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  平成28年6月9日 No.16-23
オーストラリアのスカンジウム探査プロジェクト

<シドニー事務所 矢島太郎 報告>

はじめに

近年、燃焼プロセスを伴わずに電気と熱を発生する各種燃料電池はクリーンエネルギーとして注目されているが、固体酸化物形燃料電池(SOFC)を効率化する固体電解質の材料としてスカンジウムが注目されている。また、鉄にニオブを少量加えることで高張力鋼が得られるが、アルミニウムにスカンジウムを少量加えることで強靭なアルミニウム合金が得られる。産業におけるスカンジウムの重要性は増しているが、スカンジウムの市場における流通量は少なく、非常に高価である。スカンジウムを伴った鉱床が開発され、スカンジウムの市場流通量が増加して価格が低下すれば、燃料電池の効率化や航空機の軽量化等を実現する重要な元素になる。

オーストラリアでは、鉱種として早くからスカンジウムが注目されており、スカンジウムを対象に探査を行っている企業が複数存在する。ニューサウスウェールズ州(NSW州)とクイーンズランド州(QLD州)では比較的高濃度にスカンジウムを伴う鉱床が発見されている。本レポートでは、スカンジウムの概要及びオーストラリア国内のスカンジウム探査プロジェクトについて紹介する。

1)特徴

スカンジウムは元素番号21番で、レアアース元素に分類される金属である(図1)。

図1 Nui Phao鉱山位置図

図1 レアアース元素に分類されるスカンジウム1

スカンジウムは他のレアアース元素と同様に元素としての地殻中の存在量は少なくないが、多くの金属元素と異なり、鉱床中に濃集して存在することが稀であり、地殻中に分散して存在している。また、スカンジウムだけが単独で濃集することがなく、スカンジウムは各種鉱床の副産物(by-product)として少量が回収されているのみで、現在スカンジウムだけを対象として採掘を行っている鉱山はない。スカンジウムは、ウラン(U)、トリウム(Th)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、ボーキサイト(Al)、タングステン(W)、錫(Sn)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、リン(P)、レアアース(REE)鉱床等に少量が伴われる。現在、スカンジウムは中国、ロシア、ウクライナ、カザフスタンで生産されているが市場への供給は不安定である。中国ではレアアースの生産で有名なBayan Obo鉱山からスカンジウムも生産されている2

スカンジウムの生産量は年間15t程度であり、消費量も年間10〜15t程度と少ない。消費量が少ないのは、市場の流通量が少なくスカンジウム製品が貴金属ほどではないが高価格なためである。取引量が最も多いスカンジウム酸化物Sc2O3(scandia)は、99.99%純度のものが2015年は5,100US$/sとなっている(表1)3

表1 スカンジウム価格の推移

  2012 2013 2014 2015
Sc2O3 99.99% 4,700US$/㎏ 5,000US$/㎏ 5,400US$/㎏ 5,100US$/㎏
Al-Sc合金(2% Sc) 220US$/㎏ 155US$/㎏ 386US$/㎏ 220US$/㎏

データ出典:USGS Mineral Commodity Summaries 2016

電気・電子産業で利用する純度の高いSc2O3は供給不足の状況となっている。金属スカンジウムは市場で極めて少量のみ流通しており、さらに高価である。

2)用途

2-1)固体酸化物形燃料電池

燃料電池は水素やガス等の燃料から電気、熱、水を発生する高効率でクリーンな発電方法として注目されている。固体酸化物形燃料電池(Solid oxide fuel cells; SOFC)は固体電解質として、YSZ(Y Stabilised Zirconium)の代わりにSSZ(Sc Stabilised Zirconium)を利用することで、より低温(〜700℃)で反応が可能となり、発電の効率も向上する4。スカンジウムを固体酸化物形燃料電池の固体電解質として利用することで、より安全で寿命が長く、効率的な燃料電池が得られるため、今後燃料電池分野でスカンジウムの利用が増加すると予想されている。

2-2)含スカンジウム−アルミニウム合金

スカンジウムはアルミニウムに少量(0.1〜0.5%程度)混ぜることで非常に強靭なアルミニウム合金となる。また、含スカンジウム−アルミニウム合金は結晶構造がアルミニウムよりも細粒で均質化するため、通常のアルミニウム合金では困難な溶接が可能となる。溶接が可能となれば、従来手法であるリベット打ちと補強材の裏打ちの必要性がなくなるため、航空機等の製造の迅速化と航空機機体の軽量化と強化に貢献する。エアバス社グループは含スカンジウム−アルミニウム合金の活用に関心を示しており、同合金を利用に関する研究及び技術開発を行っている5

含スカンジウム−アルミニウム合金は軽量で強靭な特性を有するため、航空・宇宙機器の部品、スポーツ用品(自転車フレーム、バット、ゴルフクラブ)等に利用されている。

2-3)光源

スカンジウムを高輝度ランプの光源として用いることにより日中の自然光に近い特徴の光が得られる。また、スカンジウムは効率的なレーザー光源にもなる。

3)スカンジウムを伴う鉱物と鉱床

3-1)スカンジウムを伴う鉱物

ペグマタイト鉱床中に産するトルトベイト石、ユークセン石はスカンジウムを高い濃度で伴っているが、産出量が少ない。他には、少量のスカンジウムが苦鉄質鉱物(輝石、角閃石)、鉄マンガン重石、錫石、緑柱石、ザクロ石、モナズ石、コルンブ石、ジルコン、白雲母中に伴われる。

3-2)スカンジウムを伴う鉱床

スカンジウムは多様な鉱床の副産物として得られている。中国では錫、タングステン、鉄鉱石鉱床にスカンジウムが伴われている。Bayan Obo Nb-REE-Fe鉱山の鉱石からスカンジウムが生産されている(Sc品位は40〜169ppm)。生産量は公表されていないが、今日流通しているスカンジウムの大部分は本鉱山から生産されたものと推測されている。ロシア、カザフスタンではウラン鉱床にスカンジウムが伴われている。ウクライナではZhovti Vodyウラン-鉄鉱石鉱山にスカンジウムが平均105ppm Sc、Sc量775t伴われており、かつて世界唯一のスカンジウム鉱山として操業をしていた(既に閉山)。

その他、低濃度(〜50ppm Sc)であるがボーキサイトをアルミナに処理するプロセスで得られる赤色泥中や海底面に存在するマンガンノジュールにもスカンジウムが認められている。

3-3)オーストラリアのスカンジウムを伴う鉱床

オーストラリアのスカンジウムを伴う鉱床はQLD州とNSW州に存在する(図2)。主に超苦鉄質・苦鉄質岩が風化して形成された風化岩(ラテライト)中にスカンジウムが比較的高濃度(100〜400ppm Sc)で認められている。スカンジウムは超苦鉄質・苦鉄質岩中の輝石・角閃石といった苦鉄質鉱物中に少量伴われるため、これらの鉱床では超苦鉄質・苦鉄質岩の風化作用によって形成されたラテライト中にスカンジウムが濃集している。

図2 オーストラリアのスカンジウム探査プロジェクトの位置図

(JOGMEC作成)

図2 オーストラリアのスカンジウム探査プロジェクトの位置図

オーストラリアのスカンジウム探査プロジェクトを表2に示す。これらのスカンジウムを伴うラテライト鉱床は、当初からスカンジウムを目的として探査をされていたのではなく、超苦鉄質・苦鉄質岩に伴われて形成された白金、ニッケル、コバルト等の探査の過程でラテライト中にスカンジウムを伴うことが判明したものである。鉱種の組み合わせからSCONI(Sc-Co-Ni)という名称のスカンジウム探査プロジェクトがQLD州に存在する。

表2 オーストラリアのスカンジウム探査プロジェクトの概要一覧

名称(州) 企業名 資源量 平均品位 金属量
Syerston
(NSW)
CleanTeQ metals 25.4 Mt
Cut-off 300ppm
414 ppm Sc 10,516 t Sc
Owendale
(NSW)
Platina Resources 24.0 Mt Sc
Cut-off 300ppm
384 ppm Sc
0.52 ppm Pt
9,100 t Sc
16 t Pt
Flemington
(NSW)
Jervois Mining 3.14 Mt Sc
Cut-off 200ppm
434 ppm Sc 1,363 t Sc
Nyngan
(NSW)
Scandium International Mining
(旧EMC Metals)
16.9 Mt
Cut-off 100ppm
235 ppm Sc 5,850 t Sc
SCONI
(QLD)
Metallica Minerals 33.4 Mt 88 ppm Sc 4,396 t Sc2O3
467 kt Ni
50 kt Co

出典:各社ホームページ掲載資料より

オーストラリアのスカンジウム探査プロジェクトの概要について以下に示す。なお、Syerston、Owendale、Flemingtonの3つのプロジェクトは、NSW州Fifield地区に位置し、鉱区が互いに隣接している(図3)。

  • Syerston(NSW州、CleanTeQ社)、推定資源量が25.4Mt(品位414ppm Sc、カットオフ品位300ppm Sc)(金属量Sc 10,516t)。苦鉄質〜超苦鉄質岩起源のラテライト(図4)。Sc品位と資源量は最大規模。
  • Owendale(NSW州、Platina Resources社):苦鉄質〜超苦鉄質岩起源のラテライト中に白金の副産物としてスカンジウムが認められている。白金に関しては平均0.52g/t Pt、鉱量31.0Mt(Pt約16t))。スカンジウムに関しては平均384ppm Sc、資源量24.0Mt(金属量Sc 9,100t)。Platina Resources社によれば、オーストラリア唯一の白金鉱床、さらに世界最高品位のスカンジウム鉱床。Syerstonの北東に隣接する。
  • Flemington(NSW州、Jervois Minerals社)平均434ppm Sc、資源量(Measured and Indicated)3.143Mt(金属量Sc 1,363t)。Syerstonの北西に隣接する。
  • Nyngan(NSW州、Scandium International社(旧EMC Metals社)):苦鉄質〜超苦鉄質岩起源のラテライト、Ni、Coのバイプロダクト。推定資源量が16.9Mt(品位235ppm Sc、カットオフ品位100ppm Sc)、鉱石埋蔵量は143万t(品位409ppm Sc)(金属量Sc 5850t)。36t/yのSc2O3を生産する計画。
  • SCONI(QLD州、Metallica Minerals社)、Sc-Co-Niプロジェクト。推定資源量が33.4Mt(品位88ppm Sc)(Sc 4,396t)。過去1974〜1992の期間にニッケル・コバルト鉱山が操業されていたエリアとその周辺。過去の鉱石生産量は40Mt @ 1.56% Ni, 0.12% Co(624,000t Ni、48,000t Co)。
図3 Syerston、Owendale、Flemington鉱区(NSW州)

図3 Syerston、Owendale、Flemington鉱区(NSW州)は互いに隣接している。

図4 Syerstonスカンジウムプロジェクトの地質図

出典:CleanTeQ社HP上資料

図4 Syerstonスカンジウムプロジェクトの地質図

各鉱床の平均スカンジウム品位、スカンジウム金属量、鉱床資源量を図5に示す。Syerston、Owendale、Flemingtonは同じ鉱床なので、スカンジウムの平均品位は類似している。

図5 オーストラリアのスカンジウム鉱床の品位、金属量、資源量

(JOGMEC作成)

図5 オーストラリアのスカンジウム鉱床の品位、金属量、資源量

SCONIのラテライト鉱床中のニッケル−コバルトの分布域とスカンジウムの分布域を図6に示す。スカンジウムは地表から浅部にかけて分布している。ラテライト中の下部にニッケル−コバルトが分布し、その上位にスカンジウムが認められ、それぞれ異なる分布を示している。

図6 QLD州のSCONIスカンジウム探査プロジェクトのスカンジウム分布様式

茶色:Sc高品位域、肌色:Sc分布域、緑色:Ni-Co分布域
出典:Metallica Minerals社HP上資料

図6 QLD州のSCONIスカンジウム探査プロジェクトのスカンジウム分布様式

4)まとめ

スカンジウムの用途は固体酸化物形燃料電池(SOFC)及び含スカンジウム−アルミニウム合金としての利用が期待されているが、現在産業における利用量が少ないのは、スカンジウムの供給が不安定で価格も非常に高いためである。一方、スカンジウムは燃料電池分野と航空機分野で効率化を実現するために重要な役割を果たすため、需要は増加していくことが予想される。市場の流通量が増加すれば、レアアースのようにスカンジウムが産業上の重要な鉱種となっていく可能性がある。

レアメタルの価格変動は大きいため、レアアース鉱山がそうであるように、スカンジウムのみを生産する鉱山を開発することのリスクは大きい。白金やニッケルを伴うラテライト鉱床でスカンジウムを副産物として生産できれば、単独でスカンジウム鉱山を開発するよりも低リスクで開発できる可能性がある。現在、スカンジウム探査企業も資金繰りが難航しており、開発に踏み出せない状況にある。オーストラリアのみならず、ニッケルラテライト鉱床中のスカンジウム品位を確認していくことにより、新たなスカンジウム資源が発見されていく可能性がある。

出典:JOGMECニュースVol. 27「レアアースの通説 正と誤」

EMC Metals Corporation:“White Paper Scandium”(2014)

USGS:“Mineral Commodity Summaries 2016”

Bloom Energy社ホームページ

Airbus Group Innovations:“ScalmalloyR

おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。



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