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  平成28年3月31日 No.16-9
資源価格低迷期におけるレアメタルの需給動向
―Argus Metals Week 2016から―


< ロンドン事務所 竹下聡美 報告 >

 2016年3月7日から9日にかけて、ニッケル、モリブデン、タングステン等のレアメタル需給動向に係るArgus Media社主催の『Argus Metals Week 2016』がロンドンにおいて開催された。

 レアメタルを中心に金属全般の指標価格情報を提供するMetals Pages社が過去8年間に亘って、ニッケル、コバルト及びモリブデンに係るカンファレンス『NiCoMo』を開催してきたが、2014年にArgus Media社に買収されたのを機に、2016年はレアメタル全般のカンファレンスとしてArgus Metals Week と名称が変更された。当会議にはこれらレアメタルの生産者、需要家、トレーダー及びアナリスト等の約120名が参加し、資源価格が低迷する中でのレアメタルの需給見通しについて講演が行われた。ニッケル、モリブデン、ニオブ、バナジウム、タングステンについて、コモディティ別に講演内容について本稿で報告する。

1. ニッケル:2016年に供給不足へ転換か

1-1. Norilsk Nickel、生産者の70%が赤字操業、2016年に供給不足に転じると予測

 露Norilsk Nickelの首席アナリストのDmitry Kuznetsov氏によれば、Norilsk Nickelはニッケルの世界生産シェア14%、パラジウムについては同44%を有し、この2鉱種については世界最大の生産者である。同社はこの価格サイクル下においても高いEBITDAマージンを確保し、2015年上期決算では、EBITDA21億US$、EBITDAマージン55%で、売上高は46億US$であった。売上高に占める鉱種別割合は、40%がニッケル24%が銅、23%がパラジウムと、ニッケルの占める割合が一番高く、地域別では57%が欧州、29%がアジアとなっている。なお、Norilsk Nickelの販売先の85%を産業ユーザーが占め、残り15%がトレーダー・取引所であるとして、同社は産業ユーザー向け長期販売契約を戦略として重視していると強調した。会議参加者から投機筋の金属市場参入について意見を求められると、投機筋の市場参入は価格ボラティリティを高めるだけで生産者としては良いことだとは思っておらず、これはユーザー側も同じ意見だろうと回答した。

 Dmitry Kuznetsov氏は、2009年世界金融危機のニッケル価格下落時と現状とを比較し、当時のニッケルLME月平均価格はコストカーブの75パーセンタイルを5ヶ月間下回り、生産者の35%が赤字操業の状況であったが、今回はコストカーブの75パーセンタイルを既に9ヶ月もの長期間に渡って下回っており、赤字操業と見られる生産者の比率は70%と更に厳しい状況となっていると指摘した。この状況下でも生産者が減産に転じておらず供給過剰の状態が継続している理由として、生産者が政府からの財政支援を受けていることや、ポートフォリオの多角化で赤字分を賄っているのではないかという考えを示した。今後の需給見通しについては、現在のニッケル価格は生産を継続するには不可能な価格帯であるとして、高コスト生産者を中心に2014年ニッケル生産量の16%相当が2016年には減産すると見込み、2016年は供給過剰から供給不足に転じるターニングポイントになると予測した。

 なお、インドネシア鉱石禁輸政策に参加者から質問が及ぶと、インドネシアにとって現在の価格下ではこの政策は非常に厳しいものとなったとして、現在鉱石禁輸が取り下げられる動きもあると報じられているが、このタイミングでの取り下げは市場にとってもインドネシアにとっても何もメリットはないとコメントしている。

1-2. Anglo American、生産コストの大幅圧縮も、2016年は生産調整が進むとの見方

 Anglo Americanからはニッケル販売部門ヘッドのSebastian Kreft氏が講演を行った。同氏は、2015年は鉱業界にとって驚きと変化が最も大きい一年であったとして、何より原油価格がここまで落ちるとは誰も予測できず、Anglo Americanの株価下落もそう言えるだろうと、自嘲気味に語った。また既に発表しているように、Anglo Americanはダイヤモンド、銅、白金族にポートフォリオを絞って高収益の小さな企業に移行するとし、もしこの会場にブラジルのニッケルプラントを買い取るに十分な小切手を持っている参加者がいれば後で声を掛けて欲しいと会場の笑いを誘った。

 Sebastian Kreft氏によれば、中国の高品位NPI生産量は、2015年に前年比18.5%減の38.5万tまで減産したが、NPI減産分を相殺する目的とみられるフェロニッケルとニッケル地金の中国への輸出量が、2014年から2015年にかけてブラジル、コロンビア、ニューカレドニア、日本から相当数増えている。フェロニッケルの生産コストについては、2014年末時点で14,000US$/tと予想されていたが(講演資料によれば、Barro Alto案件のC1キャッシュコスト14,774US$/t、Domianbo案件は16,514US$/t)、2015年Q4 時点では、ここから2,000US$/tも平均キャッシュコストが下がっており、為替、燃料費、電気料金、人件費削減により、大幅なコスト圧縮が達成できたと想定している。

 Sebastian Kreft氏は、ニッケル価格低迷下で市場は非常に厳しい状況にあるとして、2016年の生産見通しについては、多くのアナリストが赤字操業でもニッケル生産が継続されると予測しているが、生産量は調整されてくるのではないかとの見方を示した。

2. モリブデン:銅市場に影響されて減産傾向へ

 Freeport McMoRan子会社でモリブデン世界最大生産者のClimax Molybdenum社販売部門のBarbara Buck氏が講演を行ったところによれば、モリブデン需要の8割以上を占める鉄鋼・ステンレス鋼需要は2015年はほとんどの地域で弱く、特に原油安により原油生産国のチューブ製品向け需要減が顕著であった。また中国製鉄鋼製品へのアンチダンピング措置がモリブデン需要にも影響しているとした。

 供給サイドについては、講演によれば、モリブデン単体鉱山(Primary Mine)の生産量は減少しており、新規鉱山開発も遅延している。副産物鉱山は過去5年以上に渡って年平均3%生産量は増加しているが、今後は銅市場に引きずられて減産が予想されるため、この傾向は継続しないという考えを示した。Climax Molybdenum社は、市場を注意深く見ながら、生産と在庫の調整を行っているとしている。

 Barbara Buck氏は世界のモリブデン生産について、歴史的には中国のモリブデン鉱山が生産を開始した1917年以降、そして副産物として世界中で生産され始めた1950年以降から生産量が5倍以上に飛躍的に伸びており、中国鉱山及び銅鉱山の影響がモリブデン供給に大きな影響を有しているとした。また同氏は生産者として価格へのコメントは控えたいとしながらも、モリブデン市況を見るファクターとして、鉄鋼・ステンレス鋼生産量、銅鉱山の拡張又は減産動向、新規鉱山開発状況、中国の輸出入動向を注視していると紹介した。

3. ニオブ: CBMMによる安定的なニオブ供給に今後も期待

 ニオブ市場については、前述のニッケルに引き続き撤退が決定しているAnglo Americanのニオブ販売部門のFrank Jackel氏から紹介がなされた。Anglo Americanは1973年からブラジルBoa Vistaニオブ鉱山で生産を行っており、現在の平均年産量は4千tで、拡張工事を経て、6.5千tまで生産能力を増加させるとしている。Frank Jackel氏によれば、ニオブ市場は他の鉱種に比べて非常に静かで安定しており、2025年にかけて需要は伸びていくというポジティブな長期見通しを示した。ニオブの主な需要用途先は、自動車車体、パイプライン、建設部材及びステンレス鋼で、フェロニオブの需要は鉄鋼生産の成長に伴って増加している。中国及びインドの鉄鋼製品におけるニオブ含有率が他の地域に比べて小さいため、今後の成長可能性余地は大きいと言えるが、中国については消費者経済への移行に伴って、成長率は限定的になるかもしれないとコメントした。

 講演によれば、ニオブの2015年生産シェアは、CBMMが77%、Anglo Americanが11%、Magris Resourcesが9%を占めている。2015年生産能力は、CBMM7.9万t、Anglo American7千t、Magris Resources5千tであるが、CBMMは拡張計画により、2017年には10万t、2018年には12万tの生産体制となる見通しである。同氏は、CBMMは生産能力では世界需要量を全量生産することが可能で、引き続き最大生産シェアを維持し続けるだろうとの考えを示した。また他の鉱種で見られるように、低コスト生産が可能な生産者は、他の高コスト生産者の参入を許すことで価格上昇を期待するが、CBMMは資源価格高騰時においても価格を釣り上げずに保証している点がこのニオブ市場を安定的にしているとの考えを示した。また供給源の多角化が簡単ではない点として、ニオブ精鉱が放射性物質を有していることを理由に挙げ、参加者からブラジル一国に供給が集中している供給リスクの問題について質問されると、ブラジルのカントリーリスクは小さく、懸念する必要はないだろうと回答した。

4. バナジウム:今後10年間の需要成長率は1%と予測

 バナジウムについて講演を行ったTata Steel ProcurementのNigel Clarke氏によれば、バナジウムの世界埋蔵量は1,300万tとされ、うち4割を中国とロシアが占め、残りの2割を南アが占めている。バナジウムの主要な供給源は、バナジウム単体鉱山、鉄鉱石鉱山からの副産物、リサイクル原料の3つで、同氏は最近のトレンドとして、鉄鋼需要減速と価格低迷を背景に、バナジウム市場から撤退する生産者やプロジェクトの遅延が相次いでいると紹介した。

 需要面については、バナジウムは鉄の硬度を高める目的で需要量の9割が鉄鋼産業で使用されており、バッテリーや特殊鋼での需要成長も今後期待できるという。今後需要増が期待される産業については、中国、インドでの航空機需要増に伴う航空産業、そして規制強化によりバナジウム含有率の高い部材の使用が増えるとされる自動車産業の2つを挙げた。バナジウムはより硬度を求めるニーズが高まっていくとして将来的にも需要は伸びていくと確信しているとの見方を示しつつも、今後10年間の需要成長率は年1%程度の伸びと予測し、過去20年間の年平均成長率8%は中国爆食により高すぎた感が否定できないとした。

5. タングステン:大規模鉱山生産開始、リサイクル比率の上昇により供給過剰

 タングステンについては、タングステン・サミットと称して、タングステン生産者、アナリスト等からタングステン需給全般について講演が行われた。

 供給サイドについて、タングステン粉生産者のBuffalo TungstenのTyler Showalter氏は、タングステン業界の変化として、欧米メーカーが原材料確保のために上流投資に参入していることを挙げ、この背景には、タングステンを巡る予測不可能な中国政策への保護措置、上流から下流までの一貫管理による潜在的なコスト節約、紛争鉱物規制対応のためのサプライチェーンへのコントロールを増すためだとしている。実際にこうした動きから中国外の大規模鉱山投資が進展したとして、ベトナムNhui-Phaoタングステン鉱山及び英国Drakelandsタングステン鉱山(Hemerdon鉱山から名称変更)が近年生産を開始している例を紹介した。しかしながら、最近は、市況悪化と中間製品価格の低下に伴い、こうした上流投資は減速化しているとした。タングステン需給全般について講演を行ったArgus Consulting ServicesのMark Seddon氏は、2015年12月時点のタングステン価格でみれば、大半のタングステン鉱山は赤字操業となっているとの見方を示している。

 タングステンのリサイクルについては、近年リサイクル比率が上昇しているが、ITIA(国際タングステン産業協会International Tungsten Industry Association)のBurghard Zeiler氏によれば、2007年の欧州超硬工具向け原料は一次原料が71%、リサイクル原料が29%であったが、2012年にはリサイクル原料の比率は49%まで拡大しており、2014年には55%以上になると見られている。一方で、リサイクル事業については、スクラップの収集・分離のプロセスの経済性が確保できるのは価格が高い時だけであり、これがリサイクル比率の上昇を制約しているとした。

 需要サイドについて、Argus Consulting ServicesのMark Seddon氏は、2005年から2015年にかけて需要成長率は年平均2.8%で、タングステンの需要成長はGDPとの連動性が強いが、中国需要増とリサイクル供給量増が影響して、最近はGDPとの連動性は低くなっていると指摘した。また中国が全需要に占める割合は2005年の40%から2015年には64%まで上昇しているものの、これには中国の備蓄政策が影響しており、実需要とは異なることに注意が必要であるとした。なお、用途別で見れば、2015年需要量8.3万tのうち、超硬工具向けが55%、鉄鋼・特殊鋼向け(フェロタングステン)が21%で、照明用電極等の需要は減少傾向にある。

 Mark Seddon氏は、価格動向について、タングステン価格に一番影響を及ぼすのは中国の輸出・備蓄政策であり、他の鉱種に比べて、クレジット危機には影響を受けにくいとした。2012年から2015年にかけては価格は比較的安定していたが、直近では供給過剰と中国備蓄積み増しが影響して価格は下落している。今後の見通しとして、供給過剰幅は縮小され、2018年には供給不足に転じると予測した。最後に、中国備蓄及び生産者在庫、中国国内での違法採掘による安価鉱石生産に引き続き注視する必要があると呼び掛けた。

おわりに

 レアメタルは、賦存地域が偏在し供給源が限られるという点で供給リスクがベースメタルに比べて高い傾向があり、上流投資は原材料確保で重要な手段の一つである。中国経済急成長期の資源価格高騰時に鉱山開発投資が活発化したが、これが現在の供給過剰感をもたらしており、また同時に中国経済失速による世界的な需要減退は長期的に続くのではないかという弱気な見通しが会場では多く聞かれた。現在の価格下では赤字操業を続ける生産者も多く、今後の上流投資については過去10年間の投資判断基準から大きく見方を変え、如何に生産コストを下げ、需要見通しを現実的に予測するかが重要となってくると思われる。

おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。



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