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報告書&レポート

2005年7月14日 シドニー事務所 久保田博志 e-mail:kubota-hiroshi_1@jogmec.go.jp
2005年47号

オーストラリアにおけるフライ・イン・フライ・アウト(FIFO:Fly In /Fly Out)の現状

  フライ・イン・フライ・アウト(FIFO:Fly In / Fly Out)は、1980年代ころより「鉱山町を建設しなくてすむことから鉱山開発の採算性の向上、環境・先住民問題の回避、閉山後の問題、雇用確保・ライフスタイルの多様化などに対応する画期的な労働形態」*1としてから急速に普及したが、州政府の中には遠隔地にある町の崩壊につながるとして規制を検討する議論が起こっている。 本稿では、「理想的な」労働形態として普及してきたFIFOの現状と問題点を報告する。

1. FIFOの歴史

 FIFOは、鉱山開発の際に近くに鉱山町を建設する代わりに最寄りの都市から労働者を飛行機を用いて、2週間~数週間ごと勤務と休暇を繰り返す労働形態である。
 1940年代のメキシコ湾での海上油田開発で採用され、その後、1970年代に急速に広がり1980年代の北海油田開発では6万人がFIFOを利用したと推定されている。
 陸上におけるFIFOは1970年代の末ごろからカナダを中心に広がり、オーストラリアでは特に面積の広い西オーストラリア州において多く行われている。*2

2. FIFOの現状

 オーストラリアにおけるFIFO は、1980年代から徐々に増加し、1980年代後半のOlympic Dam鉱山開発(南オーストラリア州)の際に新規の鉱山町が建設されて以降、新規の鉱山開発のほとんどがFIFOによるものといわれている。
 西オーストラリア州鉱物エネルギー協会(CME:The Chamber of Minerals & Energy Western Australia)は、「100鉱山 約18,000人を対象にした調査で、全鉱山労働者の76.5%が鉱山会社労働者、24.5%がコントラクター労働者であり、全鉱山労働者の53%が鉱山付近に居住し、47%がFIFOを利用し、鉱山会社労働者の62.5%が鉱山付近に居住し、37.5%がFIFO、コントラクター労働者の22.3%は鉱山付近に居住し、77.7%がFIFOを行っている」と報告している。*3

3. FIFOの問題点

 西オーストラリア州政府与党の一部からは、FIFOが遠隔地にある町の崩壊の原因であるとしてFIFOを規制する法律の制定を求める声が上がっている。案では鉱山が既に存在する町からのある一定範囲(例えば150km)以内に位置する場合、その鉱山へのFIFOを禁止すると言った内容のものである。
 しかし、この案に対しては西オーストラリア州鉱業協会(Western Australia Chamber of Mines)が反対している。同鉱業協会は、「州政府は鉱業から年間270億豪ドルの収入(税収等)を得ているが、その中の126億ドルがFIFOによってもたらされており、遠隔地の小規模な町の発展は政府の責任である」と言うものである。また、同鉱業協会は、鉱山労働者の多くは遠隔地の小規模な町に引越したくないと、こ引越したくない労働者をその意思に反して引越させることはできないこと、FIFOがなければ遠隔地の小規模な町が発展するとは限らないことなどを指摘してFIFOの規制に反対している。

4. FIFOへの様々な意見

 FIFOに対する様々な意見があるが、FIFOのメリットとデメリットを下表にまとめた。

表)FIFOのメリットとデメリット
FIFOのメリット FIFOのデメリット
鉱山の操業期間が短い場合、鉱山町の建設が経済的ではないことがある。そのような場合にはFIFOを用いることで鉱山町建設コストを計上しなくてすむことから鉱山を開発することができる。  
鉱山の操業期間が短い場合、FIFOによる開発が鉱山町の建設に比べ、投資額を3分の1程度まで圧縮できることがある。 鉱山の操業期間が長いほど鉱山町を建設したほうが経済的。
町の建設が経済的と判断されるまでFIFOを行ってもその後で町を建設することはできる。  
鉱山閉山後、鉱山町の発展が進まなかったり、失業率が上がったりする。最初から鉱山町を建設しなければこうした問題がない。 既に存在する町が崩壊する。
既に存在する町がFIFOによって展開することもある。一時的でも町に鉱山労働者が住む以上、社交場、飲食、家族等への郵便・通信などの施設・サービスを必要とする。また、遠隔地の小規模な町にも航空路線が設定される。 FIFO以外の場合、より具体的な開発計画(道路やインフラ、銀行、郵便局など)がある。
遠隔地の小規模な町では配偶者に就職の機会。選択が少なくい。特に専門的な仕事が少ない。子供の教育、就職の機会も少ない。  
鉱山町や町への道路、電路、ダム等の建設のほうが鉱山開発よりも環境に悪い影響を与える。  
FIFOのほうが先住民に与える影響が少ない。  
地域社会に対する責任が少なく、都市部に住みたいと考える若年労働者(最近卒業者)のライフスタイルに合う。技能労働不足の原因の一つは遠隔地に居住することを敬遠する傾向があげられる。 家庭のある中高年層の鉱山労働者年に辛い。配偶者(特に妻)と子供と長い間離れることで家族崩壊が起こるケースが多い。また、配偶者に大きなストレスを与える。
家族に辛いが家族全員を(遠隔の)別な町に引っ越させるよりましだ。 単身赴任は、鉱山労働者家庭の家族崩壊を招き、その結果、アルコール中毒・薬物中毒の問題も膨らむ。
企業側にとっては、長時間勤務(特に12時間ずつ)が可能になり、更に効果的・経済的。 勤務時間が8時間から12時間まで延びる。勤務の長時間化により、事故・怪我が増える。
鉱業は配置転換が高い。長い間小型町に住む委任に結束してましたい人が少ない。  

5. おわりに

 FIFOは鉱山開発のコストを下げることができることから、その普及が進み新規鉱山開発のほとんどはFIFOを採用するようになった。特に金属価格が低迷した1990年代はコスト削減が鉱山開発・操業の最優先事項であり、FIFOのコスト削減効果が強調された。
 2000年代半ばオーストラリアでは、金属価格の上昇と中国経済発展による鉱山生産・鉱産物輸出の増加により、鉱山労働者の増員で既存の鉱山町の中には人口が増加する町がある一方で、遠隔地の現場の多い鉱山業では技能労働者の確保が困難になっていること、また、全世界的に広がった「持続可能な開発」(オーストラリアでは「継続的な価値」(Enduring Value)として具体的は鉱山開発のガイドラインを策定)によって地域社会の持続的な発展への関心が高まっていること、などからFIFOに対して賛否両論の議論が起こっている。
 州政府・鉱業界は、ともに中国景気を背景に堅調な発展を続けるオーストラリア鉱業のアキレス腱となりつつある技能労働者不足や遠隔地の発展の問題を解決するひとつの方法としてFIFOがあることを認識しつつ、その有効な利用法を模索している。

参考・引用文献
*1 金属鉱業事業団(1997), カレント・トピックス「豪州のFly-in/Fly-outオペレーションの動向」
*2 The Chamber pf Minerals & Energy Western Australia(2005.1), Fly in / Fly out A Sustainability Perspective, A discussion of the triple bottom line impact of fly in / fly out operation in Western Australia’s resources sector.
*3 その他地元紙記事

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