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報告書&レポート

2006年7月20日 ロンドン事務所 高橋 健一 e-mail:takahashi@jogmec.org.uk
2006年48号

中央アジア地域の鉱業開発状況に関するセミナー参加報告- Central Asian Day –

 中央アジア地域の鉱業開発状況に関するセミナー -Central Asian Day-(Mining Journal誌主催)が6月6日にロンドンで開催され、中央アジア地域で積極的に金鉱開発プロジェクトを推進するAvocet Mining社(本社英国)、Alhambra Resource社(本社カナダ)、European Minerals社(本社英国)ならびAurum Mining社(本社英国)が講演を行った。セミナー参加者は、大手鉱山会社や鉱山アナリストなど鉱山関係者、投資銀行、証券会社、法律事務所など、通常のこの種のセミナーへの参加者に加え、投資先として未知数の部分が残る地域のセミナーであることを反映してか、個人投資家の参加者も多数を数えた。講演を行った4社はいずれも新たな金鉱開発を手掛けており、自社プロジェクトへの投資促進の色合いが強く感じられる講演内容であった。また講演後の質問事項もプロジェクトの収益状況に関する質問が大勢であったことなど、結果的に、全体的な投資環境状況よりも、個々のプロジェクトの資金・投資状況に終始した内容であった観は否めない。
 東西冷戦終結後、旧ソビエト連邦に組み込まれて長く政治的・経済的支配を受けていた諸国が独立して資本主義経済を導入するなど、中央アジア地域は劇的な変貌を遂げてきた。しかしながら、歴史的・民族的・宗教的・地理的要素が絡み合い、未だ政治的安定性に欠け、経済発展もままならない国が多いなど、中央アジア地域を取り巻く環境は複雑な様相を呈しているのが現状である。さらに、ほとんどが乾燥気候帯もしくは荒涼とした土地で占められるために農業発展が見込めず、地下資源に産業の根幹を置いて経済発展の活路を見出そうとしている。だが、自国だけでは資金的にも経験的にも開発への着手が難しいために、海外からの投資や技術導入に頼っているというのもまた現状である。
 セミナーでは4社の講演に先立ち、「中央アジア」という地域の認識を新たにしようと、セミナーの進行役を努めるMining Journal誌編集主幹により、「中央アジア」と呼び称される地域についてその定義付け、今日の中央アジアの鉱業発展にも重大な影響を及ぼしている歴史的・地理的背景、ならびに各国の概要について包括的な講演がなされた。

1. 中央アジアの概要

 -Dr. Chris Hinde: Editorial Director of Mining Journal-
1-1. 「中央アジア」の定義
 地理的・歴史的見地などから、その境界線の引き方について様々な定義付けがある。

  (1) ソ連崩壊後の一般的定義
 ソ連支配下ではウズベキスタン、トルクメニスタン、タジキスタン、キルギスだったが、ソ連崩壊後に、カザフスタンが加わった「5-Stans」と定義される。

(2) UNESCO(国連教育科学文化機関)による定義
 気候帯を同じくする地帯を「中央アジア」と1980年代に定義され、モンゴル、中国西部、イラン北部、アフガニスタン、パキスタン、ロシア中東部、5-Stans、インドのパンジャブ地方と北部が含まれる広大な地域とした。

(3) 民族性に基づく定義
 東チュルク族、東イラニアン族もしくはモンゴリアン族が先住していた一帯と定義したもので、新疆ウィグル自治区、シベリアのチュルク/イスラム地域、5-Stans、アフガン・トルキスタン地域(アフガニスタン北部のトルコ民族優勢地域)ならびにチベット地方を含む。

(4) 鉱業から見たMining Journalによる定義
 「5-Stans」にアルメニア、アゼルバイジャンとグルジアを加えた8か国と定義した。この8か国の総人口は7,500万人に満たず、アジア総人口のわずか2%を占めるにとどまり、8か国全体の総GDPは2,300億US$ (3,140US$/人)に過ぎない*
 *:Purchasing-power party 2002による
 以下の記述は、Mining Journal誌の定義に基づいた中央アジア8か国の概要である。

中央アジア8か国国別概状
国名
国土面積 千km2(%)
人口 百万人(%)
総GDP 10億US$(%)
一人当たりGDP US$
Armenia
29.8 ( 0.7%)
3.0 ( 4.0%)
10.5 ( 4.5%)
3,500
Azerbaijan
87.0 ( 2.1%)
7.9 (10.7%)
26.9 (11.5%)
3,400
Georgia
69.7 ( 1.7%)
4.7 ( 6.3%)
11.8 ( 5.1%)
2,500
Kazakhstan
2,717.0 (65.0%)
15.1 (20.4%)
95.1 (40.9%)
6,300
Kyrgyzstan
199.0 ( 4.8%)
5.1 ( 6.9%)
8.2 ( 3.5%)
1,600
Tajikistan
143.0 ( 3.4%)
7.0 ( 9.5%)
7.0 ( 3.0%)
1,000
Turkmenistan
488.0 (11.6%)
4.9 ( 6.6%)
28.4 (12.2%)
5,800
Uzbekistan
447.0 (10.7%)
26.4 (35.6%)
44.9 (19.3%)
1,700
合計
4,180.0(100.0%)
74.1(100.0%)
232.8(100.0%)
3,142

1-2. 地理的外因
 中央アジアは、ユーラシア大陸のほぼ中央に位置し、高原・山岳地帯(天山山脈)、広大な砂漠地帯(カラカム、キジルクム、タクラマカン)、樹木のほとんど育たない大草原地帯といった乾燥地帯で占められ、厳しい気温変動に晒されているために農業にあまり適さない地域である。
 
1-3. 歴史的内因
 中央アジアは、19世紀から今日まで、周囲の思惑によって利用されてきた。東の中国、南東のインド、南西のアフガニスタンはもとより、北のロシアからは独立後も多大な影響を受けている。旧ソ連領時代の工業発展・インフラ整備の影で、独自の文化や民族性を蔑ろにされてきた弊害が根深く、民族間では今でも絶えず緊張状態が続くなど一触即発の危険性をも含んでいる。
 この地域を通るようになった石油パイプラインは、トルコが地中海へのルート、イランがカスピ海からペルシャ湾につながるルート、さらにパキスタンがアラビア海へのルートを提供するなど、経済効果と共にチュルク民族としての連帯感を強めることにも寄与した。近年では、米国もアフガニスタンに対する軍事的関与を通じて影響力を強めている。
 
1-4. 中央アジア諸国の概要と鉱物資源
アルメニア:
 8か国中最小だが、積極的な対外投資を受け、過去5年二桁の驚異的な経済成長率を誇る。2004年の対外投資は33%増の3億US$、外国直接投資は48%増の2億US$強で、17%が鉱業で占める。主要鉱物資源は銅、モリブデン、金、次いで、亜鉛、鉛、銀となる。
 
アゼルバイジャン:
 独立以来積極的な対外投資受けて主力をおいてきた石油・天然ガスが既に経済の根幹をなしている。現在小規模な鉱業生産(鉄鉱石、鉛、亜鉛、モリブデン、金、銀、工業原料鉱物)は行われているが、そのほとんどが旧ソ連時代に開発されたもので、独立以後生産量は激減している。2004年から政府主導で金鉱開発の推進を始めるなど、鉱物資源にも力を注ぎ出した。
 
グルジア:
 8か国中2番目に小さく、黒海沿岸以外は山岳地帯の国ではあるが、北はロシア、南はトルコなど多数の国々と接するため、戦略的に重要な位置にある。独立以来民主化と市場経済を導入し、政治的・経済的な困難に見舞われながらも確実に発展している。
 マンガンは重要な輸出品目だがGDPに占める割合は3%に過ぎないため、政府は2017年までにそれを10%にする目的を掲げて企業の民営化を図っている。
 
カザフスタン:
 8か国中最も近代化の進んだ国で、8か国中最大の面積を占める。必然的にヨーロッパとアジアの橋渡しの役割を負わざるを得ないという位置にあるが、テロや民族紛争は稀有である。人口こそ20%ながらも、総GDPの40%を占め、一人当たりGDPも地域平均の2倍と、この地域の経済における中心的な役割を果たす。過去5年の経済成長率は平均9%と成長を続け、2004年の外国直接投資は84%増と驚異的な伸びを示し、84億US$を超えた。主要投資国は米国(31億US$)、オランダ(18億US$)、英国(9億US$)である。
 鉱業のGDPシェアは27%で、石油・天然ガスを除く主要な鉱物資源生産はウラン、クロム、銀、燐、ニッケル、石炭、金である。特に金は重要であり、確定鉱量が1,500tで世界第9位、CIS諸国で第3位と報告されている。
 
キルギス:
 山岳地帯がそのほとんどを占める内陸国で、ここ数年でマクロ経済的安定性は少なからぬ成長を遂げている。金生産量はロシア、ウズベキスタンに次いでCIS諸国第3位で、その多くは四大金鉱床(Kumtor、Makmal、Jerooy and Taldy-Bulak)にある。さらに、小規模だが高品位金鉱床もSolton-Saryや Kuran-Dhzailiauで開発されている。

タジキスタン:
 広範囲の資源に恵まれ、アンチモン、水銀、鉛、亜鉛、銀鉱床はCIS諸国中で最大規模であるものの、鉱業がGDPに占める比率は低い。
 SkalnoyeにはCIS諸国中最大のアンチモン鉱床を有し、Shogd地方には鉛-亜鉛、金、銀ならび石炭等、200を超える鉱床が確認されている。ここ5年で確認・探査された400以上の資源鉱床には、Ak-tashの亜鉛鉱床、Chokadambuakのビスマス鉱床とアンチモン鉱床、Zerafshan・Gissar Valleysの水銀鉱床とアンチモン鉱床、Pamirsの金鉱床が含まれる。英国との合弁会社がTaror、Jilau、Gidjarvaの金鉱床で採掘を行っている。KonimansurにCIS諸国最大の銀鉱床を有し、南部および北部地方には石油、GissarとVakhsh Valleyには天然ガスを有する。
 
トルクメニスタン:
 金属・非金属資源は無いが、天然ガスはCIS諸国中第4位、石油は第5位を誇り、工業用資源(カオリンや花崗岩等)やアルマイトも豊富に有する。
 
ウズベキスタン:
 ユーラシア大陸の中心という戦略的に優位な位置を占め、8か国中最多人口(36%)を有する国で、比較的インフラも整備されている。2004年の対外投資は2%増の6億US$、その内、海外直接投資は2億US$強に及び、農業分野が高度に発達しているばかりか、豊富な資源をも有する国である。
 資源量で8か国中第2位の石炭を始め、銅、鉛、亜鉛およびタングステンを含む非鉄金属、ならびに工業用鉱物の大規模鉱床を併せ持つ。金鉱採掘は国の経済の主役で、金生産量では世界第9位、CIS諸国ではロシアに次ぐ第2位にある。また、金の確定埋蔵鉱石量は2,100tと世界第5位を占め、2005年には国家地質委員会が41金鉱床を確認している。
 

2. 中央アジアにおける金鉱開発状況

 タジキスタンで現地政府との合弁会社を設立して金鉱開発を進めるAvocet Mining社、カザフスタンで広く金鉱開発を手掛けるAlhambra Resources社、同じくカザフスタンで金・銅鉱採掘に着手し始めたEuropean Minerals、キルギスで金・銅鉱開発に取り組み始めたAurum Mining PLC社の4社による講演がなされた。以下、各社の講演概要である。
 
2-1. ZGCプロジェクト(タジキスタン)
 -Avocet Mining社(Mr. Jonathan Henry: Finance Director)-
 タジキスタン北西部Sogd地方に位置する同プロジェクトの約3,000km2のエリア内全体における金資源量(確定、推定、予想合計)は552万1,800ozである。そのうち、1996年から露天採掘を再開したJilau金鉱床(金資源量203万oz:金品位0.95g/t)からは年間35千~100千ozの金を生産している(2005年44千oz)。同鉱床の拡張深鉱およびリーチング・プラントの処理能力増強などにより、2007年までに金60千ozの増産を目標としている。さらに、現在Scoping Studyを実施中であるTaror金鉱床(金資源量186万oz:金品位5.35g/t)の開発を加え、今後5年間で300千~400千oz規模の金生産量を狙う。この他、現在確認されている金鉱床としては、Chore金鉱床(金資源量92万oz:金品位4.40g/t)がある。
 操業会社は、Avocet Mining社75%、タジキスタン政府25%出資の合弁会社であるZV Zeravshan LLC(ZGC)社で、このプロジェクトの金生産でGDP5%のシェアを目指す。国家自体が非常に貧しく教育レベルの低さが雇用に影響を与えているものの、海外からの派遣20人に対し1,500人を現地で雇用するなど現地への利益還元に寄与するよう努めている。また、新たな探査、許認可申請や環境問題解決については新たな会社を設立し、ZGCに影響が出ない配慮も怠らないなど、タジキスタン政府とも一丸になって国の経済発展をも見据えた姿勢を見せているため、資本投下の安定性も高いと考えられる。
 
2-2. Uzboyプロジェクト(カザフスタン)
 -Alhambra Resources社(Mr. Elmer B Stewart: President & Chief Operating Officer)-
 カザフスタン北東部にかかるCharsk Gold Belt内にAlhambla Resources社が採掘権を所有するエリア(11,000km2)があり、そこに認められる5つの鉱徴ゾーン(Uzboy、Dombraly、Shirotania、Stepnyak、Mamay)内の250の鉱床、あるいは鉱徴をターゲットとしたプロジェクトである。現在探鉱中であるが、先行するUzboy鉱床に関してはFSを2006年までに完了させる計画であり、これまでの探査から同社では、金資源量800~1,000万oz規模の可能性があるプロジェクトとしている。2004年末から試掘鉱石のテスト・リーチングを開始し、2005年に14.8千ozの金を生産しており、2010年までには年間210千ozの金の生産目標を掲げている。金鉱床は地下60~120m(最深354m)であるばかりか、この一帯は以前ダイヤモンドを産出しており、31もの掘削孔が金産出に有効利用できるため、掘削にかかる資本投下の節減が計れるのが利点である。また、資本投資は2009年をピークとして以降減少が見込まれるなど、将来性が高いプロジェクトと言えよう。
 Alhambla Resources社はカナダに拠点を置くため北米地方からの資本投下が多いが、ヨーロッパ企業の進出が目覚しいカザフスタンでの大規模開発に際し、今後はヨーロッパからの大きな資本投資をも強く希望している。安定した大規模処理能力のため、収益性も従来より大幅に上昇すると考えている。
 
2-3. Varvarinskoyeプロジェクト(カザフスタン)
 -European Minerals社(Mr. Anthony Williams: Chairman)-
 カザフスタン北部(ロシア国境隣接)に位置し、確定・推定鉱石量中の含有量が金234万ozならび銅269百万lbs(約122千t)のプロジェクトで、現在建設中である。資本コストは145百万US$で、完成後は、露天掘りにより年間鉱石処理能力420万t、鉱山ライフは15年の鉱山となり、2007年第2四半期から生産を開始する予定である。このエリアは平地が続くため用水も容易に入手できる利点があるばかりか、鉱業関連業が定着した工業都市Kustanaiに近く、道路や鉄道、近隣の電力設備など既存のインフラを使うことが可能なため、資本投下が少なくて済むという利点も併せ持っている。また、鉱業に関する知識・文化が浸透している地域もあることも実際の操業には有利に働くのも大きな利点となる。
 European Minerals社はロンドンAIMおよびトロントTSXの両株式市場に上場されているが、このプロジェクト開発を機に、中央アジア地域とより深い関係にあるヨーロッパ市場からも対外投資を募りたいと期待を寄せている。特に金輸出に関しては今のところ関税がかからないなど、対外投資に対して法的にも財政的にも優遇されているカザフスタンの事情も、資本投下には有利に働くと予測している。
 
2-4. Andashプロジェクト(キルギス)
 -Aurum Mining PLC社(Mr. Mark C Jones: Chief Executive)-
 キルギス北西部のTalas Valleyの斜面に広がる50km2の金探鉱プロジェクト。プロジェクト・エリア内に、現在3つの有望ゾーンが確認されている。調査が先行しているゾーン1は、2006年9月完了予定で現在FSを実施中であり、これまでの調査の結果、124万ozの金埋蔵量(JORC定義)が確認されている。開発計画では、露天採掘による年間鉱石処理量200万t、金年間生産12万ozの規模となり、2007年末からの生産開始、2008年半ばからのフル生産を予定している。さらにゾーン2(鉱物資源量550万t:金品位1.68g/t)、ゾーン3(鉱物資源量340万t:金品位1.12g/t)の2金鉱床が確認され、加えて、ポテンシャルの高い4つのエリアも抽出された。インフラ環境では、1.5㎞先に既存の町があるため電力と道路のインフラは整い、河川からも1.5㎞と立地条件にも恵まれる。
 このプロジェクトで特筆すべきポイントは、地元地域の文化・言語、経済や環境問題を考慮して、現地との間に信頼ある協力体制が敷かれていることである。キルギス最大のKumtor金鉱山で経験を積んだチームにプロジェクト管理を任せ、さらにロンドン大学の中央アジア専門家から現地の文化・風習など、プロジェクト遂行上で配慮すべき事項を確認しているばかりか、採掘現場だけでなく隣接する町に植樹するなど、環境の整備にも留意するといった企業理念を併せ持つ。こうした経緯から、会社自体は2004年にロンドンAIM市場に上場したばかりと新しいが、旧ソ連領での豊富な鉱山開発経験を通じた政府や地方自治体との良好な関係の構築においては、優位性を持っている。
 

おわりに

 今回のセミナーは、中央アジア8か国を対象としたものであったが、元来、歴史的・民族的・宗教的・地理的要素などが絡み合い、また、近年における政治体制、政策の違い、あるいは、経済規模・成長率などにおいて大きな格差も存在しており、個々の国を中央アジアの一言で括って論ずることは困難である。加えて、今回のセミナーは、中央アジアの鉱業開発状況といっても、わずか3か国の4プロジェクト、かつ、他の非鉄金属の開発案件などに比べ、初期の投資案件として多く見られる金鉱開発のみに偏っており、また、プロジェクトの収益状況に重きを置いた講演内容であったため、各国の特徴に合わせた開発状況が垣間見られることはできたが、中央アジアの鉱業の全体像・特徴などを捉えるまでには至らない内容であったことは否めなかった。

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