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報告書&レポート

2004年11月4日 金属資源開発調査企画グループ 大迫次郎 e-mail: osako-jiro@jogmec.go.jp
2004年47号

探査の新たな動きとベーシックデータの整備

 今、タスマニアが世界の探査技術者から注目されはじめた。その昔、オーストラリアを代表する鉱産州だったが、ここ数年来探査活動も停滞し、加えてレニソン等の主力鉱山の閉山により、鉱業ポテンシャルは相当低く評価されていた。ところが、最近になって探査活動が活発化する兆候が認められている。その理由が、タスマニアのほぼ全土をカバーする詳細な地質鉱床データが集積・デジタル化され、データベースや図面などの形で一般に提供され始め、これまでになかった新たな視点での探査が可能になったからである。

  1. 探査手法の歴史

  2.  過去において、鉱床探査といえば、既存鉱山の周辺探鉱や地表に現れている鉱徴・露頭部分からの地下への広がりを確認していく探査が主流であり、従って、いかに早く未探査地域を調査して、新しい露頭を発見するかが成果をあげるための第1条件といえた。最近では、未探査地域は皆無といえ、露頭もほとんど記載されつくしてしまった感がある。その結果、近年では潜頭鉱床が主たる探査のターゲットとなってきた。
     潜頭鉱床の場合、鉱床の存在を示す直接的な兆候が地表に現れていないため、地表で実施した各種探査が示す有望範囲を重ね合わせる(オーバーレイする)ことによって、鉱床のありそうな場所を推定し、最後にボーリングで鉱体発見を期待するというものであった。
     独立した手法によって得られたデータを参照してボーリング位置を決定するという意味においては、この方法は技術的に優れた探査手法といえるが、鉱体の地質構造中での正確な位置付けや、鉱化作用の中心の推定などにあいまいさを残している。
     今では、探査を開始するに当たって、既存のデータ等を利用して地質鉱床モデルを作成し、それに基づき探査を開始することが主流になっている。もちろん、探査の進捗に従ってモデルは常にリファインされ、探査が精密化するに従ってモデルも精密なものになっていく。これにより探査は、より焦点が絞られ目標を効果的に捕らえられるようになり、結果の評価も正確にできるようになる。

  3. 探査におけるベーシックデータの重要性

  4.  1998年にJOGMEC(当時MMAJ)の主催したWorkshop for Investment Promotion & Environmental Protection in the Mining Sector in ASEAN(於Myanmar)において、主としてASEAN地域で探査事業を展開しているジュニア企業やメジャー企業約50社の探査戦略について調査した。
     そのとき多くの企業からコメントがあったのがベーシックデータの重要性であった。
     ベーシックデータとは、探査を行う際に最も必要な基本的なデータのことで、普通、地質鉱床(文献も含む)、物理探査、地化学データの3種類をさす。これら3種類を「ベーシックデータセット」と呼んで、このデータセットがそろっているかが探査を開始するか否かを判断する重要な条件となることが多くの企業から指摘された。なぜなら、このデータセットが整備されており、利用可能であることが探査のための地質鉱床モデルの作成に必要であるからである。
     したがって、探査活動を促進させるために、国によっては、現在でも多額の予算を使って、ベーシックデータを整備し供給し続けている。
     例えば、カナダのケベック州などがその例で、このようなベーシックデータの整備こそが公的機関のやるべき最も重要な仕事として位置付けられ、実行されているため、現在ではカナダ国内の探査投資対象の筆頭に上げられる州としての実績と評価を得ている。

  5. ベーシックデータと地質鉱床モデルの構築

  6.  鉱床探査の世界でいう地質鉱床モデルとは、地質構造の中で鉱床がどの位置に、いかなる形で賦存しているかを、ベーシックデータ、最新の鉱床生成理論などから導き出したものである。このモデルは鉱床探査において作業仮説としての役割を果たす。
     このモデル構築がしっかりしていれば、探査の最終段階に早く移行でき、鉱床確認及び評価のためのボーリングをどこにどのように行えばよいかを容易に判定できる。更にボーリング結果の解析が正確にかつ精度高く行われることになり、より大きな探査の結果が期待できるわけである。
     ところが、モデルといっても、ベーシックデータの量と質により、主観的な概念図から、コンピューターによる3次元レベルでの解析に耐えるような精度の高いものまで色々ある。良質で最新のデータが大量にあれば、最新の鉱床生成理論とあわせ、より詳細で有効な探査モデルが構築できるわけである。
     例えばカナダでは、探査の歴史が非常に長いにもかかわらず依然として今でも探査が活発で、しかも新発見が続いているが、これはケベック州の例に見られるように、常に政府(連邦、州)から新しいデータが提供され、それを基に探査モデルが常にリファインされ、新しいモデルが生み出されてくるからである。

  7. 探査活動の活発化していく条件

  8.  一般に、ある国または地域において探査活動が活発になるのは、鉱業法などの関係法制度が改正されて、探査がやりやすくなることが最も重要であるとされてきた。これを受けて、世界の多くの国が法改正を行ったが、改正後すべての国において探査が活発化したわけではない。なぜなら、各国においてそれぞれの事情はあるが、多くは探査のためのベーシックデータの不備と、ベーシックデータが存在してもアクセスがしにくいなどの障害があるからである。
     しかし、活発化しなかった国でも、様々なデータが整備蓄積されてくるにしたがって、あるいは眠っていたデータへのアクセスが容易になるに従ってようやく活発化してくる。(第1図 参照)

    第1図 鉱床探査活動の活発化の条件

     地質ポテンシャルが高いとされていても、ベーシックデータが整備されている場合とされていない場合では活発化の経路が異なってくる。探査が活発化すればデータも更に蓄積され、より新しい探査モデルが提唱されますます探査が活発化する。
     例えば、フィリピンでは、JOGMEC(当時MMAJ)が実施した基本図調査が終了した後、得られた調査のデータを利用してCRA、Western Mining(いずれも当時の名称)、Phelps Dodge、Oxianaなどの会社が探査を開始し、多くの探査プロジェクトが生まれた。

  9. オーストラリアのタスマニア州で作成された画期的なデータベース

  10.  効果的で効率的な探査においてベーシックデータ整備の必要性と、それによる地質鉱床モデルの構築が探査に必要不可欠であることを述べたが、最近、更にアップグレイドしたシステムがオーストラリアのタスマニア州で公開され、新しい形のベーシックデータシステムとして多くの企業の注目を浴びている。
     今回、オーストラリアのタスマニア州で整備されたデータベースシステムは、いわば「3次元デジタルGISシステム(3-DGIS)」のことである。
     製作したのは、タスマニア州の大学や政府が中心となって設立されたMineral Resources Tasmania(MRT)である。公的機関であるThe Predictive Mineral Discovery Cooperative Research Centre(PMDCRC)、民間会社であるGeoscience Australia、Geoinformatics Exploration.などの機関も主要な役割を果たした。
     このデータベースは通常、作成のためのプロジェクトコードネームである「T3」の名前にちなんでT3マップなどと呼ばれている。
     T3データベースは、入手可能なデータをすべてデジタル化し、データベース化して、地質解析ソフトにより空間的な3次元の精度の高い解析を可能とするものである。
     そのため、大学、政府、企業などがそれぞれ個別に保有していた、地質、地質構造、重力、地化学探査、磁気などのデータが集められた。企業が自社のデータを提供することは普通ないとされるが、今回は企業も協力して自社の所有しているデータを提供した。集められたデータはすべてデジタル化され、ひとつのデータベースにまとめられ、地質解析ソフトによるコンピューター解析が3次元レベルで行えるようになった。
     このデータベースは非常に膨大なもので、間隔、深度とも10kmオーダーで、タスマニア全島をカバーする地質構造断面図が作成され、提供された(3-D地質モデリング図)。また、タスマニアに分布する様々なタイプの鉱床の詳細や、断層などの構造線についても3次元レベルでのコンピューター上での解析がなされるようになった(探査ポテンシャル図として提供)。そのほか、重力、磁気、地化学等異常図やインフラストラクチャー、土地所有などの情報も同時に提供されている。
     システムからは様々な形でのアウトプットが提供され、それぞれ媒体の実費だけで手軽に入手可能であることから、各企業は、既存の鉱床や、自らの経験などを反映させたより詳細で実践的な探査モデルの構築が可能になり、その結果タスマニア州における鉱床探査が再び活発になりつつある。
     このような総合的かつ詳細な、しかも3次元での解析が可能なデータベースシステムは世界でも初めてで、最も新しいベーシックデータセットともいえるものである。(アウトプット図面などの例は参考文献のサイト参照)

  11. 探査の新しい潮流

  12.  企業の探査ターゲットは、そのときの社会経済的ニーズにしたがって変化していくが、ターゲット地域において効果的な探査を行うには、最新の鉱床生成理論を反映した探査モデルをいかに作り上げ、そのモデルをいかに探査に利用して行くかが鍵である。
     多くの企業では莫大な費用と人員を費やして、探査モデルの作成とそのための良質なデータの取得に努力する。言い換えれば探査地域の確保より、いかなる探査モデルを作成するかの競争になってきつつある。
     国や州レベルでも、如何に企業の探査モデル作成を支援するために、最新の探査データ等を収集あるいは取得して、データベース化し、そのままあるいは一次的な解析を行った結果を探査を行う企業に提供する。この両者の連携が新しい探査の流れとなりつつある。
     タスマニアでは、Tas Gold社がベースメタル探査を、Roseberry鉱床周辺を参考に新しいモデルを作成し、南西タスマニア南西部での探査を開始、また、Saracen Mineral Holdings社は、Tullah地域の金鉱床のモデルを用いて、タスマニア北西部での探査を開始した。新しい形のデータセット(データベース)の提供によって企業の探査活動が始まり、活発化しつつある好例といえよう。

    参考文献

    1)

    Australian Journal of Mining July/August 2004

    2)

    Predicative Mineral Discovery Cooperative Research Center
      http://www.pmdcrc.com.au/

    3)

    Geoscience.Gov.Au..
      http://www.geoscience.gov.au/bin/agsoPortal?portal=geoportal&action=show&page =geoportal.html&user=mineral$
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