閉じる

報告書&レポート

2006年6月29日 バンクーバー事務所 宮武 修一、希少金属備蓄グループ 林 健三 e-mail:miyatake@jogmec.ca hayashi-kenzo@jogmec.go.jp
2006年43号

タングステン資源、最近のカナダ企業の取組み

 2006年5月にJOGMEC希少金属備蓄グループとバンクーバー事務所は、日本に対するタングステンの安定供給の可能性を探るために本邦関心企業から成る調査団を編成し、カナダ・タングステン鉱山の開発状況や日本企業の参画可能性などを調査した。調査団には日本のタングステン関係企業、商社、銀行等より10名が参加し、バンクーバーに集中している主要なタングステン生産者、タングステン探鉱プロジェクトの推進者を訪問した。本稿では10月報告のカレント・トピックスの続編として、ノースアメリカンタングステン社を中心に各社の最近の取り組みについて報告する。

1.はじめに

 世界のタングステン生産は中国一国がその85%以上を担うという極めて異例な供給構造となっているが、同国の内需を優先した供給政策により、世界の鉱石供給は逼迫、タングステン市況は記録的な高値で推移している。北米地域においても、市況高騰に反応してタングステン鉱山の再開や長らく塩漬けになっていた探鉱プロジェクトが再び緒につくなど、生産サイドは活発な展開をみせている(2005年10月26日カレント・トピックス)。その後、タングステン・ユーザーサイドにも原料の安定確保に対する関心が急速に高まりつつあり、2006年には生産サイドとの新たな提携の動きがみられている。
 JOGMEC希少金属備蓄グループとバンクーバー事務所は、2006年5月に北米タングステン主要企業を取材する調査団を組織し、バンクーバーに集中している主要なタングステン生産者などを訪問した。調査団は5月29日から31日の間、北米地域で唯一のタングステン生産鉱山を有するNorth American Tungsten社(以下、NAT社)と面談し、同社のCanTung鉱山を訪問したほか、ポルトガルのPanasquira鉱山を有するPrimary Metals社、またワールドクラスのタングステン・プロジェクトであるLogtung(Northern Dancerに改名)を始動したLargo Resources社およびStrategic Resources社と面談を行った(第1図)。本稿は、2005年10月報告のカレント・トピックスの続編として、今回の調査により得た詳細な情報をもとに、NAT社を中心に各社の最近の取り組みについて報告したい。

第1図 ユーコン準州のタングステン鉱山、主要プロジェクト位

2.ノースアメリカンタングステン社

 在バンクーバーのノースアメリカンタングステン社(North American Tungsten社、以下NAT社)は、カナダ北西部、ユーコン準州とノースウエスト準州の境界部にCanTung鉱山、MacTungプロジェクトを有する。CanTung鉱山は北米唯一のタングステン生産鉱山であり、世界生産の約7%を担う(NAT社)。またMacTungプロジェクトの鉱量を併せると、NAT社一社で世界のタングステン鉱量の15%を保有している企業にあたる(NAT社)。以下にCanTung鉱山の操業と当面の取り組み、MacTungプロジェクトの開発計画、米国生産者との提携につき概要を紹介する。
 
 ― CanTung鉱山の操業と当面の取り組み ―
 CanTung鉱山は2003年12月より生産休止していたが、市況の高まりを受け2005年9月から生産を開始した。再開に要した初期投資は600万US$であり、主に選鉱プラントの整備、重機、発電機器の購入に充てられた。
 公表される鉱量は、可採鉱量77万t(地質鉱量600万t)、平均WO3品位1.75%である。鉱床はおよそ層状で、顕著なしゅう曲を呈しつつも、中~高傾斜で北西-南東方位に伸長する。灰重石(CaWO3)の富鉱部は、切羽を観察した限り、磁硫鉄鉱に富む部分に良い一致を示す。
 採掘は、カットアンドフィル、ロングホールストーピングによる坑内採掘で、現在の粗鉱採掘規模はミル給鉱ベースで1,200t/日である(公称処理能力1,100t/日)。
 選鉱工程は、とりわけ硫化物と灰重石の分離に配慮されており、磨鉱(1次クラッシャー、2、3次ボールミル、計36時間)、3段の浮遊選鉱(硫化物、灰重石、硫化物)、テーブル選鉱、ばい焼(600℃゚C)、磁力選鉱の順であり、WO3品位65%以上のタングステン精鉱を生産する。鉱石には若干量の銅、ビスマスも伴われ、バイプロダクトの可能性もあるというが、現状灰重石以外は廃棄されている。
 タングステン精鉱は4,400lb(約2t)毎に袋詰めされ、アルバータ州エドモントンまでトラック搬送され、のち鉄路で運搬される。搬送コストは操業コストの3~4%に相当するという。
 鉱山の従業員総数は184名。管理部門も含め、約140名/日の体制で操業されている。二方制で、一方約60名、うち20名が坑内作業に従事する。勤務は3週間の連続勤務の後、3週間休暇という体制。発電は計7.1MWのディーゼル自家発電。軽油は700km離れたホワイトホースから10時間をかけ運搬する。電力コストは22セント/KWである。
 NAT社による2006年第1四半期報告によれば、期別生産量は59,743MTU*/3month (65,854stu/3month)であった。この期間のCanTung鉱山の操業コストは第1表のようにまとめられている。これに対しメタルズブリテン誌による2005年12月および2006年3月のタングステン価格**はそれぞれ262.5US$/MTU(238.1US$/stu)、282.5US$/MTU (256.28US$/stu)であった。CanTung鉱山の生産に関して、第2四半期の平均粗鉱処理量は957t/日であったところ、5月30日の訪問時には1,200t/日と約25%増加しており、第1四半期の生産量、生産効率は共に上向いていると見通される。
 
 * MTU:メトリック・トン・ユニット、1MTUはWO3:10kg、或いはW:7.9kg、1.1023stuショート・トン・ユニット
 ** 欧州APT価格(中間製品、Anmonium Para Tungstate)

 
 第1表 CanTung鉱山の操業コスト(NAT社2006年第1四半期報告より転載)
 
 
 
 現在のところCanTung鉱山の残存マインライフは残り約3年程度と短く、これを最低5~6年に延命するため、鉱量確保に最大限の取り組みが行われている。講じられている鉱量確保の方策は、以下のとおり。
 (1) 60~70年代露天採掘周辺の再開発と当該鉱量の計上、
 (2) 市況高騰を踏まえ、見過ごされてきた坑内低品位鉱量の計上、加えて鉱量とされていなかった坑内の鉱柱などの採掘も検討、
 (3) 既存鉱床の北西延長部の新規探鉱、
 (4) 尾鉱ダム(平均WO3品位:0.3%)からのタングステン回収に関する技術開発(大学と提携)。
 
 ― MacTungプロジェクト ―
 MacTungプロジェクトはCanTung鉱山の北160km、ユーコン準州およびノースウエスト準州の州境上に位置している。鉱床はCanTung鉱山と類似のスカルン型で、70~80年代のAMAX社の探鉱を通じ、鉱量16,159,000t、WO3品位1.01%(measured + indicated)、また別途13,785,000t、WO3品位0.84%(inferred)が計上される。NAT社は、2005年よりMactung鉱床の開発に向け、FSならびに環境影響評価調査の作成に着手、今後3~4年のうちに生産を開始したいとする。NAT社の想定する開発までのスケジュールは以下である。
 
 2005年:
 総延長6,000mの鉱量確認ボーリング、探鉱坑道の取り開けとチャネルサンプリング、鉱石100tを用いた選鉱試験。
 2006年夏:
 現在のプロジェクト情報開示基準(NI43-101)に即した鉱量の計上。環境ベースライン調査実施、プレFS完成。
 2006年秋~2007年春:
 FS完成、用水使用許可申請、採掘許可申請、資金調達。
 2009年春:
 各種許認可取得、建設開始。
 
 このようなFS、許認可取得に見込む総費用は7~8百万US$程度と比較的低廉であるが、これは過去AMAX社が計3,000万US$を投じて複数回におよぶ技術的調査を終えていることに起因する。現在のところ、想定される初期投資額は1億2,000万US$程度とのことで、当初10年間の坑内採掘ののち、20年間の露天採掘を計画している。プロジェクトの採算性を考えると、120US$/MTU以上のタングステン価格を想定することが必要であるという。
 NAT社は、MacTungプロジェクトについて、買鉱のみの契約に関心は無いものの、出資や選鉱に関する技術移転など、開発パートナーとしての参加可能性について幅広く議論を行う用意があるとしている。
 
 ― 二次製品製造プラントのジョイントベンチャー ―
 NAT社は、5月5日、米国ミネソタ州のTundra Composite社と共同で、中間生産物であるAPTなど様々なタングステン粉末を生産するプラントをミネソタ州に建設する覚え書きを締結した。プラント事業は50:50のジョイントベンチャー(JV)スタイルで、NAT社は初期のプラント建設資金を、またTundra社は低コストの先進処理技術を供出する。JVは当初パイロットプラントを建設し、運転の検証を行ったうえ、2006年9月1日の段階で商業生産用プラントの建設につき可否を判断する。パイロットプラントの建設費用は285万US$、商業用プラントの初期投資額は1,000万US$とそれぞれ見積もられている。プラント建設後、CanTung鉱山の生産量の約17%の精鉱がJVプラント向けとなる見通し。
 Tundra社は、主に鉛の代替用途としてタングステンを扱う製品メーカーであるが、NAT社との提携により今後安定的な原料確保が期待されることになる。他方、NAT社にとっては、鉱山開発から川下分野への業容拡大により、APT等中間製品の生産といった付加価値を付けた製品出荷による安定した収益基盤の確保が期待される。NAT社は2003年12月に米Osram Sylvania社らの長期買鉱契約の打ち切りにより、CanTung鉱山の生産休止を余儀なくされたが、こうした過去を踏まえての対策ともみなされる。なおOsram Sylvania社は米国の照明器具製造大手で、独シーメンス系である。

3.Primary Metals社

 Primary Metals 社は、ポルトガルで稼行中のタングステン鉱山Panasquiraの100%の権益を有する在バンクーバーの企業である。Panasquira鉱山は1890年代に採掘開始、複数の採掘は1928年に英国系資本により鉱山企業として経営が束ねられた。この事業権益は、90年にMinorco社(Anglo-Americanグループ)、94年に英Avocet Mining社に渡り、2003年にPrimary Metalsに渡った。
 Panasquira鉱山において稼行対象となるタングステン鉱物は鉄マンガン重石で、鉱石品位はWO3:0.21%。坑内採掘で、現状の採掘規模は日産粗鉱量で2,400t/日、年間120,000MTUの精鉱を生産する。鉱量は未公表であるが、現在カナダ上場企業の基準に従った技術レポートを作成中であり、近々報告の見通しである。従業員数は275名。生産コストは73ユーロ/MTUとされる。タングステン精鉱は長期買鉱契約に基づき、全量Osram Sylvania社に納められている。
 Primary Metals社の現在の取り組みは、(1) Panasquiraのマインライフ延長、(2) 生産性の向上、(3) 取り扱い鉱種の多角化である。同社はPanasquiraマインライフ延長のため新たに鉱山周辺探鉱に着手したほか、市況を踏まえた低品位鉱の可採鉱量への組み入れを検討する。また生産性を高めるため、選鉱所、採掘重機に350万US$を投じ、回収率の向上と、新型採掘機器によるズリ混入量の低減に対策を講じた。加えて、同社はPanasquiraから15km南に位置するArgimela錫プロジェクトを2006年4月に獲得し、既存鉱量の確認に着手する。Argimela鉱床は露天採掘可能な地表近傍に位置しており、60~70年代の見積もりで、鉱量7,760万t、品位Sn:0.057%が計上される。錫の最大生産国は現状中国で世界生産の30%強のシェアがあるが、同社は将来性が注目される鉱種とみている。

4.Strategic Metals社、Largo Resources社:Logtung(Northern Dancer)プロジェクト

 Strategic Metals社は、ユーコン準州における地質コンサルティング業務に長い経験を有する在バンクーバー、Arther,Cathro社の探鉱子会社で、過去この地域のタングステン探鉱に緒をつけたAMAX社の複数の資産を自社鉱区として所有している。このうち最大規模のプロジェクトがLogtungプロジェクトであり、80年代までのAMAX社の探鉱により、鉱量1億6,200万t、平均WO3品位0.13% (MoS2:0.052%)が計上されている。Logtungは斑岩型鉱床であるが、この種のタングステン資源量としては最大規模とされる(Strategic社)。Logtungの開発はタングステン市況の低迷から長らく塩漬けになっていたが、2006年4月に新進のLargo Resources社(在トロント)がStrategic Metals社とオプション探鉱契約を締結、向こう3年間に500万C$を費やす探鉱・FSに着手した。
 現在のところ、プレFS前段の探鉱段階ではあるが、Largo社による、極めてラフな開発見通しによれば、初期投資額4億2,500万US$、露天採掘、日産粗鉱量25,000t/日、年間精鉱生産量12,000t(WO3品位:50%)、3,500t(MoS2品位:88%)、マインライフ30年、想定するタングステン市況125US$/MTU(モリブデン:Mo純分27.5US$/kg)であるという。
 Strategic社によれば、バンクーバーの鉱業関係者の間では、タングステン市況は当分底堅いとみられており、調整するにせよ、2010年まで160US$/MTUを下回らず推移するのではないかと見通されているそうである。

5.おわりに

 在バンクーバーの三社につき訪問・面談を重ねたが、とりわけ生産各社においてはタングステン市況の騰勢に呼応して株価も高騰、株式発行による資金調達もおおむね順調であることから、今後の強気な見通しが聞かれたと思われる。NAT社にあっては、ここで紹介した事業に加え、最近新たに探鉱プロジェクトを獲得するなど、基礎探鉱への展開も並行して行われている。NAT社はベンチャー企業というべき規模ながら、市況を追い風に、同時並行的に様々な段階のプロジェクトに投資を行っており、垂直統合されたタングステン原料メーカーへの急速な成長を睨んでいるようである。
 本稿では主要なタングステン・プロジェクトを有するカナダ企業を紹介したが、ほかにも在トロントのTiberon Minerals社が進めるベトナム・Nui-Phao開発案件は注目されるプロジェクトである。Nui-Phaoの規模は、鉱量55.7Mt、WO3品位0.2%(CaF2:8.1%、Bi:0.10%、Cu:0.2%、Au:0.25g/t)、年間タングステン精鉱生産量468,900MTUで、2007年第4四半期の出鉱を見込むという。2006年2月には、米Osram Sylvania社がNui-Phaoで生産される精鉱の全量を引き取るオフテイク契約オプションを行使、これに伴い鉱石の取り扱い権は米国企業に握られることになった。既に述べたよう、カナダNAT社のCanTung鉱山についても、2006年5月にユーザーサイドと協調した米国の自社処理プラントの計画が発表されるなど、垂直統合による生産物の支配が進む可能性がある。このような2006年の一連の動きは、原料の安定確保や引き取りに対する関心が急速に高まっていることを示している。更に、こうした鉱石手当に関し、ポルトガル鉱山の精鉱を含め、北米企業が握るタングステン資源に対して、米Osram Sylvania社が際だった存在感を有しているということもまた、特筆される。
 今回の調査を踏まえ、我が国に対するタングステンの安定供給に向けて、日本企業の積極的な取り組みが期待されるところである。

ページトップへ