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  平成28年5月26日 No.16-18
カナダ北部における鉱業の現状
―後編:連邦政府と準州政府の鉱業促進政策動向―


<バンクーバー事務所 山路法宏 報告>

はじめに

前編では、各準州における経済面での鉱業の貢献度や、昨今の鉱山や探鉱の活動状況を通じてその高い資源ポテンシャルについて紹介した。

しかし、やはり極北であるが故の過酷な環境から、インフラが全体的に不足しており、探鉱、開発、操業を行う上で他の鉱業国やカナダの南部の州と比較して非常に高コストとなっている。

2015年4月にカナダ鉱業協会(Mining Association of Canada:MAC)が発表したカナダ北部における探鉱・開発コストに関する調査レポート「Levelling the Playing Field: Supporting Mineral Exploration and Mining in Remote and Northern Canada」1によれば、非遠隔地(サプライルートから50㎞以内)と比べて遠隔地(同51〜500㎞)や超遠隔地(同500㎞超)におけるプロジェクトの探鉱費用が2.27倍となり、設備投資は金鉱山で約2倍、ベースメタル鉱山で約2.5倍となっている。資機材や人の運搬にもコストが高くつく上に、開発に当たっては輸送インフラをはじめとして多額の投資が必要となる場合も多い。

そのため、同レポートでは、こうした北部遠隔地における探鉱活動に対する支援として、以下の政策を提言している。

  • 連邦政府の鉱物探鉱税額控除(Mineral Exploration Tax Credit)の引き上げ(15→25%)
  • 初期探鉱プロジェクトの掘削を推奨するための措置の導入(掘削費用への支援等)
  • 北部遠隔地鉱山に関連する設備投資に対する税額控除(10%)の導入
  • 特定インフラ(道路、港、桟橋、ダム、鉄道、発電所等)への投資に対する追加の税額控除(15%)又はインフラ設備投資の25%までをカバーする条件付きで返済する政府負担金(conditionally repayable contribution)の導入
  • 資源開発に関わるインフラ建設プロジェクトに長期融資を行う北部インフラ投資銀行の設立

本稿では後編として、こうした産業界の声も踏まえつつ、連邦政府や各準州政府が鉱業促進のためにどのような政策や戦略、取り組みを実施・検討しているかを紹介する。

1. 連邦政府の北方政策

(1)土地・資源管理権限の移譲

他の州と異なり、3つの準州は本来連邦から独立した権限を有しておらず、全て連邦政府が行政面の管轄権を有していた。しかし、2003年4月にYK準州が初めて連邦政府と権限移譲契約(devolution agreement)を締結し、連邦政府が直接管轄していた鉱業を含む分野において州政府と同様の権限がYK準州政府に移譲されることとなった。これにより、YK準州は準州内での鉱業を促進するため、硬岩(hard rock)を対象とするQuarts Mining Actや砂・漂砂鉱床を対象としたPlacer Mining Act等のいわゆる鉱業法やそれに関連する規則をはじめ、環境関連法規制、鉱業税制等、YK準州独自の法律を次々と制定した。その後の資源価格の上昇の追い風も受けて探鉱、開発活動は活発化し、その後YK準州のGDPはカナダの平均を上回る伸びを続けた。また、2013年6月にはNW準州が連邦政府と権限移譲契約を締結し、2014年4月より施行されたため、NY準州と同様に経済への好影響が期待されている。

一方、NU準州は2006年に連邦政府が権限移譲契約交渉の連邦代表者を指名したことで契約交渉はスタートしたものの、NU準州の受け入れ態勢が整っていない等の理由により具体的な交渉が進んでいない。2014年10月に、連邦政府、準州政府、先住民であるイヌイットの土地で地表権や地下資源権を管理しているヌナブト・トゥンガヴィク会社(Nunavut Tunngavik Incorporated)の三社がそれぞれ交渉代表者を指名し、1年以内に原則合意書を締結することを目標とすると発表したが、本稿執筆時点で未だ実現していない。

(2)北方戦略(Canada's Northern Strategy)

カナダ連邦政府ウェブサイト

(出典:カナダ連邦政府ウェブサイト2

2009年、連邦政府はカナダ北部における将来の発展を目指して、カナダ北方戦略を策定し、以下の4つの戦略を打ち出した。

  • @ カナダ北部の遠隔地における地球科学者、探鉱者、探鉱会社、鉱山会社等の積極的な参加とこれらを支援するための輸送インフラを通じて自主的統治を実施する。
  • A 経済的機会の創設及び先住民族及びそのコミュニティの当該機会への積極的な参加を通じて経済的、社会的開発を促進する。
  • B ベースライン調査、環境調査及び環境パフォーマンスの向上への企業投資により、環境文化を保護する。
  • C 準州の経済を多様化することにより北部のガバナンスを向上する。

当該戦略を踏まえて、カナダ北方経済開発庁(Canadian Northern Economic Development Agency:CanNor)は、2013年から5年間のロードマップを示す戦略フレームワーク「Strategic Framework 2013-2018」を発表した。本フレームワークの中で、CanNorは「政策と研究」「リーダーシップと政策提言」「経済開発財政支援プログラム」の3つのアプローチを通じて、多様かつ持続可能な北部経済を促進する主導的な役割を担うとしている。

CanNorウェブサイト

(出典:CanNorウェブサイト3

<政策と研究>

主要プロジェクトの社会経済の影響に関する研究や分析、根拠に基づくパフォーマンス分析や社会経済研究を通じた集中的な財政支援プログラムの支援、対策が必要な新たな政策課題の特定と対応などを行う。

<リーダーシップと政策提言>

北部プロジェクト管理事務所によるサービスを通じた主要な資源プロジェクトの積極的な促進や、北部の経済開発を最適化する既存及び新規の連邦政府によるイニシアティブの整理及び順序付けを行う。

<経済開発財政支援プログラム>

組織や協会、中小企業、個人のビジネス・チャンスの活用能力の開発や、経済成長に不可欠な物的インフラの開発支援による経済基盤の強化、新たなビジネス・チャンスの土台を作るための主要な経済部門における知識基盤の構築と維持などを行う。

(3)北部プロジェクト管理事務所(Northern Projects Management Office:NPMO)による取り組み

NPMOは、北部の主要なプロジェクトに対する連邦政府による環境審査プロセスの効率と効果を改善するため、プロセスにおける連邦省庁や政府機関の参加の調整、コミュニティや産業界に対する論点の管理や解決策の提示、助言、資源開発プロセスにおける先住民コミュニティへの直接の働きかけ、北部の資源開発政策イニシアティブの実行などの取り組みにおいて、表1のような機能を持っている。

表1. NPMOの活動範囲と機能

  活動範囲 機能
プロジェクト管理 産業界の課題の解決
  • 操業鉱山に対する規制の改正に関する助言や支援を行う
  • 規制許認可時期を公的に追跡する
  • 資源開発諮問グループ(Resource Development Advisory Group:RDAG)の会議を調整する
連邦規制の調整
  • 環境評価や規制のプロセスへの連邦政府の参加を調整し、タイムラインを管理する
  • 連邦政府の報告枠組みの中で北部プロジェクトの最新情報を提供する
共同運営委員会との連携
  • プロジェクトのスケジュールに悪影響を及ぼさない公聴会日時を特定し、北部全体のベストプラクティスを共有する
  • 一貫性を確保し、重複を回避し、透明性を証明するために審査プロセス期間中は連邦政府の提言を1つに統一する
社会経済の評価
  • 主要プロジェクトの社会経済的影響を追跡し、コミュニティの所有権・目標・懸念を把握する
  • 政策や計画、関与、開発イニシアティブの調整を支援する
  • 社会経済のモニタリング及び評価の枠組みやツールの構築と実行を支援する
先住民関与 政府による協議の監視
  • 影響を受けるコミュニティを特定し、早期の関与を開始する
  • 地元住民の主張を特定するために公聴会プロセスの利用を促進する
  • 追加協議が必要かどうか決定するために議事録を評価する
  • プロジェクトに関する連邦政府の決定に先立ち、連邦大臣に対して政府協議評価(Crown Consultation Assessment)の最終報告書を提供する
資源開発機会への参加支援
  • コミュニティの目標を実現するための機会、課題、戦略の特定
  • パートナーの協力を得ながら投資機会や潜在的パートナー・資源を特定することで目標と解決策とをリンクさせる
政策提言 インフラ
  • 北部のインフラ投資を支援する協調的な政策やプログラムを開発する際に連邦政府を引き込む
  • パートナーとの連携により経済的なインフラ需要や、資源開発とコミュニティの幸福を実現する開発モデルを特定して北部と国内外の貿易市場とを接続する
労働市場
  • 現状と北部労働市場の力学について時間をかけて理解し、政策を検証して北部の労働市場の成果を高める解決策を検討する
  • YK準州の北部鉱業イノベーションセンター(Centre for Northern Innovation in Mining)や、NW準州/NU準州西部の鉱山訓練協会(Mine Training Society)へ投資する
資本へのアクセス
  • 北部資源開発に対する外国からの直接投資を促進する
効果的な規制システム
  • 規制の見直しの過程で浮かび上がった問題に対応する

(出典:PDAC2016のカナダ北部投資セミナーでの連邦北方経済開発庁の講演資料に基づき筆者作成)

例えば、NPMOの調整機能により、連邦政府は準州政府や地域のイヌイット協会との間で覚書(MOU)を締結し、当該準州や地域における資源やインフラの開発を促進することや、経済開発を推進する機会を最大限に利用することなどを目的として、双方の役割や責任などを明確にして双方が協力関係を構築していくことに合意している。また、主要なプロジェクトに対する環境審査プロセスの改善を図るため、連邦政府及び政府関係機関の間で目的や役割、責任などを明確にするMOUを2012年春に締結した。その上で、個別プロジェクトであるEagle Goldプロジェクト(YK準州)、Gahcho Kuéダイヤモンドプロジェクト(NW準州)、Kiggavikウランプロジェクト(NU準州)、Meliadine金プロジェクト(NU準州)に関して政府間で役割、責任、規制プロセス、先住民との協議や調整などについて明確にした北部プロジェクト合意書(Northern Project Agreement)を締結している4

2. YK準州政府の鉱業促進政策

YK準州政府は、2014年11月に鉱物開発戦略の策定することを発表したほか、鉱山許認可改善イニシアティブ(Mine Licensing Improvement Initiative:MLII)として許認可等のプロセスの改善を進めており、2015年11月にはそれらを含む戦略イニシアティブに従事する専門部署を立ち上げている。

(1)鉱物開発戦略(Mineral Development Strategy)

YK準州政府は、2014年11月に戦略策定の方針を発表した後、2015年4月に公表した鉱物開発戦略の策定指針「Early Engagement Handout」5の中で、当該戦略で取り組むべき主要なテーマとして以下の5つを掲げて戦略策定を進めている。

@ エネルギー・輸送・通信のインフラへの戦略的投資や、探鉱リスクを軽減するイノベーションや地球科学的研究の支援を行うことで、YK準州鉱業の競争力強化を図る。

A 投資の不確実性を最小化するために許認可の意思決定における産業への要求事項を明確化する等、規制やプロセスの明確化、合理化、近代化を進める。

B 先住民による参加やコミュニティ開発の促進、訓練を通じた熟練労働者の育成等を行うことで、先住民による関与を促進する。

C 安全かつ環境に優しい鉱業活動の確保や気候変動の影響を最小化する手法の特定のための環境政策(environmental stewardship)を推進する。

D 政府による情報が十分与えられた上での意思決定や投資家による探鉱リスクの軽減を可能とする地域情報を提供する政府の役割を支援するため、鉱物資源のポテンシャルに関する包括的な情報を提供する。

しかしながら、同指針では2015年8月中旬〜10月中旬にかけて公聴会の実施が予定されていたものの、本稿執筆時点においても準州政府が策定した具体的な鉱物開発戦略案は未だ示されていない。

(2)鉱山許認可改善イニシアティブ(Mine Licensing Improvement Initiative:MLII)

MLIIは、大規模プロジェクトに対する権限の重複を減らして協調や効率性を向上させること、ユーコン環境社会経済評価委員会(Yukon Environmental and Socio-economic Assessment Board:YESAB)、ユーコン水委員会(Yukon Water Board:YWB)、準州政府といった省庁間の調整や説明責任を明確かつ効率的にすること、準州政府がより効果的な関係を構築するやり方で先住民との協議義務を遂行すること等を目的として進められている。

MLIIでは、許認可プロセスにおける重複や非効率な部分に取り組むことや、YK準州が要求する水質や構造の設計を明確にすること、より大きな説明責任を与えること、閉山法の規則を明らかにすること、石英許認可プロセス(quartz licensing process)における先住民の役割を改善して正式なものとすること等を目指しており、これにより、水規則(Water Regulations)や石英採掘規則(Quartz Mining Regulations)のほか、政策ガイダンスやシステムも変更となる可能性がある。見直しが行われている内容を以下に概説する。

@ 水規制の見直し
水規制の改正に加えて石英採掘法(Quartz Mining Act)の下で新たな規制の制定の可能性がある。今後、YWBや先住民との間で規制の概念について議論を行い、パッケージ化した見直し案を策定して産業界と協議した上でパブリックコメントを募集し、規制の変更案について正式に先住民と協議が行われる。

A 規制当局間の役割や説明責任、申請プロセスの調整等に関する見直し
主要な改善点に対する実行計画や行動計画の策定、準州政府のプロジェクト管理モデルの構築、YWBと準州政府の間の共通するプロセスの解析等を行う。

B 政策及び指針書の作成
2006年の鉱山跡地修復閉山政策(Mine Site Reclamation and Closure Policy)と技術ガイドラインのアップデートに加えて、酸性鉱廃水ガイドライン(Acid Rock Drainage Guidelines)や水質ガイドライン及び排水手段とアプローチに関するガイドライン(Effluent Discharge Methodologies and Approach Guidelines)や水施設設計性能方針ガイドライン(Water Facilities Design Performance Objectives Guidelines)の制定を行う。

C 跡地修復、閉山及び安全
大規模鉱山修復閉山政策(Major Mine Reclamation and Closure Policy)及び技術ガイドラインの制定と保安規則の見直しのため、今後、修復閉山政策や技術ガイドラインの改訂や、保安決定手順の策定、水規則又は石英法の保安条項に関する規制の変更等を行う。

D 基準及びガイドライン
要求する水質及び排水基準について排水基準の方法論に関する文書や付属書類を、水施設設計について具体的な設計基準や関連する指導教材をそれぞれ作成するほか、YESAB、YWB、準州政府及び申請者が利用可能な酸性鉱廃水・金属浸出ガイドラインを制定する。いずれの基準及びガイドラインも、2016年3月までに最終指針書の作成やガイドライン案の承認を目指すとされていたが、本稿執筆時時点で公開されたものはない。

(3)投資誘致戦略(Yukon Investment Attraction Strategy -Yukon Mining Industry-)

YK準州政府は、2015/2016年における優先課題として、2014年11月に鉱業促進に向けた投資誘致戦略「YK Investment Attraction Strategy -Yukon Mining Industry-」6を策定し、積極的な先住民パートナー、地質的優位性、規制の安定性、市場へのアクセス、インフラ、政治的安定性、の6項目に関して戦略的メッセージ発信し、対準州鉱業投資の呼び込みを図っている。

(4)鉱物探鉱プログラム(Yukon Mineral Exploration Program:YMEP)

YK準州政府が鉱物探鉱の促進を目的として探鉱活動を行う企業に対する補助制度で、適用された探鉱プロジェクトで投じられた探鉱費用のうち、グラスルーツ探鉱は100%(最大15,000C$)、未探鉱地域においてポテンシャルの調査や評価を行う基本的な探鉱活動は75%(最大25,000C$)、確認されている鉱徴や特定されたターゲットに対するポテンシャル評価のための探鉱活動は50%(最大40,000C$)を資金援助するもので、2015年は1.4百万C$が予算手当された。

3. NW準州政府の鉱業促進政策

NW準州は、2014年4月1日に土地・資源管理権限移譲契約が施行されたことで、準州内の土地や資源を準州政府が管理、監督できるようになった。これに先駆けて、準州政府は2013年に鉱物開発戦略を発表し、2014年4月以降に次々と具体的な政策や計画、施策を発表、実施している。

(1)持続可能な開発政策(Sustainable Development Policy)7

NW準州政府は、持続可能な開発政策の中で、環境保護と経済開発が相互依存の関係にあることを認識した上で、環境保護を実現する持続可能な経済開発に向けた11の基本原則を掲げている。また、2014年には、当該政策に基づき土地利用計画を決定するに当たっての基本原則を示した土地の利用及び持続可能性に関するフレームワーク(Land Use and Sustainability Framework)8を発表している。

(2)鉱物開発戦略(Mineral Development Strategy)9

NW準州政府ウェブサイト

(出典:NW準州政府ウェブサイト10

NW準州の豊富な鉱物資源の可能性やそれによる住民やコミュニティの繁栄を最大限引き出すため、2013年6月、準州政府は北西準州・ヌナブト準州鉱業会議所(NWT and Nunavut Chamber of Mines)と協力してまとめた鉱物開発戦略を発表した。当該戦略において、鉱業活動が直接・間接雇用の機会を提供するだけでなく政府にも大きな歳入をもたらす重要な産業であり、先住民政府も鉱業ロイヤルティにより大きな恩恵を受けているとして、こうした利益を将来にわたって維持するためには鉱業に関する政策決定を導く明確なプランが重要であるとの認識のもと、鉱物資源戦略として以下の5本柱を発表した。

@ 競争上の優位性の創出
世界の鉱業においてNW準州鉱業の競争力を強化するため、地球科学情報の公開の強化、探鉱インセンティブプログラムの創設、インフラ整備及びエネルギーへのアクセスの強化、対外的なマーケティングとプロモーションなどを行う。

A 新たな規制環境の確立
2014年4月の権限移譲協定の施行によって土地や資源に関する管理権限が連邦政府から準州政府に移管されるにあたり、CanNorやNPMOと協力して、資源開発やインフラプロジェクトに関する効果的かつ透明性の高い環境影響審査及び規制プロセスのフレームワークを構築する。

B 先住民との関係強化とコミュニティの能力開発
土地や資源の利用に関する決定プロセスにおける先住民の政府やコミュニティの十分な関与と参加を確保するため、企業に期待されることや、いつ、誰とどのようにかかわりを持つべきかを特定する、詳細な関与や協議のプロセスを開発すると共に、探鉱や開発プロジェクトに参加するコミュニティの能力を開発する。

C 持続可能性の推進
長期的な環境影響の低減と鉱物資源開発の促進を実現するため、個別地域において認められる活動を示す地域土地利用計画及び生物学的意義や文化的意義により保護すべき土地の範囲を提示する保護地域戦略を策定、実行するほか、政府、産業界そして先住民がそれぞれ責任を共有することで持続可能な開発を促進し、社会経済協定(Socio-Economic Agreement:SEA)や影響と利益分配に関する協定(Impact and Benefit Agreement:IBA)の交渉、実行などを通じて持続可能なコミュニティを形成する。

D 労働力開発と社会の認識の強化
地元労働力を強化するため、教育や訓練へ継続的に投資を行い鉱業へ供給する労働力を開発するほか、州民の鉱業に対する意識や理解を向上させるための運動を実施する。

本戦略に基づく具体的な取り組みとして、準州政府は10年間にわたり輸送インフラに6億C$を投資する計画Corridors for Canada V - Building for Prosperityを発表し、2015年2月には今後25年間のインフラ投資戦略「Connecting Us - NWT Transportation Strategy 2015-2040」を公表した。また、2013年12月にはエネルギー活動計画(NWT Energy Action Plan)及び電力システム計画(NWT Power System Plan)を公表するなど、コミュニティや鉱物資源開発に貢献するインフラの整備やエネルギーの供給に向けた取り組みを進めている。更に、探鉱活動を促進するために以下のプログラムを開始した。

<鉱業インセンティブプログラム(Mining Incentive Program)11

2014年6月に導入された探鉱活動を促進するための資金支援制度で、探鉱者(Prospector)に対しては最大15,000C$の探鉱費用が、探鉱企業に対しては探鉱費用の最大50%(最大100,000C$)が補助される。2年目の2015年には、本プログラムに対する年間予算として400,000C$が手当てされた。

<資源量評価作業インセンティブ(Assessment Work Incentive)>

鉱物開発戦略に基づき2015年10月に2年間の限定で暫定的に導入された探鉱促進策で、2015年4月1日に遡及し、2017年3月31日までの2年間において、鉱区保有者に対して探鉱支出額の1.5倍の探鉱税額控除を認める。

4. NU準州政府の鉱業促進政策

前述のとおり、NU準州は土地や資源に関する権限移譲契約の交渉が具体的に進んでおらず、現時点では連邦政府がその管理や監督を行っている。しかし、将来に権限移譲を受ける受け皿として、権限移譲が実現するまでの間の実現を目指した鉱業戦略を発表するなど、NU準州の居住者の大多数を占める先住民のInuit族と緊密に連携しながら、NU準州にとっても主要産業である鉱業の促進に向けた独自の取り組みを進めている。

(1)ヌナブト鉱業戦略(Nunavut Mineral Exploration & Mining Strategy)12

(出典:NU準州政府ウェブサイト13)

(出典:NU準州政府ウェブサイト13

2007年にNU準州政府が発表した鉱業促進のための戦略で、鉱物資源開発を促進するための規制フレームワークの構築や、強固なコミュニティの形成、鉱物資源開発によりコミュニティが利益を得られる戦略とインセンティブの策定、インフラ開発、環境への責任などを大きな柱として、具体的な活動内容や個別政策が明示されている。

(2)ウラン政策声明(Uranium Policy Statement)14

ウランの探鉱・開発に関するNU準州政府の政策立案は、具体的な活動計画の1つとしてヌナブト鉱業戦略の中にも示されていた。NU準州の敷地内におけるウラン探鉱・開発に関しては、Baker Lakeの人々が近隣のKiggavikウランプロジェクトの開発に反対した1980年代に議論されたが、その後20年以上が経過し、ウランの平和利用や環境への責任、鉱業の健康や安全に関する技術が大幅に向上したことと、2003年以降のウラン価格の高騰が、ウラン開発に関する議論を再開させる契機となった。準州政府はヌナブト鉱業戦略の中で、先住民コミュニティへの最新情報の提供や協議を実施した上で準州政府としてのウラン政策を策定することを表明し、2007年6月に、ウラン開発について地域住民の支援などを条件にしながらも原則的に支援するウラン管理計画基本原則(Uranium Management Plan Principles)15を発表した。

その後、準州政府は公聴会を開催するにとどまり、結局2007年の基本原則をほぼ踏襲する形で、NU準州で採掘されるウランが平和的かつ環境責任を果たす目的のために用いられること、NU準州の住民が最も利益を受けること、国際基準によって労働者やNU準州民の健康と安全が守られること、ウラン探鉱・開発に対する環境基準が確保されること、NU準州民の支持を得ること、といった条件付きでウラン探鉱・開発を支援するウラン政策声明を2012年に発表している。

(3)開発連携合意政策(Development Partnership Agreement Policy)16

2012年、NU準州政府は住民の利益を保護するために準州政府と資源開発会社の間で自主的に開発連携合意書(Development Partnership Agreement:DPA)を締結することを推奨する政策を発表し、DPAを設計・実行する上で役立つ基本原則やプロセス、パラメーターなどを示した。DPAを締結した資源開発会社は、鉱業活動用の危機や車両に使用する燃料に課せられる燃料税の払い戻しを受けることができる。ただし、燃料税の払い戻しプログラムは2006年から導入されており、本政策発表以前の2007年に締結されたMeadowbank鉱山に関するDPAの中でも当該払い戻しについては規定されていたため、本政策はそれをより明確かつ詳細に示したものと言える。

(4)ヌナブト輸送戦略(Nunavut Transportation Strategy)17

NU準州政府は、鉱業の開発に大きな障害となっているインフラ不足を改善するため、2009年にヌナブト輸送戦略を発表した。この中で、鉱業促進に資する輸送等インフラの整備に関する戦略として、現状の解析、必要な航空、海洋、陸上のインフラの特定、インフラ整備に必要な資源と各政府や民間部門の役割などが記載されている。

まとめ

カナダ北部の3準州にとって、鉱業は各準州経済や雇用などに大きく貢献する重要産業であり、住民にとっての利益を最大化するために、連邦政府や準州政府は鉱物資源の開発を促進する政策を取り続けている。また、環境や彼らの伝統的生活の保護を前提として、多くの先住民コミュニティや地元住民も、地元経済の発展や地元住民の雇用創出の面から基本的に鉱業活動を歓迎していると思われる。近年も、コモディティ価格の下落により低迷する探鉱活動を再度活性化するため、各準州政府が探鉱活動を刺激する支援策を実施しているものの、市場からの資金調達が難しくなっている現状において、やはりインフラ不足や発展途上にある規制環境などによる将来の開発に対する不確定要素の多いカナダ北部では、一部の開発プロジェクトや後期探鉱プロジェクトを除いて、多くの企業が探鉱投資、特に初期探鉱への投資には消極的な状況である。そうした中で、鉱業活性化の重要な要素となるインフラの多くは民間企業が容易に整備できるものではなく、政府主導での積極的な取り組みが期待されているが、莫大な予算の確保や整備するインフラの優先順位などもある中で、鉱業の活性化に貢献するインフラ整備が早期に実現するかが鉱業投資を呼び込む1つの重要な要素となるであろう。

連邦政府や各準州政府は、探鉱者や探鉱・鉱山会社に対する直接的な支援に加えて、規制環境の改善やコミュニティとの関係強化、インフラ整備など鉱業を促進するための政策や戦略も打ち出しており、今後はインフラ整備をはじめ、こうした施策をいかに具現化していくかが鍵となる。10年後、20年後にカナダ国内及び世界の鉱業においてその存在感を示せるかどうか、今後も未知の可能性を秘めたカナダ北部の鉱業の動向に注目したい。

1 カナダ探鉱・開発者協会(Prospectors & Developers Association of Canada:PDAC)、カナダコンサルティング企業協会(Association of Consulting Engineering Companies:ACEC)、北西準州・ヌナブト準州鉱業会議所(NWT & Nunavut Chamber of Mines)及びユーコン準州鉱業会議所(Yukon Chamber of Mines)との協力により作成。http://mining.ca/sites/default/files/documents/Levelling_the_Playing_Field.pdf"

http://www.northernstrategy.gc.ca/cns/cns.pdf

http://www.cannor.gc.ca/DAM/DAM-CANNOR-CANNOR/STAGING/texte-text/framework_strat-plan_1387761468037_eng.pdf

4 MOU 及び北部プロジェクト合意書:http://www.cannor.gc.ca/eng/1385661936184/1385662443663

http://www.emr.gov.yk.ca/mining/pdf/Mineral_Development_Strategy_Early_Engagement_Handout.pdf

http://investyukon.com/docs/default-document-library/investment-attraction-strategy.pdf?sfvrsn=0

7 2005年3月改訂版:http://www.enr.gov.nt.ca/sites/default/files/documents/53_02_sustainable_development_policy.pdf

http://www.lands.gov.nt.ca/sites/default/files/content/lusf.pdf

http://www.iti.gov.nt.ca/sites/www.iti.gov.nt.ca/files/nwt_mineral_development_strategy.pdf

10  http://www.iti.gov.nt.ca/sites/www.iti.gov.nt.ca/files/nwt_mineral_development_strategy.pdf

11 鉱業インセンティブプログラム:http://www.nwtgeoscience.ca/mining-incentive-program

12  http://www.miningnorth.com/_rsc/site-content/docs/NU-Minerals-Strategy-Parnautit_eng.pdf

13  http://gov.nu.ca/sites/default/files/Parnautit_Mineral_Exploration_and_Mining_Strategy.pdf

14  http://www.gov.nu.ca/sites/default/files/Government_of_Nunavut_Uranium_Policy_Statement.pdf

15  https://makitanunavut.files.wordpress.com/2012/06/uranium_management_plan_principles.pdf

16  http://www.gov.nu.ca/sites/default/files/dpa_policy_eng.pdf

17  http://www.gov.nu.ca/sites/default/files/ingirrasiliqta_lets_get_moving_nunavut_transportation_strategy.pdf

おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。



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