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  平成28年4月7日 No.16-12
銅の優位性を生かした新技術の普及と取引流動性の向上による銅需要の変化
―2016年春季国際銅研究会(ICSG)・国際銅会議参加報告(3)―


< ロンドン事務所 キャロル涼子 報告 >

はじめに

 J2016年3月8日から10日の3日間にわたり、ポルトガルのリスボンにおいてMetal Bulletin社主催の国際銅会議(以下ICCとする)と、非鉄研究会の一つである国際銅研究会(以下ICSGとする)の春季会合が合同開催された。国際銅会議は今年で29回目の開催となり、会議には資源メジャーからBHP BillitonとGlencoreが出席したほか、Cochilco、Codelco、Freeport McMoran、銅精錬・加工メーカー、銀行、コンサルタント企業、LME、政府代表等が参加した。一方ICSGは、今回で24回目の開催で、会議には政府関係者を中心に70名程度の参加があった。
 本稿では、銅需要増と価格回復への期待が込められたICCでの講演の中から、アルミニウムの代替脅威や革新技術に見る銅需要の今後、さらに持続可能な社会に向けて銅が果たしうる役割に関する講演のほか、変革めまぐるしいLMEの取引流動性を高めるプログラム開発への取り組みを紹介する。

1. 銅価格上昇要因となりうる銅の優位性

 ICCでは、価格低下による減産・操業停止が目立ち、苦境に立たされる銅生産や取引市場を活性化しようと、銅の優位性やその将来性に関する話題が多く議論された。このうち、代替の脅威や新技術への銅の採用に関する話題と、銅を利用することによる温暖化対策効果に関する発表を紹介する。

1.1 銅の新たな利用範囲と方向性

発表者:Mansfelder Kupfer Und Messing、Marketing and R&D、Head of Sales、Max Brandt氏

 独Mansfelder Kupfer Und Messing 社(以下MKMとする)は、非鉄金属・一般炭・原油等を生産する英Kazakhmys社の完全子会社で、銅線・ロッド(生産比率54%)、銅ストリップ・銅板(同32%)、銅管・銅棒(同14%)を一貫生産する製造大手である。2015年の銅の年産量実績は27万tで、2016年にはさらに15%増の年産30万tを目標とする。同社は銅の優位性を見越して2017年以降6,000万£の投資計画を立て、2018年までに40万tレベルに増産する目標を掲げている。

1.1.1 アルミニウムによる銅の代替は脅威か

 銅代替の要因は、技術革新による使用量削減が3割、素材代替による代替が7割である。銅の代替は、スーパーサイクル時に起こった銅価格の高騰によりコスト高が原因となったことから顕在化し、主にアルミニウムによる代用という形ですすんだ。ただし、銅の代替による銅使用の減少量は、2009年時点で489ktだったのに対し、2014年には309ktの減少にとどまったことから、ある程度の代替は一巡したものと考えられる。
 さらに銅の世界総使用量に占める銅使用減少量の割合でいうと、2014年の銅使用量の減少率は1.7%にすぎないことから、銅のアルミニウムによる代替は、脅威というほどの影響力はないということができる。

1.1.2 代替しない理由

 銅の伝導率の良さは周知のとおりだが、代替の総費用や効率性、規制や規格への対応、サプライチェーン等を総合的に考慮すれば、その優位性はゆるぎない。銅使用者が代替を回避した理由に関する調査結果によると、汎用性・素材特性を理由に挙げる利用者が全体の21.4%、総コストを考慮した場合銅が優位であるという結論に至った利用者が16.7%、規格や規制手続きの面から銅を優位とした利用者が7.1%、サプライチェーン管理の視点から銅にとどまった利用者が2.1%であることが分かった。
 図1に利用者が考える銅の利点・欠点の一覧を示す。コスト軽減や軽量化を目的に代替しても、総合的な費用対効果で銅の素材効率が勝るとの認識である。

図1:利用者が見る銅の利点・欠点認識度

1.1.3 新技術への銅の採用と普及による銅利用の増加予測

 今後資源効率の良い電力供給へとエネルギー代替が進めば、世界の銅需要はさらに伸びる。例えば自動車部門への銅の採用については、e-モビリティの普及が銅需要をさらに押し上げる。ハイブリット車の銅利用量は従来車の2倍、電気自動車ではほぼ3倍、プラグインハイブリッド車では3倍にあたり、自動車一台に占める銅使用量は従来車の24㎏から75㎏になると見込まれる。さらに電気自動車の5割はプラグインハイブリッドとなる予測で、電気系統用の銅の利用も増加の予測。これら自動車の普及で2050年までに銅需要の2割はe-モビリティ由来1となると考えられる。
 また、飲料水の不足が問題視される中、海水淡水化システムの利用も陸上利用・洋上船舶向け利用で増加傾向にある。現在世界では1万7,000か所の海水淡水化設備が稼働し、8,000万㎥の淡水を3億人に提供しているが、2020年までにはその供給量が5割増の1億2,000万㎥になる2と見込まれる。この海水淡水化施設には熱交換器、蒸発器、輸送ライン等で銅が使用されており、同設備のエネルギー効率の向上や、製造コスト削減に銅が果たす役割は大きい。
 さらに再生可能エネルギー促進による電力供給由来の銅利用は、従来の生産量と比較して洋上風力で9倍、陸上風力で6倍、太陽光発電でも5倍、太陽熱利用の新技術で2倍の伸びが予測されている。風力発電機等に係る資機材市場は、2023年までに現在の585億US$市場から1,000億US$市場へ拡大すると見込まれ、これに伴って同分野への銅使用量は3倍になると見込まれる。

1.1.4 MKMの研究開発領域の今後

 以上の銅需要に見合うよう、MKMでは顧客ニーズに合致した研究開発を進めている。高パフォーマンスフォイルを採用した熱交換器の小型化をはじめ、冷蔵チューブのスリム化(4㎜以下)、銅含有率削減を5%以下に抑えながら電導率を60MS/mまで向上させる研究、その他スーパーワイヤやナノコンダクターの開発等に取り組む計画である。

1.2 低炭素なエネルギー経済に銅が果たす役割

発表者:国際銅協会、Sustainable Development, Assistant Director, Geraud Servin氏

1.2.1 欧州の温室効果削減目標

 欧州では、2030年までに温室効果ガスの排出を1990年比で40%削減し、さらにエネルギー供給における再生可能エネルギーのシェアを27%、エネルギー効率も27%向上させる目標を掲げている。さらに2050年の低炭素経済をめざして温室効果ガスの排出を80%削減する目標を掲げ、発電配電部門にほぼ100%の削減、一般家庭や事務所に90%、エネルギー利用の多い産業界に80%、交通部門で60%の削減を求めている。

1.2.2 鉱業界の持続可能な発展に向けた取り組みと効果

 一方、欧州のGDPに占める鉱業のシェアは現在の16%から2020年までに20%まで向上させる目標で、環境に配慮しながら業界の成長も期待される状況である。
 銅業界は1990年から温室効果ガス削減対策に取り組んでおり、銅製造に係るエネルギーコストは総コストの25-35%という厳しい条件下にありながら国際競争を勝ち抜いてきた。欧州の銅地金生産量は1990年に160万tだったものが2013年には260万tと62%増加したにもかかわらず、欧州銅生産者の二酸化炭素排出量は750万tから450万tに減少し、40%のCO2削減を達成している。さらに銅業界の単位エネルギー消費量は、1990年比で6割削減を達成している。

1.2.3 銅の省エネ効果で利用促進

図2:銅を用いた7つの技術で可能なCO2削減量  銅の役割を考えるとき、住宅や自動車等の技術を通して社会や市民に与える銅の利点は多く、銅が世界を良い方向へ導いているといっても過言ではない。例えば銅1tを電子機器に使用した場合、携帯10万台、ノートパソコン1万台、エアコン500台、自動車50台、住宅10軒を賄うことができ、その製品寿命の間に二酸化炭素を100t〜7,500t削減することが可能である。さらには2万4,000€〜240万€の節約効果が期待できる。図2にあるように、銅をベースにした7つの技術を最大限に活用すれば、欧州の二酸化炭素排出量を年間11億t削減することが可能である3
 Kesler(2008)によると、銅の資源基盤は3,000億tであるほか、USGSが推定する 資源は50億t、うち埋蔵量は鉱山生産量37年分に相当する6億9,000万tで、銅資源はこれからも提供可能である。さらに1900年以降採掘された銅の2/3は未だに利用されており、欧州の銅需要の55%はリサイクルで賄えることが分かっている。適材適所で銅を活用すれば、2050年までに欧州の二酸化炭素排出量を25%削減することが可能との試算もあることから、国際銅協会では、費用対効果の高い環境対策を促進するのに最適である銅の優位性をアピールし、銅利用促進に向けた活動を展開する予定である。

2. 銅取引の多様化と流動性向上「LMEの銅取引:市場の変化と適応の課題」

発表者:LME商品開発部ヘッド、 Oscar Wehtje氏

 

 ICCの最終日には、LMEによる銅取引活性化に向けた取り組みが紹介された。2014年7月、中国青島港の保税倉庫において銅などの素材に二重担保が設定された事件以降、LME指定倉庫離れが進んだとも言われるが、その信頼回復に向けた取り組みも紹介する。

2.1 上海取引所、CMEの台頭による銅取引市場の変化とLMEの存在意義

 LMEの銅取引は、世界の商品先物取引の中でもICE(シェア17%)とCME(同14%)の原油取引に次ぎ3番目に大きな取引商品で、2014年には取引シェアの7%を占めた。これに対し、上海先物取引所(以下SHFE)の銅取引シェアは全体の3%、CMEの銅は1%で、銅先物取引におけるLMEの存在感は未だ圧倒的である。
 LMEでは現物取引が主で、長期取引の建玉保有者が日平均取引量の3-4倍であること、さらにLME銅取引では、ヘッジング利用者の建玉保有が、投機筋の建玉保有者を40%上回ることなどから、ヘッジングコミュニティが積極的にLMEを利用していることがわかる。取引構成は生産者・消費者による取引が全体の31%、ブローカー・ディーラーが43%、資産運用会社が24%となっており、投機筋の参加者はSHFEやCMEよりも少ない。
 一方、LMEの午前7時前「アジア時間」取引における銅取引量は、SHFEとの相関性が高いことから、前日アジアで起こった市場の動きが翌朝のロンドンでも繰り返されるという傾向が明らかとなっている。2015年11月以降投機筋に買い持ち増加の兆しがでており、銅価格は2016年3月8日現在で年始より6%増えた。
 最近投機筋が銅価格に与える影響が議論されているが、値動きを見る限り、投機筋は価格の乱降下を「誇張」する側面があるとはいえ、価格の変動はこれまで通り需給バランスにより決定されているため、原則に変わりはないといえる。

2.2 LMEにおける価格設定と金属取引の特徴

 LME価格は、需給を反映した透明性の高いグローバルレファレンスプライスである。非課税であるため世界中で同じ値段でリアルタイムの取引が可能であるうえ、LMEブランド対応の高品質の現物が指定倉庫から搬出可能である。搬出料金は買い手が負担する仕組みとなっている。
 受け渡し日の種別には、Daily(毎日受け渡し可:キャッシュから3か月先まで)、Weekly(毎週水曜日受け渡し可能:3-6か月先まで)、Monthly(第3水曜日の受け渡し:6か月以降最長123か月まで)の3種類があり、銅・アルミニウムの先物は10年先までヘッジが可能である。
 LMEがこのほど行ったユーザー調査の結果によると、現物ユーザーの間では輸送の関係で3か月アウトライトの利用が最も多く、続いて即日決済翌日デリバリーのTomNextキャリー取引が多いことが判明した。一方で金融系ユーザーは、Monthlyアウトライトが主流、1か月から6か月までのキャリー先物取引が人気である。また、現物ユーザーの3か月取引や第三水曜日のキャリー取引を、金融系ユーザー向けの第三水曜アウトライト取引に向けて放出する傾向があることが判明した。コモディティ全体では、66%の建玉が第三3水曜日に取引されるが、このうち銅取引は、若干少ない55%の建玉が第三水曜日に取引されていることが判明した。つまり、LMEの取引は第三水曜日に動く、という傾向が明らとなった。

2.3 流動性向上に向けた改革

 現在LMEでは、第三水曜日の取引を簡単かつ最大限に活用できるように、流動性ロードマップ(図3)を策定し、市場への新規参加者開拓プログラムを導入して流動性向上にむけた活動に取り組んでいる。
 2015年11月には、アルミニウム・銅・亜鉛を対象としたマーケットメイキングプログラムを導入し、第三水曜日取引の多様化・活性化を図っている。さらにオンライン取引利用者へのインセンティブとして、既存参加者に対する「Liquidity Providers」プログラムと、LME取引への新規参加者に対する「New Market Participants」プログラムを提供中で、前者には取引をすればするほど取引・クリアリング料金が安くなるリベートを設定し、後者には6か月間クリアリングフィーを課さない仕組みとした。後者は無料期間を過ぎたらLiquidityプロバイダーに移行してさらにインセンティブを受けられる。これらのインセンティブプログラムは、近々ニッケル・錫・鉛にも適用する予定である。
 また、指定倉庫の管轄地域のみならず、それ以外の地域も対象とする現物保証制度「LMEシールド」を導入し、オフ・ワラント倉庫での取引でもLME指定倉庫によるレシート発行をもって、レシート保有者以外のものによる現物の移動をできない仕組みを構築する。発行されるレシートは、電子取引が可能で、レシートの最終保有者が暗号化されたキャンセル方法を用いて手続きをしない限り、現物の引き出しはできない仕組みである。
 LMEシールドの展開については、ネット利用者は多いが指定倉庫がない地域を対象とする予定で、現在地域の割り出しに向けて調査中である。インド等が展開の中心となる予定である。このようにLMEはこれからも、グローバルレファレンス価格としての品位を保ちながら、金属業界に特化した商品開発を進め、幅広い市場参加者の獲得に向けて活動を続けていく。

図3:LMEの流動性向上ビジョン

3. まとめ

 国際銅会議・ICSGの初の合同開催となった今回の会合は、銅の価格回復要因を見出したいICC側と、銅の需給予測で価格変動要因となりうる情報を発信するICSGとのシナジー効果が期待された。ICSGの需給予測は、2016年2017年ともほぼ均衡との見方で、このままプロジェクト遅延や生産調整が進めば供給不足に転じる可能性も大いにあることから、会場では銅のファンダメンタルズは価格上昇に向かって好転しつつあるとのムードが支配した。
 しかし、業界を取り巻く市況や規制動向は常に様変わりし、対応を迫られる企業側の努力が一層必要であることに変わりはない。今後もこのような変化を察知し情報発信できるよう、関連機関との連携を密に、業界の動向を注視していきたい。

おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。



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