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  平成29年6月9日 No.17-13
2017年、中国の鉛亜鉛産業が抱える課題
―12th SMM LEAD & ZINC SUMMIT参加報告―


<調査部金属資源調査課 畝井杏菜 報告>

はじめに

2017年5月19〜20日、中国・昆明にて12th SMM LEAD & ZINC SUMMITが開催された。SMM(Shanhai Metals Market)主催の本カンファレンスには、中国の鉱業・製錬企業、トレーダー、需要家等約500名が参加した。

亜鉛価格は、2016年1月に1,400US$/tを下回る安値を付けて以降、右肩上がりに上昇し、2017年2月には3,000US$/tに迫る高値をつけたものの、2017年5月は概ね2,600US$/t前後で推移している。今回のカンファレンスで注目されたことは、主に「中国経済の成長鈍化」、「中国の産業改革及び環境規制の強化」、「鉛亜鉛鉱石供給動向」についてであった。本稿ではカンファレンスの各発表を紹介しながら、中国の鉛亜鉛産業が直面している課題について考察する。

カンファレンス会場様子(筆者撮影) カンファレンス会場様子(筆者撮影)

カンファレンス会場様子(筆者撮影)

1.中国経済の動向と鉛亜鉛需要の先行き

中国製造業は、2016年前半は投資減速により景況感も低迷していたところ、2016年後半以降はインフラ投資拡大により景気刺激が図られ上向いた。図1に示すとおり、2016年前半及び2017年初めのインフラ投資拡大を背景に、製造業投資は2016年後半から2017年3月にかけて投資拡大へと回復する傾向が見られた。また図2のとおり、製造業購買担当者景況指数(PMI)についても、2016年7月以降は製造業の拡大・縮小の境目である50を上回る数値が続いた。こうした中国製造業の経済指標改善から、鉛亜鉛生産者は2017年の鉛亜鉛需要は伸びるだろうと期待した。

図1:固定資産投資とインフラ関連投資(前年同月比伸び率)

図1:固定資産投資とインフラ関連投資(前年同月比伸び率)

(出典:CEIC)

図2:製造業購買担当者景況指数(PMI)

図2:製造業購買担当者景況指数(PMI)

しかし、Zhang Lu氏(CEBM Information Consulting)は、足元のインフラ投資の影響による製造業の経済指標のプラスは短期的な効果しかもたらさず、中国経済全体の底上げを示すものではないと説明した。つまり、経済指標の高水準は長く続かず、第2四半期から第4四半期にかけて中国製造業の成長は緩やかに減速するとの見方を示した。さらに同氏は、中国政府は今年秋に共産党第19回全国代表大会(党大会)開催を控えており、経済リスクを緩和したい動きがあることを指摘し、中国政府が経済の「安定」を目的に不動産や製造業の供給を抑えることにより、需要も減少する可能性がある点についても言及した。例えば、不動産価格の大きな上昇あるいは下落を望んでおらず、また製造業に対しても過剰生産能力の削減という構造改革によって供給過多を抑えたい考えである。

中国における亜鉛需要は、建築が3割、自動車が2割、インフラが2割、その他(家電、薬品等)3割である。また鉛についても、バッテリー用途が8割、その他2割となっており、さらに鉛バッテリー需要のうちE-bike用4割、自動車用3割、インフラ用2割、その他1割である。つまり中国における鉛亜鉛需要は特に建設・自動車の動向によって左右される。そのため、中国政府の生産・供給側に対する規制は鉛亜鉛需要拡大を下押しする可能性がある。

2.中国における過剰生産能力淘汰問題

中国大手亜鉛製錬会社である株洲集団のWang Haibo氏によると、中国政府は鉱業・製錬業の集約、過剰生産能力の淘汰を進めており、2008年から2015年の間で鉱山会社が332社、鉛亜鉛製錬会社が233社減少した。13次5カ年計画(2016〜20年)が始まり、過剰生産能力淘汰がさらに強化されたことに加え環境規制が厳格化し、製錬会社は操業体制の見直しを迫られている。しかし、過剰生産能力淘汰が進み、稼働中の製錬所数が減少していると同時に、中国における亜鉛生産は増加傾向にあり、また鉛亜鉛製錬会社の資産規模も4年間で倍増していることから、1製錬会社あたりの生産規模や会社規模は勢い良く拡大していることがわかる。

鉛亜鉛生産の増加については、生産能力淘汰によって大規模製錬会社が残り、資本増強により生産を拡大させていることに加え、新たに政府の許認可を得た規模の大きい製錬所・精錬所の新規建設もある様子である。例えば、鉛については、SMMのWang Lan氏の報告によると、2016年には6か所の鉛製錬所新設により合計13万tの製錬能力が増加し、また2017年も3か所の製錬所新設によりさらに合計13万tの製錬能力が追加される。これに加えて、二次鉛(リサイクル由来)の精錬能力も増加傾向となっており、2017年には大手精錬所4社で合計116万tの廃鉛バッテリーを処理し、71.5万tの鉛地金生産能力が追加される計画がある。今後も「過剰生産能力削減」の政府方針から、生産能力が小規模な製錬所については淘汰の圧力がかかってくる一方、環境基準や政府基準を満たした中規模〜大規模の製錬所の建設については増加する可能性がある。

3.中国における環境規制強化の進展について

中国有色金属工業協会(CNIA)のPeng Tao氏の報告によると、中国における鉛亜鉛産業への参入は厳しく取り締まられている。2015年1月に環境保護法が施行、2013年6月に既に大気汚染(“大気十条”)に対する規制を強いてきたところ、2016年2月に水質汚染防止行動計画(“水十条”)、5月に土壌汚染防止行動計画(“土十条”)を打ち出し、重金属汚染防止(鉛、水銀、カドミウム、クロム、ヒ素)を図った。また2016年7月には鉱産物産出地域を中心に中国8省区に対して中央政府による環境監査が進められ、さらに11月には7省市へ監査が進められた。環境監査は今後も継続されるうえ、2018年1月からは「環境保護税法」が施行される予定となっており、鉱産物サプライヤーの負担はさらに拡大する見込みとなっている。

Peng Tao氏によると、中国には1,700箇所以上の亜鉛鉱山があり、うち生産能力が5万t未満の中小鉱山がほとんどを占めている。2015年に改定された「鉛亜鉛業界への参入許可条件」では、新規開山する鉛亜鉛鉱山の規模は10万 t/年以上かつマインライフが10年間以上と基準が引き上げられていることを勘案すると、今後の中国の鉛亜鉛鉱業は優良鉱床かつ十分に設備投資が可能な企業でなければ新規開発を進めるのは難しい。亜鉛製錬会社も、中国には200社以上存在するが、生産能力が30万tを超える大手製錬会社は6社のみ、20万t規模が6社、10万t規模が15社で、残りは設備の小さい中小企業となっている。中小企業にとって、環境規制対応のための設備投資や課税はコスト増・収益減として負担が大きいため、生き残りが掛かった問題となっている。

4.中国の鉛亜鉛需給展望

(1) 鉛

SMMのWang Lan氏の報告によれば、2016年、鉛は世界的な鉱石生産の減少に加え、中国国内においても環境監査の影響等で多くの鉱山が生産停止し、鉱石供給が低迷した。2017年に入り、鉛価格上昇等を背景に中国国内外で増産トレンドにあるものの、未だ鉛鉱石生産は需要に対して十分に足りていない。鉱石供給がタイトであることから、TC(製錬費)は2016年半ば以降大きく下落傾向にあり、また需要の伸びも停滞していることから、製錬所は厳しい環境に置かれている。2017年は2016年以上に製錬所稼働率は落ち込むと考えられる。

ただし、2017年第2四半期以降にはTC改善による海外鉱石の輸入増加や環境監査に適合した鉱山が生産再稼動する見込みであることに加え、今後二次精錬所における廃鉛バッテリー処理量も増加することから、地金の供給量は増加、2017年の需給バランスは供給過剰になる見込みである。小規模工場の多い鉛二次精錬所については環境規制等の影響を受けて生産減少しているものの、大規模な二次精錬所における生産は伸びている。大規模精錬所の稼働率は、2015年には2〜4割だったが、2016年は概ね5割、2017年は5〜6割へ上昇している。

表1:中国の鉛地金需給バランス予測(単位:万t)

表1:中国の鉛地金需給バランス予測(単位:万t)

(Wang Lan氏発表資料より)

(2) 亜鉛

盛屯鉱業のZhang Zhenpeng 氏によると、2016年は海外輸入鉱石よりも国内鉱石が安価であったため、海外からの鉱石輸入は減少し、中国国内鉱山で増産した。しかし鉱石在庫の減少により鉱石需給が逼迫していることから、2016年11月以降は海外鉱石輸入も徐々に増え始めている。ただし、世界的な亜鉛鉱石不足の影響で輸入を増やせる量には限りがある。海外の大規模鉱山で増産された鉱石は、基本的には搬出先の製錬所が決まっていることから中国市場に供給されないため、鉱石輸入がこれ以上増える見込みは無い。今後、国内鉱石も増産される見通しだが、需要に対し十分な量の鉱石が生産されるまでには時間がかかること、現在も環境保護監査が進行していること等から、当面は需給タイトな状況が継続すると思われる。

SMMのSun Hanbing氏も、昨年の監査で操業停止となった鉱山が環境規制に対応し、今後操業再開し始める一方、今年の監査で新たに操業停止となる鉱山が出てくると見られることから、鉱石需給はタイトであると見通した。2017年は、中国の亜鉛鉱石生産は、新規鉱山からの供給が175千t、操業停止鉱山の再稼働によるものが40千tで、合計215千t増産する見込み。

一方、不動産投資が伸び悩んでおり製造業も停滞しているため、中国国内の亜鉛消費は緩やかな伸びに落ち着いている。自動車産業においても、減税が縮小されたことにより2017年の生産・販売の勢いは和らぐと見られる。

表2:中国の亜鉛鉱石需給バランス予測(単位:万t)

表2:中国の亜鉛鉱石需給バランス予測(単位:万t)

(Sun Hanbing氏発表資料より)

表3:中国の亜鉛地金需給バランス予測(単位:万t)

表3:中国の亜鉛地金需給バランス予測(単位:万t)

(Sun Hanbing氏発表資料より)

おわりに

中国は、「New Normal」時代に突入し、安定成長を目的とした政策を進めるようになった。足元は、政府主導のインフラ投資を進めたり、不動産投資の過熱を避けるために規制をかけたりと政府が経済をコントロールしているものの、最終的には「政府主導」の中国経済から脱することが出来るよう民間企業が自ら持続的に成長する力を身につけさせようとしている。そのための過剰生産能力淘汰や環境規制厳格化であり、社会的責任能力のある企業が中国製造業をリードするよう仕向けている。

また、過去中国は、鉛亜鉛に限らず資源を「大量消費」「大量廃棄」してきたところ、今回のカンファレンスにおいては「リサイクル」の必要性を訴える声が聞かれるようになった。引き続き緩やかな経済成長・資源需要拡大が見込まれる中、過去資源価格の低迷や急騰を経験してきた中国産業界は、環境に対する意識の向上に加え静的資源(回収されたリサイクル資源)の活用が中国における資源供給の安定性や価格の安定性に寄与することを期待している。

おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。



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