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  平成29年6月2日 No.17-11
アジアのインフラニーズと中国の取り組み(3)
―電力インフラ整備と銅需要―


<調査部 金属資源調査課 小嶋吉広 報告>

はじめに

第1回報告(http://mric.jogmec.go.jp/public/current/17_08.html)では、アジア開発銀行(ADB)によるアジアのインフラニーズに係る分析レポートの内容を紹介し、インフラ資金ニーズ(2030年まで)の58%は中国での資金需要であり、セクター別では電力セクターが56%を占めることを報告した。第2回目(http://mric.jogmec.go.jp/public/current/17_09.html)では、アジアでのインフラ投資に関し、ADBや世銀等の国際開発金融機関を今後補完する可能性のあるAIIB(アジアインフラ投資銀行)や新開発銀行(NDB:New Development Bank)等新たな国際開発金融機関の資金支援動向について報告した。また、これら中国主導で設立された国際開発金融機関に加え、中国輸出入銀行および国家開発銀行も、一帯一路政策に関連する資金支援を拡大させていることを述べた。

最終回となる今回は、インフラ投資によるベースメタル需要への影響について、主に発電能力と銅消費量の関係を例として考察する。中国の銅消費量は、経済成長や都市化に伴うインフラ整備により直近10年で急激に拡大し、2016年は世界全体の需要の約51%となり(図1参照)、もはやマーケットにおいて圧倒的なシェアを占めるに至っている。

図1.銅消費量の推移

図1.銅消費量の推移

出典:WBMS

1.ベースメタル需要への影響

1.1 発電設備容量と銅消費との関係

中国の銅需要の用途別内訳を図2に示す。銅需要の41%は電力セクターが占めており、このため電力インフラの整備と銅消費は密接な関係を有する。以下、発電設備容量と銅消費の関係について見てみたい。

>図2.中国の銅需要(用途別内訳、2016年)

図2.中国の銅需要(用途別内訳、2016年)

出典:中国有色金属工業協会

1.2 日本の発電設備容量と銅消費との関係

図3は日本の発電設備容量の電源別推移と銅消費量を示しており(データが取れる1969〜2014年度を対象)、両者の関係について考察してみる。1952年の銅消費量96.3千tを基準とし、当該期間の銅消費量のピーク(1991年の1,613.2千t)の差をまず出す(1,613.2千t−96.3千t=1,516.9千t)。次に、当該期間の発電設備容量の増加分(167,475㎿)で割り、1㎿増加当たりの銅消費量を算出すると9.05tとなった。換言すると、(銅の電力以外の用途は敢えて考慮せず簡便的に見ると)発電能力が1㎿増加すると9.05tの銅消費が増加したこととなる。しかしながら、1952年は日本国内の電化がまだ十分に普及しておらず、現在の電力事情や生活様式とやや異なる点も多いため、基準年を日本経済が安定成長に入りつつあった1970年として同様に試算すると6.62tとなった(1970年の銅消費量820.6千t、発電設備容量の増加分119,640㎿)。

図3.日本の発電設備容量と銅消費量の推移

図3.日本の発電設備容量と銅消費量の推移

出典:エネルギー白書

1.3 中国の発電設備容量と銅消費との関係

図4に中国の発電設備容量と銅消費の関係を示す(データが取れる1996〜2016年を対象)。1.2の方法と同様に中国について発電設備容量と銅消費量の増加の関係を計算すると、1996年(1,260千t)と2016年(10,620千t)の差(9,360千t)を当該期間の発電設備容量の増加分(1,409,208㎿)で除した結果、6.64tとなった。これは中国の場合、発電能力が1㎿増加すると6.64tの銅消費が増加したこととなる。

図4.中国の発電設備容量と銅消費量の推移

図4.中国の発電設備容量と銅消費量の推移

出典:CRU、CEIC Data等を基にJOGMEC作成

1.4 中国の電力分野での銅需要見通し(試算)

IMFの世界経済見通し(2017年4月)によれば、中国の経済成長率の予測値は2017年が6.6%、2018年が6.2%、2022年が5.7%と成長が減速したとは言え、6%前後の高い成長率が今後数年間は見込める。本項では、このように今後数年、中国の堅調な経済成長が持続するという前提に立ち、電力整備による銅消費への影響について試算してみる。

2016年11月に発表された「電力発展の第13次5カ年計画」で中国政府は、2020年の発電設備容量を200万㎿(20億㎿)へ拡大させる計画である。2016年の発電量が165万㎿であるので、計画どおりに35万㎿の発電設備容量が拡大され、また前述の1㎿増加当たりの銅使用量増加分(6.64t)が今後も当てはまるのであれば、6.64t/㎿×35万㎿=2,324千tの銅需要の増加が2020年までに見込めることとなる。2020年までの4年間で単純に割った場合、毎年58.1万tの需要増加が試算できる(2016年の消費量の約5%に相当)1

中国の電力消費状況を国際的に比較するため、人口一人当たりの電力消費量を図5に示す。中国の人口一人当たりの電力消費量は日本の半分以下の水準であるので(2013年時点)、中長期的に見ても電力インフラ整備による銅消費量は成長の余地があると言える。

図5.人口一人当たりの電力消費量

図5.人口一人当たりの電力消費量

出典:世銀データ

1.5 太陽光発電と銅消費

このように、今後も堅調な経済成長が持続する限り、中国の銅消費量は増加の余地が見込めるが、銅消費量の増加に作用する他の要素として、太陽光発電の拡大が挙げられる。前述の「電力発展の第13次5カ年計画」では、新エネルギーの拡大に重点が置かれ、太陽光や水力発電等の非化石エネルギーの発電設備容量を2020年までに約7.7㎿増加させる予定である。

発電設備1㎿当たりの銅消費量は、BGRIMM Lilan Consultingによれば、太陽光発電の場合5.8t/㎿、その他の発電方式(火力発電等)の場合3.9t/㎿であり、太陽光発電の方が銅を約1.5倍消費する。また、CRUによれば太陽光発の場合6t/㎿、風力で2.5t/㎿、水力発電は0.9t/㎿となっている 2

BGRIMM Lilan Consultingの数値(太陽光:5.8t/㎿、その他方式:3.9t/㎿)を用い、中国の太陽光発電に係る今後の増加を試算すると、2016年の発電設備容量が77,420㎿であるため、2020年の計画値(11万㎿)を達成するためには32,580㎿の設備増加か必要となる。これに太陽光発電とその他の方式の原単位の差(5.8t/㎿−3.9t/㎿=1.9t/㎿)を乗じると61,902tの銅消費増加が見込まれると試算される。

2.電力セクター以外のインフラ投資によるベースメタル需要への影響

2.1 電力セクター以外のベースメタル需要への効果

本シリーズの第1回(http://mric.jogmec.go.jp/public/current/17_08.html)で、アジア開発銀行による2030年までのアジアのインフラ投資ニーズ分析を報告したが、セクター別に見ると(図6参照)、電力に次いでインフラ投資ニーズの大きなセクターは運輸インフラとなっている。

図6.2030年までに必要なインフラ投資のセクター別内訳

図6.2030年までに必要なインフラ投資のセクター別内訳

出典:「Meeting Asia’s Infrastructure Needs」よりJOGMEC作成

2.2 道路インフラ投資によるベースメタル需要への影響

運輸インフラの内、道路インフラ整備によるベースメタル需要への寄与としては、ガードレールに用いられる亜鉛めっき鋼板の需要拡大に貢献するほか、間接的ではあるが道路の路盤材としてのスラグ需要が拡大することが期待される。また高速道路の整備によるモータリゼーションの発達は乗用車の普及を一層促進させる。参考まで、乗用車1台当たりの金属使用量は、銅で約20〜30㎏(電気自動車の場合は約50〜60㎏)、亜鉛は約14〜18㎏、鉛は約10〜11㎏と言われている3 。世界最大の自動車生産国である中国の、自動車生産台数の推移と亜鉛使用量を図7に、また亜鉛の用途を図8に示す。

図7.中国における自動車生産台数と亜鉛消費量

図7.中国における自動車生産台数と亜鉛消費量

出典:WBMS、CEICデータよりJOGMEC作成


図8.中国における亜鉛の用途

図8.中国における亜鉛の用途

出典:中国有色金属工業協会

2.3 鉄道インフラ投資によるベースメタル需要への影響

運輸インフラの内、鉄道インフラに関しては、車両に用いられるアルミニウムやステンレスの需要増加に繋がる他、架線(トロリ線)や信号システムに銅が使用されていることから銅の消費量増加にも寄与する。中国における2015年の鉄道新規建設距離は9,531㎞であり、既存路線の電化を含めると、鉄道セクターにおける銅消費量は189千t(同年の中国の消費量10,162千tの約1.9%)であった(内訳は図9参照)。

図9.中国における鉄道セクターの銅消費内訳(2015年)

図9.中国における鉄道セクターの銅消費内訳(2015年)

出典:CRU

2.4 海外のインフラ整備による中国への裨益効果

中国国内への効果だけでなく、一帯一路政策によるインフラ整備等の経済協力を通じ、アジア地域の経済成長が促進され、将来的に同地域におけるベースメタル需要の開拓・喚起に繋がることも期待できる。また特に機械やプラント等の輸出案件の場合、中国の工業標準や基準を途上国へ普及させることにも役立ち、運転開始後のメンテナンス需要や運転技術等の研修を通じた技術協力の推進といった効果も期待でき、将来における中国企業の進出基盤整備・環境整備にも役立つ。

おわりに

これまで3回に亘って報告したように、中国は、その経済力と膨大な人口を背景にこれまで積極的なインフラ投資を行い、また今後もインフラ投資の需要が見込める。さらに、第2回で報告したように海外、特に一帯一路地域でのインフラ整備プロジェクトも積極的に行っている。積極的なインフラ投資に対応するため、銅の製錬能力拡大を図ってきており、近年では、中国の急激な製錬能力拡大によるTC/RCの低下など、国際的な鉱石の買鉱条件にも影響を与えている。

また外に目を転じると、シルクロード基金や中国輸出入銀行を通じた経済協力により中国は、相手国との友好関係強化だけでなく、中国企業の海外展開支援、中国製資機材の輸出促進という裨益効果を享受できる。ベースメタルの一大消費国である中国の国内政策と対外動向を把握することは、ベースメタル需給を分析する上で極めて重要である。

1 本試算は銅価上昇によるアルミニウムへの代替は考慮しておらず、また簡便的な試算である点に留意頂きたい。参考まで、CRUは2020年の中国の銅消費量を11,340千tと予測している。

2 他の文献では、Sydney大学のWarren Centreが2016年にInternational Copper Associationと共同で行った調査「The Copper Technology Roadmap 2030」 によれば、太陽光発電の場合4〜5t/㎿の銅を使用するとのこと。

3 CRUによる推定値。亜鉛は溶融めっき用途の他、ダイカスト用途も含む。

おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。



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