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報告書&レポート

2006年9月21日 サンティアゴ事務所 中山 健 e-mail:nakayama-ken@entelchile.net
2006年67号

ポーフィリー銅鉱床に伴うバイプロダクト・モリブデン生産はどこまで銅生産と相関するのか?-チリのポーフィリー銅鉱床の場合-

 世界のモリブデン生産のうち約62%は、ポーフィリー銅鉱床およびスカルン型銅・鉛・亜鉛鉱床からのバイプロダクト、それ以外の約38%は、プライマリー・モリブデン鉱床から生産されている(COCHILCO, 2005)。ポーフィリー銅鉱床のバイプロダクトとして生産されるモリブデンは、ポーフィリー銅鉱床の開発が“Mass Mining”と称される大規模露天採掘もしくはブロックケービングやパネルケービングのような大規模坑内採掘であることから、自ずと銅生産に従属して生産されることになる。
 2003年後半以降、モリブデン価格高騰により世界のモリブデン生産量が大幅に増加したなか(2003年127,700t→2005年178,300t)、ポーフィリー銅鉱床のバイプロダクトであるチリのモリブデン生産も増加した(2003年33,375t→2005年47,748t)。
 1989年以降、チリのモリブデン生産が銅生産と如何に相関してきたのか、またバイプロダクトでありながら、今回の価格高騰によりどの程度まで増産出来たのか紹介する。

1.2005年世界のモリブデン生産傾向

 2003年後半からのモリブデン価格高騰(2003年平均価格:5.32US$/lb、2004年16.41US$/lb、2005年31.70US$/lb)により、それまで生産を抑制もしくは見合わせていたプライマリー・モリブデン鉱山からも生産が再開され、過熱した価格高騰も幾分冷めるものとみられていた。予想どおり2005年の世界の生産量は、2003年比39.7%増、2004年比10.3%増の178,300tと過去最高の生産量を記録し(WBMS)、価格も2005年5月の36.63US$/lbをピークとして低下し、2006年7月には、24.68US$/lbまで低下している。
 しかしながら、実際に生産を増大させたのは、バイプロダクト・モリブデンで、プライマリー・モリブデンの地質鉱床学的ポテンシャルは、十分あることが判っているものの世界の生産増には余り寄与していない。
 

2.チリのモリブデン生産状況

 チリにおけるモリブデンの生産は、1993年まではCODELCOの4鉱山(Chuquicamata、 El Salvador、Andina、El Teniente)のみであったが、1994年からLos Bronces鉱山(Anglo American)、2000年からLos Pelambres鉱山(Antofagasta Minerals,日本企業連合)、2005年からCollahuasi鉱山(Anglo American, Falconbridge, 日本企業連合)が生産を開始し、2006年7月現在これら7鉱山で生産を行っている。その生産量は、2003年の33,375t、2004年の41,883t、2005年の47,748t(COCHILCO資料)とモリブデン価格高騰に呼応して増加し、2005年には世界の生産量の27%を占めた(世界の生産量はWBMS,2006による)。

3.銅―モリブデン生産量の相関

 チリの銅生産量とモリブデン生産量をみると、銅とモリブデンの生産に概ね相関があり、銅価格の低迷した2002年には銅生産量が低下し、同時にモリブデン生産量も低下した(図1)。

図1. チリのモリブデンと銅生産推移

 1989年から2005年のモリブデン生産鉱山のモリブデンと銅生産量の相関を見てみると、鉱山によって銅鉱石中のモリブデン品位、選鉱実収率が多少異なるが、概ねδy/δx=19.3の直線に回帰される(図2)。
 2002年には銅価格の低迷による銅の減産で、バイプロダクト・モリブデンの生産も減少し、供給不足になるとの懸念で投機買いが入り、2002年5月に一時的に6.93US$/lbに上昇した。銅生産量が減少すればモリブデン生産も減少するというシナリオは、生産されるモリブデンの6割が銅鉱床のバイプロダクトであることから当然のように思われる。

図2. モリブデン生産と銅生産の相関、1データは1年の銅・モリブデン生産量を示す。凡例 紺菱型:Chuquicamata(Mo/(Cu/1,000)=17.7)、緑四角:El Teniente(Mo/(Cu/1,000)=9.8) 赤丸:Los Pelambres(Mo/(Cu/1,000)=22.1)、
黒丸:Andina(Mo/(Cu/1,000)=11.8)青四角:Los Bronces(Mo/(Cu/1,000)=13.3)、
白菱型:El Salvador(Mo/(Cu/1,000)=15.2)

 チリのモリブデン生産鉱山別にモリブデンと銅生産量の推移を図3に示す。鉱山ごとにY軸の値が異なり解像度が違うため、鉱山間の比較は出来ないが、同一鉱山のモリブデンと銅生産量の相関をみることが出来る。
 世界最大の生産を誇るChuquicamata鉱山では、1989年から2003年までの15年間に1990年、1996年、2002年のモリブデン生産量の谷があるものの、Mo/(Cu/1,000)の平均値は16.6となる。これに対して2004年および2005年は24.7~27.8となり、モリブデンの生産割合が急激に増加した(図2の右端の2点および図3)。特に2005年の銅生産量が前年に比べ1.8%減少したにもかかわらず、モリブデン生産量は10.5%増加した。Chuquicamata鉱山では、2005年はじめにモリブデン価格高騰に併せモリブデンの生産に重点を置くことを明らかにしており(CODELCO幹部談)、その計画どおりの結果となった。
 Los Pelambres鉱山は生産期間が短くモリブデン生産傾向ははっきりしないが、他鉱山に比べMo/(Cu/1,000)が17.6-26.1と高い(図2)。同鉱山も2005年にはモリブデン生産に重点を置いたことを発表している(Antofagasta Plc. HP)
 El Teniente鉱山では、銅生産は2003年までは300千t前半で推移したにも関らず、モリブデンの生産量は2,029t~5,188tの間で変動している。この間には意図的なモリブデン生産のコントロールは無く、採掘(パネルケービング)場所とモリブデン品位の関係によるものと思われる。2004年・2005年の銅生産量は430千tを越した。2004年のモリブデン生産は前年の4,325tから3,919tに下がったが2005年には逆に5,249tに増加した(図3)。これは、モリブデン高品位部からの生産を優先させた可能性が考えられる。
 Andina鉱山では、銅生産とモリブデン生産が良い相関を示している(図3)。Los Bronces鉱山では、2001年以降銅生産の増加に反比例してモリブデン生産量が減少している(図3)。
 

4.Mass Miningでモリブデン生産調整はどこまで出来るのか

 ポーフィリー銅鉱床に伴うモリブデンは、銅鉱化作用のある特定のステージに晶出しており、その分布は必ずしも均質ではなく、また鉱床全体の銅品位と調和的であるとは限らない。Chuquicamata鉱床では、モリブデンの高品位部は、ピットの中央・南部に存在し、そこでは銅品位は0.6%以下に低下する(Faunes et al,2003)。従ってモリブデン採掘に重点を置けば銅生産量は下がることになる。事実2005年Chuquicamata鉱山におけるモリブデンと銅生産はそのことを物語っていると思われる。Chuquicamata鉱山と同様の大型露天採掘鉱山である米国のBingham Canyon鉱山でも、2004年6,800tであったものが2005年には実に2倍強の15,600tのモリブデンを生産した(Rio Tinto HP)。
 個々の鉱山の採掘計画を部外者は知る由も無いが、大型露天採掘鉱山では、モリブデン価格、採掘計画、地質状況によって、モリブデンを対象として特定箇所を採掘でき、モリブデンの生産調整ができることを示している。
 また量的な貢献は大きくないが、選鉱プロセスでも銅の実収率を下げ、モリブデンの実収率を上げることによってモリブデン生産量を増やすことも可能である。

 
5.まとめ

 2005年の世界のモリブデン生産は、2003年比39.7%増の178,300tに大幅に伸びた。休眠中のプライマリー・モリブデン鉱山からの生産が再開され、あるいは既存のプライマリー・モリブデン操業鉱山からの生産が大きく伸びるものと予想したが、大規模新規生産開始鉱山はなく、米国のHenderson鉱山でも2005年生産量は前年比17%増の14,606tにとどまっている(Phelps Dodge HP)。 これに対して、ポーフィリー銅鉱床のバイプロダクト・モリブデンを生産するChuquicamata鉱山やBingham Canyon鉱山といった超大型露天採掘鉱山での伸びが目立った。こうした超大型鉱山では、モリブデンの濃集部が存在すれば、モリブデンに特化した増産が可能であることを示している。
 チリのモリブデン生産は概ね銅生産に相関しており、2002年の銅減産によってモリブデン生産も低下したように見えるが、個々のモリブデン生産鉱山を見ると必ずしも両者は相関していないものがある。
 モリブデン価格高騰前の1989年から2002年の銅とモリブデンの生産状況をみると、Chuquicamata鉱山およびAndina鉱山では両者は相関するが、Los Bronces鉱山、El Teniente鉱山、El Salvagor鉱山では、必ずしも相関しない。これは、銅鉱床のなかでモリブデンが均質に存在してないため、モリブデン濃集部が年間採掘計画のなかに含まれるか否かによるもので、バイプロダクト・モリブデンの一般的傾向と言えよう。

主な参考資料
COCHILCO (2005) Mercado Nacional e Internacional del Moribdeno. 22p.
WBMS(2006) World Metal Statistics Monthly Report. July 2006.

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