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報告書&レポート

2005年4月14日 リマ事務所 辻本崇史 e-mail:ommjlima@chavin.rcp.net.pe
2005年23号

ペルーにおける遺跡保護と探鉱開発

  1. はじめに

  2.  ペルーは、マチュピチュに代表されるインカ時代の遺跡で有名であるが、プレインカ時代の遺跡も含めると、これら遺跡は全国土に広がり、その数は記録されているものだけでも約1万か所、実際には10万か所程度存在するものと言われている。これらの遺跡に対し、国は国家的財産として保護することを基本としているが、一方、鉱物資源の探鉱開発を推進する側から見るとこれは障害要因ともなり、ペルーに特徴的な問題として特段の配慮を必要とする。
     今般、遺跡保護と探鉱開発の問題について、探鉱開発を推進する立場にあるエネルギー鉱山省、遺跡保護の立場にある文化庁の双方から、この問題についての認識、対処法等を聴取する機会を得たので、これを紹介するとともに、現状において実際に探鉱開発を行う場合に、どのような対処方針が望ましいかを提言する。

  3. エネルギー鉱山省の見解

  4.  面談者:鉱山振興・開発部長

    • 鉱山開発と遺跡の問題について、開発側が真剣に考える様になったのはここ数年であり最近の話である。それまで、開発側は文化庁に記録されていない様な遺跡(あるいは遺跡らしき構造物)は軽視し開発を優先させて来た。しかし、最近では、エネルギー鉱山省と文化庁が連携し、この問題に対する対処法の検討を進めている。
    • エネルギー鉱山省として、探鉱開発側のニーズもあり、本問題に対するガイドライン作成の必要性は感じているが、現在は存在しない。
    • 探鉱開発に際して、遺跡に対する現在の適切な対処プロセスは次の様に考えている。まず、探査段階では、遺跡(あるいは遺跡の可能性がある)場所を探査の対象外とする。次に遺跡のある場所を含めて開発段階に進みたい場合、文化庁指定の遺跡専門家による遺跡調査が必要となる。遺跡は、文化庁が確認している以外にも多々あり、視覚的に確認できる遺跡以外にも地下等に広がっている場合もあり、専門家でしか遺跡の範囲は確定できない。
    • 遺跡範囲の確定と共に、遺跡の価値が重要であり、この評価によって開発の可否が決まる。評価は一般に次の三段階であり、(1)の場合を除き開発は可能である。
      (1) 最重要の遺跡の場合、保存が義務づけられ遺跡の範囲内の開発行為は不可。
      (2) 次ランクの遺跡の場合、遺跡を移動させれば遺跡範囲の開発は可能。
      (3) 重要度の低い遺跡の場合、遺跡調査により報告書を作成すれば取り壊して開発は可能。

  5. 文化庁の見解

  6.  面談者:考古学部長

    • 遺跡はペルー国内で約1万か所が記録されているが、実際には10万か所程度存在すると言われており、とても全体は把握しきれていない。記録されている遺跡も整理段階で、一部の地区を除き、簡単に検索したり地図上で場所を確認できる様な形に整理されていない。
    • 文化庁としては、鉱業分野のみならず地表を変形する様な工事に際しては、CIRA(考古学遺跡不存在証明書:Certificados de Inexistencia de Restos Arqueologicos)の取得を要請している。
    • 現在、鉱業分野では、開発に先立つEIA(環境影響評価)調査の一環として本証明書(CIRA)取得を目的とした調査が実施されている。これで遺跡の不存在が確認されれば問題ないが、遺跡が存在すると文化庁はこれを保護すべきとの立場である。しかし、開発側がこの遺跡を含めた開発を希望する場合、この遺跡の価値等から判断し、十分な遺跡調査の後に開発を許可(遺跡を壊す)する場合もある。
    • 文化庁としては、CIRA取得のための調査を探査段階から必要と考えている。地表変形を伴わない様なレベルの探査なら問題ないが、ボーリング調査、立ち入りのための道路造成、キャンプ地の設営等を行う場合は、事前にCIRAを取得し、遺跡の存在が判明した場合は、その範囲内を対象から除く必要がある。そもそも、遺跡の有無、遺跡範囲の確定等は遺跡調査の専門家にしか正しく判断できないので、文化庁としては、探査段階でCIRAの取得が必要と考えている。
    • 遺跡と探鉱開発の問題については、エネルギー鉱山省とも協議を継続しているが、同省とはスタンスの違いもあり、現在、制度的にCIRAの取得は探査段階では義務化されていない。しかし、文化庁としては将来的に、探査段階であっても地表変形を伴う様な調査(ボーリング等)に際しては、事前にCIRA取得の調査を義務化したい意向である。

  7. 遺跡問題に対する現実的な対応方針

  8.  遺跡問題に対する現在の対応は、ここで紹介した両機関の関係者の発言より、開発がかなり現実的な段階になってからCIRA取得の調査が行われている模様である。そして、文化庁が希望する探査段階でのCIRA取得は制度的にも義務化されておらず、実際にもそのような措置は多くの場合取られていないのが現状である。
     鉱山エネルギー省としても、案件数が相当な数になる探査段階でCIRAの取得が義務づけられると、探査活動が遅延する等、鉱業投資環境が悪化することから、これには徹底した抵抗が予想される。また、仮に探査段階でのCIRA取得義務化となった場合、文化庁内での許認可事務等の対応が追いつかず、探査活動の大幅な遅延を招く可能性もある。
     一方、遺跡保護に関する法的規制に関し、政府は2000年に考古学調査規程(Reglamento de Investigaciones Arquelogicas)を制定し、法的遺跡保護(コロンブスのアメリカ大陸到着以前の考古学的建造物を対象)を推進し、遺跡損傷等の遺跡保護に反する行為には罰則規定も設けている。従って、鉱業活動に際しても、鉱業関係者はこれら法規に十分注意を払う必要がある。更に、今後鉱業活動と遺跡問題に係る法的規制が進展するものと考えられる。
     そこで、現状において、探査開発を推進する側が、遺跡問題に対して取るべき望ましい現実的な対応について、以下に提言する。この対応については、先の二機関での入手情報に加え、別途、鉱業案件に係る遺跡調査の経験を有する遺跡専門家から得た情報も加味している。

    • 鉱業権を取得し、探査活動を実施する前(あるいは極めて初期段階の探査活動(地質調査等)の後)、遺跡専門家による予備的遺跡調査を実施する。本調査の期間・経費は調査面積等にもよるが、一般には一か月以内、5,000~10,000ドル程度である。これにより、遺跡の有無を調査し、遺跡が存在した場合には、その範囲の特定と遺跡の考古学的価値を把握する。この調査により、遺跡が存在した場合でも、将来開発段階まで進んだ場合にこの遺跡を取り壊すことが可能か否かについておおよその見通しが立つ。現実には、その開発プロジェクトの国家的重要度と遺跡の考古学的価値が天秤にかけられる様で、大規模プロジェクトほど国家経済面での寄与が大きいとの観点から開発側に有利となる。
    • 上記調査で、遺跡が存在し遺跡範囲が特定されたら、その範囲内では、地表変形を伴わない調査(地質調査、地化学探査等)に限定して探査は可能。遺跡範囲外では、当然、一般の探査活動を実施可能。
    • F/S段階に至った場合、開発対象範囲についてCIRA取得の調査を正式に文化庁に要請し、文化庁が定めた所定の手続にそって進める。開発対象範囲内に遺跡(既に予備的遺跡調査で把握済み)が含まれる場合、この範囲はCIRAが取得できないので、遺跡評価調査を要請し、調査記録保存後の遺跡取り壊し許可を求める。
    • 予備的遺跡調査で把握した遺跡の範囲内において、開発段階以前の探査段階でボーリング調査等の地表変形を伴う作業がやむを得ず必要になった場合は、この段階で文化庁に対し遺跡評価調査を要請し、作業の許可を求める。

  9. おわりに

  10.  遺跡保護と探鉱開発の問題は、今後、環境問題に対する意識の向上と共にペルー国内での関心も高まり、関連の法制面の整備も進むものと思われる。これは、探鉱開発を推進する側にとっては、必ずしも歓迎すべき事ではない。しかし、その数が10万とも言われる遺跡には考古学的価値が低いものも多く含まれているとの見解もあり、一方、鉱山開発プロジェクトはその規模が大きいほど国家経済に与えるインパクトも大きく、時宜を得た、円滑かつ効率的な鉱山開発が期待されている。従って、探鉱開発の実施者は、これら遺跡の存在に配慮しつつ、所定の手続きを踏んだ上での前向きの対応が必要と考えられる。そして今後、探査・鉱山開発に伴う遺跡保護に関する法的規制が新たに創設される場合には、遺産保護・保全と迅速な鉱山開発とがバランスの取れた形で行えることに配慮した制度が期待される。本問題に係る今後の動向に注目したい。

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