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報告書&レポート

2005年2月3日 サンティアゴ事務所 中山 健 e-mail: nakayama-ken@entelchile.net
2005年05号

チリ新鉱業ロイヤルティ法案の概要と今後の見通し

 はじめに

     チリ鉱業ロイヤルティ法案は、2004年7月5日に政府案が国会に提出されたが8月12日否決された。2004年12月、政府はそれに代わる新たな法案を国会に提出された。旧案は、鉱産物売上に対して3%のロイヤルティを賦課するものであったのに対し、新案は利益の5%を鉱産税として徴収するものである。今回国会に提出された政府案の概要を紹介するとともに、法案の今後の見通しについてレポートする。以下、便宜的に旧ロイヤルティ法案をR-I、今回の新ロイヤルティ法案をR-IIと称する。

  1. 政府新案(R-II)の概要

  2.  R-Iは鉱業法((法律19.097)の改正を伴うものであったが、R-IIは、鉱業法の改正はなく、外国投資法(法令第600号、通称「DL600」)および所得税法(法令第824号)の改正により、売上利益に課税をするものとなる。ポイントは以下のとおりである。

    • 鉱産物の売上による営業利益率(課税対象営業利益/鉱産物売上高)が8%以上の鉱山採掘業者もしくは鉱産物の年間売上高が8,000UTA(5億ドル、UTAは年間納税単位)以上の鉱山採掘業者が対象。
    • 税率は課税対象営業利益の5%。
    • 5億ドル以上のプロジェクトを実施する外国投資家および外国投資受け入れ企業は15年間新設する税不変制の適用を受け、この間新たな特別課税の適用を受けない。
    • 既に法令第600号により政府と契約をしている企業は、R-IIに切り替えその適用を受けるか、法令第600号の契約をそのまま継続するかを選択しなければならない。但し契約期間が満了した場合は、そのままR-IIの適用を受けることになる。
    • R-IIに切替える場合は、4%の税率が適用される。また2007年12月31日まで加速償却制度が適用される。税不変制の適用期間は変更契約日から15年間。
    • R-IIは2006年1月1日から適用される。
    • 新税は第1種税(法人所得税)額確定にあたり必要経費として控除。
    • 加速償却費は控除対象外。
    • R-Iは鉱業法(法律19.097)を改正するものであり、国会承認には4/7の賛成を必要とした。これに対して、R-IIは外国投資法および所得税法の改正であり、議会の過半数の賛成で可決されることになる。

  3. R-IIの特徴

  4.  国会に提出された教書では、非再生資源採掘に対する補償であることを述べている。しかしながら、売上高に対する課税ではなく営業利益に対して5%の課税するもので、Otto (2000)のいう国家の有する資源の使用料とは異なり、また法律上の手続きも所得税法および外資法の改正であることから、ロイヤルティというよりもむしろ鉱産税の性格を持つ。国会に提出された大統領教書のタイトルもR-Iが「従価鉱業ロイヤルティ制定」とうたっているのに対し、R-IIは「鉱業活動に特別税を設定する法案」とされている。
     R-Iは、金属鉱産物に対しては、既存の税制に加え、新たに売上の3%をロイヤルティとして徴収するというものであったが、R-IIにおいては、途中からR-IIを選択した法人についても、以後15年間税制不変性が保証された。
     新税による税収見込みは政府よると、銅価を0.93ドル/ポンドと仮定した場合、年間1.4~1.5億ドルになると試算されている。

  5. 鉱業界および政党の反応

    • 鉱業界:R-IIに対して、業界団体であるチリ鉱業協会(SONAMI)および鉱業審議会(Consejo Minero)は、法案が国会に提出されるまで、公式見解を控えてきたが、下院鉱業委員会で本法案は、全生産セクターに対して平等であるべき税制の平等性を失う差別的税制であり、探鉱投資と増産計画を抑制し、結果的に鉱業投資を減退させるものだと強い反対の意見陳述を行った。しかし一方ではR-Iに比べて、外国投資法で取り決めた権利を尊重するメカニズムが構築されており、業界への損害は少ないと比較的好意的な意見もある。
    • 野党:鉱山会社からのロイヤルティ徴収は、チリ国民の75%のコンセンサスが得られていると言われている。こうした背景もあり、野党は基本的にはロイヤルティ徴収もしくは鉱産税の徴収には賛成の立場である。R-Iに対しては、鉱物資源の所有権に関してロイアルティの違憲性を強調し反対の立場をとった。R-Iの対案として野党右派民主革命同盟(UDI)党首Lavinサンティアゴ市長は、2004年8月鉱区税の増額を提案した経緯がある。R-IIについては、現在のところ明確な反論の論拠も出されていない状況である。UDIは、徴収した税金の使途に条件を付して政府案を支持することを表明したという報道もある。
    • 与党:R-IIはR-Iに比べて業界寄りであり、税制不変期間の短縮、移行期間の税率を4%ではなく5%にすること。徴収税の関係州への配分の規程化。2006年および2007年の所得税50%引下げの撤廃および納税者基準利益率8%以上の撤廃の法案修正要求を出している。

  6. 今後の見通し

  7.  チリは銅鉱床ポテンシャルの高さもさることながら鉱業投資環境が整備されており、なかでも鉱業関連税は世界的に最も低いレベルにある。このため、1990年初期以降多くの鉱業投資がなされ、今日の世界最大の銅生産国の地位を築いてきた。チリ政府は、鉱業活動=非再生資源採掘に対する代償として、技術開発等の人工の再生可能な資本への転換を目的として鉱業ロイヤルティの必要性を主張してきた。これに対して鉱業界は、新たな鉱業ロイヤルティは、実質的な増税で、鉱業活動を減退させ、ひいてはチリ経済に重大な悪影響を与え、金の卵を産む鶏を殺すもと一貫して反対してきた。鉱業活動に対してロイヤルティを課すことは、国民の75%が賛成しているといわれており、また野党も基本的には賛成しているが政治的思惑が絡んで反対の立場をとって来た背景がある。
     チリは、2005年12月に大統領選挙を控えており、政府与党としてはLagos大統領任期中の成立めざしたいところである。本法案は、1月5日に下院鉱業委員会で審議が開始され、10日以内で処理する”very urgent”のステータスを得たものの、与党内での十分なコンセンサスを得ないまま法案が国会に提出されたこともあり、政府与党間の調整に手間取っている模様で1月20日現在未だ下院鉱業委員会で審議中である。政府与党間でR-IIに関する作業グループを設置し再検討を行う動きもあり、本議会での最終的な採決は3月になる可能性が高くなった。
     上記のようにR-IIは、R-Iは否定されていた税制不変の原則が守られており、投資家にとっては受入れ易くなっている点があげられよう。また、法律の改正を必要としないことから国会では単純多数決で可決されることになる。現在の下院の与野党割合は70議席:50議席、上院は20議席:18議席である(上院はそのほかに非民選議員11名を含む)。いずれにしても今後の国会審議が注目される。

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