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報告書&レポート

2006年8月10日 リマ事務所 西川信康 e-mail:ommjlima@chavin.rcp.net.pe
2006年56号

ボリビアの鉱業政策を巡る動き-鉱山冶金大臣、鉱業分野における国家管理強化の動きを否定-

 ボリビアでは、反米・国家主義を掲げるモラレス政権の誕生により、石油・天然ガス分野の国家管理を強化する動きが顕在化する中、鉱業分野への波及が懸念されており、近く発表される鉱業法の改正内容に注目が集まっている。
 一方、同国の鉱物資源ポテンシャルについては、世界的に鉱石不足が深刻化している亜鉛(特に、San Cristobal鉱山は久しぶりの大型亜鉛鉱山として世界が注目)をはじめ、中国の輸出抑制により需給が逼迫しているタングステン、アンチモン、インジウムなど世界有数の埋蔵量を誇っており、我が国非鉄企業の関心も高まっている。
 こうした中、JOGMECリマ事務所は、今般、ボリビアを訪問し、鉱業冶金大臣他から同国の鉱業政策の方向性等について聴取する機会を得たので、その内容を報告する。

1. 鉱業政策の方向性

 今後の鉱業政策、外資政策の方向性や新鉱業法の改正内容、法案化に向けた作業日程等について、鉱業冶金省Walter Villarroel大臣及びGuillermo Cortez次官より聴取した。この中で、同大臣は、ボリビア鉱業の発展には外資導入の促進が不可欠であり、鉱業分野においては、国家管理強化の動きはないことを強調した。以下に発言内容を記す。
 
-政府の鉱業政策の基本方針、方向性について伺いたい。投資家の間で、国有化政策が鉱業分野にも及ぶのではないかとの懸念が広がっていることについて-
 (大臣)停滞しているボリビア鉱業を振興するとともに、雇用を拡大し、貧困問題を解決するためには、外国からの投資や支援が不可欠である。但し、我々は、企業が自分たちの利益だけを追求する姿勢には反対だ。国、地方、企業がそれぞれバランスよく、鉱業の恩恵を受けるべきである。
 
-新鉱業法の大きな改正点について-
 (大臣)現在、策定中の新鉱業法は、投資家に安定的な法的保障を与えるとともに、鉱業から得られる利益を貧困対策や地域経済の発展に回すことを目指したものであり、鉱業税制の改正(課税強化の方向)が大きなポイントとなる。現在、詳細について外国企業や国内生産者とコンセンサスを得るべく調整中である。
 
-法案化に向けた作業スケジュールについて-
 (大臣)新鉱業法は、税制度分野だけ切り離して先行的に議論しており、現在、大統領府にある。そのドラフトが明らかになるのは8月中旬頃、新鉱業法全体は10月頃、その後、議会に送られ、遅くとも年内には法案として成立する見通し。
 
-今後、国は鉱業分野においても天然ガス分野のように権益のマジョリティ化を要求することはあるのか-
 (次官)鉱業改革の大きな柱の一つにCOMIBOL(鉱山公社)の再建がある。これにも外国企業の協力が不可欠。COMIBOLは2,000以上の鉱区を保有しており、COMIBOLとのJ/Vの場合、権益比率は50:50を基本としたい。COMIBOLの鉱区以外のプロジェクトについては、国は権益を要求するつもりはない。つまり外資100%での鉱山開発が可能である。
 
-ボリビアは共同組合が操業する小規模鉱山が多数あり、これらの鉱山の建て直しについて-
 (大臣)6万人の労働者がいると言われる協同組合(Cooperativa)も競争力をもった企業に変革し、自立していくことが必要。これら共同組合をCOMIBOLが吸収していく方向である。協同組合が所有している鉱区や鉱山に対しても外国企業の投資を期待している(なお、同大臣は協同組合出身)。
 
-6月に、モラレス大統領が、国内最大のVinto錫製錬所(現在、Grencoreが所有)の国有化を宣言した旨の報道があったが、この事実関係について-
 (次官)大統領の真意は、長期的な観点でボリビア経済の発展のためには、付加価値産業の育成が重要であると考えており、その象徴として製錬分野がある。今後、この分野のボリビア化を目指すため、株の買い増しなどの手法でGrencoreから51%以上のシェアを獲得したいという考えである。
 
-大臣は就任早々、中国を訪問されたが、中国とのビジネスの進展について-
 (大臣)中国はすでに2,300万$を投じてCOMIBOLとのJV事業を実施することになっている。内容は、鉱山の近代化、廃さいからの有用金属回収など。対象鉱種は、錫、亜鉛、鉛、銀。
 
-日本の投資家に望むこと-
 (大臣)すでに35か国の鉱業関係者の訪問があり、様々なオファーをもらっている。日本企業の本格投資やJOGMECの日本企業に繋ぐ橋渡し的な役割を大いに期待したい。
 

2. 鉱業税制等の改正内容

 鉱山冶金省などの情報から、現時点で明らかになっている新鉱業法改正のポイントは以下のとおりである。
・現行の鉱業法では、所得税と鉱業補完税(*)(ICM:Impuest Complementario Minero、ロイヤルティに相当)のどちらか高い方を納税すればよいが、新鉱業法では、両者の支払いを求めることになる。また、鉱業補完税は全額、地方自治体に交付される。
 
 (*)鉱業補完税は、鉱石の売上総額ベースに各金属の国際価格に応じて(国際価格が高いほど高税率)税率が設定されている。例えば、金、亜鉛の場合、現行では以下のとおり。
  ・金700$/oz以上:7%400~700$/oz:4~7%400$/oz以下:4%
  ・亜鉛0.94$/lb以上:5%0.475~0.94$/lb:1~5%0.475$/lb以下:1%
 
・税率については、所得税の税率の変更はなし(25%)、鉱業補完税の税率は上限(国際価格が高いときの税率)のアップを検討中。
・10年の税安定化契約を結ぶ引き換えに所得税を30%とする選択が可能。また、1億$以上の鉱山投資をした企業には、20年の税の安定化を保証。
・鉱区料(パテント料)については、値上げを検討中(現行では、鉱区取得年数が1~5年の場合:約15$/25ha、6年以上:約30$/25ha)
・鉱区を取得した企業には投資計画を求め、国がこれを厳密にチェックし、遵守していない場合、その鉱区は失効となる。
・鉱山労働者に対する職業訓練の義務化

3. COMIBOLの再建

 モラレス政権は、COMIBOL(鉱山公社)に対し、過去20年間の民営化政策を見直し、COMIBOLを短期間の内に生産力、販売力に優れた鉱山会社として再建し、民間会社と対抗できる優良鉱山会社を目指すとしている。今回、Antonio Revollo COMIBOL総裁より聴取したCOMIBOLの再建計画の概要は以下のとおり。
 
-COMIBOL再建の内容について-
 (総裁)現在の民営化案件の管理主体の業務から、探鉱開発、生産、販売といった鉱山ビジネス全般に参入し、業務を大幅に拡大する(チリのCODELCOを目指す)。COMIBOL5ヵ年再建計画(2006年-2010年)を2006年10月31日(1952年の国有化記念日)に発表する予定。
 
-COMIBOLとして、最も力を入れていきたい業務について-
 中長期的には、やはり探鉱開発が最も重要と考えている。現在、一部のCOMIBOL保有の鉱区について、SERGEOTECMIN(地質鉱山技術局)に、地質的な再評価を依頼しており、これらの結果をもとに、外国企業とのJVを実現していきたい。
 
-この再建計画において、国家からの予算面での支援について-
 (総裁)国家からの直接的な予算手当てはない。COMIBOLは現在、約10の鉱山と2,000以上の鉱区を保有しており、これらの財産をベースに自力で再建していくのが基本。なお、得られた収益は国庫に返還する必要はなく、再投資が可能である。

-外国企業とのJVの内容について-
 (総裁)今後の事業展開は外国企業とのJ/V(50:50)が基本。当面は、資金は全額パートナーが負担することになる。例えば、現在、Pan American Silver社(加)とJVでSan Vicente銀鉱山開発プロジェクトに着手しているが、操業開始後、それまでにパートナーであるPan American Silver社が投じた資金は一定期間(3年)で得られた利益より優先的に償還する取り決めになっている。償還後の利益は等配分となる。
 

4. 所感

 5月初旬、モラレス大統領が軍隊を引き連れて天然ガス施設を訪れ、外国企業に対し「国有化か、国外退去か」を迫ったというニュースは世界に大きな衝撃を与えた。ただし、その実態は、1970年代に見られた外国企業から資産を接収し完全国有化を意図したものでなく、莫大な利益をあげている外国企業(+企業と癒着している一部の政府高官)から、合法的な手段(株式の買取あるいは賠償金の支払い)で国の権益をマジョリティ化(51%以上)することを宣言したものであり、一部で、同大統領は、国民の6割を占めると言われる貧困層を中心とする支持層にアピールし政権の安定化を図るために、あえて、このような「大芝居」を打ち、これでもって、選挙公約の象徴であった資源国有化問題に一応の決着をつけたと見る向きもある。
 今回のボリビア訪問では、このような国家管理強化の動きが鉱業部門に波及していくのかどうかを見極めることが大きな目的の一つであったが、結論的には、COMIBOLとのJVを除き、鉱業投資案件に国が権益を要求することはなく、むしろ、外資導入を促進して、停滞しているボリビア鉱業を活性化させるとともに、雇用問題や貧困問題を解決するといった考え方を確認できたことで、このような懸念は払拭されたと言える。また、現在改正中の新鉱業法については、地域住民対策財源の確保のための課税強化が盛り込まれているものの、全体的には、鉱業先進国と言われるチリやペルーと十分競争力のある内容となっている。
 ボリビアは、世界的に原料不足が深刻化している亜鉛をはじめ、中国に一極集中しているタングステン、アンチモン等のレアメタルのポテンシャルが高い。しかしながら、組織的な探査が進んでいない地域が多く、また、既存鉱山も、小規模鉱山が多く、近代化が遅れているため、生産効率の向上が課題となっている。一方、ボリビア側は、我が国の長期にわたる経済協力等の実績や日本人の勤勉さを評価し、どの国よりも増して日本に対する信頼感、期待感が大きいという。
 このような状況から、日本としては、我が国の今後の重要な資源供給国として、同国への積極的なビジネス展開が望まれるところである。

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