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報告書&レポート

2006年4月27日 シドニー事務所 永井正博、久保田博志 、研究スタッフ:Joel Rheuben、Natalie J Barnes e-mail:(永井)masahiro-nagai@jogmec.net (久保田)kubota-hiroshi_1@jogmec.go.jp
2006年24号

オーストラリア鉱山業におけるコーポレートガバナンスとコンプライアンス-Sons of Gwalia社の破産の例-

 オーストラリア企業としては国内第2位の産金企業、世界最大のタンタル生産企業であったSons of Gwalia Limited(以下、SoG社)は、2004年8月30日に経営破綻し、管財人の管理下に入った。負債総額は866.8百万A$であった。経営破たんの直接的原因は金や為替ヘッジの失敗、金生産量の伸び悩み等とされているが、長年にわたる不正な財務報告や未承認取引などの企業体質の問題が管財人によって明らかにされた。
 本稿では2005年8月16日に管財人が発表した報告書をもとに、同社が経営破綻に至るまでの経緯を紹介する。

1. はじめに

 2004年8月1日に経営破たんしたSoG社の破産管財人は、2005年8月16日、同社の資産水増し、損益隠蔽、株主に対する誤った情報提供、不正経理処理等の詳細を内容とする報告書を発表した。同報告書では、埋蔵量と資源量の不実記載、2001年のPacMin社買収失敗、ヘッジ取引失敗、役員による未承認取引などを含むSOG社の不正の実態が1990年代半まで遡って明らかにされている。
 

2. SoG社の歴史と経営破綻

 SOG社は、1981年、Hawk Mining NL社としてPeter Lalor、Chris Lalor兄弟によって設立、1982年にSons of Gwalia Mining社と社名を変更した後、西オーストラリア州Kalgoorlieの歴史的鉱山であるSons of Gwalia金鉱山を取得・再開発し、1983年には上場して同鉱山の生産を開始した。
 1990年代には、Burmine社、Orion Resources社、Gacoyne Gold社、PacMin Mining社などのジュニア探査企業等20数社を買収している。この間に世界のタンタル生産の60%を占める世界最大のタンタル生産企業へと成長を遂げている。2001年には株価が10A$/株を超えてSOG社の株価時価総額は10億A$に達し、従業員数は自社500名以上、コントラクター600人以上となっていた。
 2004年、SoG社が保有していたTarmoola金鉱山(西オーストラリア州)において露天掘り壁面の崩落事故が発生し、同鉱山は閉山に追い込まれている。SoG社は、PacMin Mining社買収時の埋蔵量・資源量の過大評価とその見直し、金・外国為替ヘッジ取引による大幅な損益の発生などにより、同年8月30日に経営破たん、管財人の管理下に入った。負債総額は866.8百万A$、資産総額は450百万A$であった。

3. 管財人報告書が明らかにするSoG社破たんの原因

(1) 埋蔵量・資源量の品位低下 -探査活動の失敗-
 SoG社は、既存鉱山周辺での探鉱活動は一定の成果をあげていたとされるが、世界的規模の鉱床の発見ができず、産金企業として持続可能な操業を続けていくために必要な探査成果は得られていなかった。
 一方、金事業部門は、高コストと鉱山寿命の短さに直面していたとされる。その結果、2000年からは金事業部門の利幅は210豪ドル/ozから12豪ドル/oz にまで大幅に減少していた。
 また、2002年から2004年までの間、SoG社は、Gwalia坑内掘鉱山とMarvel Loch坑内掘鉱山の金埋蔵量から992,000ozを評価切下げとしなければならなかったが、同社は、埋蔵量・資源量の品位低下の報告を怠り、金価格の変動にも関わらず、年次報告書における埋蔵量・資源量の更新をも行っていなかった。
 
(2) PacMin Mining社買収の失敗
 SoG社は、2001年10月、PacMin Mining Corporation Limited社(Teck Cominco社 権益80%、以下PacMin社)を184百万A$(株式133百万A$と現金51百万A$)で買収している。当時、PacMin社は、TormoolaとCarosue Dam金鉱山(西オーストラリア州、SoG社所有鉱山の近傍)の操業を行っており、この買収によってSoG社は、埋蔵量2.5百万oz・資源量合計6.6百万ozを得たと報告されている。
 しかし、SoG社は埋蔵量・資源量等に関する十分な情報をPacMin社から得ずに買収決定の判断を下した結果、買収によって実際に得られた埋蔵量は2.5百万ozよりもはるかに少ないものであったと見られている。Tormoola鉱山の露天掘事故に加え、買収時のPacMin社の金埋蔵量の過大評価によってSoG社は、2002年から2004年の間に1.56百万ozの埋蔵量の評価切下げを行っている。
 
(3) 過剰な金及び外国為替ヘッジ取引
 SoG社は、埋蔵量及び資源量の低品位化が始まるころには、金ヘッジそのものについても多大な債務をもたらす可能性のある「コール・オプション」が「プット・オプション」よりも多い状態にあったと見られている。SoG社は、少なくとも1996年以降、銀行との取引契約上の制約から自社の埋蔵量の90%以上の金ヘッジ予約を禁止されていたが、1998年6月30日に金埋蔵量356万ozと情報開示した時点で800万ozの金ヘッジ予約を行っており、1999年6月30日時点では、金埋蔵量は312万ozのみであったにもかかわらず、約610万oz相当の金ヘッジ予約している。
 2004年8月、SoG社の金埋蔵量と資源量の合計はわずかに85.1万ozであったが、予約された金ヘッジ量は121万ozであった(後述IGPOは除く)。1997年から、SoG社は、投機性の高いインデックス・ゴールド・プット・オプション(Indexed Gold Put Options:IGPO)*1を開始しているが、最終的にIGPOによる債務は270百万A$に及んでいた。破産管財人はSoG社の財務報告書にあるIGPOに関する情報開示は極めて不十分で、開示要求に従ったものではないと指摘している。
 また、SoG社は、1998年、Gwalia Consolidated Limitedと合併し、タンタル事業の拡大とともに米国ドル為替ヘッジ量も拡大していった。SoG社は、1999年6月30日にヘッジ予約(Forward and Sold call)は620百万US$と公表しているが、実際には、1,000百万US$を超えていたと見られている。
*1) IGPOは一般に短期的な運用が行われるが、SOG社は2010年までに及ぶ長期の運用をした結果、SOG社の財務上の柔軟性を損なうとされている。
 
(4) 未承認取引と不正経理処理 -簿外取引-
 SoG社の財務責任者(Chief Financial Officer: CFO)は、不正が発覚する2000年6月30日までの間、金と外国為替の未承認取引を行い、190百万A$以上の損失を出している。この損失は、現金清算かヘッジ予約によって処理されていたと見られている。
 1994年から2000年の間、SOG社は、金及び外貨為替取引の短期間の投機的利益を上げているが、これらの利益の多くが、簿外の銀行口座で処理され、SoG社の総勘定簿には記載されず、取引利益として同社の財務諸表上で全てが開示されることはなかった。1998年6月30日時点で簿外の銀行口座には11.5百万A$、1999年6月30日には13.98百万A$、1999年9月9日には22.5百万A$とピークに達していたと見られている。
 2000年4月、財務責任者(CFO)は、「外国為替ヘッジ予約が987.2百万US$(社内規則では20百万US$まで)、金ヘッジ予約が200万oz(同2万oz)に達していること。取引を制御できなくなっていること。」を役員会に報告、同社は、この時点で金及び外国為替のヘッジ取引上の問題処理によって125百万A$の損益が発生し、会社存続に関わると認識している。
 また、SoG社は、当該会計年度において配当を行うに見合う利益がないにも関わらず30百万A$に及ぶ配当を行い、また、法人税を支払うに足る利益がないにも関わらず6百万A$の法人税を納付している。
 
(5) 役員及び監査役の責任
 破産管財人は、SoG社役員らに対して、社内上限を超える財務取引、社内規定違反、各種取引に関する役員会への説明義務違反、財務記録義務不履行、財務報告違反、金融取引に関する十分な知識の欠如、証券取引所への情報開示・報告義務違反、社内統制に関する怠慢、財務処理・各種取引等の管理に関する怠慢など経営に関係する取締役に善管注意義務違反・監視義務違反があったとし損害賠償責任があるとしている。
 また、SoG社役員に加え、同社の監査法人(Ernst & Young社)に対しても、半期・年次報告(会社法308条、309条)、証券投資規制委員会(ASIC)への報告(会社法311条)など、会社法上の諸義務を怠ったことに対する責任があると指摘している。
 

4. SoG社に対する訴訟

(1) Cabot社との紛争調停
 SoG社はCabot Corporation社(米国、以下Cabot社)とのタンタルの売買契約に関わる調停を行っていたが、2006年2月8日、両社は、当初契約を破棄して、新たな売買契約を締結している。Cabot社は、新たに27百万US$を支払い3年間にわたりタンタルの供給を受けることになった。売買価格は当初契約よりも高く、取引量は当初契約よりも少なく、Cabot社はこの新たな契約のために13百万US$を追加支出することになった。
 
(2) 株主訴訟
 管財人に対して、1,000人以上の株主から総額約40百万A$に及ぶ補償を求める声があると言われるが、2005年8月29日、倒産直前にSOG社株を取得した株主が、「SoG社に対して株主が被った損害は、SoG社による誤った情報及び詐欺的行為に基づくものであり、他の債権者と同様に等しく損失を補償される権利がある」と主張する訴訟*2が連邦裁判所(Federal Court)に提起された。同年9月15日、原告の主張を容認する決定がなされ、2006年2月27日、連邦裁判所での控訴審も「誤った情報を元に株主となった者は、債権者として扱うという」との一審の決定を支持する判決を下した。裁判は連邦裁判所の上級審にあたる最高裁判所(High Court)に持ち込まれる見込みである。
 この一連の連邦裁判所の判断は、役員の不適切な経営により経営破たんした企業に対する株主集団訴訟の道を開くものとして注目されている。
*2 Sons of Gwalia Limited (Administrators Appointed) v Margaretic [2005]訴訟
 

5. おわりに

 SoG社の経営破たんは、埋蔵量・資源量の減少・品位低下、企業買収の失敗、金・外国為替ヘッジ取引が経営を圧迫したことが直接的な原因であるとされているが、経営陣による未承認取引、金・外国為替取及びヘッジ取引に対する不十分な管理、ヘッジ取引に関する不正な報告、不正会計処理など多くの違法行為があったことも重大な原因のひとつと見られている。SoG社の経営破たんは、企業統制・順法倫理に反した経営の当然の結果と言えよう。
 また、企業そのものの違法行為に加え、その企業の違法行為に適切に対応できなかった監査法人にも企業と同様の社会的責任を問う声も強い。

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