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  平成29年5月15日 No.17-07
TMS2017参加報告(2)
−リチウムイオン電池を巡る最新動向−


  
<金属資源技術部 特命調査役 阿部幸紀  
 生産技術課大久保聡報告>

はじめに

TMS(The Minerals, Metals and Materials Society)は米国に本拠を置き、選鉱・製錬から素材の基礎研究及び先端的な利用技術に関する専門家のための国際学会であり、年1回例会を開催している。今年はTMS2017と題して、サンディエゴのSan Diego Convention Centerを会場に2月26日から3月2日にかけて開催された。

本例会では製錬全般、金属リサイクルや素材生産・利用といったテーマにつき情報収集を行った。前回の報告に引き続き、今回はリチウムイオン電池リサイクル及びリチウムイオン電池素材について講演の内、特に興味深いセッションの概略を記す。

1.Advances in Environmental Technologies: Recycling and Sustainability Joint Session:

レアメタル等のリサイクルに関する取組及び持続可能性に関するセッションの中で、リチウムイオン電池など新型蓄電池のリサイクルを従来の鉛蓄電池のリサイクル方式と比較する研究のテーマに沿って講演があった。その概略を紹介する。


<リチウムイオン電池リサイクルの評価>

「新型蓄電池のライフサイクル管理の加速化についての取組」と題してRSR Technologiesより閉回路が確立された鉛蓄電池と比較した主にリチウムイオン電池など新型の蓄電池のリサイクルでのコスト評価につき発表があった。

循環型社会への関心の高まりという背景の下、総合的なライフサイクル分析が重要であり、多国間・産業界での工業製品の再利用・再生・リサイクルについての協調が必要となる。蓄電池の場合は、リチウム、ニッケル、コバルト等の原料を使用した蓄電池のための最適なリサイクル技術の開発・適用を推進する政策の妥当性が議論されるべきである。そのため、

  • リサイクルにより適した原料を使用する蓄電池の設計
  • リサイクル施設の拡張・開発
  • 廃蓄電池の収集・運搬のためのインフラ整備
  • 精製処理に適した十分な量の廃電池を収集・分別すること

が必要となる。米国はEUにリチウムイオン電池リサイクルに向けた法体制確立で後れを取っている。EUでは法的にリチウムイオン電池の25%の回収率を要求し、寿命に達した蓄電池の管理体制を確固たるものとした。しかし米国ではリチウムイオン電池リサイクルに関する連邦法が制定されていない。現状の使用済みリチウムイオン電池の回収率は10%以下でリサイクル率は5%以下に留まるのが現状である。2000年代初頭に最初に量産されたハイブリッド/電気自動車は近々寿命に達し25,000t/年の廃リチウムイオン電池が発生する見込みである。しかし数百万t/年規模の鉛蓄電池に比べて非常に小さい。

リサイクルが容易なリチウムイオン電池の設計はリチウムイオン電池の生産に対する信頼性を高め、リサイクル業者への原料供給量を増加させる。またリチウム、コバルト等の原料の価格安定化にも役立つ。しかし、現状ではほとんどのリチウムイオン電池は寿命到達後のリサイクル処理に際しての適切なコスト意識に欠けた方法で製造されている。鉛リサイクルの持続可能性と比較対象になりうるレベルに達していない金属原料は総合的な要素での評価が必要である。それらの要素として、金属精製(リサイクル)による気候変動、リサイクルに要する用水・エネルギー・土地、化学的な危険性、資源の枯渇、原料としての使用効率と回収されない原料、酸性化・富栄養化の原因となる環境への排出物、リサイクルの容易さが挙げられる。

これらの要素を考慮に入れ、リチウムイオン電池の生産から使用により起こる環境面、安全面での負荷を避けるためのコストの合計に基づく「環境コストモデル」を構築した。

図1.「環境コストモデル」試算結果(単位:€/s) 図1.「環境コストモデル」試算結果(単位:€/s)

図1.「環境コストモデル」試算結果(単位:€/s)
(出典:RSR Technologiesの発表よりJOGMEC作成)

「環境コストモデル」では、環境負荷を避けるためのコスト要素として、人的健康エコ・コスト、環境毒性エコ・コスト、資源枯渇エコ・コスト、CO2排出エコ・コストを考慮に入れている。蓄電池に用いられる金属としてアルミニウム、コバルト、銅、鉛、リチウム、ニッケル等を対象とした。まず、リチウムイオン電池の正極材の主原料と言えるコバルト、リチウム、ニッケルにつき着目した。図1に試算結果を示す。この3種の金属原料で共通するのは資源枯渇コストの占める割合が大きいということである。

次に電池に使用される主要金属の一次生産と二次生産(リサイクル)での合計エコ・コストを比較した。試算結果は図2、3に示すとおりである。リサイクルが比較的進んでいるニッケルの場合、二次ニッケルの合計エコ・コストは、資源枯渇エコ・コストが格段に下がるため、一次ニッケルの合計エコ・コストの1/40で済んでいる。これは、リサイクルが進んでいるアルミニウムの場合のエコ・コスト比率:二次アルミ/一次アルミが14、銅の場合の二次銅/一次銅が9、鉛の場合の二次鉛/一次鉛の14と比べて、差が大きいことが分かる。また合計エコ・コストは鉛で小さく、鉛リサイクルが進んでいる現状を表している。そのため、鉛リサイクルの特性は電池に含まれる他の金属のリサイクルの規範になりうる。

図2.ニッケルの一次生産と二次生産(リサイクル)での合計エコ・コストの比較(単位:€/s)(出典:RSR Technologiesの発表よりJOGMEC作成)

図2.ニッケルの一次生産と二次生産(リサイクル)での
合計エコ・コストの比較(単位:€/s)
(出典:RSR Technologiesの発表よりJOGMEC作成)

図3.アルミニウム、銅、鉛の一次生産と二次生産(リサイクル)での合計エコ・コストの比較(単位:€/s)(出典:RSR Technologiesの発表よりJOGMEC作成)

図3.アルミニウム、銅、鉛の一次生産と二次生産(リサイクル)での
合計エコ・コストの比較(単位:€/s)
(出典:RSR Technologiesの発表よりJOGMEC作成)

さらに、リチウムイオン電池のリサイクルに関する議論では、リサイクルが行われないことによる廃棄処分の潜在的なコストを考慮しなければならない。最終処分場の修復には覆土、土壌改良、汚染土壌の移動などを考慮すると1か所の最終処分場あたり27百万$要すると試算されている。リチウムイオン電池のリサイクルでは、再資源化・再生が大きな安全性と環境保全をもたらし効率化を進めると考えられる。

2.Advanced Materials for Energy Conversion and Storage: Energy Storage I、II

このセッションでは、リチウムイオン電池(LIB)部材の特性及びミクロの視点での分析手法などについての講演があった。


「高性能な固体−固液中間構造体のリチウムイオン電池の正極材・負極材の直接電着手法」と題してUniversity of Illinois at Urbana-Champaignより、Snを主原料とする負極材及びコバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、Alドープ処理されたコバルト酸リチウムを主原料とする正極材の比較的低温での合成に成功したことが紹介された。


「二次元、三次元、四次元(三次元+時間軸)顕微鏡法を用いたリチウムイオン電池分析」と題してCarl Zeiss X-ray Microscopyより、電解液、電極、セパレーターなどのリチウムイオン電池部材を㎚からp単位で顕微鏡観察し、充電初期段階から100回程度充電した時の各部材の構造変化の様子の観察結果について報告があった。


「グラファイト−電解液境界面でのリチウムイオン移動に関するシミュレーション」と題してLawrence Livermore National Labより負極材と電解液との境界面で異なる表面方向でのLiイオンの出入りに要する自由エネルギー及びLiイオンの溶媒化についての考察がなされた。


「リチウムイオン電池充電サイクルの間での構造的・化学的特性把握」と題してUniversity of Illinois at Urbana-Champaignより、充電−放電のサイクルを経たリチウムイオン電池の電極の構造変化につき、リチウム・デンドライトや結晶構造の形成メカニズムという観点からの考察がなされた。


他にも「原子走査トモグラフィー・電子顕微鏡によるリチウムイオン電池正極材のナノ構造の観察」、「イオン液体と高分子電解液の原子レベルシミュレーション」、「リチウムイオン電池の電気化学メカニズムの究明」、「リチウムイオン電池原料の原位置XRD分析」、「安定化Li-Sn負極材の調製」といった講演があり素材工学の面から見たリチウムイオン電池の特性につき詳細かつ活発な議論がなされた。

おわりに

本会議では従来の製錬・素材を主題にしたセッションが主体であったものの、昨今のリチウムイオン電池への関心の高まりに対応する形で、リチウムイオン電池素材に関する単独のセッションが開催されたことは特筆すべき点である。

また、リサイクルによる持続可能型社会に適応した形で、本稿で紹介したリチウムイオン電池リサイクルの評価手法に関する講演もあり、今後のリサイクルの方向性を示唆しうる内容と思われる。

このように、リチウムイオン電池のリサイクルを巡る動向、リチウムイオン電池の素材に関する基礎的研究に関して、有益な最新の知見が得られた。

おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。



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