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報告書&レポート

2006年6月15日 リマ事務所 西川信康 e-mail:ommjlima@chavin.rcp.net.pe
2006年39号

第7回国際金シンポジウム(ペルー鉱業協会主催)報告-ペルーの金鉱業の現状とペルー鉱業界が抱える問題点-

 5月3日~5日の3日間、リマ市内の国立博物館において、ペルー鉱業協会主催による第7回国際金シンポジウムが開催され、ペルーや南米諸国等の鉱業関係者約940人(25か国)が参加し、ペルーを中心とした金探鉱開発・生産動向、投資環境、地域住民問題等についての講演や活発な情報交換が行われた。本稿では、本シンポジウムで明らかになったペルー金鉱業の現状とペルー鉱業界が抱える問題点を報告する。

1. 国際金シンポジウムの概要

 本シンポジウムは、ペルー鉱業協会が主催し、リマ市内で隔年開催されるもので、ペルーの金鉱業振興を大きな目的としている。
 本シンポジウムは、一般講演とブース出展とからなり、一般講演については、ペルーの操業中の金鉱山並びに金鉱山開発プロジェクトの現況、ペルーの鉱業政策・投資環境、地域住民問題、金の市場動向等をテーマとして約70件の講演があった。また、ブース出展については、ペルーで活動中の金鉱山会社、金探鉱会社、鉱山機械会社、政府関係機関、鉱業誌出版会社等、約100件の出展があり、折からの国際金価格の上昇で好景気が続いていることもあり、全般的に活況を呈した印象だった。
 

2. ペルーの金鉱業の現状

 本シンポジウム冒頭、Sanchezペルー・エネルギー鉱山大臣が挨拶し、この中で、2005年のペルーの金生産量は、208tとはじめて200tを超え、ロシアを抜いて世界第5位に躍進したことを紹介するとともに、「現在、国内には44の企業が金の探鉱開発を行っているほか、来年からカハマルカ県のCerro Corona鉱山(Gold Fields社)の操業が始まるなど、これらの新しいプロジェクトによって、ペルーは近い将来世界第4位の金生産国になるだろう」との見通しを示した。
 また、1993年の鉱業投資額は僅か8,900万$であったが、その後鉱業関連の法整備が進んだことなどから、2005年の鉱業投資額は11.8億$(ペルー総投資額の約半分に相当)に達し、特に金に関してはこの10年間で生産量が6倍に伸び、輸出額も2億800万$から31億4,000万$に拡大したことを強調した。さらに、ペルーが法的な安定性や諸規則を維持すれば、今後鉱業分野に数年間で90億$の投資が向けられるとし、ペルー次期政権に対し、鉱業政策の継続を訴えた。
 その一方で同大臣は、最近、地域住民が鉱業活動に対して否定的な見方を強めていることを危惧しており、鉱業が社会的責任を果たしその利益を地方に再配分するための合理的かつ公正なしくみを早急に構築しなければならないとし、鉱業界と地方との関係を調整するためにエネルギー鉱山省内に社会問題局を設けたことを明らかにするとともに、民間企業に対しこうした取り組みへの一層の協力を要請した。
 

3. ペルーの投資環境と大統領選に関する鉱業界の見方

 本シンポジウムでは、資源高を背景に南米諸国に資源の国有化の波が押し寄せている中、また、ペルーでも民族主義者が有力候補となっている大統領選挙最中の開催ということもあり、参加者の間からは、ペルーにおいてもこうした国家管理強化の動きがあることを懸念する声が多く聞かれた。
 まず、カナダFraiser研究所、グローバル研究センター所長のMcMahon氏は、322の世界のメジャー、ジュニア企業を対象に行った世界64か国・地域の鉱業投資環境に関する2005-2006年度アンケート結果から、ペルーの投資環境評価結果を報告し、この中で、ペルーは鉱床ポテンシャル面では、前年の7位から一躍首位にランクインし、世界で最も鉱物資源が豊富な国の一つであるという評価が下されたものの、鉱業政策面においては、2003-2004年の20位、昨年の39位、今回44位と顕著な後退傾向にあるとし、これは、最近頻発している地域住民やNGOによる反鉱山開発運動や新たに導入されたロイヤルティ税に加え、大統領選で税の安定化契約の見直しが争点になっていることも影響しているだろうとの見解を示した。また、投資家のペルーに対する印象を良い方向に変えるにはかなりの時間を要するだろうとし、そのためには、法律を長期的に遵守する政府の存在が不可欠であると強調した。
 また、米国Newmont社のLassonde社長は、「ベネズエラやボリビアなど周辺国で資源国有化の動きが一段と加速化している状況の中、今回のペルー大統領選について懸念しつつ関心を持って見ている」と述べるとともに、同社が保有するYanacocha金鉱山の拡張計画に対する20億$の追加投資は、次期政権の外資政策・鉱業政策次第であると発言した。
 ペルー資本最大の金生産企業であるBuenaventura社のBenavides社長は「投資を呼ぶためには、国の政策が競争力を保持していなければならない。しかし、投資家は既に数年前のような熱意を持ってペルーの市場を見てはいないだろう。」と危機感を表明した。
 これに対し、2007年にCerro Corona金鉱山の操業開始を予定している南アGold Fields社のペルー所長Graeme氏は、「ペルー大統領選の行方を憂慮しているものの、長期的には投資環境は改善していくだろう。」とし、多くの鉱業関係者が懸念を表明する中、このように楽観的な見方を示す企業も一部にはあった。
 

4. 地域住民問題

 多くの鉱業関係者は、鉱業は多大な投資を呼ぶペルーの経済発展には欠かせないものであることを認めつつ、地域経済の発展に十分な還元がなされていないという認識で一致した。
 ペルー鉱業協会のDel Solar会長は、2005年に支払われた鉱業ロイヤルティは2億2千万ソーレス(約0.67億$)、また鉱業地域還元税(カノン税)は21億ソーレス(約6.4億$)に達し、カノン税については10年前に比較し10倍以上増加したことを明らかにした。また、市民団体Ciuadadnos Al Dia(CAD)のBeatriz Roza代表も、鉱業界による納税額は右肩上がりに増加しており、「税収における鉱業界の貢献度は、他産業と比較して突出している」と評価した一方で、鉱業界のこうした貢献は地域社会に未だ生かされていないと語った。
 ペルー最大のYanacocha金鉱山(カハマルカ県、2005年の生産量84.4t)の筆頭株主である米国Newmont社のLassonde社長は、最近の鉱山地域で頻発している地元住民とのトラブルの原因は、カノン税の配布の遅れにあるとしてペルー政府の対応を非難した。同社長は、2005年に中央政府が徴収したカノン税のうち約半分程度しか地方へ交付されていない実態を指摘したほか、鉱山会社は可能な限り政府に協力するものの、本制度の運用の責任は政府にあると主張した。また、同社長は、同金鉱山の操業を開始した1992年から13年間にわたり、1万人以上を雇用し、その給与として合計27億1,000万$を支払い、納税額は9億8,000万$に達し、さらに、6,600人の子供への教育支援や30の村をつなぐ延べ215kmの道路建設などを通じて地域発展に貢献してきたことを強調した。

5. ペルーにおける金探鉱開発プロジェクトの現況

  現在ペルーで進行中の金鉱山開発プロジェクトについて、以下の最新情報が報告された。
(1) Cerro Corona金・銅開発プロジェクト

  カハマルカ県にある南アGold Fields社が100%所有している金・銅開発プロジェクト(埋蔵量65.2百万t、金品位1.14g/t、銅品位0.61%)で、同社の所有鉱山の中では小規模であるが、同社南米進出の足がかりとなる戦略的なプロジェクトという位置付け。
  2005年5月より開発工事がスタート。2007年9月に、操業開始予定。
  開発費用は、2.77億$(17,000t/日の銅選鉱プラントを建設予定)
  生産量は、金30万oz/年、銅5万t/年、マインライフ15年。

(2)Minas Conga金・銅開発プロジェクト

  カハマルカ県にある金・銅鉱床(埋蔵量5.56億t、銅品位0.26%、金品位0.66g/t)。権益は、Yanacocha金鉱山と同様Newmont:51.65%、Buenaventura:43.65%、IFC:5%。
  2007年までにF/S終了予定。
  2008年後半に開発工事開始(開発費10.09億$、85,000t/日の選鉱プラントを建設予定)。
  2011年前半に操業開始の予定。
  生産量は、金18t/年、銅7万t/年、マインライフ14年。

(3)Lagnas Norte(Alto Chicama)金鉱山

  ラ・リベルタド県にあるカナダBarrick Gold社100%所有の金鉱山(埋蔵量2.456億t、金品位1.2g/t)で、2005年6月より生産開始。開発費用は3.4億$。
  2005年の生産量は55万oz、2006年以降は75万oz/年を計画、操業コスト130$/oz。

(4)Pierina金鉱山

  アンカッシュ県にあるBarrick Gold社100%所有の金鉱山。同鉱山はYanacocha金鉱山に次ぐ同国第2位の金鉱山で、2005年の生産量は19.5t。
  鉱量枯渇により2009年で閉山予定。閉山費用は、周辺地域の再緑地化も含めて7,000万$にのぼる予定。

(5)その他
 ペルー・Buenaventura社は、今後3年間で約1億$を投じて、ペルー北部カハマルカ県のチャンカイ川周辺に位置する3つの金鉱山プロジェクト(La Zanja、Tantahustay、Los Pircos)を開発し、2008年にはこれら3鉱山から合計50万oz/年の金を生産する計画。

6. シンポジウムの総括

  本シンポジウムの閉幕の挨拶を行ったペルー鉱業協会金委員会Marsano会長は、ペルーの今後の鉱業振興のあり方について、以下のように総括した。

  (1) 鉱業はペルーの経済発展に明確な形で貢献している。今後も継続的な投資を通じて、鉱業生産を維持・保証するための探査を実施していくことが重要である。
  (2) 金の価格が上昇している今こそ探査への投資を行い、新しい鉱山を開発するべきである。
  (3) 鉱業への投資促進には、国家による政治・経済・法的な安定が不可欠である。
  (4) ペルーの発展と貧困の撲滅は、国家、企業、社会の3者が一体となって協力することにより達成される。3者のいずれかが欠けるとこの目的は達成できないことを理解すべきである。
  (5) 企業が自発的に地域の社会事業のために行った支出は経費として認めるべきである。

7. 所感
  ペルーでは、最近、操業鉱山に対し地元への利益還元を不満とするストライキ・デモや、環境汚染への懸念から鉱山開発そのものに反対するデモなどが相次ぐなど、地域住民との衝突が頻繁に発生しており、一部の鉱山では操業停止まで至ったケースもある。
  こうした状況の中、今回の最も大きなテーマの一つである地域住民問題について、特に企業側からいくつかの取り組み事例が報告された。最も印象的だったのは、ペルーのSouthern Copper社の広報ビデオで、地元の子供をナレーターにして、子供の視点から、鉱山が地域の教育、医療、道路建設等の面で大きく貢献し、地域社会とうまく共生している姿を訴えるもので、多くの参加者の関心が集まっていた。企業側は、社会的責任(CSR)の観点から、地域社会に対し、こうした自発的な取り組みを積極的に行っているにもかかわらず、行政側の構造的な問題(特に地方自治体に公共事業計画等政策の立案能力が不足しているといった問題等からカノン税の運用が効果的に行われず、結果的に地域への税還元が十分図られない)が、現在頻発している地域住民との様々なトラブル、ひいては、大統領選における民族主義者の台頭にもつながっているとし、改めて行政側の早急な対応・解決を求める意見が目立った。
  ペルーの持続的な鉱業発展のためには、こうした税の地域還元問題、地域との共生問題の解決が不可欠であり、7月に発足する新政権の最も大きな課題の一つとなろう。

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