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  平成28年12月8日 No.16-40
2016年LMEウィークを振り返る

<ロンドン事務所 粕谷直樹・吉益英孝・ザボロフスキ真幸 報告>

はじめに

2016年10月31日の週にベースメタルの市場関係者、生産者及び需要家等が英国ロンドンに一堂に集い、多くのセミナー、レセプションが開催されるLMEウィークが開かれた。銅、ニッケルを中心としたベースメタルの見通し、世界経済及び中国の経済見通しが議論された。本稿では、LMEが主催した「LME Metals Seminar」で行われた香港証券取引所1 のCharles Li CEOの基調講演、LMEウィークで講演を行ったGoldman Sachs社、Macquarie Research社、CRU社、Wood Mackenzie社の4社の銅及びニッケル需給の見通しをまとめた。

セミナー会場の様子

1. 香港証券取引所、Charles Li CEOによる基調講演

<Qianhai現物金属取引所について>

2017年4月に中国Qianhai市(深圳市)で現物金属取引所の設立を予定している。取引所では、ロンドンLMEのリング取引を倣ったリング取引も設立する。Qianhai取引所は、現物の実業家及びコモディティ取引を行うトレーダー、中小企業をターゲットにしており、中国当局が新たな先物取引所のライセンスは今後も付与しないと考えられることから、同取引所では先物取引を提供する見込みはなく、現物(スポット)取引所となる。中国の実業家、中小企業は信頼できる倉庫システムやファイナンシングサービスが限られているため、取引は高コストとなっており、国内の取引所を利用していないケースが多い。

Qianhai取引所では、そのようなユーザーを取り込み、LMEが過去100年間で行ってきたように信頼性のある倉庫システム、ファイナンシングサービスを提供することで、彼らの課題を解決し、現物取引を増やしていきたい。将来的には同取引所とLMEを繋ぎ、外国投資家が中国における現物取引の投資を可能とすることを期待している。同取引所は、2017年5月に開催予定のLMEアジアに向けて設立完了を目指し、バスで取引所案内ツアーの計画を考えている。

中国には、異なるプラットフォームがいくつも存在するが、成功するには良いコモディティ商品、信頼できるシステムを提供することができるという世界的な評判が必要であるが、我々はこの点をクリアしている。

<中国でLMEシールド展開>

中国で現物保証制度である「LMEシールド」の1年間の試験運用を始める。LME指定大手倉庫会社英Henry Bathとの共同で上海の保税倉庫を対象にレシートを発行する。利用者は中国にある現物のレシートを保有・運用することが可能となり、レシート保有者のみが現物を移動することができる。

1年間の試験運用終了後、他の倉庫企業とも提携を増やしていき、将来的には中国の他地域に拡大していくことを望んている。中国の産業プレーヤーは、信頼性がおけて評判の良い倉庫システムの利用を求めており、LMEシールドではそれを提供することが可能である。

<ロンドン・香港コネクトについて>

昨年のLMEウィークでも言及したが、香港取引所と上海取引所の株主取引を相互接続した“コネクト”について、同スキームをロンドン・香港間でも展開していくという構想はいまだ持ち続けている。現時点ではEU規制当局及び中国当局との協議が必要であり、努力を重ねてはいるが非常に遅い進展となっている。

<最近のLMEの現状について>

今年は通常の活気あるLMEウィークと違う雰囲気があり、非常に残念であるが、それは良く理解している。LMEの取引手数料の引き上げ、取引量の減少といった暗いニュースが今年は続いたが、我々は現時点での状況にとらわれるのではなく今後のことに目を向けるべきである。

LMEビジネスはピラミッドのようなもので、底は伝統的な実需家、中間は銀行、投資家、サービスプロバイダー、最上部は先物市場、ヘッジングで成り立っている。我々がLMEを買収した当初はこのピラミッドは健全な状態であったが、昨今は世界経済、中国経済の低迷等様々な要因で底の需要家が減少している。そうすると、ピラミッドの上部も縮小せざるを得なくなり、非常に厳しい状況となる。そのため、我々が注目しているのは中国市場である。我々は、Qianhai現物金属取引所、LMEシールドの展開など今後も中国でのサービス展開を続けていくことで、中国のユーザー層を増やし、LMEピラミッドを成長させていくことができると考えている。

2. 銅需給の見通し

図1 銅需給バランスとLME価格推移

図1 銅需給バランスとLME価格推移

(出典:Macquarie Research発表資料より抜粋)

銅について講演を行ったGoldman SachsのMax Layton氏(Head of European Commodities Research)、MacquarieのVivienne Lloyd氏(Commodities Research, Senior Analyst)、CRUのVanessa Davidson氏(Director of Copper)、Wood MackenzieのPaul Benjamin(Copper Markets, Principal Analyst)の4社はいずれも銅需給の見通しを2016年、2017年は供給過剰となり、2020年には供給不足に陥ると予測している。

Goldman Sachs及びMacquarie Researchは2016年の銅市場を他のコモディティに比べると伸び悩んだと言及。一方CRUは2016年の銅市場は改善したとし、Wood Mackenzieはバランスしたと伝えている。Goldman Sachsでは、2016年は376千tの供給過剰、2017年には過剰幅は拡大し681千tの供給過剰になると予測しており、銅地金生産が2017年には約3%増加する一方、需要は2.5〜3%増に留まるからだと伝えている。4社とも2020年の初頭にかけて銅市場は銅価安による新規プロジェクト投資の減少、既存プロジェクトの生産拡大遅延により供給不足となり、銅価格が押し上げられると見ている。


(1)供給サイド

銅安値、品位の低下、技術障害、ストライキといった様々な要因から2015年には減産、生産停止を発表する鉱山会社が相次いだ中、2016年の供給量は予測以上に順調であったと伝えている。Goldman Sachsでは2017年以降は大手銅生産会社が年間生産量を200千〜300千tに増加させていることから鉱山生産量は増加傾向にあると伝えており、Wood Mackenzieも同様に鉱山生産量は2016年は前年比3%増、2017年は横ばい、2018年はGlencoreのDRコンゴKatanga鉱山の生産再開等により4%増となる増加傾向にあるとしている。

中期的な見通しは、新規プロジェクト投資の減少や稼行鉱山の生産拡大遅延、またチリEscondida鉱山、チリLos Bronces鉱山、インドネシアGrasberg鉱山等による減産計画が影響し、2020年、2021年には供給不足に転じると予測している。

(2)需要サイド

銅需要は中国需要によって左右される状況が続くことから、Goldman Sachs、Macquarie Research、Wood Mackenzieの3社は中国に焦点を当て、CRUは全体的な銅需要の増加を牽引すると考えられるEVに焦点を当てた発表となった。

2016年は中国の銅需要が、不動産、空調設備(AC)といった消費財、自動車等の消費者需要、建設需要、グリッド投資増により予想以上に増加した。Wood Mackenzieは2015〜2020年までの中国の銅需要成長率は年間2.3%増になるとし、セクター別での年間成長率は、運送3.7%増、機械0.5%増、電化製品1.9%増、電気回路網3.5%増、建設1.2%減と伝えている。また、スクラップ供給量のタイトさが、銅地金消費量をサポートすると伝えている。

また、Macquarie Researchは中国以外の地域で2015年に需要が減少していたロシア、ブラジルが2016年に回復、2017年も楽観的であるとし、2016年は欧州で銅需要が増加したことから先進国市場での需要も楽観的な見通しであると伝えている。

一方、CRUは、2000〜2016年のコモディティ別年平均成長率を比較し、銅は2.5%増と最低水準であったと伝えている(上位からアルミ二ウム5.6%増、鉛3.5%増、ニッケル3.5%増、亜鉛2.6%増)。アルミニウムは過去15年間で産業利用が著しく増加した一方、銅の産業利用量は横ばいであると説明している。しかし、銅需要はEV需要増によって短期的な影響は限られているが牽引されるとし、2016年〜2021年の年平均成長率は1.9%と予測した。

なお、CRUでは、2025年までの電気自動車(BEV, PHEV, HEV注)の普及台数及びそれに伴う銅の需要増加予測を発表。電気自動車の種別増加予測は図2のとおりであり、HEVの増加が圧倒的に大きく、次いでBEV, PHEVの順となっている。これらを合わせると、2025年には世界の生産台数の8%を電気自動車が占めると予測している。

図2 電気自動車の種別増加予測

図2 電気自動車の種別増加予測 (出典:CRU発表資料より抜粋)

注)これら3種類の電気自動車の大まかな定義は次のとおり。

  • BEV:電気モーターで走行する車
  • PHEV:家庭用電源からプラグで充電できるHEV。
  • HEV:エンジン及び電気モーターで走行する車。

図3では、これら電気自動車(及び充電ステーション等の関連インフラ)の銅消費量を示している。

図3 電気自動車による銅消費量推移

図3 電気自動車による銅消費量推移 (出典:CRU発表資料より抜粋)

図3において、2025年の電気自動車(及び関連インフラ)の銅消費量は約40万t(図3左)であり、そのうち内燃機関を有する従来型の車からの代替による「追加的な」銅の消費量(図3右)は、約20万tと半分を占めている。CRUは、少なくとも2025年までの間においては電気自動車は銅需給を大きく変える“game changer”ではないものの、中国の銅需要減等を一部サポートするなどの効果はあるとしている。

(3)価格見通し

Goldman Sachsは銅平均価格を2016年は4,693US$/t、2017年は4,275US$/tと予測し、供給過剰により2018年は底値を見ると予測している。Macquarie Researchは、供給過剰から2018、2019年は4,500US$/t水準になるが、2020年は供給不足に転じることから2020年、2021年は6,000US$/tになると予測した。CRUも同様に2016,2017、2018年は供給過剰となり銅価格は低迷するが、2020年初頭にかけて価格が押し上げられるとの見方をしている。

3. ニッケル需給の見通し

ニッケルについて講演を行ったGoldman SachsのMax Layton氏(Head of European Commodities Research)、MacquarieのColin Hamilton氏(Head of Commodities Research)、CRUのLucent Nicholson氏(Senior Consultant)、Wood MackenzieのSean Mulshaw氏(Senior Nickel Analyst)の4社はいずれもニッケル需給の見通しを2016年に供給不足となったのち、2020〜2021年ごろまで供給不足が続くと予測している。

各社とも世界経済の見通しは軟調と見ているものの、Goldman SacksおよびCRUは中国の景気については底堅く、重厚長大産業が成長の重しになるが建設投資とインフラ需要については成長が引き続き期待されると見ている。また2社は同様に、地金生産に影響を与える要因として燃料価格(原油・石炭)の動向も注視が必要とし、金属産業全体のコストへのダイレクトな影響を懸念していた。

(1)供給サイド

各社とも当然ながら、フィリピンの鉱山への環境規制による操業減少とインドネシアの鉱石輸出禁止による国内生産の状況について着目している。

Wood Mackenzieによれば、フィリピンの鉱石生産のうち、200千t超が規制されるリスクにさらされている。全体輸出量では2016年は前年比で11%も減少しており、フィリピンの輸出量の77%を占める中国向け輸出に大きく影響している。中国は、インドネシアの鉱石輸出禁止により調達先をフィリピンに切り替えたという背景がある。フィリピンからの輸入の減少により、中国国内の鉱石在庫が減少しており、2017年中には底をつく可能性が指摘されている。Macquarieも鉱石供給の障害により鉱石在庫の減少を招いており、中国国内の生産量も減少しているとの指摘をしている。(図5)

Wood Mackenzieによれば、インドネシアのNPI生産は2017年までに10プラントが稼働する見込みであり、同国生産量が大きく伸びることで、中国国内の生産量の減少を加味しても世界全体のNPI生産量は現在の500千tの水準から2018年には600千tにまで押し上げられる可能性があるとした。各社ともインドネシアの生産量の動向に注目しており、今後の同国政策を注視する必要がある。

CRUによれば、2014年の平均生産コスト水準は13,000US$/tだったが、2016年は9,500US$/t程度にまで低下してきており、現在の水準で底を打ったと考えている(図4)。しかし、現在の価格水準(10,300US$/t)では生産者の約46%は採算がとれないだろうと予想している。一方、NPI生産の1次ニッケル生産全体に占める割合は増えてきており、2020年には30%程度に達する見込み。その中で、フィリピンから鉱石を輸入せざるを得ない中国に対して、インドネシアはコスト競争力で勝り、この点が生産を大きく伸ばす要因になると予想している。Goldman Sacksもコストについて言及しており、主に石炭等の燃料費の上昇によって10月現在のコスト水準は9,300〜10,300US$/t程度(年初より1,700US$/t上昇)となるのではないかと予想している。Macquarieによれば、中国国内の旧式な溶鉱炉による生産トラブルがコスト上昇につながっているとの見方もある。

図4 技術別ニッケル生産コスト推移とLMEニッケル価格(左)及び中国NPI生産コスト推移(右)
  • Industry:ニッケル生産コストの平均
  • BF=Blast furnace(溶鉱炉) 
  • RKEF=rotary kiln electric arc furnace(ロータリーキルン溶鉱炉)

図4 技術別ニッケル生産コスト推移とLMEニッケル価格(左)及び中国NPI生産コスト推移(右)

(出典:CRU発表資料より抜粋)

図5 中国NPI生産と鉱石供給(左・純分千t)及び中国ニッケル鉱石在庫水準とその変化(右・純分千t)

図5 中国NPI生産と鉱石供給(左・純分千t)及び中国ニッケル鉱石在庫水準とその変化(右・純分千t)

(出典:Macquarie発表資料より抜粋)

(2)需要サイド

各社とも現時点では在庫が積みあがっているものの(Macquarieによればここ5年で500千t超)、中国を主として特に建設需要を中心にステンレス需要の伸びが今後も中期的に続くと見ている。こうした状況の中でさらに、スクラップ需給のタイト化、300シリーズの割合の上昇(2020年にはステンレス生産の約60%)などが予想されることから、ニッケル需要は今後も堅調な伸びが期待されるとの見方が示された。

(3)価格見通し

CRUによれば、短期的にはニッケル価格も他鉱種のLME価格と同様の動きとなるものの、上述の通り供給不足が2021年まで続くと見ており、それに伴って価格も上昇するとした。

Macquarieによれば、今年2月からすでに価格は25%の上昇を見せているが、これは実需の影響ではなくフィリピンの動向に反応しただけにすぎないと考えている。今後は供給不足が2021年まで続くと見ており、それに伴って価格も上昇するとした。

Goldman Sacksによれば、フィリピンの鉱山操業停止と鉱石在庫の減少は顕著だとし、2016年末には12,000US$/t、その後のフィリピンの動静如何では15,000US$/tにまで上昇する可能性があるとした。

おわりに

LMEは、昨今の手数料値上げなどを背景に先物の取引量がやや減少傾向にあるが、冒頭のLi香港取引所CEOの言葉にあるように、今後の打開策として、従来の中国取引需要を上手く取り込んでwin-winの関係を構築していく構想を加速・深化させていこうとしており、今後もその動向を注視していく必要があると感じられた。また、昨年に比べ、今年のLME Weekでは全体的に各コモディティの需給及び価格に明るい見通しが示されるものが多く、堅調な業況感を反映したものとなった。昨年に引き続きMacquarieが行った会場アンケートにおいてもその傾向が表れているので、以下にアンケートの概要を示すこととしたい。

Macquarie, LME Base Metal Summitにおける参加者アンケート

豪Macquarie投資銀行が主催した『LME Base Metals Summit』では、会場の参加者に今後の業況感等多くの質問が投げかけられ、参加者は手元の機器で回答を選択する形でそれに答えた。その概要は以下のとおり。

質問 もっとも多かった回答
Q1 2017年の世界経済の見通しは? 今年と同じ水準で推移 44%
Q2 2016年の中国経済の見通しは? 昨年同様に6.5%成長 55%
Q3 中国主導の経済モデルいつ終わる? 2017年初頭から中盤 43%
2017年終盤にかけて 43%
Q4 今後どの新技術が鉱業界に影響を与えるか? 電気自動車 42%
Q5 コモディティの全体的な状況は? 少し楽観的 61%
Q6 アルミニウム価格の今後12か月の見通しは? 1,600US$/t 31%
Q7 中国におけるアルミニウム生産の2017年の見通しは? 3〜5%成長 56%
Q8 銅価格の今後12か月の見通しは? 5,200US$/t 33%
Q9 銅価格の現行水準からのブレイクスルーは何によってもたらされる? 生産調整 46%
Q10 ニッケル価格の今後12か月の見通しは? 12,000US$/t 46%
Q11 ニッケル価格回復に必要なことは何? 継続したステンレス生産の伸び 29%
Q12 チタン価格の今後12か月の見通しは? 22,500US$/t 34%
Q13 亜鉛価格の今後12か月の見通しは? 2,500US$/t 37%
Q14 亜鉛価格の今後を左右する原因は? Glencoreの業績如何 44%
Q15 鉛価格の今後12か月の見通しは? 2,000US$/t 46%
Q16 今後12か月“買い”の鉱種は? ニッケル 37%
Q17 今後12か月“売り”の鉱種は? アルミニウム 50%
Q18 価格のアップサイドリスクは? トランプ氏の米国大統領当選 26%
Q19 価格のダウンサイドリスクは? 中国経済の崩壊 24%
ドル高 24%
トランプ氏の米国大統領当選 24%
Q20 2017年の国際的に問題となるテーマは? 自国経済の保護主義の拡大 41%

1 香港証券取引所は2012年にLMEを買収し、LMEの親会社となっている。

おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。



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