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  平成29年6月20日 No.17-14
モンゴル経済と銅生産状況
−「中国の後背地」から「原料供給の拠点」へー


<調査部 金属資源調査課 小嶋吉広 報告>

はじめに

モンゴルでは2016年6月に総選挙が実施され、外資主導での鉱物資源開発推進を掲げる人民党が4年ぶりに政権を奪還した。前政権(民主党連立政権)では資源ナショナリズム高揚を背景に、鉱物資源分野での外国投資に対し政府の関与を増大させた。その結果、Oyu Tolgoi銅・金鉱山拡張の中核をなす坑内採掘プロジェクト(Phase 2プロジェクト)に関しRio Tintoとの開発計画交渉は長期化し、プロジェクト開始が大幅に遅延。国内の資源産業低迷による経済悪化で、民主党への国民の支持は徐々に低下。この反省から政権後半になると現実的な路線にやや転換し、2015年5月、Rio Tintoとの間でPhase 2プロジェクトの開発合意にようやく至った。また、同年12月には同プロジェクトに係るファイナンスが組成され、2021年のフル生産到達に向け、アジアの銅資源供給国として改めて注目されている。

特に中国にとりモンゴルは、チリ、ペルーに次ぐ第3位の銅精鉱輸入国であり、重要な供給ソースとなっている(図1)。中国では、モンゴルと国境を接する甘粛省や内蒙古自治区で製錬所建設が計画されており、モンゴルはこれら製錬所へ精鉱を陸路で供給できる地理的な優位性を持っている。本稿では、2017年5月に発表されたIMF4条協議レポートに基づきモンゴル経済の最近の状況について前半で述べ、後半ではOyu Tolgoi鉱山等による銅生産の動向について報告する。

図1.中国の銅精鉱輸入国

図1.中国の銅精鉱輸入国

出典:Global Trade Atlasデータを基に、純分換算率(27%)を用いて算出

1.モンゴルの最近の経済動向

1.1 GDP成長率

モンゴルのGDP成長率は2011年の17.5%をピークに低下しており、IMFの予測によれば2017年は-0.2%のマイナス成長となる見込みである(図2参照)。2018年以降は資源価格の持ち直しが期待されることに加え、Tavan Tolgoi石炭鉱山が2019年から生産を拡大すること、またOyu Tolgoi鉱山Phase 2プロジェクトに係る外国直接投資が今後数年の間、年10億UD$規模で見込まれること等から、2019年8.1%、2020年5.3%2021年6.1%と比較的高い成長が予測されている。

鉱物資源セクターのGDP成長率について見ると、2013年以降、Oyu Tolgoi鉱山の露天採掘が本格的に開始されたことでGDP成長率は高い伸びを見せ、2014年には19.4%まで拡大した。その後は、中国景気減速や資源価格下落の影響で成長は鈍化し、2017年は0.5%まで落ち込む予想である。2018年以降は再び堅調な伸びが予想されている。

図2.モンゴルのGDP成長率

図2.モンゴルのGDP成長率

出典:IMFデータに基づき作成

1.2 輸出

モンゴルの輸出額推移を図3に示す。輸出額の内、銅精鉱の輸出額は、Oyu Tolgoi鉱山の生産が本格的に開始された2014年以降、輸出額全体の3〜4割を占める主要輸出産品となっている。ただし、2015年以降の直近2年間は銅価格の低下により輸出額は伸び悩んでいる。

図3.モンゴルの輸出額推移

図3.モンゴルの輸出額推移

出典:モンゴル政府統計局

1.3 外貨準備高・対外債務残高

中国経済減速と資源価格下落による国際収支悪化、自国通貨(トゥグログ)の減価により、モンゴルは2013年以降、外貨準備高の減少と対外債務の増加に見舞われることとなった(図4参照)。特に2015年Q2以降、対外債務残高は急激に増加し、2016年Q4では外貨準備高(1,175百万US$)の5倍近くまで拡大。債務持続性への懸念が急速に高まった。

図4.モンゴルの外貨準備高と政府対外債務残高

図4.モンゴルの外貨準備高と政府対外債務残高

出典:モンゴル政府統計局

1.4 財政支援の状況

このように、中国経済減速と資源価格下落によりモンゴルの財政は急速に悪化し、対外債務の返済が困難になってきた。このためモンゴル政府はIMFへ支援を要請し、2017年2月にIMFとの間で支援プログラム1(EFF:Extended Financial Facilities)について合意した。また本合意に併せて、日中韓の関係国や他の国際金融機関もモンゴルの財政健全化に向けた支援を表明した。モンゴル政府に対する財政支援の内訳を表1に示す。財政支援のうち最大のものは、中国人民銀行による通貨スワップ協定(150億元、約21.75億US$)の延長2であり、これによりモンゴルは最大の貿易相手国である中国との貿易決済に人民元を使え、外貨を温存することができるようになった。

表1.国際機関・諸外国によるモンゴルへの財政支援プログラムの内容

表1.国際機関・諸外国によるモンゴルへの財政支援プログラムの内容

出典:IMF 4条協議レポート

1.5 外国直接投資

モンゴルの外国直接投資受入額を図5に示す。2012年の政権交代で外資に対する規制が強まり、外国直接投資は2012年Q4に急減した。さらに、2013年10月に制定された投資法により新規の探鉱ライセンス発行が凍結され、鉱物資源投資が大きく停滞したことから、2014年以降はマイナス(資本の流出)となる期も見られた。

図5.モンゴルの外国直接投資受入額(ネット)

図5.モンゴルの外国直接投資受入額(ネット)

出典:IMF 4条協議レポート

2016年Q2に45億US$のマイナス(資本の流出)が計上されている理由を以下述べる。2015年12月にOyu Tolgoi鉱山Phase2プロジェクトに係るファイナンスが組成され、これを受け2016年Q2に、同プロジェクトの開発会社であるTurquoise Hill Resources社3(以下、Turquoise Hill社)が、プロジェクト資金(41億US$)をカナダや米国を始めとする輸出信用機関等より借入れ(内訳は表2参照)。これにより、IMFの統計において会社間(親子間)の外国直接投資として計上されていたものが、民間部門の対外借入れに転換され、外国直接投資のマイナスとなった。なお、Turquoise Hill社のFinancial Statement(2016年Q2)によれば、41.6億US$がRio Tinto(関係会社含む)に対する債権(預け金)として計上されている。当該債権にはLibor+2.45%の利息が設定されているが、Rio Tintoは完工保証料として2.5%を受け取ることとなっているため、これを差し引いたLibor-0.05%が当該債権に係る実質的な利率となっている4

今後の外国投資の見込みとしては、ソフトバンクによる5千万US$の風力発電所の建設投資が見込まれる他、10億US$規模の水力発電所建設計画が中国政府との間で協議されている模様である。またカナダとの間で投資保護協定が2017年3月に発効し、投資環境は徐々に改善される見込みであるとIMFは分析している。

表2.Oyu Tolgoi鉱山坑内採掘プロジェクトに係るTurquoise Hill社の借入金

表2.Oyu Tolgoi鉱山坑内採掘プロジェクトに係るTurquoise Hill社の借入金

出典:Turquoise Hill Resources LTD. 「Financial Statements and MD&A」2016年Q2

2.銅生産の状況

2.1 銅精鉱の生産・輸出状況

本節では、モンゴルの主要輸出産品である銅の生産状況について述べる。図6にモンゴルの銅精鉱輸出量推移を示す。Oyu Tolgoi鉱山の本格生産開始(2014年)以前はErdenet鉱山(生産能力135千t)が主要鉱山であった。Erdenet鉱山の権益比率はモンゴル政府51%、ロシア政府49%であったが、2016年6月の報道によればロシア政府保有分はMongolian Copper Corp.へ売却された。2014年以降、精鉱輸出量が増加しており、2015年5月以降は概ね35千t(純分換算)/月を上回る水準で推移している(春節時を除く)。なお、2016年12月に30千tに一旦落ち込んだが、これは2016年11月のダライラマ14世によるモンゴル訪問に反発した中国政府が、12月2日より2週間、Oyu Tolgoi鉱山からの精鉱の輸入を停止したことによるものである。

図6.モンゴルの銅精鉱輸出量推移

図6.モンゴルの銅精鉱輸出量推移

出典: モンゴル政府統計局

モンゴルの銅精鉱輸出相手国を図7に示す。2015年の銅精鉱輸出量の99.3%は中国に対する輸出であり、次いでロシア(0.4%)、日本(0.4%)となっている。このようにモンゴルの銅生産・輸出は中国国内の製錬所建設状況や銅地金の需要動向に大きく依存する構造となっており、中国経済の動向に左右されにくい輸出構造となるには輸出先の多角化が不可欠である。

図7.モンゴルの銅精鉱輸出相手先

図7.モンゴルの銅精鉱輸出相手先

出典: Global Trade Atlasデータを基に純分換算率(27%)を用いて算出

2.2 Oyu Tolgoi鉱山の生産状況

Oyu Tolgoi鉱山の権益はTurquoise Hill社が66%、モンゴル政府が34%を保有している。開発の経緯は、Ivanhoe Mines社が1997年より南ゴビ地域で探鉱を行い、2003年に採掘権に切り替え。2006年、同社はRio Tintoと共同事業実施について合意し、2013年7月より精鉱輸出が開始された。埋蔵量は、銅11,905千t(平均品位0.841%)、金427.9t(平均品位0.298g/t)と金品位が高い点が特徴である。マインライフは現在のところ2056年までであるが、周辺探鉱によって今後、鉱量増大の可能性がある。

モンゴルの鉱山別の銅精鉱生産量の見通しを図8に示す。2021年よりOyu Tolgoi鉱山の坑内採掘が開始される予定であり、精鉱生産量は2025年に622千tのピークを迎えると見込まれる。他方、需要サイドに目を転じると、中国の製錬能力の増加ペースは2016年以降緩やかになってきており、人口構成の急速な高齢化など社会構造の変化等により2020年代には中国の銅消費量がピークアウトするとも言われている。このように中国経済が成熟化する中、品位や立地の面で、チリやペルー等他の供給国と伍してどこまでモンゴル産の精鉱が優位性を出せるか、精鉱取引市場の動向を今後注視していく必要がある。

図8.モンゴルの銅精鉱生産量見通し

図8.モンゴルの銅精鉱生産量見通し

出典:Turquoise Hill社のウェブサイト掲載資料等を用い作成。
Erdenet鉱山の生産量見込みは、CRUによる2017年生産量予測値を2018年年以降も使用。

2.3 Oyu Tolgoi鉱山による政府財政に対する裨益効果

これまで見てきたように、Oyu Tolgoi鉱山の生産と資源価格の動向は、モンゴルの財政再建と経済運営に多大な影響を及ぼす。モンゴル政府財政への効果という視点で見ると、2016年のOyu Tolgoi鉱山によるモンゴル政府への租税支払額(ロイヤルティ含む)は210百万US$、また国内企業への調達額は279百万US$に上った5。また、2015年はそれぞれ315百万US$、291百万US$であった。このようにOyu Tolgoi鉱山による政府歳入への直接的な効果という意味では、毎年200〜300百万US$の租税納付をモンゴル政府は得ており、前述1.4で示した財政支援プログラムにおける日本の支援額(総額850百万US$)と同規模の租税収入をOyu Tolgoi鉱山より得ていることとなる6。また、国内企業への調達という間接的な経済効果や雇用面での効果7を考慮すると、Oyu Tolgoi鉱山による裨益効果はさらに大きいものになる。モンゴルは資源の賦存に恵まれ、世界有数の資源開発プロジェクトを有するという優位性を生かすべく、自国の資源開発で得た収入を中長期的観点に立ち国内産業育成に向け適切に投資するなど、持続可能な発展に向けた適切な予算執行や財政規律の厳格化が不可欠であるとIMFは4条レポートで提言している。

結語

モンゴルは輸出における一次産品の割合が大きく、また輸出相手先も中国に依存しているため、市況悪化や中国の景気減速に対する脆弱性が高い。モンゴルのような内陸の資源国が取り得る対策としては、市況や輸出相手国の経済情勢など外的要因による国内経済への影響の緩和を図ること(貿易における特定国への過度な依存の軽減等)が重要である。このような取り組みは経済安全保障の見地からなされるものであり、また、この分野において消費国が資源国の持続可能な経済成長に向け政策面等で支援する余地はあると言える。

物流面については、中国は一帯一路政策の下、周辺国との連結性(コネクティビリティ)強化に向け、中国・モンゴル・ロシア経済回廊等を計画しているが、モンゴルのような内陸国が輸出経路として使う鉄道等のインフラには運用面における公共性・公平性の担保が不可欠であり、今後動向を注視していく必要がある8

モンゴルが「中国の後背地」から「アジアの原料供給ソース」へと発展していくためには、このような環境整備や周辺国の支援が不可欠である。

付図.モンゴルの主要鉱山

付図.モンゴルの主要鉱山

1 中長期的な国際収支上の問題の解決に取組むIMF加盟国支援を目的とした支援プログラム。期間は通常3年(必要に応じ1年延長)。

2 現行の通貨スワップ協定の期限は2017年8月であり、モンゴル政府は本協定の延長をこれまで中国人民銀行に対し求めてきたが、2016年11月のダライラマ14世のモンゴル訪問で交渉は中断されていた。今回、3年間の延長が合意された。

3 Turquoise Hill Resources社はOyu Tolgoi鉱山の権益66%保有(残る34%はモンゴル政府保有)。なお、Turquoise Hill Resources社の株式50.8%はRio Tinto、残る49.2%は機関投資家(SailingStone Capital Partners LLC、Pentwater Capital Management LP, Temasek Holding Ltd.等)が保有。

4 http://www.turquoisehill.com/i/pdf/2016Q2.pdf

5 出典:Oyu Tolgoi鉱山ウェブサイト

6 財政支援プログラムの実施期間をIMFのEFF実施期間(3年間)と想定。

7 従業員3,000人のうち95%がモンゴル人。

8 モンゴルの鉄道規格はロシアと同じく広軌(1520mm)であったが、中国と接続する路線については標準軌(1435mm)が2014年より採用されている。

おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。



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