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  平成28年10月25日 No.16-36
インドネシア鉱業をめぐる議論とニッケル市場の見通し
―4th Asian Nickel Conference参加報告―


<調査部 金属資源調査課 新井 裕実子/ジャカルタ事務所 山本 耕次 報告>

はじめに

2016年9月20〜21日に、インドネシア・ジャカルタにて4th Asian Nickel Conferenceが開催された。本カンファレンスは、業界大手情報誌であるMetal Bulletinの主催で毎年開催されているものであり、本年はニッケル市場関係者約100名が参加した。

インドネシアは現在鉱業法の改正作業を進めており、同国の鉱石輸出に関する方針が本改正にどのように盛り込まれるかに注目が集まっている。本カンファレンスでも、2014年1月より全面的に禁止されているニッケル鉱石の輸出が緩和される可能性について議論がなされた。

本稿では、主なテーマとなった、インドネシアの鉱業法改正に伴うニッケル鉱石輸出緩和の可能性や、同国のフェロニッケル製錬所・NPI工場の課題、ニッケル市場の見通しについての報告を紹介する。

1. インドネシア鉱業法改正に伴うニッケル鉱石輸出緩和の可能性について

インドネシアでは、2009年に施行された新鉱業法に基づき、2014年1月からニッケル鉱石の輸出が全面的に禁止された。本カンファレンスでは、現在鉱業法改正にあたって議論が続けられているニッケル鉱石の緩和可能性について、コンサルタントや製錬分野に取り組む企業、業界団体などが議論を行った。

現地法律コンサルタント・Christian Teo & PartnersのBill Sullivan氏は鉱業セクターの業績が同国経済成長率を押し下げていることを主な根拠として「緩和の可能性は大きい」とするプレゼンテーションを行った(図1参照)。他方で、インドネシア国内でNPI工場を操業するPT IndoferroのHadianto氏は、ニッケルに関して緩和の方向に後戻りする必要はないと主張した。またインドネシア製錬選鉱協会(ISPA)会長で前・エネルギー鉱物資源省鉱物石炭総局総局長のRaden Sukhyar氏は自身のプレゼンテーションの中で「鉱石禁輸後に製錬所はうまく立ち上がっており、(高付加価値化政策の)『失敗』という評価は間違いである」と強調しつつ、パネルディスカッションの中で「鉱石輸出緩和の可能性はあるが、すべての鉱種についてではなく制限されるだろう」との見方を示した。

産業セクター別GDP成長率

(参考:Bill Sullivan氏資料より引用)

図1. 産業セクター別GDP成長率

2. インドネシア国内におけるフェロニッケル製錬所・NPI工場の進捗と課題

技術コンサルタントで鉱山技術者であるMark Steemson氏からインドネシアにおけるFeNi/NPI製錬所についての紹介があり、多くの計画はあるものの新規に完成したものは少ないことや、今後の稼働に関しては電力コストを低く抑えられるかが課題となる旨報告があった。

インドネシアにおけるニッケル製錬技術は、サプロライトを用いる乾式プロジェクトが多い。未開発地域におけるプロジェクトにおいても、新しい技術を用いる動きはほとんどないのが現状である。HPALといった湿式プロジェクトは、キャピタルコストが高いことや、インドネシア国内での硫酸調達先がなくコストが高いといった懸念がある。

1.8%品位の鉱石を原料としてNPIを生産することとして、その他前提条件を揃えた場合の、RKEFとBF(高炉方式)のキャピタルコスト及び操業コストの比較が示された。本報告内で「一般化され、かつ推定値も含むおおよその値」として示されたそれぞれのコストは下記表1に示したとおりである。キャピタルコストに関しては、BFの溶鉱炉は RKEFのV焼炉よりも高価であるが、RKEFはBFにはない電気炉や耐熱レンガ等の設備を導入する必要があり、設備費とその導入コストがかかるため、RKEFのほうがBFよりも高い。操業コストに関しては、RKEFは電力コストがかかるが、BFは燃料のコークスを輸入する必要がありその費用がコストの半分を占めるほどかかるため、総計ではBFのほうが高くなる。

表1. NPI工場におけるRKEFとBFのコスト・生産物例比較

RKEF(ロータリーキルン電炉方式) BF(高炉方式)
キャピタルコスト 184百万US$ 122百万US$
操業コスト 7,400US$/t 10,200US$/t
生産物NPI内Ni品位 11.5% 8%
代表的なプロジェクト
(所在地、所有者)
  • Pt Sulawesi Mining(Molowali州、青山集団/PT Bintang Delapan)
  • Harita(Obi島、Haritaグループ)
  • PT IndoFerro(Krakatau Steel、Indonesian Growth Steelグループ)
  • Zhenshi Gebe(Gebe島、Fajar Bhakti/Gebe Sentra/Zhenshi Holdings)

主な前提条件: Ni分1万t/年の生産能力、原料鉱石品位1.8%

(参考:Mark Steemson氏資料よりJOGMEC作成)


同氏は、インドネシアにおいては短・中期的には高品位のサプロライト鉱を扱うRKEFが優勢となるとの見方を示した。また、青山集団の製錬所は、新しい技術を用いたわけではなくキャピタルコストを低く抑えランプアップを実施したという観点からRKEFの新しいスタンダードを示したといえる、と評価した。その上で、長期的には鉱石品位の低下に伴い信頼性の高い技術開発の必要があるとしてHPALプロジェクトの可能性に触れ、Taganitoプロジェクトのように極めて成功している例もあると述べつつも、ランプアップがうまくいっていないものも多いことから、今後もニッケルの製錬技術について研究を進める必要があると述べた。

3. 大手企業によるニッケル市場見通し―Valeによるプレゼンテーションより―

本カンファレンスではGlencoreとValeがニッケル市場の見通しについて述べた。本報告では、長期的見通しにおいて電池分野でのニッケル需要可能性について言及のあった、ValeのMarcos Turini氏によるプレゼンテーションを紹介する。

同社はまず短期的な見通しについて、底堅い中国の経済成長を背景に需要は回復しつつあり、また国内のニッケル生産量は減少していることからファンダメンタルズは改善しつつあるとの見方を示した。また、中国におけるステンレス生産については国内生産・輸出は合計で前年比9%増加しており、とりわけニッケル分を多く含む300系ステンレスの生産が増加していると述べ、フィリピン鉱石の供給懸念と併せて価格が上昇する要因となりうることを示した。

次に長期的な見通しについては、EV(電気自動車)の生産が伸びるとの見方から、バッテリー分野におけるニッケル需要はこれまでのペースより早く成長する見込みを示した。Valeの資料によれば、2015年時点でのバッテリー分野におけるニッケル消費量は約60千tであるが、ニッケル需要を予測しているコンサルタント会社等各社の予測では、2025年の消費量は100〜200千tにまで増加する可能性がある。特に、エネルギー密度が最も高いNCA系のリチウムイオン電池はニッケル含有率が一番高いタイプのリチウムイオン電池であることから、今後ニッケル需要の増加が期待できると述べた。また、EV向け用途の場合は高純度のニッケル硫酸塩(sulphate)が必要であるため、Class1(カソード、ブリケット、ペレット、パウダー)レベルのものが必要となるが、現在の低価格下においてClass 1のニッケル新規開発計画を進めるインセンティブは小さく、十分な供給が期待しにくい状況である。したがって、電池需要に望ましいClass 1の製品は不足し、市場は2025年までには供給不足となるとの見通しが示された。

おわりに

フィリピンのニッケル鉱山の一部が操業を停止された中で開催された本カンファレンスでは、インドネシアのニッケル鉱石輸出緩和可能性に注目が集まった。講演者によって見通しや主張が大きく異なり、また国営企業であるPT Antamはプレゼンテーションを欠席していたことからも、関係者にとっては現在極めてセンシティブなテーマであり、鉱石輸出緩和も検討されている様子が窺えた。またインドネシア国内のフェロニッケル製錬所/NPI工場建設は進められているものの、現在のプロジェクトが本格的に動き出すためには価格の回復が必須である。引き続き、各国鉱業政策方針はもとより技術動向、需給サイドの動向等、複数の要因を鑑みて市況を注視していきたい。

おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。



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