スペース
 
カレント・トピックス
 
 
 
 
 

  平成28年6月30日 No.16-27
坑廃水対策に関する世界の技術動向
―ショートコース From Ground Water to Acid Mine Water 参加報告―


<金属環境事業部 榊原 泰佑、三浦 貴生 報告>

はじめに

2016年6月11〜13日、南アフリカ共和国にて開催された坑廃水に関するショートコース「From Ground Water to Acid Mine Water」に参加し、坑廃水対策に関する世界の取り組みや技術動向を始めとした情報収集を行った。

本稿では、ショートコースにおける講義内容および配布資料等に基づき、海外における坑廃水処理の考え方および方針ならびに現行のPassive Treatment技術について紹介する。

1. ショートコース From Ground Water to Acid Mine Water 概要

鉱業の環境保全に関する国際学会IMWA(International Mine Water Association)などが主催する本ショートコースは、坑廃水の発生機構および処理・対策、坑内出水の予測など、「坑廃水」に焦点を当てたプログラムで構成されており、坑廃水処理分野の権威であるツワネ工科大学Christian Wolkersdorfer教授による講義および野外実習が行われた。本ショートコースには、南アフリカ共和国をはじめアフリカ諸国、ドイツやスウェーデンなどから、大学教授、学生、地質調査や水質調査のコンサルタント会社等50人以上が参加した。

ショートコースの初日および二日目は、プレトリアにおいて坑廃水の発生メカニズムや坑廃水のマネジメントおよび処理方法などについての講義が行われ、最終日はプレトリアの隣の都市であるウィットバンク1において、水質調査の必須技術である現場での水試料のサンプリング方法および各水質項目の分析・測定方法について野外実習が行われた。

会場の様子の写真

2. 講義内容(Mine Water Treatment)

2.1 坑廃水処理について

坑廃水処理の方法はActive TreatmentとPassive Treatmentの大きく二つに分けることができる。Active Treatmentとは水処理プラントにおいて薬剤添加等を行う方法であり、電力や管理人員などを常時必要とする方法である。一方、Passive Treatmentとは電力や薬剤の使用を抑え、地形(位置エネルギー)・微生物の代謝・光合成などの自然力を活用して水処理を行う方法であり、電力や頻繁なメンテナンスを必要としないため、コストや労力の大幅な削減が期待できる。しかし、著しく汚染された坑廃水や多量の坑廃水をPassive Treatmentで処理するには、広大な土地が必要であり、処理性能の安定性にも課題が残されている。

坑廃水処理では「いかなる場合においても水質の基準を守ること」「長期的な視点で費用対効果の高い操業を行うこと」の2点を心掛けることが重要である。そのためには、適切な坑廃水処理方法を選定する必要があり、どのプロセスが現場に適用可能でかつ費用対効果が良いかを比較・分析することが重要である。また、坑廃水処理は長期間実施する必要があり、坑廃水の水質は経年変化することも考慮して最適な処理プロセスを選定しなければならない。

2.2 坑廃水の処理計画

一般的に、坑廃水が発生する初期段階では、酸度が非常に高い(汚染度が高い)水質を示す。これをFirst Flushと呼ぶ。坑廃水の汚染度は時間の経過とともに減衰し、ある一定の汚染状態にとどまる。First Flushの発生には坑道のネットワーク、水理学的な繋がりや浸透率、地下水の涵養といった要素が影響しており、First Flushが落ち着くまでに最大で40年程度を要することが知られている。

坑廃水の処理計画を立てる際にはFirst FlushおよびFirst Flush後の状態の両方を考慮する必要があり、First Flushの期間はActive Treatmentによる処理を行い、その後にPassive Treatmentに移行する計画は多くの現場において有効だとされている(図1参照)。なお、Passive Treatmentへの移行を検討する判断材料として、水量と酸度が挙げられる(図2参照)。

図1. Active TreatmentからPassive Treatmentへの移行イメージ

図1. Active TreatmentからPassive Treatmentへの移行イメージ

(出典:Wolkersdorfer, Ch.: ショートコース From Ground Water to Acid Mine Water 講義資料より引用)

図2. 酸度と流量からの最適な処理方法の選定

図2. 酸度と流量からの最適な処理方法の選定

(出典:Wolkersdorfer, Ch.: ショートコース From Ground Water to Acid Mine Water 講義資料より引用)

2.3 Passive Treatment

Passive Treatmentの種類を以下に紹介する。また、それぞれのPassive Treatment技術の適切な選定方法を図3に示す。

(1)Permeable Reactive Barrier

透過性反応壁は、汚染された地下水を地下に設置した反応壁に透過・反応させ、原位置で浄化する技術である。透過性反応壁は地下の不透水層と接触させる形で鉛直方向に設置し、汚染地下水を確実に透過させる必要がある。また、反応時間を要するため、ある程度汚染が拡散した状態で接触させる必要がある。透過性反応壁は汚染源に近づきすぎないように設置し、水みちの形成も阻止する必要がある。透過性反応壁を導入する際は、地下水の流れを十分に把握することが重要といえる。

透過性反応壁には木、石炭、褐炭、ピートなどの有機材料、Fe0、リン酸塩、非晶質鉄酸化物などの無機材料、微生物などが反応体として用いられる。透過性反応壁の設置に係るコストは100〜700€/㎡と見積もられる。

(2)Anoxic Limestone Drain(ALD)

嫌気性石灰水路は、嫌気環境下で坑廃水を石灰石と接触させ、pHを上昇させることにより処理する方法である。溶存鉄濃度の90%以上がFe2+、Al濃度が25㎎/L以下、溶存酸素濃度が2r/L未満の酸性坑廃水に対して適用される。Fe3+の溶存濃度や溶存酸素濃度が高い場合は、石灰水路内で鉄の水酸化物沈殿が生成し、目詰まりによる石灰水路の寿命短縮の原因となる。

(3)Aerobic Wetland

好気性人工湿地2では、植物によって坑廃水の流下速度を減少させ、酸素との接触時間を確保する。これによって坑廃水中のFe2+をFe3+に酸化させ、鉄の水酸化物沈殿を生成させることで坑廃水中の鉄を処理する。なお、好気性人工湿地はpH6.5以上の坑廃水に対して有効である。

好気性人工湿地の水位は15〜50㎝になるように設計し、植物としてガマ・ヨシ・イグサなどが用いられる。好気性人工湿地では10〜20g/㎡/dayの鉄除去が可能である。

(4)Anaerobic Wetland

嫌気性人工湿地では、嫌気環境下におけるバクテリアの活動により、坑廃水を処理する。具体的には、硫酸還元菌3による働きによって硫酸を硫化水素イオンに還元させ、硫化水素イオンと溶存金属を反応させることで、硫化物として金属を沈殿除去する。なお、嫌気性人工湿地はpH5.6未満の坑廃水に対して有効である。

嫌気性人工湿地の下層30〜60㎝の領域において、コンポストや堆肥を敷き詰め、その層より上の0〜10㎝の領域まで水位を上昇させる。なお、コンポストや堆肥の層はある程度透水性を確保する必要がある。嫌気性人工湿地では3〜7g/㎡/dayの鉄除去が可能である。

(5)SAPS(Successive Alkalinity-Producing Systems)

SAPSはALDと嫌気性人工湿地を合わせた処理システムである。SAPSの最下部40〜60㎝を石灰石の層、その上の40〜60㎝をコンポスト等の層とし、水位をコンポスト等の層より上の90〜180㎝の領域まで上昇させる。設計寿命は15〜20年程度と見積もられている。

図3. Passive Treatmentの選定方法

図3. Passive Treatmentの選定方法

(出典:Wolkersdorfer, Ch.: ショートコース From Ground Water to Acid Mine Water 講義資料より引用)

3. その他の講義概要

3.1 Dewatering; Recharge

鉱山現場において坑廃水が発生した場合、さらなる汚染を防ぐためにも、ポンプで鉱山外に排出し処理工程に導水する必要がある。一方で、地下水面の低下による地盤沈下にも注意する必要がある。坑内掘りにおいて、地下水面(立坑内の水位)は等圧面を表しているが、水の密度が局所的に変化するため、立坑ごとに水面の高さが異なっている。

適切なポンプを選定するためには坑内水の排水量と天水・地下水の坑内への浸入量の関係をモニタリングする必要がある。天水が地下へ浸透し、坑内に入り込むには平均2週間程度を要するため、月次の水量データだけでは十分な解析を行うことができない。そのため水量データは毎日観測しておく必要がある。

鉱山の操業による地下水位の低下や、閉山後の鉱柱の変質により地盤沈下や地表陥没が発生することがある。一度地下水位の低下による地盤沈下が発生すると、その後地下水位が回復しても地盤沈下が元に戻ることはない。

黄鉄鉱を含む鉱石が存在する鉱山が閉山し、鉱柱が坑内に残されると、鉱柱内に残された黄鉄鉱は酸化して硫酸イオンを生成する。さらに、地下水内に含まれるカルシウムが、生成した硫酸イオンと反応して石膏を形成するが、石膏は結晶水を含んでいるため黄鉄鉱に比べて体積が大きくなる。この体積変化により鉱柱に物理的な亀裂が発生して脆くなり、黄鉄鉱の変質が進むと坑柱が崩壊、坑道の不安定化につながる。

3.2 Mine Water Geochemistry

坑廃水の発生は、主に黄鉄鉱(FeS2)など二硫化物の風化に起因する。黄鉄鉱をはじめとする硫化鉱物が酸化環境で地下水と触れると金属が溶出して坑廃水が発生する。坑廃水の発生や水質変化には、溶解反応・錯体形成反応・酸化還元反応・吸脱着反応・バクテリアによる作用などが複雑に関係してくる。

金属元素の溶解度はpHに依存するため、坑廃水のpHによって溶存可能な金属種が変化する。一般的に、低pH条件では金属元素の溶解度が高いため、pHが低い坑廃水の水質は悪い傾向にある。一方、pHが中性域(pH=6〜9)の場合は金属元素の溶解度が低く、水酸化物沈殿を形成するため、坑廃水の水質は良い傾向にある。よって、pHを調整することで水質を浄化することができる。

炭酸塩鉱物やケイ酸塩鉱物などの硫化物以外の鉱物が風化した場合、アルカリ性成分を放出するため、酸性溶液の緩衝剤となる。

坑廃水のpHがどのような値になるかは、黄鉄鉱などの硫化鉱物の風化の際に発生する酸度と炭酸塩鉱物(方解石、苦灰石、菱鉄鉱)やケイ酸塩鉱物(長石類、雲母類)などの風化の際に発生するアルカリ度の量の差で決定される。黄鉄鉱はほとんど全ての岩石に含まれている一方、岩石中に含まれるケイ酸塩鉱物の量は圧倒的に多い。しかしながら、速度論的に黄鉄鉱の風化速度がケイ酸塩鉱物のそれよりも大きいため、酸性坑廃水が発生する。

4. おわりに

本稿では、海外における坑廃水処理についての考え方や現行のPassive Treatment技術を紹介した。海外の事例では、鉱山開発当初の汚染の甚だしい段階では薬剤添加や電力を利用する高コストなActive Treatmentを行うものの、時間の経過によって汚染度が減衰した段階では自然力を活用する低コストなPassive Treatmentへの移行を積極的に検討しており、坑廃水処理について日本以上に長い時間軸で考えている印象を受けた。日本にはActive Treatmentを行う坑廃水処理プラントが整備されているものの、年間を通しての気候・水量・水質変動に対する処理の安定性や、坑廃水処理に関する法令遵守の必要性等からPassive Treatmentへの移行については積極性を欠いており、この点に関しては海外の事例を参考に改善する必要性が大いにあるだろう。JOGMEC金属環境事業部では日本国内におけるPassive Treatment(自然力活用型坑廃水処理)の早期実用化に向けて、技術開発や海外での情報収集・意見交換を実施している。

本報告が鉱山の開発と環境管理に関係する方々の参考になれば幸いである。

ウィットバンク一帯は南アフリカ共和国で最大級の石炭採掘地帯である。

北海道の本庫鉱山では、坑廃水処理プロセス中に好気性人工湿地の技術を適用している。

JOGMECにおいて研究開発を行っているPassive Treatment技術「JOGMEC プロセス」も嫌気性人工湿地と同様に、硫酸還元菌の働きを活用したプロセスである。

おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。



 ページトップへ
スペース