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  平成24年 2月24日 2012年11号
ベトナムの鉱物資源戦略について


< ハノイ駐在員事務所 五十嵐吉昭 報告 >

 ベトナムでは新たな鉱物法が国民議会で承認され、2011年7月に施行された。その直後の8月末、首相指示として新たな鉱物資源探査・開発の許可発行が一時的に凍結され、関係省庁に対して探鉱・開発許可の現状把握と対策が求められた。その後、国の新たな鉱物資源戦略が策定され、ようやく2012年1月9日付けで鉱物の探査、採掘、加工、使用及び輸出活動に対する国家管理の強化について首相の指示が発出された(02/CT-TTg)。日本との関係では2011年10月にベトナムにおけるレアアース資源の共同開発について日越政府間で合意されている。一般的に、ベトナムにはベースメタルからレアメタルまで多種の鉱物資源が賦存していることが知られている。その反面、外資による資源開発はほとんど進んでおらず、新鉱物法の施行直後に探査・開発許可が凍結されるなど政策が混乱しているようにも見受けられる。ベトナムにおける鉱物資源戦略とはどのようなもので、何を目指しているのか以下にとりまとめた。


1. ベトナムの鉱物資源戦略の概要

 首相指示の冒頭には、ベトナム国内における鉱物資源産業がこれまで国の製造業界に原材料を提供し国家の経済・社会開発に大きな役割を果たしてきたことを認めながらも、近年一部の鉱物を除き、国内の需要を超過してかつ加工度を上げるための努力も払われないまま、未加工で輸出されている点が強調されている。また、時代遅れの古い技術により採掘・加工がなされ、労働安全や環境保護に配慮していない点を問題視し、政府の管理が行き届かないことから、違法採掘、密輸等の不正なビジネスが横行し、社会秩序を乱して周辺住民に不安を与えていると指摘している。具体的に問題のある鉱種としては、石炭、チタン、錫、鉛、亜鉛、鉄鉱石、マンガン及び建設用の砂利を挙げている。併せて国の管理が貧弱で、中央と地方の連携が緊密ではなく、違反行為に対する罰則規定が明確でないことを率直に認めている。その上で、以下について首相が指示を出している。

・ 鉱物資源を有効に活用するため、事前の調査や評価を十分に行って採掘計画を立てる
・ 鉱物資源の探査・開発は国の将来の長期的な需要を見据えて決められるべきである
・ 採掘や加工は先端的な技術を導入して付加価値を高める計画のみ承認されるべきである
・ 鉱物の輸出は政府の管理下にあり原鉱石は輸出しない
・ 各地方においても利用計画は鉱物戦略に従い国とその地方の開発計画に適合すべきである
・ 重要な鉱物についての探査・採掘・輸出方針は表1のとおり

表1. ベトナムの鉱種別探査・採掘・輸出方針

鉱種 指示内容(抜粋)
石炭 計画に沿う探査・開発の許可を引き続き発給する。クアンニン省の一部鉱山の改善・拡張に投資し、環境修復に注意する。紅河デルタ炭田における試験的採掘を行い、2020年以降の総合開発案を提出する。輸出は国内の長期的需要を優先し、首相の承認スケジュールに従う。
ボーキサイト Tan Rai及びNhan Co両鉱山の開発を進め、それ以外のプロジェクトについては、これら2件の経済・社会的な効果を評価するまで開発は許可しない。北部における探査許可は発給しない。
鉄鉱石 鉄鉱石の輸出を完全に停止する。国内の製鉄業のため、Thach Khe及びその他の鉄鉱山開発を効果的に実施する。採掘中の鉄鉱山でも効率性や環境影響に問題がある場合は閉山する。
チタン 新規の探査・開発許可を発給しない。採掘中の鉱山に対して、環境保護ができない場合は許可を停止し、環境回復を求める。2012年7月以降、加工度の低いチタン鉱石は輸出せず、輸出は首相の認可を必要とする。
鉛・亜鉛 鉱石・精鉱の輸出をしない。操業製錬所において埋蔵量を増やすため深部の探査及び採掘量の拡大を継続する。新たな地域における探査・開発は製錬・加工計画とリンクしなければならない。
クロム鉄鉱 鉱石・精鉱の輸出をしない。2030年までのクロム製品の需要に応じて、使用量や備蓄量に適した開発許可を発給する。
マンガン 鉱石・精鉱の輸出をしない。ハザン、トゥエンクアン及びカオバンの3省において探査・開発を進め、フェロマンガン及び二酸化マンガン生産プロジェクトの原材料とする。
金・銅 銅鉱石の輸出をしない。砂金採掘の許可をしない。金の探査・開発は加工度を上げ、先端技術を導入して環境汚染をしない。採掘中の金・銅鉱山でも効率性や環境影響に問題がある場合は閉山する。銅製錬所に更に投資するためラオカイ省の銅探鉱を完了する。各地域における銅探査・開発は製錬・加工計画とリンクしなければならない。
燐灰石 鉱石を輸出しない。計画に沿って追加探鉱する。リン酸肥料等の生産のため、鉱石の加工・利用技術開発に投資する。
レアアース 許可の発給された探鉱事業を完了する。先端技術を導入し経済社会や環境への要求を満たす採掘・加工の連携プロジェクトを実施する。採掘・加工・輸出には首相の認可が必要。

 最後に所管する官庁(天然資源環境省、商工省、建設省等)や地方(省の人民委員会等)に対して各々が果たすべき役割を明記し、当該指示を確実に履行するように求めている。

2. 環境破壊と密輸の問題

 ここでは何故このような国家管理強化の指示が出されることになったのか、その背景に焦点をあてる。地方分権の流れから、2005年の鉱物法改正によって鉱物資源の開発許可を一部地方に移譲したことが事態を悪化させたとする見方が強い。ベトナム科学技術協会の社会評価室によれば、2005年の法改正により2年間で4千もの許可発行に繋がり、鉱物資源の乱開発が進んだと指摘する。この流れは2011年7月に新鉱物法が施行されても、細則や戦略等のガイドラインが出されていなかったために止まらず、結局8月末の許可発行の凍結に繋がったとされる。また、関係省庁の連携の悪さや地方政府の監督力不足、資金も技術もない中小企業が目先の利益だけ考えて開発し、未加工のまま輸出してしまうとの指摘もある。地方における業者との癒着も疑われ、政府検査局の社会学調査によれば、その開発許可維持のため1件当たり5千〜33万US$の経費が払われているという。
 では、具体的に鉱物資源の乱開発はどのように行われたのであろうか。ベトナムは自由な報道に制限のあるお国柄で、ましてや交通の便の悪い地方の様子を詳細に報道する記事は限られている。金や錫のような漂砂鉱床を違法に採掘する事例も若干取り上げられているが、何故か南部海岸地帯におけるチタン採掘の問題だけが大きく取り上げられた(労働新聞2011年10月10、11日、同11月7、8日)。

写真1. ミネラルサンドのスパイラル分級機(ビントゥアン省)
写真1. ミネラルサンドのスパイラル分級機
(ビントゥアン省)

 南北に長いベトナム中部〜南部にかけての海岸地帯には豊富なミネラルサンドが賦存することが知られており、特に南部のビントゥアン省周辺には合計5億5千万t以上が埋蔵されているとされる。開発業者は砂丘地帯に直径数百mのピットを掘り、スパイラル分級機で初期選鉱後、スラリー状態でミネラルサンドを集積する(写真1)。地元紙では、防砂林の伐採、流砂による汚染、果実畑の破壊等の悪影響と併せて、地下水の汚染や放射性物質の濃度が基準を超えている(含有されるモナザイトが放射性元素を含むため)との報道もあるが、どの程度周辺住民に被害が及んでいるのか明確ではない。ただ、採掘許可が切れているにも拘わらず操業を続けたり、大きな開発業者が撤退した後に無許可で小規模業者が採掘しているケース、並びに数十万t単位でアップグレードされた(品位を高めた)チタン(イルメナイト)が中国に密輸されるケース等の違法行為が存在している。このような限られた情報から推測するところ、主に地方で中小の業者が、 専門知識もなく周囲への環境影響も考えず無計画に鉱物資源を採掘し、 低い技術レベルでの加工または未加工のまま輸出している状況と考えられる。やや規模が大きな鉱山となれば許可は中央省庁で監視も厳しくなる(写真2)。

写真2. ベトナム最大のシンクエン銅鉱山(ラオカイ省)
写真2. ベトナム最大のシンクエン銅鉱山
(ラオカイ省)

3. ベトナムにおける鉱物資源政策決定までの流れ

 共産党が国家社会を指導するベトナムでは、鉱物資源戦略は2011年4月に採択された党政治局による決議「2020年までの鉱物戦略とその2030年までのビジョン」 (02-NQ/TW)が土台となっている。引き続き2011年11月にはズン首相指導の下、この決議に従って新たな鉱物資源戦略が政府内で3日間検討され、最終的には首相決議として2011年12月末に採択され、2012年1月に首相指示が出された。この鉱物資源戦略は新鉱物法の第9条に拠っている。一方、同法の第10条にはマスタープランの作成が記載されている。このマスタープランは複数の鉱種毎に具体的な探査、開発、加工から利用まで定めるもので、表2の一覧表のとおり、現在では商工省により11のマスタープランが作成され28鉱種について規定されている(その他に建設省が建材で2件出しており、石炭は未承認)。表2の通りこれらは2006年から2008年に決定されたものばかりで、今後新たな鉱物資源戦略に従って順次更新されていくものと思われる。
 もう一点、今後の鉱物資源政策に重要な影響を与えるのは新鉱物法の細則である。本来は2011年7月の新鉱物法施行後すぐに発表されるべきものであるが、省庁間、中央地方間での調整が長引き、報道及び地質鉱物総局長によれば2012年Q1までに完成させるように首相から天然資源環境省に指示が出されている。この細則と併せて採掘許可の入札制度について、及び探査・開発等で違反した場合の行政処罰についても政令なり通達が作成される。これら一連の規則が揃って初めて新鉱物法は真に効力を発揮することになり、その際にはベトナムにおける鉱物資源開発が本格的に始動するものと期待される。なお、許可発行に関する料金と手数料については2011年9月に財務省より通達が出され、金額が詳細に定められている(No.129/2011/TT-BTC)。

表2. 現行マスタープラン一覧

Decision No. 決定日 鉱種 期間
124/2006/QD-TTg 2006/5/30 鉄鉱石 2020年を見据えて2010年まで
176/2006/QD-TTg 2006/8/1 鉛鉱石、亜鉛鉱石 2020年を見据えて2006〜2015年
104/2007/QD-TTg 2007/7/13 チタン鉱石 2025年に向けて2007〜2015年
33/2007/QD-BCN 2007/7/26 マンガン鉱石、クロム鉱石 2025年に向けて2007〜2015年
167/2007/QD-TTg 2007/11/1 ボーキサイト 2025年に向けて2007〜2015年
05/2008/QD-BCT 2008/3/4 錫鉱石、タングステン鉱石、アンチモニー鉱石 2025年を見据えて2007〜2015年
11/2008/QD-BCT 2008/6/5 金鉱石、銅鉱石、ニッケル鉱石、モリブデン鉱石 2025年を見据えて2015年まで
25/2008/QD-BCT 2008/8/4 宝石、レアアース、ウラン 2025年を見据えて2015年まで
28/2008/QD-BCT 2008/8/18 燐灰石鉱石 2020年以降を見据えて2008〜2020年
41/2008/QD-BCT 2008/11/17 蛇紋岩、重晶石、石墨、蛍石、珪藻土、滑石 2025年を見据えて2015年まで
47/2008/QD-BCT 2008/12/17 石灰石、長石、カオリン、マグネサイト 2025年を見据えて2015年まで

* 上記11のマスタープランは全て商工省の所管
* 建設省所管の建材に関するマスタープランが2つある
* 石炭に関するマスタープランは未承認

4. おわりに

 今回の首相指示の意図するところは全面的な鉱物資源輸出の禁止ではなく、鉱物資源総局長の言葉を借りれば、「国内で有り余る資源は輸出し、国内で必要とする資源は輸出せずに使い尽くす。ただし、輸出には環境に調和した先端技術で加工度を上げることが条件となる。」。従って、単純に鉱石や精鉱を日本に輸入することはできず、日本の製錬所への原料供給を期待することはできない。この国では先ず政府の鉱物資源戦略やマスタープランに合致していることが求められる。たとえベトナム政府の方針に沿って認められたとしても、そこには当事者間のハードネゴが待受けている。多くの場合、ベトナム側の既得権益者とJVを組むことになるであろうが、開発決定までには案件価値の評価、開発規模、価格見通し、権益比率、資金調達等々、様々な難題が待ち受けている。例えば政府が長期的な計画に基づき効率的な資源利用を説いても、この国では早く収益を上げることを急ぐ傾向がある。また、埋蔵鉱量計算で西側の豪州やカナダの基準に基づく計算法も採用しておらず、JV相手は食品や建設業のような異業種であったりすることも多い。土地の収用問題でも政府が根こそぎ排除とはいかずに全て交渉事である等々、問題点は枚挙にいとまがない。
 それでもなお、国の新たな鉱物資源戦略が実行に移されようとしている今、日本企業には機会がある。今回の新戦略を策定中に、あえて日本にレアアース開発の機会を与えたのは、対中関係を睨みつつ日本の技術力に期待してのことであろう。一部レアメタルや未利用の鉄鉱石など国の需要を上回る埋蔵資源を持ち、それらの加工度を上げると同時に環境にも優しい技術を必要としているのは明らかである。貿易赤字に悩むこの国では、付加価値の高い輸出品はマクロ経済安定のためにも優先課題の一つである。一方、日本から見ればレアアースのように中国1ヶ国に原料供給を委ねると、結局虎の子の技術も含めて供給国に進出するしかなくなる恐れもある。ベトナムにとっては輸出産業の育成、日本にとっては供給源の多角化、お互いにとってウィンウィンの関係が築ければ理想的である。そのためには、この国の国情に合わせて粘り強く交渉することが必要と考えられる。


おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。



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