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  平成26年11月20日 2014年46号
LMEの今後の事業戦略とは
- LMEセミナー2014から-


< ロンドン事務所 竹下聡美 報告 >

 毎年恒例のLMEウイークが2014年10月20日の週にロンドンで開催され、世界中から多くの金属関係者がロンドンに集まり、市場関係者やユーザー企業等によるセミナー、レセプションが連日開かれた。LMEウイーク初日には、LME主催の『LME Metals Seminar』が開催され、今後のLMEの事業戦略が大々的に発表されるとともに、世界経済動向やコモディティ別の市場動向について有識者により講演がなされた。会場は満席で約400名が参加したとみられる。2012年のLIBOR不正事件以降、金融業界や市場に対して高い透明性が求められることとなり、これまで1世紀近く続いてきた金、銀、白金等のロンドンフィキシングもその歴史に幕を下ろし、ロンドンを中心とした金属市場は変容せざるを得なくなっている。世界最大の金属取引所であるLMEの今後の事業戦略をLMEセミナーから紹介する。

(写真:LMEセミナー2014)
(写真:LMEセミナー2014)

1. LMEの今後の事業展開とは

 LME Chief ExecutiveのGarry Jones氏は、Chief Executive就任からちょうど1年を迎えた。Garry氏は冒頭の挨拶で、昨年のセミナーでは新任の挨拶と抱負を述べれば十分であったが、就任後の1年を経て今回はCEOとしての実績を示す必要がある、と前置きをした上で、自社クリアリングの設立や白金・パラジウムの価格運営参入等の新規事業が成功裏に進展していることを挙げ、昨今の規制強化の動きを捉えて規制当局の理解を得ながら、より顧客のニーズに沿った事業を行っていくと発言した。

 LMEの今後の事業展開に関しては、ビジネス開発部門トップのMatthew Chamberlain氏が講演を行い、ここ数年の規制強化や市場改革が現物市場と金融市場に大きく影響を及ぼしており、LMEは新たなフェーズに入ったとして、リスクマネジメントソリューションと投資機会を提供する高い能力を有していることを強みとして、LMEメンバーと協調しながら事業展開を行っていくこと、またこうした自信を背景に今後のLMEの展望については非常に楽観視していると述べた。また個別事業については以下のとおり説明した。


(1) LME倉庫改革

 LMEは、特に問題になっているアルミニウムの倉庫出荷待ちの早期解消を倉庫改革の主要目的として、倉庫入出荷量をリンクさせたLILOスキームを導入する。倉庫改正ルールの発表後、倉庫出荷量が入荷量を上回るようになり、早速効果が出ている。また露Rusal社に勝訴した事実もこれを後押ししている。なお、倉庫改正ルールに関してはコンサルテーションを経て、市場関係者や規制当局まで広く意見を聴取し、より市場のニーズに沿った形で提供を行う予定である。LILO以外の倉庫改正ルールの個別事項に関して次のとおり紹介する。

・ 既に導入済みの改正ルール

① 現物市場委員会の創設と6か月ごとの評価の実施
② 意図的な出荷待ちのケースに関してはLMEが調査し措置を講じる
③ 鉄鋼の搬出率の切り離し
④ 倉庫データのより高い透明性の確保
⑤ トレーダーの透明性強化
⑥ ベストプラクティスな情報バリア方針

・ 現在計画中の新ルール(2014年11月以降にコンサルテーションを実施予定)

① 倉庫運営業務のレビューの実施
② 倉庫事業契約内容の法的レビューの実施
③ プレミアムヘッジソリューションを促進するための変更
④ 出荷待ちの倉庫に関して倉庫料の上限設定
⑤ 高コストの構造的ソリューション実施


(2) ユーザーニーズに沿った流動性の高いLME契約

 LMEのユーザーは、実際に現物を必要とするユーザーと投資や金融取引を目的とするユーザーとに大きく二分され、両ユーザーの取引方法や市場構造をより深く理解する必要がある。現物取引を目的としたユーザーはある特定日の受け渡しを前提とした契約を主に利用しているが、金融目的の利用者はこれと全く異なる性質を持ち、月ベース契約を利用することにより自らのポジションの流動性が保証されることを求めている。現状、両ユーザーのニーズに沿ったサービスを既に提供しているが、さらなるユーザー獲得に向けて、2014年から市場データへのユーザーによる直接的なアクセスを可能にしている。さらに、より流動性の高いLME Selectの電子取引システムの導入を計画している。


(3) 白金・パラジウムの価格指標提供を開始

 ロンドンをベースとしていた貴金属市場の価格形成の動きは大きな変革の年を迎えている。LMEは、白金・パラジウムに関して、2015年1月以降、LME Bullionの電子取引システムにより指標価格を市場に提供することとなった。また金価格形成に関しても同システム導入を目指し、ロンドン金市場協会(LBMA)に対して応募を行っている(LBMAの公募の結果、2014年11月7日付で、米インターコンチネンタル取引所の受注が決定した。)


(4) LMEプレミアム契約

 LMEは現在の出荷待ちの現状を打開する代替案の一つとして、現物の即時受け渡しを可能にする独自のLMEプレミアム契約を開始した。これは輸送料、保険及び地域ごとの需給を反映した上乗せ金(プレミアム)を支払うことにより、消費者が希望する日に希望する場所で現物を受け取ることを保証するもので、出荷待ちを懸念する必要はなく、消費者が最も求めていたサービスであると言える。


(5) 鉄プロダクツの取扱を開始

 LMEは鉄鋼市場に大きな関心を持っており、鉄鋼業界とパートナーシップをとることで、より業界のニーズに適したサービスが提供できると考えている。鉄鋼ビレットについては現在すでに取引を提供しているが、今後、鉄スクラップと鉄筋について、その後、鉄鉱石、原料炭、ステンレス鋼、HRC(熱延薄板)、CRC(冷延薄板)まで取引の拡大を図っていきたい。

2. LME独自クリアリングハウスの始動

 LMEは独自のクリアリングハウスとなるLME Clearを設立し、2014年9月から営業を開始している。講演したLME ClearのChief ExecutiveのTrevor Spanner氏によれば、LME Clearの立ち上げは非常にチャレンジングなプロジェクトであったとし、2年半の準備期間を経て、LME親会社の香港証券取引所(HKEx)からの資金提供を得て1.7億ポンドを投じたとしている。以前は軽視されていたクリアリング業務が2008年の世界金融危機を機に状況が一変し、市場のクレジットリスクが軽減できるという意味からも重要視されるようになっており、LMEはLME Clearを通じてLMEメンバーに対し多面的なサービスを提供していくとしている。また同氏の講演によれば、LME Clearにより、リスク管理やリアルタイムでの精算といった顧客サービスの拡大や最先端技術を駆使した電子システムLME Mercuryの導入など、多くのメリットをユーザーが受けられる一方で、負担するコストは従来と変更がないということを強調している。

 さらに、以下のとおり現在進行中の事業展開について説明があった。

・ アジアでの事業参入を考慮して、2014年末までに人民元を現金担保として段階的にLMEに導入する予定で、現在規制当局の認可待ちである。

・ ワラント(倉荷証券)を担保として使用できるようにする予定で、英国中央銀行の認可待ちである。

・ 規制当局は相対取引者の精算業務への関与を望んでいることを受けて、価格及びリスクが適正であるとみなされる場合においてこれを可能にするように検討していく。2015年にかけて『適正』レベルに関してユーザーと協議していく。

・ 担保負担軽減を可能とする新商品・新管理手法等の導入を行う。

・ 他の市場への展開を試みる。

3. LMEの人民元建ての導入について

 LMEの親会社である香港取引所Asia CommoditiesトップのRebecca Brosnan氏はパネルセッションの中で、今後LMEのアルミニウムや銅の取引において人民元建て取引が拡大しうるかどうかという点について、以下のように述べた。

・ 2006年の中国の市場参加比率は6~7%に過ぎなかったが、現在は22%、近い将来50%を超えることは十分に考えられる。

・ こうした動きから世界市場が中国国内の投資家の市場参入を促すべく、人民元建て取引に動くのは時間の問題である。

・ 一方で、世界市場で独占的に使用されている米ドルに比べれば、市場参加者が何の懸念も持たずに違和感なく人民元で取引を行うようになるにはかなりの時間を要するだろう。

 また英BOCI Global Commodities CEOのArthur Fan氏は、中国の金融規制緩和の一例として上海証券取引所が海外投資家参入を促していることを挙げ、人民元市場は世界市場での影響力をさらに増していくだろうとコメントした。

4. 中国市場の今後の展開について

 香港取引所グループChief Executive のCharles Li氏は、LME Chief ExecutiveのGarry Jones氏とのQ&Aセッションにおいて、聴衆からの質問に答える形で、中国青島港での倉庫不正事件と上海・香港証券コネクト(Shanghai-Hong Kong Stock Connect)がLMEに及ぼす影響について、Li氏は次のように回答した。


(1) 青島港の不正事件

 中国の倉庫業者は大半が小規模な金融目的の事業体であり、今回事件のあった倉庫も同様に極めて小規模の事業体で単なる物流業者に過ぎないとして、LMEの倉庫事業とは全く次元の異なる話であり、今回の事件報道による反響は意外である。むしろ、中国において倉庫業に係る規制が現在不十分であることから、この事件をきっかけに規制化されることを期待している。また、中国本土での倉庫事業に関して言えば、中国当局は国内事業者保護を目的に中国本土での倉庫業務への外資参入を認めておらず、これは中国当局の決定事項とされている。中国事情をよく熟知している者からすれば、我々が中国当局に対して改善を求めるといったことは香港での事業にも影響しかねないため、中国当局とは協力関係を継続していくことが最も重要である。


(2) 上海・香港証券コネクト

 上海・香港証券コネクトとは、上海証券取引所と香港取引所とが連携して、両取引所を通じて中国本土と香港において双方向からの証券取引を可能にするもので、現在準備が最終段階にあり、うまく行けば数週間で発足が発表される見通しである。これまで上海証券取引所と香港取引所はそれぞれ独自のルールのもとに、独自のクリアリングシステム、独自のセキュリティシステム、独自の管理手法を有してきた。同スキームは、これをシームレス化することを目的としており、通貨も人民元が使用され、海外投資家が中国本土に参入するインフラを整えるという点では非常に重要な役割を果たす。また、同スキームの目的がLMEを買収した目的と同一であり、LME買収は中国本土を世界の金属市場にリンクさせるという重要な意味を有している。

おわりに

 2014年はこれまで1世紀もの長い歴史を有してきた貴金属価格のフィキシング方式が見直される大きな変容の年となり、LMEはこれを機に貴金属への事業展開を図った。金、銀については米系取引所が価格指標形成を任されることとなったが、白金・パラジウムについてはその地位をLMEが獲得した。金融市場を取り締まる規制が強化されるなかで、LMEは規制当局や市場参加者との対話を重視しながら、倉庫ルールの改正や自社クリアリングハウスの設立など事業展開は活発化している。またこの動きは香港取引所による買収以降とリンクしている。アジア市場への参入も含めて、これらの事業展開がどのように機能していくのか引き続き注目していきたい。



おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。



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