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報告書&レポート

2005年10月20日 バンクーバー事務所 宮武 修一、 中塚正紀、 スタッフ:室井エリサ e-mail:(宮武)miyatake@jogmec.ca (中塚)nakatsuka@jogmec.ca
2005年70号

Inco社によるFalconbridge社買収

 10月11日、Inco社およびFalconbridge社は両社が合併することを報じた。この数年、カナダFalconbridge社(Noranda社)の獲得を巡っては、ブラジルCVRD社、中国MinMetals社、スイスXstrata社らが次々と名乗りを上げ、長らく業界の中心的な話題の一つとなっていた。この度のInco社によるFalconbridge社買収を受け、一連の報道にも決着ムードが漂っている。本稿では、今回の合意の概要、経緯のほか、今後の見通しとして、予想される他社の敵対的なオファー、ニッケル市況への影響、今後のカナダ企業の再編の焦点につき、カナダ地元紙等より、とりまとめたので報告する。

1. 合意内容

 10月11日、カナダの大手鉱山会社Inco社は、ニッケル生産大手Falconbridge社を128億加ドルで友好的に買収することを提案、Falconbridge社の役員会も買収案を承認したことを両社は報じた。両社の合併により、時価総額243億USドル、従業員2万5千人、6大陸で運営を行う世界最大のニッケル生産会社が誕生することになる。この合併案は、最終的にFalconbridge社の株主とカナダ、アメリカ、ヨーロッパの独禁法規制当局の認証を得なければならない。合意の概要は以下のとおり。

Inco社はFalconbridge社株を1株34加ドルで買い上げるか、或いはInco社株0.6713株プラス5加セントと交換する。
合併後の新会社名にはInco社の名を残す。現在のInco社Chairman兼CEOであるScott Hand氏は新会社のChairman兼CEOに、またFalconbridge社Derek Pannell氏はPresidentに就く。
Inco社側は今後二週間のうちにFalconbridge社株主に対して、郵便で経営統合案と株式の買い受けを伝達する。株式買い受けのオファーは着後60日間有効。
仮にInco社との合併が成功しなかった場合、Falconbridge社はInco社に3.2億米ドルの違約金を支払う。

2. 買収の経緯とカナダ連邦政府の受け止め

 Inco社にとってFalconbridge社は、第二次大戦以前よりサドベリーにおけるニッケル生産の競合関係にあり、また最近生産が始まったVoisey’s Bayの権益取得を巡って両社が対抗したことも記憶に新しい。他方、1990年代には、実現はしなかったものの、Inco社はFalconbridge社に対してサドベリーでの提携を探ったことがあるという。また2004年、結局は中国Minmetals社が交渉権を得たものの、Inco社はBrascan社に対しFalconbridge社株式買い取りを打診していたという。その後Inco社は仕掛けるタイミングを探っていた。一年前はInco社にとってVoisey’s Bayの立ち上げ、またニューカレドニアのGoro案件など当面の資金需要が大きく、仮にまとまったキャッシュを求めるBrascan社の要求に応じればInco社自身の与信や株価も揺らぎ、逆に自社が買収の対象となるリスクまであった。しかしその後Voisey’s Bayは完工、Goroも資金アレンジが完了するなど、ここへ来て状況は大きく変化、買収決断の環境が整ったと言える。2005年8月中旬にXstrata社がBrascan社の株式を取得したが、Inco社は既にFalconbridge社と合併案につき協議を開始していたという。
 両社の合併について、カナダ産業大臣David Emersonは、「カナダを代表する企業2社の合併により、カナダをルーツとする世界規模の企業が誕生することはカナダにとって非常に好ましい動向だ」とコメントしている。

3. カウンタービッドの可能性

 スイスのXstrata社は、2005年8月、Brascan社が所有するFalconbridge社株の19.9%を購入し、今後も株購入を進めたいとしていたことから、今後Xstrata社によるカウンタービッドは、最も考慮される反応と考えられる。
 各紙は、Xstrata社のカウンタービッドは現実には困難とする見方を掲載。これは、① 合併不成功時のFalconbridge社の違約金3.2億ドルは、総ビット額の1%以下が一般的な中、3.5%と破格な高額。この「毒薬」条項により、他者が敵対的買収を躊躇する可能性は大。② コスト削減効果は、両社サドベリーでの操業を有するなど、他のどの非鉄大手よりもInco社との合併で最大*。またニッケル生産シェア向上も魅力で、従い他社では株主の合意を得難いのではないかという見通しが存在。③ 非鉄金属業界が記録的な利益を更新する中、いわば市況の最高値で取引を行うことは躊躇される。以上の理由から、仮にXstrata社から今後カウンタービッドが提示されるなら驚くべきこととの見方を示している。なお、違約金条件をFalconbridge社経営陣が了承したことについては、一部の同社株主及びコーポレートガバナンス評論家らからは異論、批判がある。

*United Steelworkersら労働組合側は、オーナーが誰であれ、全ての現在の施設を維持するよう主張。

4. ニッケル価格への影響

 ニッケル生産の第二位、第三位の合併が承認された場合、新Inco社のニッケル生産量はロシアのNorilsk社を抜き、世界第一位となり、一社でニッケル市場の約4分の1を支配することになる。Financial Post紙によれば、価格のコントロールには、他のコモデティの例から世界シェアの30%が最低ライン。新Inco社成立後、当面は満たないもの、新たに稼動する鉱山により、30%到達は時間の問題だとされる。また、今後世界のニッケル生産の約45%は新Inco社とNorilsk社の二者に握られることになると言われ、ニッケル生産を巡る競争の減少と、その結果としてのニッケル価格の安定化、高止まりは、消費者にとって懸念されよう。Norilsk社にとってInco社は厳しい競争相手ではあるが、Inco社主導の価格の安定化はNorilsk社にとっても有益であることは間違いなく、今回の統合を通じてInco社が1970年代の生産ポジションに再び戻ったことを、Norilsk社はおそらくは幸いと受け止めているのではないかという見方もある。

5. 今後のカナダ企業の再編の焦点

 Falconbridge社の買収に関係しては、両社経営者による合意により、一連の報道には決着ムードが漂っている。各紙の関心は、手持ち資金豊富なマイニング・ジャイアントの次なる買収ターゲット企業の憶測へと移りつつある。各紙は一致して、経営規模、資産の優良性などの点からTeckCominco社が最右翼と指摘している。他方、TeckCominco社の創業一族で最大株主でもあるKeevil氏は、他社への売却の意志は全くないことを表明している。

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