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チリ鉱業界が抱えるエネルギー・鉱業用水の問題
~鉱業・エネルギー・水サミットの概要~ < サンティアゴ事務所 縫部保徳 報告 >
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表1 鉱業・エネルギー・水サミットプログラム
1. エネルギー1-1. Necessity of Energy for the Mining Development:Hernán de Solminihac鉱業大臣 チリの銅生産量は過去20年間に3倍に増加し、2012年は540万tである。チリが世界の銅生産に占める割合は、同期間で18%から32%に増加した。2012年時点のチリの銅埋蔵量は1.9億tで、世界の埋蔵量に占める割合は27.9%である。今後10年間の鉱業プロジェクトへの投資額は1,043億US$とされ、このうち77%が銅のプロジェクト、19%が金・銀のプロジェクト向けである。 ・ チリ鉱業におけるエネルギー関連課題 2001年から2011年の間にチリの銅生産量は11%増加しているが、銅鉱業が使用するエネルギーの量は59%も拡大している。同期間の銅鉱業の電気エネルギー使用量は43%増加しているが、国全体の電気エネルギー使用量に占める銅鉱業の割合は31~32%でほぼ横ばいである。生産拡大が鉱業でのエネルギー使用量増加の理由の1つではあるが、採掘箇所がより深部へ進んでいくことによって生じる鉱石品位の低下(平均銅鉱石品位: 1.13%(2002年)から0.87%(2011年)に低下)、鉱石運搬距離の増大及び鉱石の硬化も大きな影響を与えている。 チリの銅生産に必要な電気エネルギーコストは2007年以降急激に増加しており、2012年は27¢/lb(2000年は6¢/lb)で、C1コスト全体に占める電気エネルギーコストの割合は14%に達している。 今後10年間に予定されているプロジェクトが生産に入れば、2020年のチリの銅生産能力は840万tまで増加する。銅生産の拡大とともに鉱石処理のための鉱業用水使用量も増加するため、鉱山会社は海水淡水化プラントの建設や海水利用促進システムの導入を計画しており、これらにより電気エネルギー使用量はさらに増加すると考えられる。 2020年には、鉱業の電気エネルギー使用量が2012年比で68%も増加すると予想されており、エネルギーの安定確保と安価な調達は必須の課題で、生産プロセスの効率化を様々に図る必要がある。 1-2. Electricity Sector Challenges in Chile:Jorge Bunsterエネルギー大臣 ・ チリの電力事情 チリの電力供給システムは北部供給システム(SING)、中央供給システム(SIC)、Aysénシステム、Magallanesシステムからなり、主要なのは前2者である。 SING中の全発電能力は3,988 MW、2012年の最大電力需要は2,167 MWで、全ての電力は火力で賄われており、燃料の内訳は石炭46%、天然ガス46%、石油8%である。需要の85%が大手鉱山によるものであり、2011年から2012年の消費エネルギー増加率は5.4%であった。 SIC中の全発電能力は13,481 MW、2012年の最大電力需要は6,992 MWで、電源の内訳は火力51%、水力42%、風力・バイオマス等7%であった。チリ国民の92%、GDPの76%がSIC中に集中する。2011年から2012年の消費エネルギー増加率は5.5%であった。 近年のチリの電源構成は水力主体(1996年:SIC及びSING中の発電能力の65%)から火力主体(2012年:同62%)に変わってきている。 SICの送電幹線網は現状でも安定供給に難のある区間があるが、2014年にはさらに状況が悪化することが予想されている。送電幹線網の整備により、SIC全体の電力安定供給体制が整うのは2018年の予定である。 電力のスポット価格は2006年まで安定していたが、2007年以降に急激に上昇し、SICでは最高350US$/MWh、SINGでは300US$/MWh弱の価格を記録した。2011年以降、スポット価格はSICでは200 US$/MWh前後、SINGでは80 US$/MWh前後で推移している。 ・ チリの国家エネルギー戦略 チリ政府は国家エネルギー戦略として以下の6つを掲げている。 2.については、大規模非在来型エネルギー導入を促すメカニズムの開始、地熱探査開発権の整備などが行われている。4.では、2012年に送電幹線網強化を目的とした9億US$を超える入札が実施され、送電網強化と電力事業参入規制の緩和が図られている。 1-3. Energetic Challenges to the Chilean Mining Industry:Antofagasta Minerals社長 Diego Hernández氏 ・ チリの電源構成 2011年のチリ全体の発電能力は約17,000 MWで、そのうち24%がSING、75%がSIC中に存在する。過去20年に導入された電源は天然ガス、石炭、ディーゼルが中心であるが、天然ガスは現在使用されていない。チリの電源構成は自給できない燃料にその60%を依存しており、エネルギーの安全保障上、脆弱な構造と言える。 ・ 電力需要の推移と今後の展望 チリの電力消費量は1987年以降、10年毎に2倍の割合で増加している。2020年のチリの電力需要は10万GWhに達すると予想されており、8,000 MWの新規発電設備の導入が必要であり、このうちの3,000 MWは鉱業向けである。 銅1 tを生産するのに必要な電力量は鉱石品位の低下や海水利用の増加などにより、過去10年間で30%程度増加している。また、既存の大規模開発プロジェクトのため、電力需要はさらに約45%増加すると予想されている。 ・ 電力供給の現状 発電能力を発電事業者ごとに見た場合、SING内では上位3社が95%、SIC内では上位4社が82%を占めており、寡占的な状況と言える。このような状況は、電力供給交渉を難しくしたり、電力ビジネスのリスクが顧客側に転嫁されたりするなどの悪影響を生じている。 発電所建設プロジェクトの環境認可手続きには1年から2年を要する上、それぞれのプロジェクトに関連する各種権利取得には多くの日数が必要である(例:火力発電所[海洋権(Concesion Marítima):600日まで]、水力発電所[水利権、水利事業許可:500日まで])。 厳しい規制、社会的反対、司法による中止命令が原因となり、大規模発電所建設プロジェクトは現在全てストップしている。ストップしている計画の合計発電能力は、今後10年に必要とされている発電容量の85%に相当する。 チリの単位電力当たりの費用を他の鉱業国と比較すると、2000年以降、チリでは年率平均で11%も上昇しているのに対し、その他の国では6%の上昇に止まっている。このことがチリにおける鉱山の利益減少やマージナルな鉱山開発プロジェクトの遅延及び中止に繋がっており、チリ鉱業の競争力が相対的に低下している。 ・ チリ鉱業界の課題 上記状況を踏まえるとチリ鉱業界が抱える電力関連の課題として、安価で安定的な電力価格、エネルギー利用の効率化、電力の安定供給、電源多様化、規制緩和、社会による理解、環境維持などが挙げられる。 これらを解決する施策として、認可済み発電プロジェクト実現への後押し、プロジェクトへの行政認可を保証し司法などの介入が入らないようにすること、発電所建設プロジェクト及び送電網整備プロジェクトの認可手続き期間短縮、送電網整備プロジェクトへの投資拡大、電力市場への新規事業者参入促進、LNGターミナルへのアクセス改善が示された。 1-4. How Much Can Renewable Energy Sources Contribute to Chile’s Energy Grids? The Case of SING:CDEC Daniel Salazar氏 SINGでは、ほぼ全ての電力が火力発電によって賄われている。また、電力の多くが割引価格で電力を調達する大口需要家によって消費されていることから、非在来型再生可能エネルギーの導入が進んでいない。電力法(法律20,257号)は、2010年から2014年の間に発電量の5%を非在来型再生可能エネルギー由来にするよう求めており、さらに、2015年以降は毎年この割合を0.5%ずつ増加させ、2024年には10%まで引き上げられる。この法律は、導入する非在来型エネルギーの融通をSICとSINGの間で認めていることから、SICへの同エネルギー導入が進む一方、SINGへの導入が遅れる結果を招いている。 SING管内で公表されている非在来型再生可能エネルギー発電プロジェクトの発電容量は7,892 MWで、うち、5,665 MWが太陽光、2,176 MWが風力、50 MWが地熱となっている。SINGには5件の送電幹線整備プロジェクトがあり、1件は2013年中に完成、3件は2015~2016年中に完成、残り1件は2017年の完成を目指し入札手続き中である。 非在来型再生可能エネルギー由来の電力を大規模に導入する際の課題として、出力変動の影響を低減するシステムの導入や、送電系統へのオープンアクセスの確立、蓄電施設の充実などが挙げられる。 1-5. Nuclear Energy: Busting Myths and Prejudices:チリ技術士協会 Fernando Sierpe氏 2009年のチリの世論調査では、回答者の83%がクリーン、安全、石炭火力の代替として原子力発電を支持していたが、現在は原子力発電の開発が受け入れられているとは言えない状況である。このような中、チリ技術士協会は2020年から2030年の間に4基の1,100 MW原子炉導入を提言している。チリ国内には数百年にわたって燃料を供給できるだけのウラン資源が賦存すると予想されており、銅鉱床に伴っているものもある。 本講演の終わりには、チリ技術士協会を含めた産業界の支援による原子力に関する教育の振興、メディアキャンペーンの推進が提案された。 2. 鉱業用水2-1. Sea Water in Mining: The Esperanza Mine Case プロセス・技術革新部長 Gustavo Tapia氏・ チリ鉱業による地下水使用の現状 チリの銅の大半が生産される同国北部は、世界で最も乾燥した地域の1つである。2011年に銅鉱業セクターでは12.6 ㎥/秒の地下水を揚水しており、州別で見ると銅生産の最も多い第Ⅱ州(272万t[2011年]、チリ全体の51.7%)が5.3 ㎥ /秒で揚水量も最大である。鉱石1 tを処理する際に使用される地下水の量は、選鉱工程で0.7 ㎥弱、リーチング工程で0.1 ㎥強であり、この量は過去3年間ほぼ横ばいである。 銅鉱山の集中するチリ北部から中部は乾燥した地域で地下水が不足していることから、かなりの水系で地下水の利用が制限あるいは禁止されている。 ・ 鉱業用水としての海水利用 上述のとおり、チリ北部の地下水は不足しており、鉱業用水の利用を考える際、農業用水及び生活用水との競合や環境への影響などが懸念される。地下水の代替として未処理海水または淡水化海水を利用する場合、以下のような長所と短所がある。 ○ 未処理海水 ○ 淡水化海水 現在チリの鉱業セクターでは、Esperanza鉱山やMichilla鉱山を含む5施設で未処理海水が利用されている。一方で、淡水化海水の利用が報告されているのはEscondida鉱山のみである。2011年に銅鉱業が利用した海水は223 ℓ/秒(内訳:未処理海水62 ℓ/秒、淡水化海水161 ℓ/秒)である。 Michilla鉱山は標高800 m、海からの距離10 kmに位置し、1990年代始めから銅鉱石のリーチング工程に海水を利用している。同鉱山の平均銅品位は1.03%、年間380万tの鉱石を処理し、銅カソード3.8万tを生産、海水使用量は5,624 ㎥/日である。 Esperanza鉱山は2010年末に生産を開始した。粗鉱処理量は9.7万t/日、海水揚水能力720 ℓ/秒、実消費量635 ℓ/秒、ポンプ流送距離145 km、ポンプアップ比高2,200 m、導入電力容量32 MWである。海水の直接利用の状況をまとめると以下のとおりである。 ・ 海水に適した浮選試薬の使用で石灰使用量が減少 Esperanza鉱山での実績は、大規模鉱山のオペレーションにおいても海水の直接利用が有効な選択肢となり得ることを示している。 おわりに鉱業・エネルギー・水サミットの講演内容をとおして、チリ鉱業が直面する2大問題であるエネルギーと鉱業用水の問題を概観した。これらは長年にわたり議論されている問題であり、目新しさはないものの、それだけ解決が難しい問題であると言える。また、両問題ともチリの国家的な問題であることから、国民的な議論とコンセンサスが必要である。サンティアゴ事務所では、今後もこれらの問題について重点的な情報収集と発信を行っていきたい。 |
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