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報告書&レポート

2006年2月2日 シドニー事務所 永井正博、久保田博志、 研究スタッフ:Natalie J Barnes e-mail:masahiro-nagai@jogmec.net kubota-hiroshi_1@jogmec.go.jp
2006年06号

オーストラリア鉱業の温室効果ガス抑制への対応-「クリーン開発と気候に関するアジア太平洋パートナーシップ(APP)」-

 「クリーン開発と気候に関するアジア太平洋パートナーシップ(AAP CDC:Asia-Pacific Partnership on Clean Development and Climate)」が、2006年1月11、12日の両日、シドニー市内で開催された。会議は、経済発展、貧困の削減、(温室効果ガス排出の少ない)クリーンな技術の開発などをテーマに、地球規模の環境対策を定めた京都議定書を補うものとして位置づけられている。
 本稿は、AAP-CDC会合に対するオーストラリア鉱業の反応と温室効果ガス抑制への対応を報告する。

1. AAP-CDC会合 参加国と出席者

 2006年1月11、12日の両日、シドニー市内において、日本・韓国・米国・オーストラリア・中国・インドの6か国から政府及び産業界の関係者などが参加してAAP-CDC会合が開催された。
 参加6か国のうちオーストラリアは、米国とともに地球温暖化防止「京都議定書」に批准しておらず、また、中国やインドは温室効果ガス削減義務を負っていないが、これら6か国は全世界の経済活動の54%、エネルギー消費の48%(2050年には55%に上昇)、人口の45%、温室効果ガス排出の50%を占めている。
 各国からは、政府関係者では、John Howard首相、Ian Macfarlane産業観光資源大臣ほか(オーストラリア)、小池百合子環境大臣、西野あきら経済産業省副大臣ほか(日本)、華建敏国務院秘書長ほか(中国)、Thiru A. Raja環境森林大臣(インド)、李熙範産業資源部長官ほか(韓国)、Samuel Bodmanエネルギー長官ほか(米国)が出席、産業界からは、新日鉄、NEC、東京電力、電気事業連合会(日本)などエネルギー関連企業60社を含む120企業・団体の関係者が出席した。
 開催国のオーストラリア産業界からは、Origin Energy社、BP Solar社、Global Renewables; Hydro Tasmania社、Delta Electricity社、Woodside社、Westpac銀行、Alcoa社、Cement Australia社、オーストラリア鉱業協会(Minerals Council of Australia)、 Chevron Australia社など12社のCEOクラスが出席した。

2. AAP-CDC会合における検討課題

 会合では、鉄鋼、セメント、アルミ、石炭など8分野のタスクフォース(作業部会)を設置し、温室効果ガス削減の技術開発を進めることで合意、各タスクフォースは、2006年半ばまでには短期・中期的な実行計画を立案し、2007年の次回閣僚会合において具体的な最重要目標を発表する予定が示された。
 また、地球温暖化防止「京都議定書」に批准していないオーストラリア・米国の主導により、温室効果ガス削減義務を負っていない中国やインドを新しい枠組みに引入れ、排出量の抑制につなげたいとの思惑もあると言われている。
 AAP-CDC会合に合わせて、オーストラリア農業資源経済局(ABARE; Australia Bureau of Agricultural and Resources Economics)は、「Technological Development and Economic Growth」と題するレポートを発表している。
 レポートでは、「(1) 参加6か国が、電気・運輸・その他エネルギー集約型産業における効率的エネルギー技術開発とその技術を共有していくことで、温室効果ガスの排出を2050年までに23%削減し、大気中の炭素排出量を90Gt以上削減できること、(2) シナリオ2(パートナーシップにおける技術+炭素回収・貯留技術(CCS:Carbon Capture and Storage Technology))或はシナリオ3(全世界的な技術+パートナーシップにおける技術+炭素回収・貯留技術)が実現すれば、2015年までにオーストラリア・日本・米国において、また、2020年までに中国・インド・韓国において、全ての新たな石炭火力・ガス火力発電所に炭素回収・貯留技術が導入されるであろうこと、(3) 効率的なエネルギー技術を用いることで6か国の石油消費量は23~24%削減できること、(4) 技術開発は、産業界の技術水準を導入、処理能力の拡大、各国間の技術移転を図ることに焦点をあて、各国及び産業界双方に技術開発のための資金援助や技術移転の障害を取除く努力が必要」などと指摘している。

図1 パートナーシップ国のエネルギー消費量(出展:ABARE、2006.1.10)

図2 国別の発電における温室効果ガス排出割合(出展:ABARE、2006.1.10)

3. 鉱業関連分野への影響

 ABAREは、主要産業におけるエネルギー強度と温室効果ガス排出抑制可能性と効果について、「鉱業分野では、選鉱技術の改良によりエネルギー効率化の若干の改善が期待されるほか、エミッションコントロールの管理手腕による改善が考えられるものの、採掘分野全体としてはエネルギー効率化の可能性は低いと評価されている。
 非鉄・製錬分野では、ニッケル・銅・一次鉛などの製造・加工工程において連続鋳造技術によって、製錬工程から直接的に加工工程に移行することで、エネルギー効率の改善が図れるとしている。
 アルミニウム分野では、エネルギー効率の改善の可能性は大きいと見られており、技術開発以上にアルミニウム・スクラップの利用が効果的で、スクラップを用いた場合、一次品の生産に必要なエネルギーの6%程度でアルミニウムを生産することが可能である。現在、米国のアルミニウム生産の約50%がスクラップから生産されているが、2016年にはほぼ全量がスクラップからの生産となるとの見通しもある。技術面では、電解工程等の改良(アノードやカソードの改良等)によりエネルギー効率を25%改善できると考えられる。
 鉄鉱・鉄鋼分野では、電気炉や溶鉱炉の各工程においてエネルギー強度と温室効果ガス排出の削減が期待されるほか、還元炉や鋼板製造工程などでのエネルギー効率化高度技術の商業化に向けた共同技術開発が必要。
 石炭分野では、クリーン・エネルギー、炭素回収・貯留技術、地熱関連技術、(炭酸ガス)ゼロ・エミッションの石炭プラントの開発が焦点となる。」などと今後の見通しを報告している。
 

4. 主要企業等の対応

 APP-CDC会合に対する産業界の反応は、業界団体のオーストラリア鉱業協会が、APP-CDC会合の翌日(1月13日)に会合を支持するコメントを、また、Xstrata社(スイス資本)の石炭部門でオーストラリア国内石炭大手のXstrata Coal社は、APP-CDC会合に参加するとともに会合の前日(1月10日)に自社の温室効果ガスに対する見解と取組みをそれぞれプレス発表している。
1.オーストラリア鉱業協会(MCA:Minerals Council of Australia):「APP-CDC会合が、数値目標やタイムテーブルの設定ではなく(温室効果ガス排出抑制を)技術的に解決していくことを強く確認したことは、鉱業界がこれまで呼びかけていたことである。提案された行動に向けた作業計画は、この世界的な挑戦を解決していくうえでパートナーシップが目標値を討議する以上に重要であることの証明である。また、6か国の政府関係者及び産業界が参加して組織される8つのタスクフォースの設置を歓迎する。」
 
2.Xstrata社:「最も重要な事項は、温室効果ガス削減のための技術の開発とその技術が経済成長著しい中国とインドにおいて利用されることである。また、石炭利用のための低コストで商業化可能な新技術の開発を政府等が支援すべきである。Xstrata社は、Oxy-fuel技術*1及び炭酸ガス回収技術開発プロジェクトの双方に参画、CS Energy社のCallideプラント(クィーンズランド州)での試験を支援している。同プラントは、5年以内にオーストラリア国内で最初の炭酸ガス排出ゼロ・プラントとなる見込み。また、Xstrata社は炭酸ガスの地中隔離プロジェクト(CO2 geosequestration project)にも参画する意向を示している。」
 
 *1石炭火力発電所の燃焼炉に通常の空気の代わりに純粋な酸素を供給して石炭を燃焼させ、発生する燃焼ガスを繰返し炉に供給することで炭酸ガス濃度を上昇させて回収及び地質的な貯留(Geosequensration)を容易にする技術
 
 オーストラリア国内主要鉱山会社であるBHP Billiton、Rio Tinto、Alcoaの各社によるAPP-CDC会合に関する直接的なコメントは1月18日現在まで発表されていないが、各社ホームページでは各社の温室効果ガスへの対応が示されている。
 
3.BHP Billiton社は、温室効果ガス(CO2)排出量が年間100,000tを超える全てのサイトにおいて、温室効果ガス排出削減及び省エネルギーに関するマネージメント・プログラムを実施している。また、京都メカニズム(Kyoto Protocol’s Clean Development Mechanism to reduce emissions)に沿った温室効果ガス削減に向けた評価を進めている。
 
4.Rio Tinto社の生産現場における主な温室効果ガスは、CO2ガス CH4ガス(石炭メタン)等であり、2004年のCO2ガス総排出量は25.3百万tであった。これらの排出量削減のため多角的な戦略及び技術オプションにより取組んでいる。
 
5.Alcoa社:「温室効果ガス削減を目的に製品における2020年までにリサイクル・アルミニウムの割合を50%にする。Wagerup精錬所における電解・析出工程(ESPs)・煆焼工程での排ガス(VOCs)・触媒熱酸化剤(CTO)・再生熱酸化剤(RTO)などの技術的改善と温室効果ガス排出コントロール技術の開発。」

5.おわりに

 オーストラリアを拠点とする大手鉱山会社、BHP Billiton社、Rio Tinto社、Xstrata社などは、温室効果ガス排出抑制技術開発に向けて巨額の投資を進めている。また、オーストラリア連邦政府は、温室効果ガス削減のための新エネルギー及び技術開発に今後5年間で総額1億豪ドルを拠出すると発表している。
 資源大手は、温室効果ガスの原因となる石炭等の化石燃料生産者であり、製鉄・アルミニウム関連施設等における大エネルギー消費者でもある。また、中国・インドはこれら企業にとって新たな鉱物資源輸出先として最も重要な位置を占め、排出抑制技術は新たなビジネスの機会ともなり得る。今後、温室効果ガス規制は生産・消費・販売・新規事業と企業活動の全てにおいて鍵となる問題である。

参考文献等
– “Industry deal on climate” AUS 11/1/06
– “Climate summit puts business into action” AUS 11/1/06
– “Miners to come clean on coal” AUS 11/1/06
– “Coal comfort” SMH 11/1/06
– “Big cost risk in cleaning up coal” AUS 13/01/06
– “Bank to fund clean energy projects” AUS 13/01/06
– “Research claims big greenhouse gas cuts” AUS 13/01/06
– “Greenhouse battle handed to industry” SMH 13/01/06
– “Greenhouse summit rejects fossil fuel cuts” AFR 13/01/06
– ABARE Report: Technological Development and Economic Growth, http://www.abareconomics.com/publications/2006/RR06_1_ClimateAsiaPacific.pdf, Date Accessed: 13/01/06
– Minerals Council of Australia: Media Release, http://www.minerals.org.au/__data/assets/pdf_file/10668/mr006_01_APP6.pdf, Date Accessed: 16/01/06
– Xstrata website: Press Release, http://www.xstrata.com/press_release.php?id=ac&nb=200601101.en.html, Date Accessed: 16/01/06
– BHP Billiton Climate Change Position, Date Accessed: 17/01/06, http://www.bhpbilliton.com/bbContentRepository/Policies/ClimateChangeOct2003.pdf
– Rio Tinto: Environment, Date Accessed: 17/01/06, http://www.riotinto.com/library/microsites/SocEnv2004/environ/100_pol.htm
– Alcoa Website, Date Accessed: 17/01/06,
> Climate Change: http://www.alcoa.com/global/en/environment/climate_change/climate_overview.asp
> Emissions Reductions: http://www.alcoa.com/australia/en/pdf/TECHNOLOGY_IMPROVEMENTS_AND_EMISSION_CONTROLS.pdf
– World Business Council for Sustainable Development: Greenhouse Gas Protocol Initiative, Dec 2005, Date Accessed: 17/01/06, http://www.ghgprotocol.org/DocRoot/1uoonK3ExwJUbfHutahD/Newsletter_17.pdf

 

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