閉じる

報告書&レポート

2006年9月7日 リマ事務所 西川信康 e-mail:ommjlima@chavin.rcp.net.pe
2006年61号

ペルー:ガルシア新政権の鉱業政策動向-貧困対策のための自発的拠出金問題を巡る動向-

 7月28日のガルシア政権誕生後、ペルー鉱業界は、鉱山会社による自発的拠出金を巡る問題で揺れている。これは、ガルシア大統領が、就任演説の中で、鉱山会社に対し、現在の金属価格高騰に伴う余剰利益の一部を鉱山地域の社会事業に振り向け、貧困問題の解決に一層の貢献を求める発言を行ったことが大きなきっかけとなったもので、現在、政府、企業間で、話し合い・調整が精力的に行われている。本稿では、この自発的拠出金問題の背景や現在のところ明らかになっている同拠出金のフレームワーク等について報告する。

1. 自発的拠出金問題の背景

 ガルシア大統領は、先の就任演説の中で、「わが国は内外からより一層の投資を必要としている。中国やチリは、外国からの投資によって社会的・経済的に素晴らしい成果を出している。なぜペルーでできないのか。これは私たちの責任と選択の問題である。」とし、前政権同様、外国投資の導入促進を基本とする鉱業の振興を図るという立場を強調するとともに、そのためには、安定的な投資環境を保証し、政府と企業間で交わしている契約を遵守することが何よりも重要であるという認識を示した。
 一方、「ここ数年の金属価格の高騰は、政府も、また多大の利益を得ている鉱山会社も予測のつかなかったことだ。その過剰な利益を国家も享受することを求めるのは正当な権利である。我々は既に大手の鉱山会社とこの問題について、交渉を開始しているが、これが実現した場合、この資金は、最貧困地区におけるインフラ事業や農業振興に充当され、現在頻発している多くの地元住民と鉱山との衝突は回避される。鉱山会社がペルー国民の半数にあたる1,300万人の貧困層の生活改善に貢献するよう求めたい。」とし、鉱山会社に対し、貧困問題の解決のために余剰利益の一部を地方に還元するよう求める発言を行った。これを受け、企業側は、「自発的な拠出金」という形でこの提案に応じる方向で、その額、徴収方法、管理、運営方法等、具体的な話し合い、調整が図られている。
 ペルーでは、鉱業税制として利益の30%を課す所得税及び精鉱売上高の1~3%を課す鉱業ロイヤルティ制度があるが、このうち、所得税の50%をカノン税(地方還元税)として、また鉱業ロイヤルティは全額、地方へ交付されることになっている。
 今回、議論となっている自発的拠出金は、全額地方の貧困対策費として支出されることを念頭に置いたもので、追加的な課税等のような国からの強制的な制度による支出ではなく、あくまで、企業側の自主的な寄付金という意味合いのものであることが特徴的である。これは、政府として、仮に、過剰利益税というような新たな税制度を導入すれば、ルールを変更することになり、企業側の反発を招くだけでなく、今後5年間で100億$と言われているペルーへの鉱業投資に悪影響が及びことを懸念し、そうした状況を避けたいという狙いがあるものと見られる。企業側も、こうした新たな課税制度は設けないという政府の姿勢に一定の理解を示し、また、安定的な操業には昨今頻発している地域住民との紛争の根幹である貧困問題の解決が緊急の課題であるとの認識から、当初から、この拠出金問題を前向きに受け入れる方向で話し合いが進んでいるというのが実情である。この問題について、ペルー経済界の代表であるモラレス経団連会長及びデルソラール鉱業協会会長は、「ペルーの貧困対策のためにこの拠出金は必要であり、早期の決着を望んでいる」とコメントしている。
 

2. 自発的な拠出金のフレームワーク

 自発的拠出金問題に関する話し合いは、ガルシア政権誕生前から水面下で行われていた模様であるが、当初、この問題に関する鉱山会社間の意見の隔たりは大きく、Antamina鉱山やYanacocha鉱山などの大企業は一定の理解を示しているのに対し、ペルー国内の中堅企業はロイヤルティなどで既に社会貢献は行っているとして反対の姿勢を見せていたという。また、この拠出金が一時的なものか恒久的なものかどうか、前政権下から先送りされた全ての企業にロイヤルティ支出を求めた法案の取り扱いも明確でないとして、矢継ぎ早に支出を求められることに警戒心を抱く企業もあるなど早期の合意を疑問視する向きもあった。このような中、政府、企業間で精力的な調整が図られた結果、8月25日、デルカスティジョ首相と企業側代表により記者会見が行われ、この席で本拠出金の基本的なフレームワークが合意に達したことを発表するとともにその内容が明らかとなった。その概要は以下のとおり。

拠出金の総額は25億ソーレス(約7.73億$)。但し、これは、今後5年間にかけて支払われるもので、初年度は5億ソーレスが支払われ、その後は金属の国際価格に応じて金額が設定される。
算定基準としては、税の安定契約によってロイヤルティを納めていない企業は年間利益の3.75%を支払う。ロイヤルティを支出している企業はその差額分を支払う。
本拠出金の効率的かつ効果的な管理、運用のため、鉱業活動地域ごとに基金を設置して、それぞれのプロジェクトに応じて資金を提供する。(例としてすでにAntamina鉱山が、同鉱山の提供する資金を地方政府と共同で管理する基金を設立している)
対象は鉱山地域だけでなく、鉱山の存在しないTumbes、Huanuco、Lambayequeなどの州も含む。
なお、業界側から要望のあった本拠出金を所得税の控除対象にすることについては、受け入れられない方向。

 今後、具体的な資金の配布先や使途、金属価格下落の際の本拠出金中止の基準作り、また、支払いを拒否する企業に対する措置等、詳細事項に関する詰めの作業を経て、鉱山会社と政府との間で協定書に署名することになっている。
 

3. 税安定化契約下にある企業へのロイヤルティ徴収問題

 本拠出金問題に絡めて、一部の企業が懸念視しているロイヤルティ徴収問題(前トレド政権下の任期終了直前に国会で可決された税安定化契約下にある企業にもロイヤルティ徴収を求める内容を盛り込んだ法案)に対する新政権の対応が注目されているが、JOGMECリマ事務所がファン・バルビア新エネルギー鉱山大臣にこの問題について直接、聴取したところ、新政権としては、外国企業の投資促進には、法的な安定が何よりも重要であると考えており、従って、国と企業との契約を遵守するという立場から、税安定化契約を有する企業に対してロイヤルティを求めることには反対であるという立場を明確にした。
 また、同法案については、第1条において、国税庁(SUNAT)がロイヤルティの徴収やこれに伴う監査・罰則の適用を行うための条件を整えることが明記され、第2条において安定化契約下の企業を含め全ての鉱山企業がロイヤルティを支払うことを定めているが、同大臣は、現在、行政府として国会に対しこの第2条を削除するよう見直しを要求しており、本法案は国税庁の管理、監督強化の部分だけ残し、成立する見込みであるとの見方を示した。
 

4. 今後の動向

 ペルー鉱業協会によると、本拠出金額が確定したことにより、2006年の鉱業活動によって地方へ交付される総額は約38億2,000万ソーレス(約11.9億$)で、内訳は、本年分の自発的拠出金5億ソーレス(約1.6億$)、カノン税30億ソーレス(約9.3億$)、鉱業ロイヤルティ3億2,000万ソーレス(約1億$)になるとの見込みである。
 今後はこれらの膨大な資金がいかに迅速かつ効率的、効果的に地元住民に裨益感をもたらすような社会事業に支出され、地元住民に鉱業の恩恵を浸透させていくかが鍵となると思われる。ファン・バルビアエネルギー鉱山大臣は、この拠出金については、国庫に入れるのではなく、企業と地域がプロジェクト立案から実行まで行っていく地域密着型の資金運営を図っていくことが大きな特徴であり、国家管理により実際の使途までに手続きが煩雑で時間の要するカノン税と同じ轍は踏まないと強調している。
 ペルーでは、最近も、世界最大のYanacocha金山で、一部過激な住民による幹線道路の封鎖で3日間同鉱山が操業停止に追い込まれるなど、鉱山側と地元住民との紛争は跡を絶たず、今後のペルー鉱業投資のアキレス腱として、不安視されている。政府としては、これら紛争解決に積極的な仲介役を果たすことを強調しているものの、この問題の根本的な解決には、地方への手厚い貧困対策が不可欠なだけに、今回の自発的拠出金が、こうした問題解決の切り札となるか、今後の本拠出金の具体的な運用状況、地域住民側の評価の行方を見守っていく必要がある。

ページトップへ