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報告書&レポート

2005年8月4日 サンティアゴ事務所 中山 健 e-mail:nakayama-ken@entelchile.net
2005年50号

最近のチリ銅鉱業におけるモリブデン効果―ワイン、サケを凌いだモリブデン―

 1.はじめに

 チリの大型ポーフィリー銅鉱床にはモリブデンを伴うものがあり、Chuquicamata鉱山ほかではモリブデンを副産物として回収している。2004年後半からのモリブデン価格の高騰・高留まりにより、モリブデンを副産物として回収している銅鉱山では、モリブデン効果により、生産コストの大幅な低減とともに、収益性の向上に大きく貢献している。また2005年第1四半期チリのモリブデン輸出額は、ついにワイン、サケを抜き、銅に次いで第2位となった。チリの銅鉱業における最近のモリブデン生産状況とモリブデン価格高騰・高留まりの効果について紹介する。

2.チリにおけるモリブデン生産状況

 2004年チリは、米国に次ぎ世界生産の28%を占める41,883tのモリブデンを生産した。世界のモリブデン鉱床は一般にClimaxタイプ鉱床のように高品位のモリブデンのみを回収するプライマリー鉱床とポーフィリー銅鉱床(一部スカルン鉱床)の副産物としてモリブデンを回収するバイプロ鉱床に分けられ、チリの場合は後者のタイプである。銅の副産物として回収されるため、基本的にモリブデンの生産調整が出来ない宿命にある。現在チリでモリブデンを生産している鉱山は、Chuquicamata(CODLECO)、El Salvador(CODELCO)、Andina(CODELCO)、El Teniente(CODELCO)、Los Bronces(Mina Sur Andes Limitada)およびLos Pelambres鉱山(Minera Los Pelambres)の6鉱山であり、2006年からはCollahuasi鉱山で生産が開始される予定である。Collahuasi鉱山では、2004年からモリブデン品位の高いRosario鉱床の開発に移行しており、それに併せ38百万ドルを投資してモリブデン回収プラントを建設中である。当面は年産4,000tで、将来7,500tに増産する予定。精鉱は全量Molymet社に売鉱されることになっている。


図1 モリブデン生産推移

(Compendio de la Mineria Chilena 2005から作成)

 1988年から2004年のモリブデン生産推移を図1に示す。銅鉱石の副産物であることから銅の生産に呼応して増加している(モリブデンは硫化精鉱に含有されること、大型鉱山から生産されるが全ての鉱山ではなく、銅生産量とは必ずしも比例しない)。Chuquicamata鉱山では2003年から2004年にかけて48%の伸びを示しており、モリブデンに重点を置いた回収をしていることが伺える。Los Pelambres鉱山では、露天採掘計画の関係で鉱石品位が低下し、2004年に比べ10%減の7,853tの生産となった。 CODELCOの2005年1~5月の生産状況についても銅生産量は、2004年比0.7%増であるのに対して、モリブデンは19.5%増となっており(7月21日付けEl Mercrio紙)、明らかにモリブデン回収に重点を置いていることを示している。
 鉱山で生産されたモリブデン精鉱(品位50~59%)は、チリ国内の各プラントで焙焼され、三酸化モリブデン、一部フェロモリブデン、化学用モリブデンに加工され海外に輸出されている。現在チリでは焙焼プラントは、CODELCO(Chuquicamata製錬所)、Anglo American(Chagares製錬所)、Molymet社が有している。2005年からNorandaFalconbridgeもAltonorte製錬所で生産を開始した。Molymet社は地元資本の所謂カスタムスメルターで三酸化モリブデン、フェロモリブデン、化学用モリブデンを生産している。同社の原料調達先は、CODELCO(30%)、Los Pelambres(10%)、Los Bronces(?)で、新たにCollahuasiが加わることになる。またペルーのAntamina鉱山およびCerro Verde鉱山からもモリブデン精鉱を輸入している。なお同社は世界的なモリブデンの需要に合わせて78百万ドルを投資し2007年に現在の焙焼能力を50%増大させ150百万ポンドにする予定である(5月30日付けEstrategia紙)

図2 モリブデン価格および輸出額推移(輸出額はチリ中央銀行データ)

3.モリブデン効果

 モリブデン価格は、1995年の高騰(1月16.13$/lb)以降3~5$/lbで推移していたが、2004年1月には7.9$/lb、10月には21$/lb、12月には31.24$/lbを記録し、それ以降現在まで30$/lb台で高留まりの状態が続いている。銅の副産物としてモリブデンを生産する鉱山ではモリブデンクレジット効果により銅生産コストが大幅に低減され、山元キャッシュコスト(C1コスト)がマイナスになるという現象が生じている。すなわち、モリブデンのみを回収しても収益があがり、銅にはコストが掛からないことになる。モリブデンを副産物として生産する銅鉱山ではこのようにモリブデンの売上が収益向上に大きな貢献をしている。
 2004年CODELCOは、4鉱山で32,324tのモリブデンを生産した。売上高は、前年比340%増の1,042百万ドルとなり、この金額はCODELCOの売上高8,203.7百万ドルの13%に相当する。また2005年1~5月の売上高は銅の20.91億ドルに対して、モリブデンは11.1億ドルに達した(7月21日付けEl Mercurio紙)。第1四半期のCODELCO全体のキャッシュコストは、マイナス8¢/lbを記録した。
 Los Pelambres鉱山の2004年モリブデン生産は、7,583tでその売上高は、前年比241%増の331百万ドルを記録した。2004年の銅生産の山元キャッシュコストは、モリブデンクレジット効果により7.9¢/lbとなった。2005年第1四半期は、モリブデンの平均価格が、31.2$/lbとなりキャッシュコストは、マイナス45.9¢/lbを記録した。この効果はAntofagasta Plc社の持ち株会社である生産コストの高いEl Tesoro鉱山(57.8¢/lb)およびMichilla鉱山(102.4¢/lb)分コストを吸収して全体でマイナス8¢/lbという結果になった。
 Los Bronces鉱山の2004年モリブデン生産量は、1,195tで、67百万ドルの売上となった。

4.モリブデン輸出額推移

 価格高騰に支えられモリブデンの輸出額も大幅に増大し2004年輸出額は、前年比292%増の13.77億ドルを記録した(第3図参照)。さらに、2005年第1四半期はワイン、サケ・マスの輸出額を上回り、7.16億ドルで第2位の輸出産品となった。チリ中央銀行発表の直近2005年6月のモリブデン輸出額は、360.5百万ドルで月単位の輸出額としては過去最高額を記録した。ちなみにこの額は2003年年間輸出額に等しい。

図3 モリブデン、鮭・鱒およびワイン輸出額推移(チリ中央銀行データから作成)

5.おわりに

 チリにおいて、モリブデンはこれまで銅鉱石の副産物として回収されて来たが、価格が低水準にあった2004年前半までは、その貢献度は低くほとんど注目されることはなかった。2004年後半からの価格高騰・高留まりで、チリでもその存在が一躍重要視されるようになった。既述のようにブルマーケットによりサプライサイドでは活況を呈しているのに対して、デマンドサイドでは、深刻な原料高により経営を圧迫される事態に追い込まれていることは周知のとおりである。しかしサプライサイドであるチリ政府関係者もこの異常ともいえる急激な価格高騰と高留まりを決して歓迎している訳ではなく、むしろ危惧の念を抱いている。過去の高騰時にバナジウムによるモリブデンの代替が行われたこともあり、この高騰・高留まりにより新たな代替物が出現することに強い警戒を抱いており、需給バランスの中で適正な価格水準に安定することを望んでいる。またCOCHILCO(チリ銅委員会) Cartagena副総裁は、世界のモリブデン生産会社は少ないが業界情報や統計管理が進んでおらず、今後マーケット構造の分析を行い、消費動向の把握や生産計画の見通しが得られるようにすることが肝要だと語っている。
 世界最大の銅生産企業であるCODELCOは、アジアマーケットでの銅需要増に対応すべく2010年には、現在の銅生産180万t体制から250万t体制への拡張を計画している。CODELCO Norteディビジョンでは、Radomiro Tomic鉱床の下部硫化鉱床の開発、Chuquicamata鉱床の坑内採掘、AndinaおよびEl Teniente鉱床でも大幅な拡張が計画されている。またLos Pelambres鉱山も拡張を計画している。こうした銅の増産に合わせて自ずとモリブデンの生産も増大することになる。北米のプライマリー鉱床からの生産が頭打ちになるなか、ポーフィリー銅鉱床の副産物として産するチリのモリブデンは確実に増加することになる。中国経済成長に牽引されるステンレススチールの需要増と鉱石生産増で、今後市況がどう展開するのかサプライサイド・デマンドサイドともに神経を尖らせるところである。Cartagena副総裁の言にあるように詳細なモリブデン需給動向の情報分析が望まれる。

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