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  平成27年7月23日 No.15-36
中国のステンレス鋼産業とニッケル需給への影響

< ロンドン事務所 竹下聡美 報告 >

 ステンレス鋼に添加剤として使用されるニッケルは、ニッケル鉱石最大生産国インドネシアの未加工鉱石禁輸政策の影響により、構造的な供給不足が今後継続すると見られている。2015年4月に開催された国際非鉄ニッケル研究会及びMetal Bulletinが主催したInternational Nickel Conferenceにおいて、今後のニッケル需給を見通す上で重要な中国動向について、各専門家より発表がなされたことから、ステンレス鋼を巡る動向を中心にまとめた。

1. 中国のニッケル需給バランスと見通し

 POSCO Research InstituteのBusik Choi氏によれば、図1に示すとおり、中国におけるニッケル需要量は、2014年に106.4万tまで増加した。特にステンレス鋼向け需要量は過去5年間で倍増した(図1は2011年からを表示)。一方で、2011年から2013年にかけて供給過剰が継続し、その間の累積過剰量は48.1万tまで拡大した。2014年にはインドネシアの鉱石禁輸により供給不足に転じ、2014年時点の不足幅は11.7万tとなっているものの、相当量のニッケルが中国国内に積み上がっていたことが分かる。

図1 中国のニッケルの需要と供給

図1 中国のニッケルの需要と供給

(出典:POSCO Research Institute講演資料より作成)

 2014年以降の中国のニッケル需要の見通しについては、鉱業コンサルタントのDMM Advisory GroupのKrisztina Kalman-Schuler氏の予測によれば、2014年から2019年にかけて年平均5.8 %増加し、中国のステンレス鋼向けニッケル需要量は2019年には世界のニッケル需要量全体の45 %に達して、ニッケル需要は中国のステンレス鋼の生産動向に左右される状況となる。

2. ニッケル需要サイドからの中国のステンレス鋼産業の見通し

(1) 世界のステンレス鋼生産

 ニッケルの需要を見るには最大用途を占めるステンレス鋼の動向を押さえる必要がある。POSCO Research Instituteによれば、世界のステンレス鋼生産は2001年の1,900万tから2014年の4,100万tにかけて年平均5.7 %成長を遂げている。しかしながら、これにはほぼ中国の成長が寄与している。中国のステンレス鋼生産は2001年の100万tから2014年には2,200万tまで急拡大し、この間の中国の年平均の成長率は29.8 %である。先述の世界成長から中国分を差し引くと、その年間成長率は僅か0.4 %に留まり、その他の世界の成長はほぼ横ばいであったということが分かる。中国のステンレス鋼需要が急拡大した要因としては、建築、工業設備、家庭用品等分野での需要の拡大と、ステンレス鋼原料としてのNPI(ニッケル銑鉄)という新たな供給源が誕生したことが挙げられる。

(2) ニッケル市場におけるNPIの台頭

 POSCO Research Instituteによれば、中国のステンレス鋼メーカーがNPIをステンレス鋼原料として使用し始めたのは2006年からで、これ以降中国のステンレス鋼生産は急速に拡大した。初めてNPIを生産し使用したのは、Zhangjiagang Pohang Stainless Steel(ZPSS)社で、その後中国企業各社が展開していった。

 NPIを生産する方法としては、ニッケル鉱石(リモナイト鉱、サプロライト鉱)を原料として、表1のとおり、溶鉱炉(Blast Furnace, BF)、電気炉(Electric Arc Furnace, EAF)及びロータリーキルン(Rotary Kiln Electric Furnace, RKEF)の3つがある。3つの方法の中では点線赤枠で囲ったEAF及びRKEFプロセスが生産コスト面でアドバンテージを有していることが分かる。中国のステンレス鋼メーカーはNPIを使用することによって、ニッケルに掛かる原料コストを低く抑えられることが可能となった。さらに中国ではステンレス鋼メーカーの約3割がニッケル製錬所とステンレス鋼製造工程を統合しているとされる。

表1 中国におけるNPI生産プロセス

表1 中国におけるNPI生産プロセス

(出典:Posco Research Institute講演資料より作成)

(3) 中国のステンレス鋼生産の拡大

 表2に示すとおり、中国国内のステンレス鋼需要の拡大とNPIによるステンレス鋼生産コスト削減に牽引されて、中国国内でステンレス鋼生産は拡大し、2014年には世界のステンレス鋼生産の半分を中国が占めるまでとなった。一方で国内消費のみならず、2014年の輸出量は前年比45 %増と大幅に増加し、世界の輸出量に占める中国の割合は2010年の9.7 %から2014年には20.3 %まで拡大した。

表2 中国のステンレス鋼生産量と輸出入量

表2 中国のステンレス鋼生産量と輸出入量

(出典:Posco Research Institute講演資料より作成)

(4) 中国のステンレス鋼業界の課題

 急激な成長に伴って中国のステンレス鋼業界では様々な課題が顕在化してきた。それは国内需要成長の陰りと過剰な生産能力である。中国のステンレス鋼需要増加率は2012年の前年比17 %増から2013年には16 %、2014年には9 %と減速しているが、その一方でステンレス鋼の国内生産能力は拡大を続け、2010年に生産能力から需要量を差し引いた過剰幅は520万t、2014年にはこれが1,310万tまで増大している。

(5) 中国のNPI原料の衰退

 こうした課題に直面していることに加えて、中国のステンレス鋼メーカーはコスト競争力を失いつつある。2014年1月からニッケル鉱石最大生産国のインドネシアが鉱石禁輸に踏み切ったことから、NPI生産に最適な品位のニッケル鉱石を安価に同国から調達することができなくなった。代替先となったフィリピン産のニッケル鉱石はインドネシアに比すれば低品位であり、NPIへの製錬コストは上昇した。

(6) NPI代替原料としてのスクラップの台頭

 また最近の動向について、DMM Advisory Groupによれば、中国のステンレススクラップの消費量がNPIの代替原料として急激に増えている。背景には上述したNPI生産コストの上昇があり、特殊鋼を専門とするSMR GroupのMarkus A.Moll氏もNPIはもはやステンレススクラップに対してコスト面で競争力を失っているとコメントした。さらに、DMM Advisory Group は2019年にかけてその消費量は増え、2014年のスクラップのニッケル含有量20万tから2019年には25万tまで拡大すると予測している。中国のステンレス鋼メーカーはNPIを使う傾向にあるものの、NPIの使用割合は減少してきている。またNPI代替原料としてのフェロニッケルについても、中国の輸入量は2015年1月に急激に増え、2015年も引き続き堅調に増加すると見ている。

(7) 環境規制によるNPI生産拠点の縮小

 中国では史上最も厳しいとされる環境法が2015年1月から施行された。それに伴い中国国内のNPI製錬所も閉鎖される方向に動き、中国からインドネシアへの生産拠点の移転が進展すると見られている。すでに、山東省臨沂市では9件のNPI製錬所が閉鎖されている。また環境規制の強化に伴い、NPI生産コストも上昇すると推測される。以上のことから、中国のNPI生産は鉱石供給の制限、環境規制及び高生産コストによる需要減退を背景に減少するとみられる。DMM Advisory GroupはNPIの2013年生産量50万tは前年比12 %減となり、2015年には40万tを下回ると予測している。

(8) 欧州によるアンチダンピング問題

 さらに、中国及び台湾から欧州への冷間圧延ステンレス鋼板(SSCR)の輸出に際して、欧州鉄鋼協会(EUROFER)は2014年5月に訴えを起こし、EUは調査を経て2015年3月以降、中国からのSSCR輸入に25.2 %、台湾からの輸入に12 %のアンチダンピング課税を課している。EUROFERによれば、両国による欧州への輸出量は2010年から2013年にかけて70 %増加、またEU域内での両国の市場シェアは64 %増加しており、さらに両国製の価格は欧州製に比して平均して10.5 %低いことから、欧州のステンレス鋼業界は市場シェアの維持又は収益を確保することができなくなったとしている。さらには、2014年には両国からの輸入量の増加率は2010年に比して200 %を超え、また市場シェアも180 %を超えたとし、この輸入超過は中国の生産過剰によるものでEU域内の消費と全く関係がないとしている。このため、アンチダンピング課税の導入により、2015年は欧州への輸出量が減少する見通しである。

3. 中国のニッケル供給の動向

 次に中国のニッケルの供給サイドについて概観すれば、図2に示すとおり、2013年に供給量はピークを迎え、その値は2010年の3倍にまで拡大した。一方で2014年にはインドネシアの鉱石禁輸によりニッケル鉱石の輸入が2013年の84.1万tから54.7万tまで35 %減少し、全体でも2013年の114.9万tから94.7万tまで18 %減となった。図2で示すニッケル輸入はニッケルマットやフェロニッケルを指している。

図2 中国のニッケル供給内訳別推移

図2 中国のニッケル供給内訳別推移

(出典:POSCO Research Institute講演資料より作成)

 なお、中国のニッケル鉱石輸入国の割合については、2010年はインドネシアが41 %、フィリピンが29 %であったが、2014年にはフィリピンが65 %まで拡大し、インドネシアは17 %まで縮小した。

図3 中国のニッケル鉱石輸入国比率

図3 中国のニッケル鉱石輸入国比率

(出典:Posco Research Institute講演資料より作成)

 DMM Advisory Groupによれば、中国では、インドネシア鉱石禁輸の施行を前に、図1でも示したとおり、2011年からニッケル鉱石在庫を積み上げていたが、この鉱石在庫は2015年末までに使い切るものとみられている。2015年の初めの時点で、その鉱石在庫量はニッケル量で17万tから18万tと推測され、5ヶ月分の需要量を賄えるとし、さらにフィリピンからの鉱石輸入がこれを補い、少なくとも2015年末までは鉱石供給での不足はないとした。

おわりに

 中国のステンレス鋼向けニッケル需要量は、2019年までに世界のニッケル需要の45 %を占めるに至る。一方で、中国国内のステンレス鋼生産は過剰状態が続き、国内需要も減速化している。今や世界のステンレス鋼輸出量の2割を中国が占める一方で、EUによる中国へのアンチダンピング課税により欧州向けの輸出量は2015年以降制限される見通しとなっている。インドネシアのニッケル鉱石禁輸及び環境規制強化から中国国内のNPI生産コストは上昇し、NPI離れが進展するとみられ、中国のステンレス鋼生産コストの上昇は避けられないだろう。中国のステンレス鋼生産動向とニッケルに及ぼす影響について引き続き注視したい。

おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。



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