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報告書&レポート

2006年3月16日 バンクーバー事務所 宮武 修一、戸村 昌幸 e-mail:miyatake@jogmec.ca tomura@jogmec.ca
2006年14号

カナダ連邦の政権交代と資源政策への影響について

 2006年1月に行われたカナダ連邦下院選挙で、1994年から政権与党の座にあった自由党は敗北。新たにハーパー党首の率いる保守党がその座に就いた。保守党は小さな政府を指向、親米路線と認識される。本稿では資源ビジネスの活況で潤うカナダ連邦における12年ぶりの政権交代について、選挙戦から新政権の組閣、また資源政策の課題への取り組みについて概観したい。 

1. 連邦議会選挙と保守党の躍進

 2006年1月23日に連邦議会優越院である下院の選挙が行われ、政権与党の自由党(Liberal)は敗北、新たに保守党(Conservative)がその座についた。カナダの政権交代は12年ぶりとなる。今回の各党別の議席数は全体で計308議席のうち、保守党124(改選前99)、自由党103(135)、ケベック党51(54)、新民主党29(19)となった。自由党のマーティン首相は、8期連続の財政黒字などカナダ連邦財政を再建した実績をアピールしたが、前クレティエン政権下での政府広報費の流用疑惑、また最近の新税制に係る株式インサイダー疑惑など、腐敗イメージが大きな痛手となった。加えて自由党の長期政権に対して国民が変化を求めたことも敗北に繋がった模様。一方、保守党は、政府関係者の汚職追放、減税、犯罪抑制、育児助成金など、比較的身近な政策を多数打ち出し、低・中所得の自由党支持層の多くを取り込んだことが勝因とみられている。米国が主唱するミサイル防衛構想に対しては、保守党は参加の意向、自由党は不参加と両党の主張は別れていたが、大きな争点にはならなかった模様。
 

2. 鉱産州の保守党支持

 選挙結果には各州間で大きな差があり、ここにはカナダ各州の抱える事情が色濃く反映されている(図参照)。資源エネルギーとの関係では、保守党は鉱産州、とりわけ石油・天然ガス生産首位のアルバータ州で28議席の全てを、またこれに次ぎ国内原油生産の18%を担うサスカチュワン州では14議席のうち12議席を獲得するなど、圧倒的な支持を集めた。こうした鉱産州における保守党への支持は、自由党が重視した「各州均一の税額と均一の公共サービスが提供されるシステム」という政策への不満を反映した結果ともみられる。このシステムはEqual Paymentといわれるもので、連邦政府は各州民の平均所得を算定して、連邦基準を下回る州に対してサービスを均一化するよう交付金を交付する。従って、アルバータ州のような鉱産税(ロイヤルティ)により富める西部の資源州には交付金は無く、むしろアルバータ州から得られた連邦税収は、ケベック、ノバスコシア、ニューブランズウィックら主として東部の産業に乏しく低収入な各州に流れてゆくことになる。Equal Paymentは憲法で定めた理念であるものの、保守党ハーパー党首はこの算定基礎から非再生資源による収益を除外するよう見直すことを公約しており、西部資源州の住民支持が高まったひとつの理由と言える。また、ハーパー党首は、税に関する連邦政府と州政府の間の「不均衡」が存在するとし、連邦税の減額と、更なる州への権限委譲によりこれを「是正」すると公約していた。

3. 新内閣の特徴、議会運営

 2月6日にはマーティン首相が辞任、ハーパー新首相が率いる内閣が発足した。同日、保守党は小さな政府を指向する方向性を打ち出し、腐敗防止、減税、犯罪対策、育児支援、医療改革の5つの政策課題に優先的に取り組む姿勢を改めて示した。
 ハーパー新内閣の閣僚数は、前マーティン内閣の37名を大きく下回る26名に削減された。マーティン内閣で置かれていた副首相、国務省ポストは廃止、文化遺産相と女性地位問題担当相の統合など8ポストが統合され半減した。一方、新たに太平洋ゲートウェイ・オリンピック担当相、スポーツ担当相、北部オンタリオ経済開発相が新設。閣内の地域バランスについては、西部出身者の数は、マーティン内閣では37名中6名であったところ、26名中8名(BC州4名、アルバータ州4名)と大幅に増加した。
 保守党議席は過半数に満たないが、連立は組まず、法案ごとに各党との合意を得て法案を成立させる考え方で、カナダの手法、とも言われている。ただし、新政権は一体どの政党と主たる連携をとるのかということは、現在の最大関心事でもある。前自由党政権も過半数に満たない政権であったが、新民主党がこれを支えてきた。新民主党は、新政権に米国防政策との距離の維持、健康保険制度の改正反対などを踏まえることを求めており、協力するかどうか態度を明らかにしていない。破れた自由党は、新政権を支持したく無い筈ではあるが、いずれの態度で望むかと言う点についてコメントは未だ無い模様。またケベック党は、政権がどうあれフランス系住民の関心を代表するのみ、というスタンスである。

4. 天然資源省の取り組み

 2月9日にカナダ天然資源省、鉱産物・金属セクターを訪問し、減税関係のほか、非鉄資源関係者にとって関心が大きい課題について、産業分析・ビジネス発展ブランチ、国際ディビジョンのAleksander Ignatow理事らに対して当面の取り組みを取材した。
 
(1) 減税
 新政権は旧政権の下まとめられた法人減税を実行する。現在連邦が定める資本税率は0.125%であるところ、2007年には0.0625%に、更に2008年にはゼロにまで減じられる。これにより開発に当たり大資本が要求されるキャピタル・インテンシブな鉱山業の負担が軽減される。加えて現在の連邦付加税4%を廃止。また法人税について税率を段階的に引き下げ、2010年までに現在の23%から19%にまで減額される予定。
 こうした法人減税のほか、新たに保守党の公約に基づき、現行7%の連邦政府の徴する消費税が減額される見通し。
 
(2) 投資探鉱費用控除の継続
 自由党政権により2005年末の終了が決定していたいわゆるスーパーフロースループログラムについて、保守党の公約に基づき、引き続き継続される見通し。本制度は1990年代の世界的な鉱業の低迷を支援する目的で短期的なプログラムとして2000年10月に導入され、2005年の終了期限に至るまで2回終了期限が延長されていた。これはカナダの基礎的探鉱を行うプロジェクトへの出資であれば、個人投資家は大きな税額控除の恩恵を受けられという制度で、近年の探鉱投資の拡大を牽引したひとつの要因となっていた。本制度の延長については、とりわけ探鉱企業から強い要望が寄せられていた。
 また、「あまりに探鉱企業の資金調達を容易にすると、プロジェクトの質の低下を招く懸念があり、何か歯止めのような仕掛けが必要ではないか。」と問うと、「全てのプロジェクト情報は投資家に開示されていることから、それは投資家の責任となる。」とのことであった。加えて「カナダではVoisey’s Bay以後、いわゆるワールドクラスの鉱床発見を欠いており、基礎探鉱の奨励も依然として課題になっている。」とのことであった。
 
(3) 先住民支援、人材育成
 先住民の失業を防ぐための職業訓練に重点を置き、向こう5年の間に35億ドルを措置して高スキルの体得を目指す。鉱山立地は先住民地域に直接、間接に関係することから、鉱山開発において先住民コミュニティとの協調が不可欠。州政府、連邦政府の支援の下、プロジェクト早期における先住民との開発に係る合意形成を奨励する。
 また近い将来懸念されるマイニング産業の従業者の高齢化、人材不足を考慮すると、一つの鉱山が閉山しても、次の鉱山にスムースに移動し就労が継続する柔軟なシステムを早急に構築する必要がある。他方、学生など若年世代に対して魅力をアピールすると共に、企業への積極的な雇用について働きかけを継続する。
 

5. おわりに

 ハーパー首相率いる保守党新政権の誕生にあたり、ブリティッシュコロンビア州資源産業ビジネス評議会副会長は、「多くの保守党議員は、資源産業(鉱業、林業、漁業、石油ガス)を経済活動の中心とするカナダ西部の選挙区出身者であり、新しい政権の下で資源産業開発の今後の発展が期待される」と語った。保守党の選挙キャンペーンには「資源産業の活性化と持続」が掲げられていたが、資源ビジネスの活況で潤うカナダにとって、これを加速化する選択がなされたことになる。
 今回の政権交代について、カナダのパワーシフトというものが、イデオロギーのみならず、地理的にも生じたとする見方がある。広大なカナダ連邦では東西で抱える事情に差があるが、人口構成においてオンタリオ州など東部が圧倒的に多数を占め、オタワで施策決定がなされることから、総じて西部の各州住民には、東部重視の連邦運営に対する疎外感というものが多かれ少なかれ存在していた。西部を支持基盤とするハーパー首相には、西部の期待を担いつつ、全カナダのバランスに配慮した舵取りが今後求められると言えそうである。

参考ウェブサイト等
Canada Election 2006
CBC News Indepth
Natural Resources Canada(カナダ天然資源省)
Globe and Mail
産経新聞

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