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報告書&レポート

2006年7月27日 元アルマティ事務所 酒田 剛(現:金属資源技術グループ特命調査役) e-mail:Sakata-takeshi@jogmec.go.jp
2006年50号

カザフスタンにおける鉱業と鉱山技術

 すでに国際的な地位を確保しているカザフスタンの冶金工業がさらに発展していくためには、鉱業(採鉱部門)の一層の発展が不可欠である。本稿は、クナエフ鉱山研究所※のSeitgali GALIYEV所長によるカザフスタンにおける鉱業と鉱山技術に関する論文を翻訳したものである。
 ※ Kunaev Mining Institute産業貿易省傘下の国家資源複合利用センター(NTsKPMS:National Center for Complex Processing of Mineral Raw Material)に属する。


■ 鉱業の現況と研究分野

 ここ数年で世界の地下資源生産量は100億t/年を超え、そのうち固体鉱物資源はほぼ64%を占める。この20年間の傾向を見ると、中国、韓国、カザフスタンなどアジア諸国での生産量が1.5倍に増加する一方で、欧州は顕著な減少、北米も微減となっている。アフリカ、豪州や南米ではかなり増えているが、アジアに比べると増え方は著しくない。
 世界における2050年の金属消費量の予測によれば、日本を除くほとんどの地域で消費量は2000年に比べて1.5倍に増えると見られている。
 鉱物資源の生産量と消費量の予測データを分析すると、今後しばらくは鉱業は依然として世界経済、特にカザフスタン経済にとって基本的な産業であるという結論に達する。アジアの鉱業国は、その双肩に鉱物資源の採鉱技術を向上させる義務をも担う。
 世界の地下資源採掘産業にとって、鉱床の深部化、鉱物資源の市場動向、鉱業に対する環境規制強化はますます重要な意味を持つようになっている。鉱山科学技術の進歩とコンピュータの発展は、これら問題の解決に対して適切な方向性と成果に大きな影響を与えている。今やオートメーション化、機械化、組織化、計画立案、設計及び経営管理における総合体系的なアプローチの発展に大きな注意が払われている。
 最も有望な科学的分野の一つとして、塊状岩石のひずみ応力を管理して岩石の物性値を定めるための応力場での岩石力学的研究が挙げられる。この分野はカザフスタンにとって、採掘現場の崩壊による死亡事故の防止、採掘・選鉱コンビナートにおける操業管理の発展のために非常に重要である。採掘技術の向上のためには、採鉱企業における一層の情報化に取組む必要がある。
 経済合理性と環境調和の両面から最も有望ながら遅れている分野としては、鉱物資源を採掘する際の先進的技術(In-situ LeachingとバクテリアLeaching)の開発がある。カザフ企業が南アフリカからこの技術を導入して開発することは、国内の多くの未利用資源(埋蔵量の大部分を占める選鉱困難な硫化鉱)から金の生産量を飛躍的に増加させることを可能とする。
 ウラン産業では、すでに速いテンポでIn-situ Leachingによる生産量が増大している。
 採掘作業の機械化とオートメーション化は、引き続き重要な分野として前向きに取り組む必要がある。
 最近の世界的な傾向として、科学と教育の現場において鉱業分野の専門性に関連する大規模かつ根本的な改革(基本概念と研究対象の再調整、組織再編と研究基盤の見直し)が進んでいる。これに関連してカザフスタンは、中央アジアをリードする世界の鉱業国の一つ(鉱物資源を採掘する164か国の中で、採掘量で13-14位)として、こうした改革に積極的に取り組んでいく必要がある。

■ 鉱山大学(研究センター):総合的アプローチに基づく課題解決
 世界の鉱山大学(研究センター)は、ドイツ、フランス、アメリカ、CIS諸国、カナダ、中国、日本、ブルガリア、ポーランド、オーストリア、トルコ、インド及びギリシャに集中しており、これらの国々によって採鉱部門における世界的な科学技術が形成されている。この中でもコロラド鉱山大学、New Mexico Institute of Mining & Technology(アメリカ)、School of Mining & Petroleum Engineering(カナダ)、パリ鉱山学校(フランス)が全体をリードしている。
 世界的に見ると鉱山大学(研究センター)は、カザフスタンと同様に独立しているか、中心的組織の付属施設として設立されている。後者の場合は通常、教育センターや大手鉱山系企業等の付属施設として活動している。しかし、CIS諸国に見られる鉱山大学(研究センター)の長所は、ほとんどの研究分野にわたる問題を総合的かつ体系的アプローチに基づいて独自に解決できることにある。これは時代の要請に最も合致したものであり、例えばコンピュータ(ハードウェア)の世界的な状況を整理し、これに応じて編み出される研究法やソフトウェアなどの技術は、他国のレベルを凌いでいる。また、旧ソ連時代の鉱山大学(研究センター)における理論や研究法の基盤は、伝統的に他国よりも著しく優れていた。しかし現在は、鉱山大学(研究センター)の設備環境の急激な悪化や低賃金、研究に対する国の評価の低さなどに起因して、カザフスタンでは若い有能な人材が集まらなくなっており、研究能力の低下が指摘されている。
 CIS諸国では、応用研究が世界的レベルにある約30の主要鉱山大学(研究センター)が積極的に活動している。カザフスタンではクナエフ鉱山研究所、Satpaev Technical University(同NTsKPMSの構成メンバー、以上Almaty)などがある。応用研究が最も積極的に行われ、成功を収めているのは主に研究センターであるが、それ以外の鉱山大学の科学技術能力のレベルも依然として高い。
 岩石力学の分野では、鉱山における変形測定のより効率的な方法を使ってピーク負荷を予測することで石炭鉱床等を坑内採掘法で開発する概念が提案されている。
 破壊される岩石の特性変化に関する法則性が見出されたことによって、破壊エネルギーを最も完全かつ集中的に利用する最適条件の設定に関する分野の研究が進んでいる。塊状岩石の制御発破は、現在、岩盤を破砕する際の最も有効な方法となっており、固体鉱物資源の採掘における高度な技術の一つである。
 最近、発展しているその他の重要分野としては、鉱石運搬過程におけるエネルギー原単位の低減に関する技術の研究がある。この分野で定評があるのは、カザフスタンとロシア・Ural地域の鉱山大学である。
 研究手法以外にも、CIS諸国では応用研究に対するアプローチに変化がみられる。これは、世界的なレベルに匹敵するようになってきており、カザフスタンでの応用研究と試験・設計開発の分野における研究予算の配分状況から判断すれば、比重は応用研究に大きくシフトしているのが明らかである。

2004年における研究分野別の予算配分状況
国   名
研究分野別の予算配分比率 (%)
基礎研究
応用研究
試験・設計開発
アメリカ合衆国
13
22
65
日 本
13
21
61
カザフスタン共和国
37.8
60.1
2.1

 カザフスタンにおける鉱山技術の発展にとって、科学研究費に充当される国家予算の低さは大きな問題である。EC加盟国の平均値によれば、国内総生産の2.5%以上に相当する予算が科学研究費に充当されている。これに対し、カザフスタンのそれは、2000年:0.08%、2001年:0.1%、2002年:0.1%、2003年:0.14%、2004年:0.16%と極めて低水準である。
 カザフスタンの抱える鉱業分野(採鉱コンプレックス)の技術的問題を解決するのに必要な研究能力を向上させるため、政府は15~20年間にわたって財政支援を行う必要がある。

 
■ カザフスタンの鉱山大学(研究センター)の技術レベルはCIS諸国の中で第3位
 現在、カザフスタンの鉱山大学(研究センター)では研究能力の向上を優先的な分野に捉えており、かつての能力レベルの30~40%まで復興してきたと言える。
 活動中の機関のうち、世界的意義が認められているNTsKPMSのメンバーには、「Kunaev Mining Institute」、「Kazmekhanobr」、「Baykonurov Mining Institute」、「Satpaev Technical University」(以上Almaty)と 「VNIITSVETMET」(Ust’Kamenogorsk)があり、この他に教育科学省傘下の資源総合開発研究所(Karaganda)も所属している。その他には、Kazatomprom社の「New Technology Institute」、「エネルギー経済・通信大学」(以上Almaty)、「科学研究センター」(Zhezkazgan)、「Rudninsky Technical University」(Rudny)、「Karagandinsky Technical University」(Karaganda)、「Toraygyrov Pavlodarsky国立大学」(Pavlodar)と「Serikbaev東カザフスタンTechnical University」(Ust’Kamenogorsk)などの工科大学等が活動している。鉱業関連の経済性に関する研究は教育科学省傘下の経済研究所(Almaty)が行っている。
 カザフスタンでは採鉱機械の製造、断層と塊状岩中の岩石力学の検討、鉱物資源鉱床の露天採掘における採鉱企業用のオートメーション化システムの開発などの分野における研究が進んでいる。
 現在、カザフスタンでは空気ドリル、コンベヤ輸送、油井掘削用ビットなどの分野で国際レベルを上回る水準の機械類を製造することが可能になっている。これら設備は、Kunaev Mining Instituteが開発したもので、すでに試作品も製作されている。
 採掘作業のオートメーション化の研究については、GPS技術を利用した近代的設備と鉱山地質・鉱山工学を駆使した採掘場の模型実験に基づき、採掘・選鉱コンビナートの操業における情報管理の最適化に関する応用研究が最終段階に近い状況にある。
 Baykonurov Mining Instituteの研究員によるウラン採掘におけるIn-situ Leaching技術に関する研究は実り多い成果をもたらし、カザフスタンのウラン産業発展に大きな貢献をした。また、将来的なインテリジェント鉱山の理論研究や、せん断応力場での塊状岩石の破壊制御技術に関する岩石力学的研究なども行われている。
 カザフスタンにおける鉱山技術理論と知的研究基盤の水準は高いにも関わらず、技術開発の成功率が低い原因は、不充分な経済的・技術的保証と研究者の低賃金、そして研究そのものに対する政府評価の低さにある。
 カザフスタンにとって非常に重要な分野の一つに、露天採掘跡地の復興対策の問題と堆積場などからの未利用資源の回収技術の開発がある。前者は農地の保全と復興に関わる問題でもあり、後者は露天採掘におけるより高度な技術・経済性の実現に関係している。ロシアの専門家の試算によれば、堆積場にある低品位鉱石のわずかに3~10%が回収されて利用されている。
 この問題の重要な側面は、現在のカザフスタンの鉱業廃棄物中には、ここ20年で採掘された鉱石に含まれる金属のうち、鉛とタングステンについては40%、亜鉛と錫は50%、モリブデンはおよそ70%が含有されているという事実である。
 カザフスタン全体で、現在、およそ10万haの範囲に250億tもの鉱業廃棄物がある。これまで効率的な回収・生産を全く顧みないで鉱石を採掘し、堆積場を造成してきた無為無策がこうした有価物を多く含む大量の廃棄物を発生させた要因となっている。
 鉱物資源の価値の不均一性と採掘空間に関する最適法則性の研究を体系的に行い、効率的な採掘を目指す必要がある。
 鉱物資源採掘の技術的評価を的確に行うことで、露天採掘における不効率さを軽減し、最終的には環境への負荷を低減させることができる。
 カザフスタンの鉱業分野(採鉱コンプレックス)が抱える問題に、国内採鉱企業における低労働生産性(この部門で世界的にリードしている国際的企業の1/4から1/5という低水準)や、先進国レベルをも相当上回る高いエネルギー消費量がある。
 この問題の解決に向けて、カザフスタンの鉱山大学(研究センター)が、以下の方針に基づいて活動できるよう期待する。

  1. 採鉱部門の現実的な舵取りと発展のための戦略形成を保障するよう、政府レベルで鉱山大学(研究センター)が取り組むべき鉱業技術の問題をより明確に調整しなければならない。これは、カザフスタン企業が原料鉱物資源の世界市場に首尾良く統合される上で重要な条件である。
  2. 鉱山大学(研究センター)の財政問題を解決し(コンクールに基づく融資から特別融資へ の移行)、適当な物理的技術基盤を形成させ、継続的な人材育成・発展が可能となるように適切な給与を保障すること。流出した高度熟練専門家の一部を研究者として復帰させること。海外の先進的な研究機関等との交流をより集中的に実施すること。
  3. 鉱山大学(研究センター)の基礎研究と応用研究、試験・設計開発の各分野の研究に関する融資制度の整備に関して、他のコンクールプログラムに準拠した処置を講じなければならない。教育科学省の管轄からはずされた研究機関は、それ以降、コンクールにおいても極端に不利な状況に立たされる。
  4. 鉱山大学(研究センター)の発展を強化するために、従来の科学アカデミーと部門別研究センター等による教育活動を拡大しなければならない。現在、それらの科学技術能力は指導的立場にあった専門家達がより良い条件(安定性と高賃金)を求めて教育者として流出してしまった。
  5. カザフスタンの鉱山技術を、採掘・製錬コンプレックスの発展のために、国にとって重要な課題の解決に向けて最大限に切替えなければならない。経験が示すとおり、応用研究と試験・設計開発に従事する研究者は、通常、企業から組織的、経済的、心理的に乖離している。これは、「科学・生産現場・市場」サイクルの有効な連携にとって最も重大な障害のつであり、この問題を解決することは採鉱コンプレックスに従事する者に共通するべき最重要課題でなければならない。

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