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報告書&レポート

2006年9月14日 バンクーバー事務所 宮武 修一 e-mail:miyatake@jogmec.ca
2006年64号

白熱するカナダ・ニッケル大手を巡るM&A(その2)Falconbridge社の帰趨とInco社の行方

 カナダInco社、スイスXstrata社間で展開されたカナダのベースメタル最大手Falconbridge社の獲得合戦はXstrata社の勝利で決着した。これにより業界の次の関心はInco社の行方に移り、一時はカナダTeck Cominco社、米国Phelps Dodge社の両社に加え、新たに名乗りを上げたブラジルValle de Rio Doce社(CVRD社)を含めた三つどもえの関係に発展した。その後、二社の撤退を受け、現在CVRDのTOBのみが唯一有効になっている状況である。
 本稿では7月20日発行のカレントトピックスの続編として、その後のFalconbridge社の帰趨と同社資産の行方、Inco社獲得を巡る三社の動向、関係アナリストの見方などを紹介したい。

1. Falconbridge社TOB合戦の帰趨

 約1年の間、カナダInco社、スイスXstrata社の間で展開されたFalconbridge社の獲得競争は両社とも一歩も譲らない熾烈なTOB合戦に発展したが、7月28日のInco社の撤退を受け、Falconbridge社はXstrata社により買収されることで決着した。Xstrata社による最終的な買収総額は186億C$で、現金による買収総額ではカナダ史上最大である。この間、Inco社(/Phelps Dodge社)、スイスXstrata社の双方が繰り返し見直したFalconbridge社株式の公開買い付け価格は、市況の高騰と獲得競争の激化に連れて一段の高値を追っていった。

 7月28日にInco社が、対Falconbridge社TOBを不成立と認めた際、当時Inco社は再度TOBの期限を延長するのではないかとの見方もなされていたが、TOB成立の条件とした50.01%の確保について、もはや見通しが立たなかった。Inco社との合併買収を望んだFalconbridge社は、敵対的買収からの防衛策として、既存株主に対して時価以下で新株を発行できる株主権利プランを有していたが、これはトロント証券取引委員会から7月28日までの時限措置として認められていたものであり、Inco社としてもFalconbridge社のポイズンピルという後ろ盾を失う中、これ以上のTOB応募期限の延期は困難と判断した模様である。Xstrata社は8月15日にFalconbridge社希釈済み発行株式ベースで92.1%を獲得したことを発表、また9月6日には97.2%に達し、以後強制取得を通じて完全買い上げを図ると発表した。
 Xstrata社の勝因に関し、各紙の一致した見方として、このキャスティングボートを握ったのは主に米系のヘッジファンド等であり、より短期の利ざやを求める株主が中長期の統合効果を見据えた株主に数で優っていたことが指摘されている。2005年8月にXstrata社はBrascan社からFalconbridge社の19.9%の株式を購入し、将来的な完全買収を匂わせる発言を行ったが、これに短期的な利ざやを求めるヘッジファンドが反応、Falconbridge社株式を買い進めた結果、ヘッジファンドの保有量は発行株式全体の約40%にまで達したと言われている。Xstrata社、Inco社の比較では、サドベリーの統合効果など、中長期的な視点ではInco/Falconbridgeの合併がより合理的で大きな統合効果が得られる選択とみられたが、他方Inco社が提示した株式交換という条件は、短期的利益を確実に計上したい投資家にとって、現金化に時間を要し、また市場リスクを伴う魅力に乏しい提案であった。Inco社TOBの締め切りである7月27日の時点でInco社提示の株式プラス現金の条件はFalconbridge社一株あたり65.27C$の価値を示したが、結局Xstrata社提示の全て現金による62.50C$の魅力にはおよばなかった。創業78年のFalconbridge社の行方はこうした株主の動向により決定されたといえる。

2. Falconbridge社資産の今後

 今後Xstrata社は、Falconbridge社事業資産をコア資産とノンコア資産に分類した上、ノンコアと判断された事業は積極的に売却することを明言しており、手にする資金を今回の株式買い上げに要した総額192億C$の負担軽減に当ててゆくという。Falconbridge社年度報告によれば、同社の2005年度売上高は81億4,800万C$であり、この内訳は銅事業44億2,100万C$、ニッケル事業21億4,600万C$、亜鉛事業5億400万C$、アルミニウム事業10億7,700万C$となっている。このうちアルミ事業は最初に売却される事業と位置づけられている。Falconbridge社のアルミ資産は現在Noranda Aluminium社の下、米国とジャマイカに採掘・精製事業所を有するが、これについて約13億US$での売却が計画されている模様。具体的な売却先としては、両操業の共同事業者であるCentury Aluminium社の名前が上がっており、Century社の最大株主は、Xstrata社同様、スイスのトレーダーGlencore社である。なおGlencore社の有するアルミ事業について、8月31日、ロシア・ルスアル社によって株式交換により買収されることが発表された。ルスアル社は、露スアル社とも統合し、米アルコア社を抜き世界最大のアルミ地金生産者となるという。
 他方、ベースメタル事業については多くがコア資産と位置づけられ、銅、ニッケル鉱山事業等は、十分スリム化されたトロント本社、Xstrata Nickelの傘下に配置される。サドベリーの操業については、今後Inco社を巡る獲得競争の勝者に対してJVによる操業が提案される見通しで、この点、TOBを提示したPhelps Dodge社、Teck Comino社、Xstrata社のいずれもが、仮にTOBが成立する場合、JVについての協議に前向きであることを明らかにしている。なおカナダ国内の操業鉱山については、Xstrata社は向こう3年の間、雇用調整は行わない。他方、Falconbridge社が米国、チリ、ペルー、豪州等17か国に保有している海外のニッケル、銅、亜鉛事業については、ノンコアとみなされる複数の資産が含まれており、これらは今後処分される見通し。この中には、ニューカレドニアのKonianboニッケルプロジェクトの権益49%も含まれているといわれる。これは現在Inco社が建設中の同国Goroプロジェクトの遅延やコスト増を嫌気した措置とも言われているが、酸化ニッケルプロジェクトが求める巨額の開発初期投資は、Xstrata社にとって負担が重すぎるのではないかという見方もある。
 Metals Bulletin誌(8月7日)によれば、Falconbridge社産の鉱石の取り扱いは、今後Xstrata社発行済み株式16%を保有する大株主Glencore社が握る可能性が高いと見通されている。過去2003年にXstrata社が豪州MIM Holdingを取得した際には、Glencore社がMIM社生産物の販売契約を締結、MIM側の売鉱部門は著しく縮小された経緯がある。こうしたGlencore社によるXstrata社生産物の取り扱いの掌握は、バナジウム鉱、南ア産フェロクロム鉱についても同様であり、今回のFalconbridge社産鉱石・地金もGlencore社が取り扱う可能性が高いとみられている。この場合Glencore社はコバルト、ニッケルの取り扱いにおいて、とりわけその存在感を増し、両鉱種については今後市況にプレミアムが上乗せされる可能性が指摘されている。こうした影響は生産量が限定的なコバルトについてより大きく、現在でもコバルト精鉱および低品位鋼を主体に最大のシェアを持つGlencore社は、Falconbridge社の産する高品位鋼の取り扱いを新たに加えることにより、支配をますます強めることになるという。こうしたGlencore社による生産物支配のシナリオが有力であるなか、他方、Xstrata社はGlencoreとは関係なく自社で販売体制を構築する方法もあり得るとの見方もある。しかし、この方法により新たに株主利益が生じるのかどうか、またそもそもXstrata社にこうした意志があるのかどうかが鍵を握るという。
 カナダ紙が報ずるところ、Xstrata社の目標は業界最大のBHP-Billitonを凌駕する鉱山会社に成長することであるという。ロイター発の情報ではXstrata社は業界第3位のAnglo American社の獲得にも関心があるとされ、今後ともM&A戦略による業容の拡大が図られる模様である。
 

3. Inco社獲得競争の現状

 Falconbridge社がXstrata社によって獲得されたことを受け、カナダ・ニッケル大手を巡るM&Aの焦点はInco社の行方へと移った。2006年7月20日発行のカレントトピックスで示した各社の関係は9月6日現在のところ、次のような関係へと大きく変化した。

 Inco社の獲得を巡っては、友好的な合併買収の相手方であるPhelps Dodge社と、敵対的なTOBを仕掛けるTeck Cominco社が競合関係にあったが、ここにCVRD社が割って入り、新たな様相を呈することになった。先のFalconbridge社の獲得合戦を巡っては、現金部分に関心の高いヘッジファンドがFalconbridge社の帰趨に大きな役割を果たしたが、Inco社もまたFalconbridge社と同様、ヘッジファンドが35~40%程度を握る株主構成といわれる。
 
3-1 ブラジルCVRDのTOBとInco社の反応
 鉄鉱石生産最大手のブラジルCVRD社は8月11日、Inco社株式の公開買い付けを行うことを発表した。条件は、一株当たり86C$現金により株式の全量を買い受けるというもので、買収総額は167億C$。8月14日の新聞紙上で正式に広報したのち45日間の応募期間を設ける(9月28日締め切り)。TOBの成立条件は、Inco社株式の3分の2の獲得、関係許認可の取得である。CVRD社による買収提案はInco社に対する事前の相談を欠く一方的なものであった。
 現在、CVRD社は金属資源分野では時価総額で世界第4位、Inco社は11位であるが、Inco社の獲得が成功すれば世界第2位の鉱山会社が成立することになる。CVRD社は両社の統合効果を5億2,000万US$と見込んでおり、この多くはCVRD社が開発を進めるブラジルOnca-Pumaニッケルプロジェクトから由来するという。Inco社が有する2.75%のロイヤルティが消滅するだけで、年間1億5,000万US$のコスト削減に資するという。
 Inco社経営陣はCVRD社のオファーに対し、しばらくの間「中立」の立場としてCVRD社からの協議要請に答える用意があるとし、更なる条件の引上によってはTOB受け入れの可能性もあるよう態度を曖昧にしていたが、これに対しCVRD社側は、「既に十分な競争力を備えた条件であり株主には魅力的である筈で、Inco社経営陣との条件引き上げに関する協議には応じる必要は無い」との姿勢を変えなかった。このためInco社は、同等の条件であるならばPhelps Dodge社オファーを優先するという合併契約もあり、8月29日、CVRD社提示の条件は不満としてPhelps Dodge社TOBへの応募を株主に対して働きかけるよう結論した。Inco社経営陣は9月7日に臨時株主総会を開催し、TOBへの対応についてInco社株主の2/3の承認を得なければならないが、現金による株式買い受けを提示したCVRDが有利と目される中、Inco社経営陣の判断に対して一部の機関投資家、ヘッジファンドら株主からは批判の声が上がっている。
 
3-2 Teck Cominco社の動き:株式買い受け条件引き上げ、増資とその不調、撤退まで
 2006年5月、Teck Cominco社は、Inco社によるFalconbridge社の買収を中止することを条件に、Inco社を買収するという敵対的TOBを提示したが、翌6月にはPhelps Dodge社を含む三社による友好的合併買収提案が発表され、「査定以上のビッドは行わない」とする姿勢を守っていたTeck Cominco社の存在感は次第に薄れていった。しかしXstrata社がFalconbridge社をめぐる熾烈なTOB合戦を制し、Inco社単独の買収に大きく道が開かれたことから、ここへ来てTeck Cominco社も対Inco社TOBの魅力を増すよう、条件の引上に動いた。
 8月5日に公表された新条件は、Inco社一株当たり現金40C$およびTeck Cominco社クラスB株0.5281株と交換するという内容で、現金部分は従来提示の28C$から43%増額、逆に交換株式は既存の0.6293株の条件から減額した。こうした現金に重点化した新条件は、先のFalconbridge社の帰趨を睨んでの短期利ざやを求めるヘッジファンドに応募を訴えようとする動きである。また条件の引上に併せてTOBの締め切りは8月16日へと延長された。
 Teck Cominco社の新条件は発表時点の時価換算でInco社一株あたり83.60C$であり、対抗するPhelps Dodge社の友好的オファー、20.25C$プラス0.672株、一株当たり86.67C$よりも3C$程度低かった。にも関わらず、現金部分の大きさから、アナリストらはTeck Cominco社有利の見方で一致しており、今後Phelps Dodge社が競争に勝つためには、再度新たな条件を提示する必要があると見通していた。Teck Cominco社の場合、カナダ企業のTOBということで同国投資委員会の承認は必要なく、加えて創業一族と住友金属鉱山の二者が重点的に議決権を有するという構造から株主の承認取り付けも障害とはならず、このいずれもが当面の課題となっているPhelps Dodge社と比較して「クリーン」な買収提案になっていることも魅力であった。
 Teck Cominco社は、こうしていったんInco社獲得競争の先頭に立ったのであるが、そのわずか一週間後、新たに全額現金によるCVRD社のTOBが発表されるに至り、Teck Cominco社は再び他社の後塵を拝することになる。Teck Cominco社経営陣はCVRD社に対抗するためには、更なる条件の引き上げが不可欠と判断し、現金部分を大幅に増額するため、新規増資を計画した。
 Teck Cominco社は、8月11日(金)に明らかになったブラジルCVRD社のInco社一株あたり86C$の全額現金によるTOBに対抗するため、この資金確保のため12、13日の週末に57億2,500万C$のカナダ史上最大規模の増資を計画、15日(火)の午後から翌16日の朝にかけ、一日のうちに有力投資家の出資を取り付けることにより、現在のTOB条件の現金部分を大幅に増額した新条件を提示しようとした。Teck Cominco社による新株発行はInco社買収の成功を前提とするもので、価格は時価に等しい一株あたり78C$と設定。これによりInco社一株あたり89C$相当の新条件を提示し(うち現金額は70~75C$程度との見方あり)、併せてTOBの有効期限を8月30日まで延長しようとした。Teck Cominco社は、これをProject Mixと命名し、14日(月)早々に役員会の承認を得た後、15日(火)午後2時からTeck Cominco社およびInco社の証券取引所における売買を停止し、280の機関投資家、600の北米の投資信託、年金ファンド、保険会社、ヘッジファンドらと接触、また15日(火)夕刻から深夜にかけて、北米有力投資家の自宅、アジア、欧州の有力投資家らと接触を重ねたといわれる。こうした努力は16日(水)早朝も継続されたが、16日(水)の朝9時の時点で、約60の投資家らにより約30~40億C$相当の株式が消化されたに過ぎなかったことが判明し、Teck Cominco社役員会はこれ以上のInco社買収条件の提示を断念することを決定した。同日の深夜12時には現行条件によるTeck Cominco社のTOB期限が到来、翌17日にはTOB成立の条件としたInco社株式2/3のシェアを獲得できず、同社TOBに応募された株式を所有者に返却するとして、一連のInco社TOBの不成立が発表された。
 Teck Cominco社副社長Horswill氏は、「57億C$の増資の不調は、現時点で我が社に競争力が無かったということ、今後は業容の拡大に向けプランBを発動、中小企業の買収や自社の開発案件に資金を振り向ける」などと述べた。乾坤一擲とも言うべきTeck Cominco社の増資の不調によって、カナダフラッグ同士の合併によるメジャー企業が成立する可能性は消え去り、以後、Inco社の獲得は、ブラジルCVRD社、米国Phelps Dodge社間で競われることになった。
 
3-3 Phelps Dodge社の動き:沈黙、関係解消まで
 2006年6月26日に友好的三社合併の発表を行い、7月16日にはXstrata社への対抗ビッドを提示したPhelps Dodge社であったが、その後は音無しの構えとなり、この後発表されたFalconbridge社に対する7月19日のXstrata社の対抗ビッド、また、Inco社に対する8月5日のTeck Cominco社の新条件、8月11日のCVRD社のTOBらに対し、無反応の姿勢を貫いた。こうした背景には、Phelps Dodge社の足下の財務を優先する株主の意向というものがある。米ヘッジファンドAtticus CapitalはPhelps Dodge社株式の8%を保有する第二位の株主であるが、Atticus社は友好的三社合併の発表直後から巨額の財務上の負担が生じるなど、公然とPhelps Dodge経営陣の判断を批判した。これに対しPhelps Dodge社経営陣は長期的視点での企業価値、株主価値の向上に資する判断であるとする社の公式コメントを出すなど明らかな対立もみられた。7月20日発行のカレントトピックスでも述べたよう、Phelps Dodge社の最大の課題は自社株主の2/3がこれを承認する必要がある点であった。ニッケル市況が一段の高騰を追う中、現行条件であるInco社一株当たり20.25C$ + 0.672 PD株の現金部分を増額する必要は認識されているものの、更なる高額ビッドを提示する選択は取りづらかったとみられる。また仮に財務の悪化、株価の下落を招くようであれば、Phelps Dodge社の獲得に関心が高いとされる墨Grupo Mexico、また英Rio Tinto社などからのTOBを気にせざるを得ない。6月末の三社合併発表から約50日を経過した8月14日になって、ようやく9月27日に臨時株主総会を行うことが決定されるなど、その後のPhelps Dodge社の足取りは極めて緩やかであった。
 ところでInco社、Phelos Dodge社の統合により、現在どの程度の利益(率)が変化するのであろうか。アナリストDerek Decloet氏(Globe and Mail紙, 8月10日)の試算によれば、Phelps Dodge社の2006年当初の資産は104億US$、手元現金と流動負債を差し引きすると約70億US$の投下資本が存在することになるという。2006年のPhelps Dodge社の上半期利益は15億US$であり、下半期も引き続き同程度の好況であるとすると、2006年の税引き後利益は22億US$を上回るという。これは1US$の投資に対し30USセントが生じる資本収益率30%という極めて高い水準に相当する。他方、今日の状況のまま、新会社Phelps Dodge/Inco社を想定した場合、資産規模は300億US$、投下資本は230億US$と巨大化するが、税引き後利益は35億ドルにみたず、資本収益率は14%程度に低下するという。この値はそれでも高い水準ではあるが、今後とも銅、ニッケル市況が現下の水準で推移するとは限らず、いったん市況が冷え込めば、資本額の大きいInco社との合併はPhelps Dodge社株主価値を減ずる選択になりかねない。なおDecloet氏は、この点Teck Cominco社はPhelps Dodgeに比較して更に資本が小さく、他方より高い資本収益率を示す企業であることから、Inco社のパートナーとしてはPhelps Dodge社よりTeck Cominco社が望ましいのではないかなど、興味深い見方を示す。
 こうした中、Phelps Dodge社は9月5日、Inco社との合併契約を終了し、友好的合併買収を断念したことを発表した。契約の終了はInco社と合意済みで、Inco社は既に友好的合併不成立の違約金1億2,500万C$をPhelps Dodge社に対して支払ったとされた。また両者は仮に他者によるInco社買収が9月7日までに完了する場合、更に3億5,000万C$をPhelps Dodge社に対して支払うよう定めた。Inco社経営陣は、同社株主の圧倒的多数が全額現金によるCVRD社のTOBを支持する中、Phelps Dodge社オファーを推薦する同社案では株主の支持を取り付けることは、もはや不可能と判断。一方、Phelps Dodge側においても、これ以上の高額条件の提示は同社の査定上、正当化できないと結論し、加えて合併計画が当初のFalconbridge社を含む北米3社から2社の合併に規模を減じ、合併効果も当初に比べ下回ることから、今回の判断はやむを得ないとし、Inco社の買収から撤退を決めた。これに伴い9月24日に予定していたPhelps Dodge社の臨時株主総会の開催も見送られる。今年6月末に発表されたPhelps Dodge社による三社合併買収は、非鉄業界に留まらない大きな注目を集めたが、結局、北米ベースのスーパーメジャーの誕生はならなかった。
 

4. おわりに

 本稿では、2006年7月末から9月初頭にかけ引き続き激動するカナダ・ニッケル大手の再編につき報告した。Inco社の獲得を目指すCVRD社にとって、競合他者は現在のところ消滅したことになり、合併実現に向け視界が開けた状況になっている。Inco社は再びCVRD社に対し協議を示唆するとともに、他社からの更に高額のTOBの提示を期待している模様。
 8月始め、今後の見通しについて問われたTeck Cominco社CEO Lindsay氏は、「一連のカナダ・ニッケル大手のM&Aは、現在世界で進行しているM&Aの中で最大かつ最も複雑なものであり、今後あらゆる可能性が生じ得る」と述べた。CVRD社TOBの応募期限は9月28日である。

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