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報告書&レポート

2006年7月27日 金属資源開発調査企画グループ 植松和彦 e-mail:uematsu-kazuhiko@jogmec.go.jp
2006年51号

グルーポ・メヒコ社のストライキを巡る動向

 世界有数の非鉄金属生産企業であるグルーポ・メヒコ社(GM社)においては、2006年に入り、メキシコの主要鉱山・製錬所でのストライキが発生し鉱石や地金の生産に支障をきたしている。そのことが、価格高騰を続けるLMEなどの国際金属取引市場での価格押し上げ材料(供給障害の可能性がある要因)の一つとして取り上げられてきた。
 2006年7月13日GM社は最後までストライキを継続していたラ・カリダ銅鉱山に関し、労働仲裁委員会の承認を得て、ラ・カリダ銅鉱山・製錬所を閉鎖、全労働者を解雇した。同社は、操業再開に向けて準備を進めたい意向である。
 本稿では、GM社における一連のストライキを巡る背景や動向に関して状況を紹介する。




1. GM社 会社概要

(1) 会社概要

  

※太字はメキシコ国内にある鉱山

(2) メキシコ国内におけるGM社保有主要鉱山・製錬所位置図

【図1.GM社保有主要鉱山・製錬所位置図】

(3) 最近の動向(2005年10月以降)

  1) 2005年10月11日GM社の子会社であるSPCC(Southern Peru Copper Co.)社はSCC(Southern Copper Co.)に社名変更。
  2) 2006年1月6日、サン・ルイス・ポトシ亜鉛製錬所にて整流器火災事故により操業停止。GM社は1月11日操業停止による製品出荷に関し不可抗力条項(フォースマジュール:FM)を発動した。その後復旧作業により7月に操業率50%まで回復、8月には100%の再開見込み。
  3) 2006年2月19日GM子会社ミネラ・メヒコ(MM)社のパスタ・デ・ロス・コンチョス(Pasta de los Conchos)炭鉱ガス爆発事故が発生し65名の死亡。この事故により、GM社は総売上高の1%を占める石炭生産に被害。この炭鉱の石炭を利用し自社供給する450MW石炭火力発電所の建設計画が遅延。
  4) 2006年7月6日SCC社はカナネア銅鉱山のSX-EW拡張計画への1.2億$投資を承認。
2. ストライキ

(1) 発生経過
 GM社の鉱山施設等でのストライキ及びこれに関連したメキシコ全国鉱夫冶金組合(STMMRM)のストライキの発生状況を時系列に整理すると以下のとおりである。

  1) 2006年2月28日サン・マルチン(San Martin)鉱山組合ストライキ
  2) 2006年3月1日カナネア(Cananea)銅鉱山、ラ・カリダ(La Caridad)銅鉱山ストライキ
  3) 2006年3月2日全国鉱業ストライキ:このストライキにはメキシコの鉱業労働者約26万人のうち23%が参加。GM社の関係では、カナネア銅鉱山、ラ・カリダ銅鉱山・製錬所、サン・ルイス・ポトシ亜鉛製錬所、サン・マルチン亜鉛鉱山の労働者15,014名が参加。このほか同業他社のペニョーレス社や鉄鋼関係のAHMSA社の組合員が参加した。このストライキは同日にて終結した。
  4) 2006年3月24日ラ・カリダ銅鉱山労働組合員約1,000名が労働協約の改定を求めストライキ突入。
  5) 2006年 4月 1日アグア・プリエタ(Agua Prieta)石灰石プラント組合ストライキ突入。
  6) 2006年4月10日GM社は、ラ・カリダ銅鉱山、アグア・プリエタ石灰石プラントのFMを宣言。
  7) 2006年4月18日GM社、サン・マルチン亜鉛鉱山のFMを宣言
  8) 2006年4月19日メキシコ労働省はGM社で発生のストライキを違法と宣言。
  9) 2006年4月28日メキシコ全国鉱夫冶金組合(STMMRM)200千人による全国ストライキ。
  10) 2006年5月9日GM社、2か月以上に及ぶサン・マルチン亜鉛鉱山を2週間以内に閉鎖と発表。
  11) 2006年5月16日サン・マルチン亜鉛鉱山でのストライキ終結。
  12) 2006年6月1日カナネア銅鉱山ストライキ。
  13) 2006年6月7日GM社はカナネア銅鉱山の6月・7月の出荷に関しFMを宣言。
  14) 2006年6月8日GM社は、ラ・カリダ銅鉱山閉鎖及び組合員解雇を労働仲裁委員会に申請。
  15) 2006年6月12日GM社はラ・カリダ銅鉱山及びアグア・プリエタ石灰石プラントの組合員300名を解雇。
  16) 2006年6月28日全国労連(UTN)が前ゴメスSTMMRM委員長支持の全国一斉ストライキ。
  17) 2006年7月2日メキシコ大統領選挙
  18) 2006年7月5日GM社は、組合側との交渉再開にためラ・カリダ銅鉱山閉鎖決定を15日間延期。
  19) 2006年7月13日GM社は、政府承認を得てラ・カリダ銅鉱山を閉鎖し、全労働者を解雇。
  20) 2006年7月17日GM社はカナネア銅鉱山の組合とストライキ終結で合意、平常操業開始。

 
(2) ストライキの原因や背景
  一連のストライキは、1) STMMRMナポレオン・ゴメス(Napoleon Gomez Urrutia)委員長の罷免に抗議し同委員長を支持する組合員による違法ストライキ(政府並びにGM社側はこのストライキを違法ストライキと宣言)、2) 労働協約の改定に伴う合法的なストライキに分けられる。この他組合側の要求の内容には、1月に発生したパスタ・デ・ロス・コンチョス炭鉱でのガス爆発事故による遺族補償や労働安全確保などを含んでいた。
 3月2日からラ・カリダ銅鉱山及びカナネア銅鉱山で発生したストライキは、表向きは労働協約の改定が目的であったが、実質的には、政府(労働省)のSTMMRMゴメス委員長の罷免に抗議するゴメス氏支持の性格を持つストライキとなった。
 
(ゴメス委員長の疑惑に関する経緯)
 従来からSTMMRM組合員はGM社のカナネア銅鉱山の5%権益を所有していた。2005年3月GM社の孫会社MM社は同組合から5%権益分を55百万US$で買収し、その代金を組合口座に振り込んだ。ゴメス委員長は、委員長の権限を利用して同口座から55百万US$を引き出しその資金を自身及び家族の口座に分散したという。
 その他の報道によれば、買収代金は全組合員に一部支給されたものの、完全に支払われておらず、一部組合員から提訴されているという。また、買収代金の一部は関連する支持団体や政治家等に流れた疑いがあり、不正に流用されたとの報道があったが事実関係の詳細は不明である。
 2006年2月17日労働省は労働組合保有のカナネア鉱山権益(5%)の売却代金をゴメス委員長が横領したとして罷免、エリアス・モラレス(Elias Morales)氏をゴメス氏後任の暫定委員長に指名した。更にモラレス氏はゴメス氏を詐欺罪で告訴した。
 これに対して、ゴメス支持派の組合員が政府の組合活動への介入に抗議しストライキに入ったものである。政府及び会社側はこのストライキを違法ストライキと位置づけた。
 ゴメス氏及びゴメス氏支持派組合員は、この詐欺告訴による検察庁及び財務省の調査開始は不当であり、労働省の委員長職剥奪介入を不満として、全国の組合員にストライキを呼びかけ2006年3月2日の全国的なストライキに至った。ゴメス氏支持派組合員は政府の介入を不法として国際労働機関(ILO)に告訴したが、政府はモラーレス氏を暫定委員長と認めただけと反論した。本件に関してはゴメス氏が副委員長を務める国際金属労連(IMF)、全米鉄鋼労連(USW)や全米労働総同盟産別会議(AFL-CIO)がゴメス氏支持の立場を表明した。
 2006年7月に入りゴメス氏に対しては組合資金の不正流用の疑いで裁判所から逮捕状が出されており、すでに同氏自宅が家宅捜査されたとの報道があったが、同氏が逮捕されたという報道はない。
 
(労働協約改定について)
 GM社の年次雇用契約の改定を巡る労使交渉に関しては、組合側は3月5日に期限が切れる組合員の単年度契約を複数年次契約へ改定するよう要求し、更にメキシコ労働大臣がGM社に対して契約延長を指導したにも拘らず、同社は交渉の場にも着かず、全支部組合員の年次雇用契約更新を拒否し交渉が決裂したことによるもので、2006年3月2日の全国鉱業ストライキの際に、サン・ルイス・ポトシ亜鉛製錬所及びサン・マルチン亜鉛鉱山の組合側は会社側の対応に抗議し合法的なストライキを行った。
 
(GM社パスタ・デ・コンチョス炭鉱に対する要求)
 組合側の主要な要求項目の中には、2月19日にGM社パスタ・デ・コンチョス炭鉱で発生したガス爆発事故により死亡した組合員への補償額増額要求や坑内における保安・衛生や設備管理の改善などが含まれていた。
 2006年2月19日メキシコ・コアウイラ州北部サン・フアン・サビナス町(石炭集積帯)に位置するパスタ・デ・コンチョス炭鉱でガス爆発事故が発生した。爆発により主要坑道の入口が崩壊し塞がれたため、事故発生当初78名の鉱夫が坑内にいた。坑口付近の作業員13名は数時間後に無事救出されたが、地表下150m、坑口から延長2km深部の作業員65名は坑内に閉じ込められた。
 救出作業は、坑内崩壊による2次災害を避けるため重機投入を避け、シャベルやツルハシ等の人力作業で対応した。更にフォックス大統領は鉱夫救済のために速やかに軍隊を派遣したが、救出作業は難行し、最終的に坑内に残された65名が死亡する事態となった。
 事故に関しては、GM社は、2月7日に実施された労働省の炭鉱保安対策調査の結果にある通り何ら問題なく、保安対策は講じていたと説明した。一方、同石炭鉱山労働組合は保安対策の不備を指摘した。
 事故に対しGM社は法的賠償に加えて、75万ペソ(73千US$)の追加補償を提示したが、遺族側はこれを拒否し、更に組合を通じ提示額の倍額の補償及び鉱山保安対策の強化を要求した。
 STMMRMも事故原因究明の必要性を強調し、労働省に対して、事故の原因究明調査は、客観的で真摯に、公正さと責任をもって行うよう要望した。STMMRMのスポークスマンは、事故原因は、保安対策の不備、鉱夫の炭鉱労働に関する経験不足の2点を指摘し、特に、死亡した鉱夫65名の内、組合加盟員は25名であり、その他は経験が少ない臨時雇用者が多かったことから、鉱山労働者に対する保安対策には経験と訓練が必要であることを強調した。因みにメキシコ国内における安全保安対策認定に関しては、操業中74鉱山のうち49鉱山が労働省の安全保安対策認定を受け、25鉱山が認定手続中である。
 市民グループ及び一部の国会議員は、メキシコ政府の鉱山保安監督・指導に問題ありとILOへ提訴した。
 
(3) ストライキによる影響
 (ストライキによるGM社の不可抗力条項〔FM〕の発動)
 2006年4月10日GM社のラ・カリダ銅鉱山・製錬所、サン・マルチン亜鉛鉱山、アグア・プリエタ石灰石プラントで発生した違法ストライキの影響により、取引ユーザーに対して、供給契約書上の不可抗力条項(フォースマジュール:FM)を発動した。その後ストライキが発生したカナネア銅鉱山などでもFMが宣言され取引ユーザーへの影響が発生した。
 ストライキが発生した3月、4月の時点で、GM社は、ストライキの影響については、生産量減少を金属価格高騰で緩和しており、SCC社の財務への影響は重大でないとの見通しをコメントしていた。これを裏付けるように、GM社の2006年第1四半期の報告を見る限り、銅生産量の減少はあったものの、価格高騰に助けられ同社全体の売上高は前年同期(2005年第1四半期)の売上高を上まわった。しかし、その後ストライキが長期化したことにより生産や販売への影響は大きいものと予想されるが、その内容に関してはまもなくGM社から発表される2006年第2四半期報告でその実態が明らかになるであろう。
 
(ストによる損害額試算)
 ストライキの影響に関して、3月の時点でメキシコ鉱業会議所(CAMIMEX)は、GM社がラ・カリダ鉱山・製錬所で2.5百万US$/日、銅318t/日を損失になるとの試算を公表した。7月に入りGM社はラ・カリダ銅鉱山だけで銅精鉱生産量が42,000t減少し、金額にして約300百万$の損失が見込まれるとコメントした。
 
(海外紙の報道から)
 2006年5月6日の米国紙の報道によると、パスタ・デ・コンチョス石炭鉱山でガス爆発事故及びゴメス前組合長の疑惑事件に触れ、背景にはフォックス大統領政権による労働組合対策、特に政府、企業、組合幹部の癒着を指摘。フォックス政権は、政権発足時から政権がコントロールしやすい組合にするため、各種の対策を講じたこと、この関連でゴメス組合長の就任及び排除に介入した可能性などについてを紹介した。
 
(4) ストライキ終結に向けた動き
(サン・マルチン鉱山の閉鎖表明とストライキ終結)
 2006年4月9日GM社は、長期化する鉱山でのストライキの影響で、サカテカス州のサン・マルチン亜鉛鉱山の操業を停止することを発表した。発表によれば、460人の鉱山労働者との労働契約を取り消し、更に約120名の管理スタッフと80名の契約労働者も影響を受けることになる。GM社はサカテカス州政府に対しストライキ指導者への逮捕状と退去命令を発するよう要請したが、州政府が行動を起こしていないことに反発を強めていた。なお、従来からサンマルティン鉱山に関しては操業コストが高く、多額の負債を抱えていると言われている。更に5月9日、2か月以上にも及ぶ同鉱山でのストライキに対処するため、2週間以内に同鉱山を閉鎖することを表明した。5月19日同鉱山でのストライキは終結し鉱山の操業が再開した。大方の見方は、GM社の閉鎖宣言が組合側を交渉の席に付かせ合意を導いたと理解された。
 
(ラ・カリダ銅鉱山の閉鎖・組合員解雇とカナネア銅鉱山のストライキの終結)
 2006年6月1日カナネア銅鉱山の労働組合は、GM社の臨時職員の雇用に反発し、非組合員の職場からの締め出しを目的にストライキに入った。一方GM社は6月8日にラ・カリダ銅鉱山の閉鎖並びに全組合員の解雇を政府の労働仲介委員会に申請し、組合側への締め付けを一段と強めていった。そして政府の承認が得られた7月13日GM社はラ・カリダ銅鉱山の閉鎖と組合員の解雇を行った。
 GM社のラ・カリダ銅鉱山での閉鎖・全組合員解雇という手法が影響したか否かは不明ではあるが、ラ・カリダ銅鉱山閉鎖から4日後の7月17日カナネア銅鉱山の労働組合はGM社から示されたストライキ期間中の組合員の賃金50%を補償する内容を受け入れ同鉱山でのストライキを終結し、同鉱山は平常操業に戻った。

 

3. 今後の動向



 今回のGM社を巡る一連のストライキは、ラ・カリダ銅鉱山(3月24日からストライキ継続)における政府の承認を得た上での会社側による鉱山の閉鎖、同鉱山の全労働者の解雇をもって終止符が打たれた。ラ・カリダ銅鉱山では未だストライキに参加した組合員が職場を占拠しておりこれら組合員の排除が課題と報じている。
 GM社でのストライキは、価格高騰に支えられ増収、増益が見込まれる環境下での労働協約改定と併せて、前労組委員長に対する疑惑を巡る前委員長支持派とこれを認めない政府・会社側との対立による紛争に特徴付けられる。前者だけの問題であれば恐らく早期に解決したものと考えられるが、後者の問題に関して解決策が見言い出せなかったことが長期化の原因となった。この問題に関しては、その事実関係が明らかにされておらず、関係者によるゴメス前委員長に対する疑惑の解明が期待されるところである。
 今回のストライキにより影響が懸念されるのは、鉱山・製錬所等が立地する地域の経済、社会に対する影響である。ラ・カリダ銅鉱山では全労働者解雇の後、GM社はストライキを継続した組合員を除く全労働者及び臨時雇用労働者の再雇用で鉱山を再開させたいとの意向を示している。この場合、現地労働市場での鉱山労働者の雇用環境(鉱山労働者の供給状況)にもよるが、熟練鉱山労働者が十分に確保できない場合には、鉱山の効率的かつ安全な操業ができない可能性もあろう。
 また、ラ・カリダ銅鉱山で解雇された全労働者のストライキ期間中の賃金に関する補償に関して、その詳細が明らかになっていない。仮に労働者に対して3月のストライキ開始以降の給与が補填されず、更に操業再開に伴う再雇用が遅れるような事態に至れば、鉱山労働者の生活や、鉱山労働者の収入により支えられている地域の経済に何らかの影響を及ぼすことが考えられ、加えてストライキを推進し解雇され、操業再開時に再雇用されない組合員の動向如何によっては、地域社会不安化の要因になることも懸念される。
 今後、GM社のラ・カリダ銅鉱山・製錬所の操業再開に向けた動きや、労働組合との関係改善を含めた努力、政府、州政府等地方自治体の地域経済や社会に対する対応が注目されるところである。

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