱物資源開発
大臣(右)と周大使(中央)
(出典:在ザンビア中国大使館ホームページ)

 10月28日のサタ大統領と中国大使・企業との昼食会終了後、Simuusa鉱山・鉱物資源開発大臣は中国企業に対し、ザンビア政府としては中国とこれまで以上に親密な関係を築く方針であることを表明した。また、与党であるPFの方針としても、ザンビアの国内法を遵守する限り、中国の投資は今後も国内において保護され、中国企業のいかなる活動も認められることを伝えた。
 昼食会が行われた10月28日の3日後(10月31日)、Simuusa大臣は中国大使館を訪問し、周大使と会談を行った。会談でSimuusa大臣は、ザンビア政府としては両国間にあった誤解を払拭し、誤った認識を正すため、中国政府と協力する方針であることを改めて伝えた。さらにSimuusa大臣は、ザンビアの経済開発にとって中国は重要なパートナーであるとの認識を周大使へ示した。
 その後11月2日には、Chikwanda財務大臣が周大使と会談し、ザンビアにとって中国は最も信頼できる同盟国であるとし、供与済みの無償援助案件及び無利子の借款案件を早期に完成させるため、専門のチームを財務省内に設けることを表明した。

6. サタ新政権の鉱業行政における改革

 サタ大統領は大統領選で「雇用創出、税負担軽減、国民の懐により多くのお金を」をスローガンに掲げ、バンダ(Banda)前大統領を押さえて勝利した。一部マスコミからはポピュリズムと揶揄されるが、サタ大統領の人気は就任後も高まっている。サタ大統領は敬虔なクリスチャンであり、十戒の教えに背くような行為、特に汚職に関しては完全に撲滅させることを掲げている。
 サタ大統領は就任後1か月間で、ザンビアの中央銀行であるBank of Zambiaの総裁及び執行役員を解任するだけでなく、政府の汚職撲滅委員会や警察、軍等において汚職に関わったとされる職員の解雇を行った。
 鉱業においてもサタ新政権は、汚職撲滅、透明性向上、国民への裨益拡大を目指して抜本的な改革に取り組む姿勢を見せている。例えば、10月4~6日の間、金属の輸出許可証の発給を一時停止したが、この理由として鉱山・鉱物資源開発省は、鉱業に係る新しいガイドラインを作成するためとしている。ザンビアの通関統計ではスイスへ銅地金を輸出した記録になっているが、スイスの通関統計には輸入量として出てこないという不整合が現在見られるため、輸出決済を中央銀行に一元化することで、銅の輸出管理の厳格化を目指すものと考えられる。なお、新ガイドラインの詳細については現時点では明らかになっていない。
 また、10月13日Simuusa鉱山・鉱物資源開発大臣は、国内におけるすべての鉱山プロジェクトに関し、政府が35%以上の権益を保有できるよう鉱山会社と協議を行う方針であると発表した。Simuusa大臣は、仮に35%の権益を政府が保有することになったとしても、国有化に繋がるものではないとしている。Simuusa大臣は現状の徴税制度についても見直すとしている。現状は利益に対して課税されているが、10年間も損失を計上して納税を逃れている鉱山会社もあるため、生産量ベースか所得額ベースに変更することも明らかにしている。
 10月20日には、鉱業ライセンス発給に係る手続きの適正化・透明化のため、ライセンスの新規交付、更新、譲渡の一時停止を発表した。現在のライセンス発給手続きは汚職の温床となっている可能性があるとサタ大統領は指摘しており、停止期間中にすべてのライセンスについて精査を行うとしている。ライセンスの精査は2012年まで行われる予定である。
 さらに11月11日には、2012年国家予算の財源確保のため、鉱業におけるロイヤルティ率引き上げを発表した。これまでベースメタルについては3%、貴金属については5%であったものを、一律に6%へ引き上げるとしている。また、法人所得税の計算に際し、ヘッジ取引で得た利益と純粋な鉱業活動で得た利益を区別して計算することも併せて提案された。これらの措置により、9,810億クワチャ(約197百万US$)の財源が確保されるとしている。なおSimuusa大臣は12月9日、今後、金属価格が暴落し、市況が悪化した場合はロイヤルティの引き上げは一時凍結する用意があるとコメントしている。

おわりに

 世界的に一般的な傾向であるが、政権交代が実現した国は、政権運営が安定するまでは政策のブレが生じやすい。サタ新政権もこの例に漏れず、中国との関係については当初の方針から180度舵を切ったと言える。また、鉱業分野においても、ロイヤルティ率(or料率)引き上げや、政府によるプロジェクト参画の強化など、矢継ぎ早に新たな方針を打ち出しており、今後の動向に注視が必要である。
 途上国支援の国際ルール等について話し合う「援助効果ハイレベルフォーラム」(OECD主催)が2011年11月下旬に韓国の釜山で開催され、米国・クリントン国務長官は総会における演説で、中国という国名こそ挙げないものの、「資源権益獲得と引き替えに援助を行っている国があり、援助受け入れ国は自国資源が搾取されないよう注意が必要である」として、中国の援助を暗に批判した。また、豪州のラッド外相は会議に先立ち、「中国は対外援助の内容を公開し、国際的な審査を受けるべきである」として中国に対し情報開示を求めた。このように先進各国は中国による援助の方法及びその秘匿性に対し批判を強めており、今後、途上国支援をめぐり中国と先進国との間での対立が増すことも考えられる。
 ザンビアの鉱物資源分野への投資に関しては、日本は中国の後塵を拝する形にはなっているが、これは見方を変えると「後発の利益」を生かせるポジションにあるとも言える。中国の進出状況を先行事例として参考にしつつ、日本の経済協力(民間投資を含む)の優位性、例えば相手国への技術移転や、中長期的な観点での自律的経済成長の促進など、他国との差別化が図れるような形でザンビアへの経済協力が今後促進されるよう、引き続き情報収集に努めて参りたい。


おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。


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