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  平成29年6月7日 No.17-12
グアテマラ共和国に関する最近の動き

<メキシコ事務所 森元英樹・佐藤すみれ 報告>

はじめに

グアテマラ共和国(以下、「グアテマラ」という)は、金、銀、銅、鉛、亜鉛、ニッケル、アンチモン、石灰石などの鉱物資源に富み、その中でも金、銀、ニッケルの資源ポテンシャルが高いことでも知られている。特に、Escobal多金属鉱山、Marlin金・銀鉱山、Fenixニッケル鉱山、Mayaniquelニッケル鉱山など、国際企業が操業を行っている鉱山が複数存在しており、今後、更なる鉱山開発が期待される国である。しかし、近年、環境活動家や先住民等による反鉱山運動が発生するとともに、環境対策、鉱業ロイヤルティ引き上げのための鉱業法改正が議論されるなど、グアテマラの鉱山投資環境は大きな転換期を迎えている。

このような中、2016年1月にJimmy Morales大統領(以下、「Morales大統領」という)が就任し、Morales政権(以下、「現政権」という)が誕生してから1年半が経過した。現政権の政治・経済事情及び鉱業活動の状況等について、鉱業関係者等から情報を聴取できたことから、これらの情報を基にグアテマラ鉱業の現状として報告する。

1.グアテマラ鉱業をとりまく政治・経済事情について

(1)政治情勢

写真:グアテマラ行政府(筆者撮影)

写真:グアテマラ行政府(筆者撮影)

グアテマラは、大統領を元首とする複数政党制の議会を有する立憲共和制をとり、大統領が統括する行政府(写真:筆者撮影)、一院制の立法府、司法府による三権分立制を確立している国である。大統領は、国民の直接投票により選ばれ、任期は4年、再選は憲法により禁止されている。

2015年9月6日、4年毎の統一選挙(大統領・副大統領選、国会議員総選挙、市長・市議会議員選挙、中米議会議員選挙)が行われ、同年10月25日の決戦投票を経て、2016年1月にMorales大統領(任期は2020年1月まで)が就任した。Morales大統領は汚職撲滅、保健衛生、教育、経済成長を重点事項に掲げ、個人利権、古い政治への反対票を獲得し勝利したものの、大統領就任後、Morales大統領の息子、実兄の公費流用事件が発生している。Otto Fernando Pérez Molina前大統領(以下、「前政権」と言う)は、汚職脱税グループの関与が指摘され大統領職を辞職したことから、現政権の今後の動向には注視が必要である。

Morales大統領就任後、鉱業分野を司るエネルギー鉱山大臣にJuan Pelayo Castañón氏が任命されたものの、2016年4月、同大臣は、就任3ヶ月という短い期間で健康上の理由から大臣を辞職した。その後、Luis Alfonso Chang Navarro次官(当時)が後任に任命され、現在に至っている。なお、鉱山企業へのインタビューでは、Luis Alfonso Chang Navarro大臣は、エネルギー鉱山省での実務経験もあり、また、鉱業のみならずエネルギー全般の知識を有していることから、政治経験の少ないMorales大統領をエネルギー鉱山分野でバランス良く支えている大臣であるとのコメントであった。

(2)経済情勢

中米5か国で最大の人口(1,612万人(2015年国立統計院))、国民総生産(GDP)68,175百万US$(2016年IMF)を有している国である。主要産業は、コーヒー、バナナ、砂糖等の農業、繊維・縫製製品といった軽工業が中心であり、鉱業分野(石油等を含む)がGDPに占める割合は4.8%(世銀)である。主な対日輸出品は、コーヒー、胡麻、バナナであり、鉱業分野では亜鉛鉱石が対日輸出額の3%程度(中銀)を占めていたが、2016年にはニッケル鉱石が日本に輸出されている。また、経済成長率(中銀)は2014年4.2%、2015年4.1%、2016年3.1%、インフレ率(国立統計院)は2014年3.0%、2015年3.1%、2016年4.2%、為替は7GTQ/US$台(中銀)とどの指標も比較的安定している。なお、海外送金受取額(中銀)は2014年5,544百万US$、2015年6,285百万US$、2016年7,160百万US$と上昇しており、他の中南米諸国と同じくグアテマラにとっても海外送金は重要な外貨獲得手段となっている。

その他、過去の政権同様、現政権においても違法業者、国民の納税推進による政府の財源確保は課題の1つである。また、現政権は、対アジア外交関係強化にも取り組んでおり、特に、台湾との外交関係は深く、2017年1月には蔡台湾総統がグアテマラを公式訪問している。同時に中国との経済関係強化を模索しているが大きな進展は見られず、今回、グアテマラを訪問した際には、中国の鉱業分野への投資案件はなく、携帯電話会社以外には目立った投資案件はないとの印象を受けた。なお、中国からグアテマラへの2016年直接投資額は1.3百万US$であり、これはグアテマラ全直接投資額の0.1%に過ぎない。

2.グアテマラ鉱業について

(1)これまでのグアテマラ鉱業

スペイン植民地時代から、金、銀、鉛といった鉱物資源の採掘が行われ、1821年の独立以降もグアテマラ鉱業は着実に発展してきたものの、20世紀初頭に最盛期を迎えた後は衰退し、1950年代からは内戦が続いたため、内戦が終焉する1996年までは鉱業活動は殆ど行われてこなかった。その後、1997年当時の政権が投資促進等の観点から鉱業法を整備するとともに、税、鉱業ロイヤルティを低く設定し、鉱山投資誘致策を進めた結果、再び本格的な鉱業開発が推進された。

近年は、環境保護を目的とした監督機能の強化及び政府の財源確保等の観点からの鉱業ロイヤルティの引き上げを含む鉱業法改正法案が2006年、2012年に議会に提出されたものの、議会における法案審議は停滞し、各鉱業法改正法案は承認に至っていない。このため、前政権は、鉱業法改正法案が議会を通過するまでの間、鉱業コンセッションの承認を停止する鉱業モラトリアム導入関連法案を2013年に議会へ提出した。同法案も鉱業法改正法案同様に議会では承認されなかったものの、政府の鉱業コンセッション承認作業が停滞するなど、モラトリアムとして十分に機能したと言える。そして、2014年には、鉱業ロイヤルティ引き上げを含む税制改正案が議会に提出され、承認された。これらの前政権の動向は、グアテマラの鉱業投資環境は非常にネガティブな印象を与える結果となっていた。

(2)グアテマラの主要鉱業生産額の推移

図1に示すとおり、グアテマラ鉱業生産額は、2005年に加Gold Corp社がMarlin金・銀鉱山の生産を開始して以降、順調に生産額を伸ばしたものの、2011年に同鉱山の生産がピークを迎えたことから、その後、同額は減少した。しかし、2014年に加Tahoe Resource社が、世界5大銀鉱山となるEscobal多金属鉱山((3)参照)の生産を開始したことから、再び生産額は増加に転じた。

図1.グアテマラ主要鉱業生産額の推移(2016年:予測)

出典:エネルギー鉱山省

図1.グアテマラ主要鉱業生産額の推移(2016年:予測)

なお、2016年は、加Gold Corp社が保有していたCerro Blanco金・銀鉱山の売却による影響及び鉱山周辺住民による反鉱山運動を背景としたグアテマラ最高裁判所の操業停止・開発作業の中止命令(Niquegua MontufarⅡ鉱山、ProgresoⅦ Derivada鉱山、Tembor金プロジェクト)があり、生産額は減少する見込み(表1参照)である。

表1.主要開発鉱山生産額

表1.主要開発鉱山生産額

出典:エネルギー鉱山省

(3)Escobal多金属鉱山の概要

本プロジェクトはグアテマラシティ南東約70㎞、エルサルバドルとの国境から20~30㎞のSanta Rosa県に位置している。2010年に加Tahoe Resources社が加Gorldcorp社から買収、本鉱山の管理運営を行う現地法人としてMinera San Rafael, S.A.社を設立し、2014 年に商業生産を開始した。主に銀、金、鉛及び亜鉛を産出している。粗鉱処理量は従来の3,500t/日から拡張され、現在の処理量は4,500t/日、埋蔵量23.7百万t、平均品位:Ag 351g/t、推定鉱山寿命18年、2016年の銀生産量は20.3百万ozで、San Rafael社によると国内第1位、世界第3位の鉱山である(表2)。

表2.Escobal鉱山推定埋蔵量(2017年1月現在)

表2.Escobal鉱山推定埋蔵量(2017年1月現在)

出典:Thaoe Resources社

なお、Minera San Rafael社によれば、鉱業ロイヤルティに関しては、1997年に制定された鉱業法では国と市町村に各0.5%の計1%の支払いが義務づけられているが、2012年以降は、政府と鉱業界が合意したロイヤルティを支払っており、その割合は現在も変わらない。国2%、鉱山所在地2%、隣接市町村1%、加えて、同社は土地所有者に0.5%を支払っており、合計すると5.5%となる。具体的な金額としては、2014~2016年の3年間で地元コミュニティに対するCSR対策費の合計金額は13百万US$、税金と鉱業ロイヤルティの合計金額は140百万US$に上る。具体的なCSR活動としては、道路整備、警察署建設、食糧供給などを行っており、また、坑内の地下水は処理した後、地元コミュニティに農業用水として提供しているとのことであった。反鉱山運動については、前政権時までは、様々な過激な抗議活動が発生していたが、最近では、一部環境NGOによる問題が残っているものの、鉱山所有地拡大に伴う小規模な居住地購入計画に係る問題がある程度で、個別の問題には、対話により解決している。そのため、現在、同鉱山操業は安定しているとのことであった。なお、同鉱山では、過去に公共電力網への接続を試みたが、周辺住民の反対により接続許可が承認されなかった経緯があり、自家発電により、鉱山の電力を賄っている。

(4)Tambor金プロジェクト

2012年9月に米Kappes Cassiday & Associates社(KCA社)が加Radius Gold社から同プロジェクトを管理(保有)する地元企業Exminga社を買収し、取得したプロジェクトであるが、2016年2月、グアテマラ最高裁判所は、KCA社に対し、同プロジェクトの開発は周辺住民の同意を得ずに進められているとして、開発工事の一時停止を命じた。この背景には、2014年に地元住民及び環境活動家が同プロジェクトの開発は周辺環境の破壊と水源の汚染を発生させるとして、鉱山へのアクセス道路の封鎖等による抗議活動を行っていたところ、警察隊との衝突事件が発生し、多くの負傷者を出したことから、国連人権理事会がグアテマラ政府等の対応を非難したことにある。

3.グアテマラ鉱業政策の動向

図2.主要開発鉱山位置図(メキシコ事務所作成)

図2.主要開発鉱山位置図(メキシコ事務所作成)

グアテマラの鉱業行政は、Ministerio de Energia y Minas(エネルギー鉱山省)の内局であるDireccion General de Mineria(鉱山総局)が鉱業行政を管轄し、Departamento de Derechos Mineros(鉱業登記部)、Departamento de Control Minero(鉱業管理部)、Departamento de Desarollo Minero(鉱業開発部)、Departamento de Financiero Mineria(鉱業ファイナンス部)、Departamento de Gestion Legal(総務部)の5つの部により構成されている。なお、承認された鉱業コンセッションは、エネルギー鉱山省のHP(http://www.mem.gob.gt/mineria/catastro-minero/derechos-mineros-otorgados-por-depto/)に県単位で閲覧できる(図3参照:例としてFenixニッケル鉱山が位置するIzabal県の鉱区図を示す)。

図2.主要開発鉱山位置図(メキシコ事務所作成)

出典:エネルギー鉱山省HP

図3.Izabal県の鉱区図(11番:Fenixニッケル鉱山)

(1)鉱業コンセッション承認件数(鉱業モラトリアム)

鉱業関係者のインタビューによると、前政権時に鉱業モラトリアム導入関連法案が議会に提出されたこと、及び現政権下においても先住民問題、環境問題等への対策のため、エネルギー鉱山省による鉱業コンセッションの承認プロセスはこれまでどおり遅れている。また、エネルギー鉱山省による立入検査(2016年の立入検査件数は290鉱山(非金属を含む))は強化されており、加えて、環境専門家等による反鉱山運動に端を発した最高裁判所の取消命令などもあり、グアテマラの鉱業ライセンス(探鉱、採掘)件数は減少し続けている。特に、金属の鉱業ライセンスは申請件数が横ばいであるが、表3に示すとおりライセンス件数は2012年に比べると半減している。

表3.鉱業ライセンス権申請・承認件数

表3.鉱業ライセンス権申請・承認件数

出典:エネルギー鉱山省

(2)鉱業法改正の動向

現行のグアテマラ鉱業法は、内戦終焉後の国内財政が厳しい中、外国資本を誘致するため積極的に鉱業開発を推し進めることを目的に議会が承認し1997年に施行されたものである。そのため、投資家や鉱業企業にとっては、鉱業権申請等のためのマニュアルに近い規定内容になっており、技術進歩を伴った鉱業活動への対応、鉱山周辺の住民や環境を保護する観点からは不十分な法律と考えられている。このため、前政権の任期中の2012年には、経済的、技術的及び社会的観点を含めた鉱業法改正法案(具体的内容は、平成26年3月13日付けカレント・トピックス14-08号「グアテマラ共和国の鉱業に関する最近の動き」(以下、「14-08カレント・トピックス」という)参照)が提出されるとともに、2013年7月には、同改正法案が可決成立するまでの間、鉱業ライセンスの付与を凍結する鉱業モラトリアム導入関連法案が国会に提出された。しかし、前政権中、同鉱業法改正法案等の審議は停滞し、その後、統一選挙が行われることとなり、同鉱業法改正法案は承認されることはなかった。

現政権においても政府・鉱山企業間での鉱業法改正法案の協議が行われ、2016年8月、政府は、鉱業法改正法案(48~97条)を議会に提出したが、現在、国会議席上位政党の政治資金報告書問題等が発生しており、同法案の審議は不透明な状況が続いている。

(3)鉱業ロイヤルティ

鉱業ロイヤルティについては、14-08カレント・トピックスにて報告したとおり、前政権時に1997年の鉱業法に定められている比率に2012年1月に政府と鉱業界が合意したボランタリーなロイヤルティを付加する条項を含む鉱業法改正法案を議会に提出したものの、2.(1)に記したとおり、同法案は承認されなかったことから、鉱山企業は、鉱業法に定めた売上高に対する1%に、上記ボランタリーロイヤルティを加えた合計5%(貴金属)乃至4%(ベースメタル)を国庫等に納入している。このような状況が続いたことから、前政権は、グアテマラ予算の均衡を図るため歳入増加の一環として、鉱業ロイヤルティを10%にまで引き上げる徴税改革法案を可決、承認し、2015年1月から引き上げ後のロイヤルティが適用されることとなった。しかし、通常、鉱業法や鉱業ロイヤルティ等の関連税制の改正時には、事前に政府から関係業界に対し協議が行われることが一般的であるが、この徴税改革法案に関しては、鉱業界はもとより鉱業所管官庁であるエネルギー鉱山省に対しても事前通達がないまま、議会に提出され承認されたため、鉱業界は、これらの一連の手続きは幾つかの法令に反するものであり、また、このような手続きの透明性の欠落はグアテマラの鉱業活動における競争力を後退させるものである旨、政府及びグアテマラ議会に申し入れ、裁判所に対して提訴を行った。この結果、2015年9月、グアテマラ最高裁判所は、鉱業ロイヤルティの引き上げを無効とする判決を下し、グアテマラの鉱業ロイヤルティは、前述したボランタリーを含む率(5%(貴金属)乃至4%(ベースメタル))が採用されている。

現政権においても、徴税改革は政府財政課題の1つであり、また、Morales大統領もグアテマラにおいて鉱業ロイヤルティが1%であることは不当に低すぎる旨選挙時から訴えていたことから、2016年8月にはMorales大統領とJulio Héctor Estrada財務大臣は、貴金属10%、その他金属3%と定めた鉱業ロイヤルティを含む徴税改革法案を発表した。しかし、同改革法案には、鉱業ロイヤルティのみならず、セメント、燃料等の様々な分野の増税案が含まれており、多くのセクターから反対、批判が起こり、同案を提案したMorales大統領自ら発表を撤回するという異例の事態に至った。

おわりに

グアテマラの鉱業ポテンシャルは高く、グアテマラ総面積10万8千㎢のうち鉱業コンセッション(採掘権)が設定されている面積(非金属等を含む)は総面積の1%(出所:調査機関(CABI)資料)にも満たず、グアテマラの探鉱・開発の可能性は十分残されていると考えられる。

しかし、現在、採用されている鉱業ロイヤルティの率は、鉱業法で定めている1%にボランタリーに設定した率を追加するものであり、現在、議会に提出されている鉱業法改正法案が承認され鉱業ロイヤルティ比率が確定しない限り、後の政権等においても、引き続き、鉱業ロイヤルティは、政府収入の確保に向けた徴税額の増加の対象となり続ける可能性がある。これは、グアテマラの鉱業投資環境に対する信頼を損なう可能性が高く、また、鉱業関係者は、提出されている鉱業法改正法案は、現在、国際的な鉱山企業が行っている環境対策に近いものとなることからグアテマラの鉱業投資環境の透明性に繋がるものであるとし、同改正法案の早期承認を望んでいる。引き続き、メキシコ事務所では、同改正法案の審議状況を含めたグアテマラ鉱業政策の動向について注視していきたい。

おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。



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