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報告書&レポート

2006年6月22日 シドニー事務所 久保田博志、永井正博 e-mail:kubota-hiroshi_1@jogmec.go.jp masahiro-nagai@jogmec.net
2006年40号

オーストラリア鉱業とインフラストラクチャー問題「ハード・インフラストラクチャー」と「ソフト・インフラストラクチャー」

 「Minerals Week 2006」が、2006年5月30日~31日、首都キャンベラにおいてオーストラリア政府資源関係者、各国大使、業界団体、大学、企業トップなどが参加して開催された。
 2006年は、2005年に引き続き鉱業におけるインフラストラクチャーがメイン・トピックスとして取り上げられたが、インフラストラクチャーに関しては、港湾設備や鉄道などの「ハード」面だけではなく、技能労働者や規制のあり方などの「ソフト」面も含めて講演・議論が行われた。
 本稿では、「Minerals Week 2006」の講演を中心にオーストラリア鉱業分野での鉱業分野での「インフラストラクチャー」問題に対する取組みについて紹介する。

1. はじめに

 空前の資源ブームにあってオーストラリアは港湾や鉄道の能力に輸出が制約を受ける状況が発生し、「ハード」面でのインフラストラクチャーの整備が急務とされてきた。他方、生産現場、特に鉱山では技能労働者不足が顕著となり、人材確保・育成などの「ソフト」面で鉱山業をバックアップする体制の確立が求められるようになっている。また、新規プロジェクトや拡張プロジェクトなどが増加を背景に開発許可プロセスのスピードアップとそのための手続き・規制緩和を求める声も高まっている。

2. 「ハード・インフラストラクチャー」の問題

(1) 石炭インフラへの投資
 石炭の主要積出し港湾施設は輸出の増加に対応すべく施設拡張を実施しているが、更なる施設の拡張を検討している。Gladstone港(クィーンズランド州)は2004/05年の247百万A$投資した港湾拡張から更に47百万A$追加投資による再拡張を検討、Dalrymple Bay石炭ターミナル(同州)は413百万A$を投じて施設拡充を実施中、Hay Point港(同州)は、4百万t/年の拡張が計画されているが、更に12百万t/年増強する計画も検討されている。
 クィーンズランド州では、Rolleston、Wamboプロジェクトのための鉄道125kmの新規建設と既存路線の拡張・改修に320百万A$、ニューサウスウェルズ州ではHunter Valley地区の鉄道網の改修に250百万A$の投資がなされている。
 
(2) 鉄鉱石インフラへの投資
 BHP Billiton社は、現状のPort Hedland港(西オーストラリア州)の積出し能力を108百万t/年から129百万t/年に増加するために15億A$規模の投資を、更には152百万t/年規模を視野にした拡張の実施を検討している。Pilbara Iron鉱山ではDampier港とそれに接続する鉄道の10億A$規模の改修を計画している。

図1 石炭分野への投資状況
図2 鉄鉱石分野への投資状況

3. 「ソフト・インフラストラクチャー」の問題 その1 技能労働者不足

(1) 技能労働者不足問題
 鉱物資源産業の研修プログラムの90%は企業によるもの。鉱業界による現場研修費は平均1,700A$/人で、他産業の600A$/人を大きく上回っている(2004/05年度)。2001年以降、鉱業分野での外国技能労働者の占める割合は1.8%で他産業の3%を下回る水準である。また、外国人技能労働者の受入には英語力の問題がある(外国人技能労働者の出身国は主に英国、ニュージーランド、南アフリカ)。
 中長期的には全国規模での鉱山技能労働者の育成・訓練システムの構築が、また、短期的には外国人技能労働者受入のための制度・既存の諸規制の見直しが必要。
 
(2) 技能労働者不足解消へ向けて
 「National Skills Shortage Strategy」プロジェクトは、2004年、Howard首相の掛け声のもとオーストラリア鉱業協会(MCA:Minerals Council of Australia)、西オーストラリア州鉱物エネルギー協会(Chamber of Minerals and Energy WA)、教育科学訓練省(Department of Education, Science and Training) 、産業界などが参加して、技能労働者不足問題の所在を明らかにし、求められる技能労働者とは何か、緊急に取組むべき問題に関する調査などを柱に実施されたプログラムである。
 同プロジェクトは、2015年までの労働力予測、外国人技能労働者受入れ、見習工・研修員制度の障害となるもの、フライイン・フライアウト(FIFO)の活用と問題点、鉱業労働者のキャリア市場などのテーマについて調査を実施した結果、技能労働者不足は、様々な地域や鉱種で発生しており、特に遠隔地や、機械・電気に関する技能分野、現場監督などの職種で深刻な問題となっていることが明らかとなった。
 技能労働者不足対策として、連邦政府は、外国人技能労働者を受入れるための新しいビザの導入を検討するほか(地質技術者や冶金技術者のポイントを現行の50ポイントから60ポイントに引上げ、技能労働者と認定されるためには必要とされている120ポイントをクリアし易くするなど)、Fortesucue社やNewcrest社などの協力を得てPilbara地区に連邦政府予算343百万A$を投じて工科大学(technical college)の設立を発表している。
 他方、民間ではXstrata社が、Mt.Isa地区において、同社の技術センター(予算規模1.2百万A$)を中心に、Mt.Isa TAFE(職業訓練学校)などの協力のもと年間80名規模(予算3.1百万A$、給与支払い総額7百万A$)の「見習工」プログラムを計画している。

4. 「ソフト・インフラストラクチャー」の問題 その2 規制緩和

(1) 鉱業分野での手続き・規制に対する評価
 オーストラリアの鉱業関係主要コンサルタント企業による鉱業プロジェクトの手続き・規制に関する評価(「National Scorecard」)が実施された。オーストラリア鉱業協会(MCA)は、この調査の目的を、「手続き・規制の基準引下げや減少を求めるものではなく、プロジェクト許可手続きを効率的・効果的で、透明性を確保し、規制によるのではなく一般的な基準に基づく、実践的な全国共通のものとする」と説明している。
 評価は、手続き・規制の設計面(手続きの明快さ、当事者の関与の度合い、効果的な規制の選択など)と運用面(時間管理、コンプライアンス・コスト、行政機関の処理能力、予見性、効率、透明性)を評価項目として、環境、鉱業特有の問題、土地アクセスなどの分野について行われた。
 調査では、「総合評価は、各行政主体(連邦政府、州政府)で大きな違いは見られなかったが、行政主体によって様々な異なる問題や幾つかの行政主体に共通した問題などが見られたこと、手続き・規制の運用面よりも設計面での評価が一般に高かった」と評価している。

表1 鉱業プロジェクトの手続き・規制に関する評価結果(「National Scorecard」)
高スコア
低スコア
ニューサウスウェルズ州 環境影響調査プロセス
北部準州 鉱業権保有に関わる手続き
南オーストラリア州 先住権に関わる手続き
ビクトリア州 私有地へのアクセス手続き
連邦政府 環境影響調査プロセス
南オーストラリア州 原生植物に関わる手続き
ニューサウスウェルズ州 私有地へのアクセス手続き
西オーストラリア州 鉱業権保有に関わる手続

(2) 規制緩和に向けて
 鉱業プロジェクトの手続き・規制を効果的・効率的で透明性のあるものとするには、これら手続き・規制に対する評価・意見に耳を傾け、問題の解決策を探り、手続き・規制を改善していくこと、また、改善にあたっては、スケジュールの設定、改善プロセスをモニタリングするシステム、地域社会の期待への対応など政治のリーダーシップが必要としている。
 

5. おわりに

  オーストラリアは、鉄道や港湾施設などの「ハード・インフラストラクチャー」の整備が進められる一方で、技能労働者の確保・育成、手続き・規制緩和などの「ソフト・インフラストラクチャー」の面で鉱山業をバックアップする体制の確立を急いでいる。それは、資源ブームに乗り遅れないためだけではなく、地下に眠る膨大な鉱物資源の持続可能な開発を可能にする人材と魅力ある投資環境が、将来にわたって「資源大国」としてこの国が発展していく道であるからである。

参考文献
Mr Gary Banks, Scoping the Issues: Reducing the Regulatory Burden – the key issues
Mr Mitchell H Hooke, Gearing Australia’s Capacity and Supply Response
Mr Paul Dowd, Improving Regulation
Mr Paul Dowd, The ‘National Scorecard’
Mr Charlie Sartain, Education & Training: Delivering the right people
Dr Wally Cox, Platform for Regulatory Efficiency

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