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報告書&レポート

2004年1月19日 バンコク海外調査員 市原秋男
2004年02号

フィリピンNational Mining Conference概要報告

 2002年のフィリピンの鉱物の売上総額は348億P、GDPの1.5%を占めている。しかしながら、1970年代には輸出額全体の20~25%を占めていたものが、最近では10%以下の水準に低下、衰退の一途をたどってきている。
 この背景には、憲法上「国有地及び同地に含まれる鉱物は全て国家の所有物である。」との規定にも拘わらず、新鉱業法(1995年3月)の資金又は技術支援協定(FTAA)条項が外資によるフィリピンの鉱業資産所有を認めている点について最高裁判所で審理中となっていることや、先住民人権法(IPRA)との不整合性の問題が膠着状態であること、さらに、地域住民・環境NGO等の反鉱業運動が挙げられる。
 このような状況下、環境天然資源省(DENR)は、2003年に入り、鉱業の再活性化・持続可能な鉱業の発展のため、かねてから検討されていた国家鉱業政策(National Mineral Policy)の最終決定を図るべく、中央・地方政府機関、業界、NGO、カトリック関係団体、学識経験者等からの意見聴取を開始した。今回のNational Mining Conferenceは12月3~4日の2日間、Gozun環境天然資源大臣の出席のもと、地元住民やNGO等を含め約300人が参加し開催され、地域レベルのワークショップを含めた一連のコンサルテーションの最終段階となるものである。
 全体の流れとしては、環境保護と地域振興を図りながら鉱業が可能であることを海外(カナダ、チリ、ザンビア等)の事例やフィリピン鉱業界も実践してきたことが説明され、これに対し、地元住民側が環境破壊等を理由に鉱業に反対、さらにはモラトリアムの必要性を唱えるという構図であった。コンファレンスは、大臣自ら質問者に返答する等、極めてオープンな雰囲気であったが、政策案に係る具体的議論というよりは、それぞれの立場からの意見発表が中心で進行し、最後に、Gozen環境天然資源大臣が、以下の点は合意できたとの認識で、今後、所要の修正等のうえ大統領の承認を得、投資委員会や先住民委員会等の他省庁とも連携を図って実施に移していく所存であると締め括った。

  • 経済発展、環境保全、社会発展を基礎とする持続可能な開発を原則とする信頼性ある鉱業に対する支援が必要であること。
  • 廃止鉱山のリハビリテーション対策の実施が最優先課題であること。
  • 鉱物資源からフィリピン国民にもたらされる利益・恩恵を最大限にするための高付加価値化が重要であること。
  • 先住民問題等に関連する環境と天然資源に係る法施行の調和を図ること。
  • 鉱業の利益配分に係る地方政府や地域の配分比率の最適化を早急に図ること。
  • 鉱業界の正式な一員として、小規模採掘を推進させること。
  • 国や地方における意志決定や認識の向上を図るために情報整備、教育及び対話運動を推進させること。
  • 意志決定プロセスにマルチステークホルダー(関係する全ての利害関係者)が継続的に参画していくこと。
  • 環境保全と天然資源開発のバランスを確保しつつ規制可能な機関の設置(DENRから環境規制部門の独立)が必要であること。

 以下、National Mineral Policy(NMP)案の概要を報告する。

 NMPは、鉱業の再活性化・持続可能な発展に向けた政府、産業界の方向付け、意志決定に資する広範な原則を包括的に示しており、以下の、(1)競争力ある繁栄的な鉱業の発展、(2)環境の保全及び修復、(3)地域社会・コミュニティ安定化の促進、(4)次世代への選択肢の維持を柱としている。また、これらは、現行鉱業法(Philippine Mining Act 1995)及び関連規制により具体化されるものとしている。

(1) 競争力ある繁栄的な鉱業の発展

  • 透明、迅速的かつ安定的な規制制度
     政府は、効率的かつ効果的な規制制度の有効性を認識し、鉱業・環境関連許認可手続きの簡素化等を図っていく。
  • 鉱業に関連する国・地方の法制度の見直し
     鉱業に関連する国及び地方の法制度の見直しを行い、政策課題及び省庁間の競合を解消すべく協調していく。
  • 自由市場の役割の認識
     政府は、鉱物資源がグローバルな自由市場に委ねられており、外国投資の重要性及び投資環境の改善の重要性を認識する。
  • 鉱業許可期間の安定性確保
     資源開発が、長期間を要しリスクを伴うことに鑑み、政府は、環境適合証を含む鉱業権の安定性が不可欠であることを認識する。
  • 鉱業の促進
     全省庁を挙げて、投資環境の向上を図る。また、輸出や新たな市場への進出の促進を図るべく鉱業界と協力していく。
  • 鉱物開発プロジェクトからの利益配分の均衡化
     地方政府条例1991の改善を図っていく。
  • 鉱物及び地球科学情報の役割
     政府は、地球科学情報が、投資決定、土地利用計画策定の重要なツールとなること及び廃棄物処理地や地盤災害の調査等資源開発分野以外での利用が有効であることを認識する。
  • 土地アクセス、セキュリティ
     土地所有権や資源利用等を勘案した総合的な土地利用計画の決定・管理プロセスを策定していく。
  • 鉱床区分、報告/開示に係る国際基準の導入
     国内資源量の把握及び海外からの投資決定の判断材料としての正確性を高めるため、鉱床区分、報告/開示に係る国際基準の導入を図る。
  • 社会認識の向上及び教育
     政府は、国民に鉱業の有用性を理解させるための教育・啓蒙活動を組織的に実施していく。

(2) 環境の保全及び修復

  • 政府規制及び仲裁の役割
     政府は、産業界が信頼性を得られるまで、規範的な規制を継続していく。
  • 自主規制及び補完的なボランタリー・イニシアティブ等
     持続的発展の達成のためには、法的規制以外に自主的取組みが有用であり政府はこれを支援していく。
  • 汚染者負担原則の認識
     全費用と責任は汚染者に帰する。
  • 予防原則の確認
     危害のおそれがある際、科学的に不確定であることは対策を講じない理由とはならず、政府はリスクアセスメント等を指針に対策を検討していく。
  • 公害予防への取組み
     エネルギーや原料の効率的利用により汚染物質の減少を図り、未然防止を図る。
  • 科学的知見及び研究開発
     政府は、産官学の連携を強化していく。
  • 環境管理手法
     政府は、規制制度を補完する観点から、環境監査やLCA調査等の環境管理手法を支援していく。
  • 鉱山リハビリテーションを通じた資源の多様化
     政府は廃さいの再利用を提唱する。
  • 休廃止鉱山及び不用鉱業資産政策
     政府は、可能な限りの技術、資金調達手法を活用し、休廃止鉱山の修復を行う。鉱山の休止に際しては、MGBに維持計画を提出させるものとする。鉱業資産に関しては、国家資源開発公社(NRDC)を活用する。
  • 鉱さい管理
     政府は、規制基準に則し、費用対効果の高い鉱さい管理を支援する。
  • 水資源管理
     政府は、水資源の重要性を認識し、関係機関と共に鉱物資源開発における総合水管理計画を策定していく。
  • 鉱山保安
     政府は、鉱山労働者及び周辺住民の労働安全・健康確保が、政府、産業、労働者間のパートナーシップの一環として優先課題であることを認識し、指針を示していく。
  • 鉱業功績システム
     鉱山保安、環境、地域社会管理に対し、企業が革新的・創造的な対応を図る動機付けとして、業績に基づく業績評価システムの確立を図っていく。

(3) 地域社会・コミュニティ安定化の促進

  • 中央政府の役割
     中央政府は、鉱業の持続可能な発展の達成の中心的役割を果たす。
  • 地方自治体の役割
     中央政府は、地方自治体及び関係省庁の協力を推進させる。
  • 鉱山企業と社会的責任
     鉱山企業は、法律等政府の指示及び企業の自主性をもって企業社会責任を果たすべき。それは、鉱業を実施する全期間にわたる地域形成、生計の維持等に係る資金拠出を含む。
  • シビル・ソサエティ機関の役割
     政府は、鉱山開発に係る意志決定にシビル・ソサエティが有効かつ正当に参加する機会を付与する。
  • モニタリングに係る利害関係者の役割
     政府は、鉱山開発プロジェクトのモニタリングにマルチステークホルダーの参画を支援していく。
  • コンセンサス形成における住民参加
     政府は、鉱山開発に関連する種々の問題の検討に住民参加の原則を確立させる。
  • 小規模採掘セクターの地位向上
     政府は、小規模採掘者が鉱物開発により貢献可能な技術支援等の政策の枠組みを策定していく。

(4) 次世代への選択肢の維持

  • 鉱物資源の持続的利用
     政府は、フィリピンが相対的に高い鉱物資源ポテンシャルを有し、社会・環境コストを吸収しつつ資源開発が可能であること、及び、鉱物の利用効率化や採掘の効率化により資源の温存・廃棄物発生の減量化が図られることを踏まえ、持続可能な鉱物資源の利用方策を検討していく。
  • 高付加価値の鉱物・金属生産
     鉱物資源をより有効に活用しつつ、製錬事業等の下流部門の発展を含めた高付加価値化による産業発展を図っていく。
  • 保護地域管理
     政府は、統合的保護地域システムに調和し、科学的知見に基づく保護地域管理、生態系保護等の取組みを進めていく。

 NMPは、今後、同政策を承認する形態での大統領令が発布され、成案となる予定である。しかしながら、今春(2004年5月)の大統領選挙を控えていることもあり、当初2003年内とも言われた大統領令の発布は行われていない。鉱業協会幹部は、大統領令さえ発布されれば、鉱業再活性化は大きく弾みがつき進展する旨述べていたが、政府側は、鉱業法に係る違憲性を巡る最高裁の早急な判決を待っているのが現状であり、引き続き不透明な状況が続くもようである。

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