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報告書&レポート

2004年11月18日 キャンベラ事務所 神谷夏実 e-mail: mkamiya@cyberone.com.au
2004年49号

豪・探鉱開発における先住権問題の焦点

 豪州の先住権問題は、資源開発に影響を与えているといわれているが、その内容の複雑さから、その理解が進んでいるとはいえない。そこで本稿では、探鉱開発における先住権関係の基本プロセスの現状について解説するとともに、法的には先住権が消滅しているとされるアボリジニ所有地の存在と探鉱開発に対する影響について考察した。

  1. 土地の所有及び使用形態

  2.  豪州における先住権の問題を理解するためには、まず土地の所有及び使用形態を理解する必要がある。豪州では、大きく、政府所有地(Crown Land)、民有地(フリーホールドランド、Freehold Land)、放牧リース地(Pastoral Lease)、アボリジニ所有地1等に分けられる。放牧リース地は、政府保有地を放牧事業者がリースし使用する制度で、1846年から開始され、現在では全豪州の44%という広い範囲を占めている。
     これに対してアボリジニ所有地は、先住民であるアボリジニが私的所有権として所有している土地であり、豪州では主にSA及びNT2に存在する。具体的な例では、世界遺産にも指定されているウルル(エアズロック)や、ニッケルの新しい鉱化作用が発見され注目されているMusgraveブロックのSA及びNT部分3はアボリジニ所有地の中に存在している。またWAでは、政府所有地をアボリジニの伝統的使用目的にリースしており、こうした土地はリザーブ(Reserve)と呼ばれている。

  3. 先住権の存在と探鉱開発手続き

  4. (1)

    先住権の存在

    1) 先住権の存在する土地
       豪州では1992年のMabo判決によって、先住民であるアボリジニが伝統的な土地とのつながり持つとする先住権の存在が初めて認められ、これに基づいて1993年に先住権法4が制定された。先住権法では、先住権は未利用の政府所有地及び放牧リース地内にある土地や水域等に存在できるとされている。私的保有されている耕作用の農業用地や住宅用地、ならびにインフラ用地、公共機関用地等では先住権は消滅しているとされている。1996年のWik判決において、放牧リース地に先住権が存在する可能性のあるとする判決がなされている。

    2) アボリジニ所有地
       アボリジニ所有地では、法的には先住権は消滅しているが、その代りにアボリジニによる、より強い土地所有権が認められている。アボリジニ所有地は、SAでは1966年に、NTでは1976年に制定された法律に基づいて設定されている。このことは豪州の一部では、1992年のMabo判決より以前に、アボリジニの権利を認める法的な制度が設定されていたことになる。その面積は、SAで約26万km2、NTで約59万km2、合計で約85万km2という広大な土地である。

    (2)

    先住権法における探鉱開発手続き(主に探鉱プロジェクトの申請プロセスについて)

     一般に、探鉱活動は先住遺産に大きな影響を与えないと考えられることから、探鉱権申請を公告し、先住民等から異議申し出がなければ探鉱権が承認される簡略プロセス(Expedited Procedure)が適用される。もし異議申し出が行われた場合、当事者が交渉によって解決するか、連邦先住権調停機関(NNTT)が仲裁する交渉権プロセス(Right to Negociate:RTN)が適用される。
     また、先住権保有者側との交渉を迅速に行うために、あらかじめ包括的な合意を設定しておく先住地使用合意(ILUA)5というプロセスも適用される。ILUAは、あらかじめ、先住権保有者側と探鉱開発者側との取り決め事項等を含んだ標準合意のようなものを策定しておくもので、交渉時間を短縮する効果があり、一部の州政府は鉱物資源賦存の可能性の高い地域6において優先的にILUAを設定する政策をとっている。
     いずれにしても、先住権法上の制度の主旨は、開発と伝統的遺産の保全の両立を図ろうとするもので、先住権保有者側に探鉱開発権の許認可手続きを止める権利は与えられていない。交渉権プロセスにおいて、当事者である先住権保有者、探鉱開発実施者は誠実に(good faith)交渉に臨まなければならないとされている。

  5. 先住権をめぐる不可思議な対応

  6. (1)

    先住権の登録と包括合意の策定

     2004年にWA政府が一つのパンフレット7(別添図参照)を作成した。これは各州・準州における先住権問題の取り組みの進展について解説したものである。添付された図によると、先住権関係の申請、裁定対象の土地は以下の6種類に分類されている。

      1) 登録済み先住権申請地域(Registered Native Title Claims)
      2) 先住権確定地域(Native Title Determinations)
      3) 伝統的所有地(Indigenous freehold land)
      4) 登録済みILUA(Registered and notified ILUA)
      5) 州モデルILUA(State Model ILUAS)(QLD及びSA)
      6) 州モデル遺産合意(State model Heritage agreement)(WA)

     これらと以下の点に留意しながら、先住権問題を理解する必要がある。
     上記のうち、1)は先住権の申請が行われ、先住権が存在する可能性のある土地である。また2)は、裁判所の裁定によって先住権が確定した土地であるが、実態としてその数はまだ少なく、Mabo判決からちょうど10年たった2002年において、先住権の登録申請数589件のうち、先住権確定件数はわずか30件である。
     4)、5)、6)は、先住権が存在する可能性のある地域(上記1)及び2))において、探鉱開発申請に備えた包括的合意であるILUAが設定されている土地である。1) 2)は先住権の存在の有無、4) 5) 6)は包括的な合意なので、両者は重複する場合がある。

    (2)

    アボリジニ所有地では拒否権がある

     このパンフレットにおいて、豪州における先住権問題は大きく進展しているような印象を与えているが、この中で3)アボリジニ所有地について、まったく触れられていない点に留意する必要がある。上述のとおり、アボリジニ所有地においては、私的所有権があるが、同時にこれに基づく拒否権(Veto)が認められている。一度拒否権が発動されると、その後5年間は猶予期間となり再申請ができなくなる。この拒否権は、探鉱開発申請を差し止めることが可能で、探鉱開発を行う際、大きな障害になっている可能性がある。
     NTにおいて、アボリジニ所有地は全面積の半分にあたる約59万km2あまりを占めている。NT州政府によると、この中における探鉱鉱区申請件数は525件あり、このうち許可されたものは214件であるが、これと並んで、拒否権が発動され猶予期間(5年間)に入っている事例が124件8ある。

    (3)

    アボリジニ所有地では先住権は消滅

     アボリジニ所有地では、土地の私的所有権に近い強い権利が認められ、法的には先住権は消滅しているとされている。豪州において「先住権」という言葉が使われる場合、一般的にはアボリジニ所有地に言及していないことが多いことに留意する必要がある。上記WAのパンフレットでも、先住権問題解決への推進が強調されているが、アボリジニ所有地については、添付の別添図に記載はあるものの、具体的な記述はない。それは、アボリジニ所有地において法的には先住権が消滅しているという理由によるものである。連邦産業観光資源省(DITR)は、外国企業による豪州への資源投資促進を目的とした投資ハンドブック9を作成しているが、この中では先住権法とそれに関係する諸制度について言及しているものの、アボリジニ所有地についての記述はない。

  7. 分かれる政府の対応

  8.  探鉱開発における、こうしたアボリジニ所有地をめぐり、連邦政府の対応が分かれている。北部準州政府、北部準州鉱業協会は、こうした古い法制度が探鉱開発を阻害しているとの意見を出しているが、アボリジニ保有地を管理するアボリジニ土地管理協会は、探鉱の実績や操業鉱山の実例をあげ、この法律自体が問題ではないとしており、両者の対立構造が存在している。
     連邦政府は、探鉱投資の阻害要因についての調査を行い、二つのレポートを作成しているが、これらのレポートのでは微妙に食い違う結論が出されている。
     2003年に連邦下院資源工業委員会が、豪州における探鉱阻害要因に対する政策レポートを作成した。この中で、アボリジニ所有地問題について、最終的に「委員会はこの問題に関与しない」10との結論を出している。このレポートの他の部分では、カナダのようなフロースルーシェア税控除制度の導入等の探鉱促進政策を提言していることと比較して、アボリジニ所有地に対する消極的な結論は奇異である。一方DITRも、2003年に政策提言レポート「Mineral Exploration Action Agenda」を作成したが、この中では、アボリジニ所有地は、探鉱阻害要因となっているとしている。この中で、アボリジニ土地管理協会のあり方の問題、法律改正の必要性等を指摘している。
     以上のように、アボリジニ所有地について、政府内の見解が分かれており、この問題の政治的な難しさを示唆している。

    まとめ

     先住権法においては、先住権の設定と探鉱開発に対し、一定のプロセスを確立しているものといえる。先住権法の精神は、探鉱開発を阻害するものではなく、むしろ両者の調和を図るものといえる。これに対してアボリジニ所有地やリザーブにおいて、先住権は消滅しているものの、拒否権があり、探鉱開発を阻害している可能性がある。またアボリジニ所有地に対する、連邦政策の対応も二つに別れている。豪州における「先住権」に関する資料や文献において、アボリジニ所有地についてはまったく触れられていないことがあり、先住権問題を考える場合、こうした点に留意する必要がある。

    豪州先住権関係状況図(WA州政府、2004)


    1   Aboriginal Freehold LandまたはIndigenous Freehold Land
    2   州及び準州名は省略形を使用する。SA:南豪州、NT:北部準州、WA:西豪州。
    3   Musgraveブロックは、西豪州、南豪州及び北部準州にまたがっているが、西豪州部分のWest MusgraveにおいてWMCがニッケル鉱化作用を発見し探鉱を行っている。
    4   連邦政府が定めた先住権法のことで、「先住権原法」という用語が使われることもあるが、ここでは先住権法とする。
    5   ILUA:Indigenous Land Use Agreement
    6   SAでは、Gawler Cratonですでに設定されており、今後はCurnamona Province等に広げていく。
    7   Native Title and Land Access, Australia 2004
    8   2004年6月末現在。NT準州政府による。
    9   Mineral and Petroleum Exploration and Development in Australia, A Guide for Investors:Invest Australia, Department of Industry, Tourism and Resources(DITR)
    10   The Committee does not wish to enter a debate about the extent of mining activity in the Northern Territory.(7.12, Exploration and Native Title)
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