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報告書&レポート

2006年6月29日 シドニー事務所 永井正博、久保田博志 e-mail:masahiro-nagai@jogmec.net kubota-hiroshi_1@jogmec.go.jp
2006年42号

オーストラリア鉱業における産学官共同の取組み

 「Minerals Week 2006」が、2006年5月30日~31日、首都キャンベラにおいてオーストラリア政府資源関係者、各国大使、業界団体、大学、企業トップなどが参加して開催された。
 2006年は、2005年に引き続き「技能労働者不足」、「インフラストラクチャーの整備」がメイン・トピックスとして取り上げられたほか、「鉱業分野での規制緩和」、「鉱業分野での産学官共同の取組み」について講演・議論が展開された。
 本稿では、「Minerals Week 2006」の講演を中心にオーストラリア鉱業分野での産学官共同の取組みを紹介する。

1. はじめに

 オーストラリア鉱業における産学官連携の調査・研究開発は様々な形で実施されている。その中から、「産」「学」「官」、それぞれの側からの共同研究へのアプローチの事例を以下に紹介する。

2. 「産」、リサーチ・ブローカーAMIRA

(1) AMIRAとは
 AMIRA Internationalは、1959年に研究者(Seeds)と産業界(Needs)とを結びつけてR&Dを形成・運営する非営利企業「リサーチ・ブローカー」(Research Broker)として設立。当初は、オーストラリア国内における鉱業技術に焦点をあてたR&D(調査研究)をオーガナイズしてきたが、近年では全世界的にその活動を展開している。47年間で、約550件の初期プロジェクト(Pre-competitive:商業化による競争前の段階)に関わっている。
 AMIRA Internationalは、80社以上のメンバー、研究者、調査研究投資者から構成され、現在、AMIRAは約60プロジェクトを運営し、R&D基金総額40~45百万A$、毎年10~13百万A$の資金の拠出を受けている。
 

表1 AMIRA基金の資金源の内訳

基金の資金源

拠出金額
(百万A$)

スポンサー

7.8

カナダ自然科学・工学会議
    (NSERC:Natural Science and Engineering Council of Canada)

1.0

産業技術人材プログラム
    (Technology and Human Resources for Industry Programme:THRIP)   (南アフリカ)

1.6

オーストラリア研究会議(ARC:Australian Research Council)

1.7

オーストラリア共同研究センター(CRC:Cooperative Research Centres)

0.9

13.0

表2 AMIRAがマネージメントする基金の内訳

 

拠出金額
(百万A$)

AMIRAを経由して産業界から

7.5

海外研究機関

3.0

ARC

10.0

州政府・大学

6.0

その他

7.0

33.5(現金)

 
(2) 探鉱・鉱業分野におけるAMIRAの役割
 AMIRA Internationalでは、今後、探鉱・鉱業において鍵となるR&D分野として、環境及び持続可能な開発、低品位鉱石・難処理鉱石、教育・技能訓練等を上げている。
 
(3) AMIRAの成果
 AMIRA Internationalのメンバー、研究者、調査研究投資者らは、それぞれの立場で、投資効果・R&Dコスト・リスク・共同研究実施・ネットワークなどの面において利益を享受できる。即ち、R&Dに関わるニーズとシーズを結びつけられる、最新の研究成果へアクセスできる、経験豊富で高い品質の研究者・研究機関での研究実施、インターネットによる世界中の研究成果へのアクセス、地域の研究インフラの維持、単独でR&Dを実施したときの10~20倍以上の経済効果などが得られるとしている。
 

3. 「学」、地方大学から世界的研究センターへ、タスマニア大学CODESの共同研究ポリシー

(1) CODESとは
 タスマニア大学は、タスマニア州にある「地方大学」であるが、州北西部にはMt.Read火山岩類が分布し、Rosebery鉱山、Henty鉱山などの火山性塊状硫化物鉱床をはじめ金属鉱床が多数分布することから、同大学の地質学教室は火山岩・鉱床学の研究を積極的に進めていた。
 1984年同大学の卒業生でもあるRoss Large氏(現教授)が教官として母校に戻り、1989年には産業界と政府の支援を受けてCentre for Ore Deposit Research:CODES(鉱床研究センター)が設立された。15年を経てCODESは、年間予算6百万A$、研究スタッフ25名、博士課程35名、修士課程15名、学部生12名、全世界55社との共同研究実績を誇る「世界的鉱床研究センター」となった。
(2) CODESの共同研究ポリシー
 CODES所長のRoss Large教授は、「オーストラリアが、鉱物資源分野の共同研究においてリーダー的な存在であることが国益を維持していくことである」として、共同研究に関する次のような基本方針を示している。
 ⅰ. (産業界との)共同調査研究は産業界にとって意義のあるものであること。
 ⅱ. 調査研究アイディアは売込む必要があること。
 ⅲ. トップクラスの研究機関との連携を行うこと。
 ⅳ. 定期的な研究成果の報告を行うこと。
 ⅴ. 全世界的な視野を持つこと。
 ⅵ. 最高品質の結果を提供すること。
 ⅶ. 企業への技術移転のメカニズムを構築すること。
 

表3 CODESの共同研究タイプ
共同研究のタイプ

事 例

研究コンソーシアム参加型

AMIRAにおける地質と冶金の融合研究
                 (CODES、産業界とで研究費負担)

一対一型 Newcrest社とのCadia Hill鉱床の研究
                (博士課程の学生などが参加)
大学・研究機関型

CSIROのNuclear Micro Probeを用いた研究

世界的エキスパート型

John’s Hopkins大学との共同研究

教育型

鉱業協会(MCA)がスポンサーとなっているMCA Teaching Networkのメンバーとして参加

4. 「官」、CRCファンディング

(1) CRCとは
 CRCプログラム(共同研究センター・プログラム:Cooperative Research Centres Program)は、1990年5月にオーストラリアにおける研究開発の効果改善を目的に、政府・産業界の出資のもと設立・運営されている。1プログラムの期間は原則として7年間。ここでは産業界、研究機関、教育機関、政府機関が連携して研究開発の成果とその商業化、科学技術教育に焦点をあてた調査研究が行われる。
 教育・科学・訓練大臣(The Minister for Education, Science and Training)は、CRCプログラムに関する全ての責任を負い、研究プロジェクトの採択・評価等に関する諮問を行う機関であるCRC委員会(CRC Committee)を組織し、その諮問に基づきプログラムを実施する体制となっている。
 現在の調査研究数は、環境・農業・IT技術(情報・通信)・鉱業・医薬品・製造技術の6分野で71プロジェクトが実施中である。2004年までの調査研究費は累積支出ベースで96億A$あり、このうち22億A$がCRCプログラム、26億A$が大学、18億A$が産業界、10億A$がCSIRO(連邦科学産業研究機構)からの拠出であった。この中には直接費のほか、人件費など間接的な費用が含まれる。
 
(2) 探鉱・鉱業分野におけるCRCの役割
 採鉱技術機械CRC(CRC for Mining Technology and Equipment :CMTE)は、1991年、15プロジェクトに連邦政府予算のもと開始された。1997年には、調査研究費の再拠出が実施され、産業界からはオーストラリアの主要鉱山会社であるCRA社(現Rio Tinto社)、BHP Coal社、WMC社(現BHP Billiton社)、Pasminco社(大部分はZinifex社へ移転)、Hamersley Iron社などが参加した。2002年に調査研究費の2度目の再拠出が実施された際には、Phelps Dodge、AngloGold Ashanti社などオーストラリア国外の鉱山会社が加わっている。
 土地環境探鉱CRC(CRC for Landscape Environments and Mineral Exploration:CRC LEME)も再拠出の7年計画の5年目にあたり、オーストラリアにおける探査の障害となっている風化土壌レゴリス(regolith)に関する研究等を実施中。プロジェクトには、オーストラリア地球科学機構(Geoscience Australia)・CSIROのほか大学などが参加している。7年間の研究費は38百万A$、人件費などの役務提供などの間接的な支出94百万A$を加えると132百万A$に及ぶ。
 
(3) CRCプログラムの成果
 CRCプログラム開始から研究成果が産業界で利用されるまでの期間は平均9年、産業界のR&D費用に占める割合は大学が数%であるのに対してCRCプログラムは10数%、CRCプログラムに参加する研究者数は同プログラムを開始した1992年の数10名程度から2005年には300名を越えるまでに増加している。
 また、GDPに対する貢献度は累積で11.4億A$に達すると試算されている。
 
5. おわりに

  オーストラリアは、探鉱、採鉱・選鉱、製錬、環境と鉱業の各技術分野で世界のリーダーとしての地位を占めることが、鉱物資源大国として持続的な発展を維持していくことであると認識している。そのためにも潜頭化してより大規模新鉱床の発見が困難となりつつある探査技術、低品位・難処理鉱の処理が求められる採鉱・選鉱・製錬の各技術、鉱業の全ての段階で要求される環境への対応など、単独企業・機関では技術的にも経済的にも解決困難な課題を「共同研究」の枠組みによって解決する取組みが産官学の各方面から行われている。

参考文献
Professor Ross Large, Collaboration is Key to Growth and Innovation in Minerals Research
Mr Deming Whitman, Collaborative Research: Creating Enduring Value
Mr Mark Woffenden, Success from the CRC Program
AMIRAWeb site http://www.amira.com.au/
CRC Web site https://www.crc.gov.au/Information/default.aspx

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