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  平成29年8月18日 No.17-18
Rare Earths, Lithium & Graphite for Automotive Magnets & Batteries
Conference参加報告
―欧州市場で加速するEV/HIV需要と自動車産業の抱える課題―


<ロンドン事務所 ザボロフスキ真幸 報告>

はじめに

2017年6月19-20日、英国マンチェスターにてMetal EventsによるRare Earths, Lithium & Graphite for Automotive Magnets & Batteries Conferenceが開催された。EV市場の伸びに伴い注目される資源に焦点を当てたカンファレンスとなっており、参加者にはRio Tintoを始めとする資源メジャー、リチウム、レアアース、グラファイト鉱山を欧州に持つジュニア鉱山会社、コンサルタント、技術開発系ベンチャー企業、研究者、政府団体などが集まった。以下、講演概要を紹介する。

1.EV/HEVの需要動向
(講演者:Lux Research、Research Director、Arij van Berkel氏)


欧州では、域内諸国でディーゼル車及びガソリン車への規制強化が強まっており、EV/HEVへの移行を後押ししている。英ロンドンでは、Sadiq Khan市長が2017年10月から市が定める排出基準を超える自動車に対し、対象区域で「T-Charge」と称する排出サーチャージを課すと発表。また、2019年には設定されたエリア内での通行に際し、ロンドン市が定めた排出ガス規制対象基準に対応していなければ高額な課金が求められる「超低排出量ゾーン(Ultra-Low Emission Zone)」の導入も予定している。ロンドン以外でも、パリ、マドリード、アテネでは2025年までに市内でのディーゼル車走行を禁止すると発表、また、オスロはディーゼル車走行の一時規制を導入、コペンハーゲン、ミュンヘンでも現在規制の導入が検討されているなど、ディーゼル車からEVへの買い替えが促進されている。さらに、EU及びWHOが定める大気質基準の達成のために、今後さらなる規制強化が見込まれており、Lux ResearchのArij氏によると2023年までには新たなディーゼルエンジンへの開発への投資は行われなくなると予測された。一方、EVへの投資は拡大すると予測されており、原油安にもかかわらず環境規制の強化を見越してEV、HEVの需要は堅調に伸びている。(図1左図参照)特に、2016年におけるEVの伸びは著しいものとなっている。(図1右図参照)

図1.自動車別における四半期ごとのグローバル自動車販売数

図1.自動車別における四半期ごとのグローバル自動車販売数

(出典:Lux Research)

また、リチウムイオン電池価格はEV/HEVの増加及びリチウムイオン電池の量産化により、著しく低下してきている。Ford社がリチウムイオン電池を採用するとした2012年の電池価格は525〜650US$/kWhであり、2017年現在Teslaは約200US$/kWhでリチウムイオン電池を調達していると推定される。(図2参照)

図2.各自動車メーカーの使用推定リチウムイオン電池価格

図2.各自動車メーカーの使用推定リチウムイオン電池価格

(出典:Lux Research)

リチウムイオン電池の低価格化はEV/ HEVの普及拡大に大きく貢献しているが、2025年時点ではEV/ HEVの市場シェアは全体の約25〜30%にとどまり、まだ初期段階にあるといえる。(図3参照)

図3.自動車別におけるグローバル市場シェア

図3.自動車別におけるグローバル市場シェア

(出典:Lux Research)

また、同氏は、今後ハイブリッド車の伸びが大きいと見ており、ハイブリッド車を電気推進の補助度具合によって4つに区分できるとしている。(図4参照)

図4.ハイブリッド車の4区分

図4.ハイブリッド車の4区分

(出典:Lux Research)

2025年以降、EV/HEV市場の中でも市場を牽引すると予測されているのは48Vハイブリッドである。48Vハイブリッドは高電圧のフルハイブリッドに比べて大幅なコスト減ができ、12Vマイクロハイブリッドに比べて出力が高く効率的であるとされている。そのため、欧州のCO2排出量環境基準1を満たすための有効な手段とみなされており、さらにユーザーが電気自動車の導入をスムーズに移行するための中間ステップとして最適であると考えられていることから、今後牽引役となると予測された。また、2034年頃にはプラグインハイブリッド車(PHEV)が主流となり、2038〜2040年頃PHEVは全自動車市場シェアの50%を占めるようになると予測されている。

2.リチウムイオン電池におけるグラファイト・コバルト需給展望


リチウムイオン電池は、2025年までに乗用車EVによって電池容量及び売上高が牽引されると予測されている。また、Eバイクにおけるリチウムイオン電池への転換が徐々に進んでいくと予測されており、今後の需要の伸びが期待されている。さらに、2025年ごろまでに輸送セクターにおける総電池容量は300GWhを超えるとし、リチウムイオン電池にとって輸送セクターが一番の利用領域になるとされ、バッテリー材料の動向は輸送セクターの動きに連動したものとなる可能性が高いと見られている。


(1)グラファイト需給
(講演者:ProGraphite GmbH、Geologist/Project manager、Fiona Reiser氏)


ProGraphite GmbHのFiona Reiser氏によると、リチウムイオン電池の負極材料として使われるグラファイトの需要は2016年に59,000t、2020年は106,000t、2025年には220,000tとなり、年平均成長率は15.7%と予測されている。リチウムイオン電池生産は全体的なグラファイト需要の主な牽引役となっており、耐火物、鋳物、潤滑剤用といったその他のグラファイト用途内で最も成長率が高い。しかし、その他の用途のグラファイト需要は減少することなく一定を保つと予測されており、グラファイト全体の需要はリチウムイオン電池向け需要の増加に伴い、2025年まで増加する。また、同氏はリチウムイオン電池向けのグラファイト開発のトレンドとして、低価格、高エネルギー密度、大容量、高出力、急速電池といったパフォーマンスの向上、安全性を維持することが重要な要素となっていると予測した。

供給サイドでは、新規鉱山及び既存鉱山の生産拡張により、グラファイト需要を満たせるだけの供給が2025年までは保たれると予測されている。全世界の鉱業プロジェクトを見ると、2011〜2014年のグラファイトブーム時にジュニア企業が新規探査プロジェクトに参入したことにより、既存の探査が東南アフリカ地域で活発化、また中国での探査プロジェクトが進行していることも供給増に貢献すると見ている。

グラファイトプロジェクト状況では、2017年に生産開始が見込まれている新規鉱山に、モザンビークSyrah ResourceのBalama鉱山(年間380,000t生産見込み)、AMG Graphit KropfmuehlのAncuabe鉱山(年間9,000t生産見込み)、ナミビアImerysのOkanjande鉱山がある。また、先行しているプロジェクトの例として、タンザニアKibaran ResourcesのEpanko鉱山が年間60,000t、タンザニアMaginis ResourcesのNachu鉱山が年間240,000t、タンザニアBlack Rock MiningのMahenge鉱山が年間60,000t、カナダFocus GraphiteのLac Knife鉱山及びMason Graphite鉱山がそれぞれ年間50,000t生産している。さらに、中国でも探査プロジェクト及び生産拡張が進められていることからグラファイト需要を満たすだけの十分な供給量が中期的には保たれると予測された。


(2)コバルト需給
(講演者:Core Consultants、Consultant、Lara Smith氏)

Core ConsultantsのLara Smith氏は、世界のコバルト需要は、その半分がバッテリー用に使用されており、2020年になってもその傾向は変わらないと予測。中期的にはEVの台頭がコバルト需要を牽引すると予測しており、2016年にEV/HEVによるコバルト需要は6,100tだったのが、2020年には21,969tまで拡大すると予測されている。(図5参照)

図5.EV/HEVによるコバルト需要

図5.EV/HEVによるコバルト需要

(出典:Core Consultants)

また、バッテリー市場以外でもコバルト需要は高まっており、コバルト市場は2016年以降中期的に慢性的な供給不足に陥ると予測されている。コバルト供給は、DRコンゴが世界の半分以上を占めており、2016年の世界のコバルト鉱山供給量の65%はDRコンゴからの生産となった。2018年12月にはDRコンゴでERG(Eurasian Resources Group)社が年間20,000t、2018年7月にはDRコンゴでKatanga社から20,000〜30,000t、ザンビアでKCM(Konkola Copper Mines)社が年間約3,000tの新規コバルト生産を予定している。ただし、リサイクルからのコバルト供給は僅かであり、今後数年間はリサイクル供給によるインパクトは限定的であると見られている。

コバルト供給に関する懸念材料として、中国がコバルト地金生産へのコントロールを過去10年で強めていることが挙げられる。2016年、Freeport McMoRan社はDRコンゴTenke Fungurume銅・コバルト鉱山の権益56%をChina Molybdenumに売却、2017年にLundin社は中国のプライベート・エクイティBHRに同鉱山の権益24%を売却している。このような例も含め中国勢への集中が進んでおり、2006年にはコバルト地金生産量の23.6%は中国からであったのが、10年経った2016年には50%が中国からであると見積もられ、2020年には60%に拡大すると予測されている。(図6参照)

図6.中国によるコバルト地金生産量

図6.中国によるコバルト地金生産量

(出典:Core Consultants)

中国は、EV発展に力を入れていることから、コバルトといったEV関連金属へのコントロールを強めており、この独擅場は今後も継続すると予測した。米、カナダ、日本、欧州といった中国以外の国でもコバルト需要が増加しているが、非中国からの供給量より需要量が今後上回ると予測されており、非中国企業のリスクが高まる可能性がある。

コバルト価格は、2016年6月に23,750US$/t(注:約10.8US$/lb)から2017年6月には56,000US$/t(注:約25.4US$/lb)に上昇しておりすでに予想以上の価格上昇となっているが、中期的には供給不足になることも踏まえて今後5年は平均して48US$/lb以上の価格帯を維持すると予測。

3.英国自動車産業が直面している課題及び取組
(講演者:Advanced Propulsion Centre UK、Head of the national Networks、Mike Woodcock氏)


Mike Woodcock氏は、低炭素推進体制の構築として2013年に英国政府及び自動車産業によって結成されたAdvanced Propulsion Centre(APC、先端推進システム技術センター)に所属しており、英国及び欧州の自動車産業の業界動向及びEVシフトによる業界の課題について言及した。同センターは、英国での低炭素化の推進、発展及び開発を目的とし英国政府及び自動車産業界で2013年から10年間で10億ポンドを共同出資する。民間企業に対しては、低炭素推進技術プロジェクトにおける資金提供を実施するコンテストを年に2回実施し、英国の低炭素技術イノベーション促進の役割を担い、英国政府に対しては、自動車業界が直面している課題の伝達、業界に則した適切なリーダーシップを取るように働きかけをする役割を担っている。また、資源に関しては、2010年〜2025年までの資源トレンド、生産開始時期及びタイムフレームなどを企業に対して情報発信をし、英6大学と提携して低炭素推進技術の研究、開発、また企業と学術専門家との業界を超えたネットワークの構築にも注力している。

英国は、2016年に170万台の自動車を生産しており、過去17年で最高となった。英産業において非常に重要である自動車産業は、次の4〜5年の間でEV/HEVが2025年までに全普及台数の約25%を占めるようになるという予測の下、産業の変化が迫られている。同氏は、欧州の主要自動車メーカーによるEVシフトは著しく、生産量のボリューム、移行期間の課題、挑戦は計り知れないにも関わらず、その時間は限られているとし、EV/HEVのサプライチェーンは既存の自動車のそれとは異なるため業界の各プレイヤーがサプライチェーンを理解することが重要となってくる。特に、サプライチェーンの基となる原材料調達は業界内でも非常に関心が高まってきており、同センターでは現在、今後どの鉱物が自動車サプライチェーンにとって最も必要となるか注視しているという。

2016年末に同センターが開催した鉱山開発に関するセミナー「Implications of opening the mine」では、鉱山開発に必要なタイムフレーム及び持続的な鉱山生産の困難さを理解している自動車産業界の企業が皆無に近いことが分かった。このため、鉱山開発のタイムフレームは生産が持続可能な鉱山を特定し、開発、生産に至るまで10年間及びそれ以上であることを考えると、原材料確保が自動車業界にとっていかに重大な課題になる可能性があるかということを業界は認識する必要があると強調した。また、同氏は業界のその他の課題として原材料の安全保障を挙げEVとして必要となってくる原材料の多くを中国が中国内外において所有していることに懸念を示した。自動車業界は、原材料確保、資源調達の役割を担うことはできないため、自動車産業サプライチェーンの元である鉱山企業がどのようにバッテリー資源の確保のために動いているのか、政府及び同センターが支援する可能性、チャンスはあるのかということを模索している。また、リサイクルは業界における将来的な主要促進力になると考えている。

2017年4月、英ビジネス・エネルギー・産業戦略省は産業戦略チャレンジ基金として、今後4年間で10億ポンドの投資を行うと発表。6つの主要分野の1つに、「クリーンで柔軟性のあるエネルギー」を挙げ、今後4年間に2億4600万ポンドをバッテリー技術研究に投資するとしている。英国企業が低炭素経済への移行に推進し、EV向けバッテリーの設計、開発、製造で英国が新技術で世界を主導できるようにするという。

おわりに

EV/HEVのニュースを見ない日は無いというほど、欧州のメディアにはEV関連のニュースが溢れている。2017年7月、英政府は2040年までに国内のディーゼル車及びガソリン車の販売を禁止すると発表した。英国では、大気汚染が原因で年間4万人が死亡しているとされており、大気汚染防止環境規制としての役割が大きい。また、同月頭には、フランスも同様にディーゼル車及びガソリン車の2040年までに禁止すると発表している。各国政府が主導でEVの加速化を図る中、産業界では原材料確保において懸念が広がっているが、それに対する明確な対応策はまだ模索中であるという印象を受けた。また、2016、2017年における欧州各国の早急な電気自動車へのシフト状況は、大気汚染への対応策としての側面が主因である一方、英国の低炭素化技術の発展にみられるようにイノベーションリーダーとしての欧州での地位を確固たるものにしていきたいという意図も感じられる。さらに、現在リチウムイオン電池を生産する大型バッテリー工場の建設がドイツ、スウェーデン、ハンガリー、ポーランド等で予定されており、電気自動車関連の投資は間違いなく拡大している。原材料の調達、インフラ整備、雇用問題など様々な課題が議論されているが、世界の中で規制強化が先行して進み、大手自動車メーカーを持つ欧州各国の政策及び自動車産業界の動向を引き続き注目していきたい。

1 欧州CO2排出量規制では、乗用車に対しCO2排出量規制値を2021年までに95g/km以下にするように設定している。2006年は160g/km、2015年は130g/kmと設定されており、世界で最も厳しい規制となっている。

おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。



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