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報告書&レポート

2006年9月28日 サンティアゴ事務所 平井浩二 e-mail:hirai-koji@jogmec.go.jp
2006年70号

エスコンディーダ鉱山のストライキ終結とその影響

 エスコンディーダ鉱山のストライキが終結してから3週間が経過したが、同ストライキはチリの鉱山業界にどのような影響を与えているのだろうか。本稿では8月上旬から9月中旬までの地元各紙の報道を基に、ストライキ発生から終結に至るまでの動向と労使の合意内容を総括するとともに、今回のストライキの反響や合意内容がCODELCO、その他民間鉱山会社に与える影響について報告する。

1. ストライキ発生から終結までの動向

 エスコンディーダ鉱山の労使双方は6月19日から労働協約の改定交渉を開始することで合意していた。組合側はこの合意に基づき、6月21日、13%の給与ベースアップと特別手当16,000,000ペソ(約30,000US$)の支給を柱とした要求書を会社に提出。これに対し会社側は7月5日、2003年の労働協約改定時の妥結内容と同水準のベースアップ1.5%、特別手当1,600,000ペソの支給を回答したが、話し合いは決裂した。その後、会社側は8月1日に第2次回答 案、8月2日に第3次回答案を提示し、続いて8月4日にも小幅な条件改定を提示したが、組合側はこれを何れも拒否 。8月7日からストライキを決行した。
 ストライキ突入後、労使双方は数次に渡り話し合いを行ったが、交渉の主要ポイントとなっていた給与のベースアップ率では歩み寄りが見られず、一時は、激高した一部労働者が道路を封鎖し過激なデモを行って警察隊と衝突する事態に発展した。会社側は労働監督局や労働大臣の仲介を要請したが、効果的な結果は得られなかった。
 ストの長期化を懸念した会社側は、8月20日、最終回答として第5次回答案を提示したが、組合は総会を開いて採決を取った結果、これを拒否。会社側が態度を硬化させ、交渉は完全な凍結状態に陥ったまま、更に10日間が経過した。
 ストの早期解決を図るため、会社側は組合幹部と非公式会談を行い、第6次回答案(労働協約期間40か月、ベース アップ5%、ボーナス9,000,000ペソ〔約17,000US$〕)を提示。8月31日に組合総会で会社回答案が可決されたため、労使間で完全な合意が成立、9月1日から操業を再開した。ストライキ突入後25日目であった。

2. 労使間の提案と最終的妥結内容

 ストライキ終結に至るまでの組合側の要求内容と会社側の回答内容の変遷は下記の通りである。(ベースアップ率及び特別手当を記載)

<組合要求内容>

<会社側回答内容>
第1次要求(6月21日)
 ベースアップ:13%
 特別手当:16,000,000ペソ

第1次回答(7月5日)
 ベースアップ:1.5%
 特別手当: 1,600,000ペソ

第2次回答(8月1日)
 ベースアップ: 1.5%
 特別手当: 4,500,000ペソ

第3次回答(8月2日)
 ベースアップ: 3%
 特別手当: 8,100,000ペソ

第4次回答(8月4日)
 ベースアップ:3%
 特別手当: 8,500,000ペソ

第2次要求(8月16日)
ベースアップ: 10%
特別手当: 16,000,000ペソ

第5次回答(8月20日)
(1)協約期間3年の場合
  ベースアップ:4%
  特別手当: 9,500,000ペソ
(2)協約期間4年の場合
  ベースアップ:4%+1.3%
  特別手当:13,000,000ペソ

第3次要求(8月22日)
 ベースアップ: 8%
 特別手当: 10,000,000ペソ

第6次回答
(8月30日、妥結内容)
 協約期間: 40ヶ月
 ベースアップ:5%
 特別手当:手取額
        9,000,000ペソ

 今回の労使双方の交渉経過をふり返ると、組合側の当初要求は会社側との交渉により条件が下げられることを考慮して、かなり高めに設定した数値であったと想定される。事実、組合はその後これを8%、10,000,000ペソまで引き下げている。
 これに対して、会社側がどうして組合が絶対に受ける筈もない第1次回答を提示したかは疑問である。最初から第4次回答案を提示していたら、組合側をいたずらに刺激させず、ストは回避できたかも知れない。スト終結後、Billiton Base MetalsのHernandez社長が「交渉のやり方に多少問題があった。組合員に会社の立場を十分に 説明出来ていなかった。」と反省の弁を述べたのは、この点をさしているのではないかと思われる。
 会社側が最終回答として提示した第5次回答案は、組合総会で否決されたが、長引くストに嫌気を感じて同案に賛成票を投じた組合員も50名程おり、これら組合員はストを離脱して職場に復帰している。実際には、かなり多くの組合員が会社の第5次回答を受け入れ可能な線と評価していたにもかかわらず、組合幹部に遠慮してスト継続に賛成票を投じたと言われている。
 組合員の事情を察した会社側は、第5次回答を上回る条件で妥結した場合、職場に復帰した組合員にも同じ条件を適用することを約束し、職場に復帰するよう誘いかける運動を行った。これに対し、多数の組合員が職場への復帰を考え始めていたと言われている。
 会社側は、ストの早期解決を図るため、組合幹部に非公式折衝を提案し、第6次回答案を提示した。これ以上組合 員の団結を保つことに難しさを感じていた組合幹部は、生産性の向上を伴わない理由でこれ以上大幅なベースアップ獲得は困難であると判断し、会社側が非公式折衝で提示した第6次案に同意。長期化する様相を示していたストライキはストライキ突入から25日後に突然、終結することとなった。チリの民間鉱山業界では史上最長のストライキとなった。
 

3. エスコンディーダ鉱山のストライキと合意内容に対する反響

 エスコンディーダ鉱山のストライキの終結について、チリ鉱山業界各方面から寄せられたコメントを以下に紹介する。一部、会社側が解決を急いだため、極めて高いベースアップを行ってしまったとの批判もあるが、いず れのコメントも今回のストライキとその合意内容がチリの鉱山業界に競争力の低下等によるマイナスの影響を与えるのではないかと懸念するものである。これらのコメントに今回のストライキに関する評価が集約されていると考える。

 鉱業審議会Costaba会長:「鉱山業界では再生不能な資源を採掘しなければならないうえ、製品の価格は生産コス トと関わりなく国際相場で決まる。変動の激しい脆弱な体質の産業である。銅価格が異常な高値を続けており、産銅会社が歴史的な利益を計上しているとはいえ、労働組合は何故長期ストライキという強硬な手段に訴えたのか。国ひいてはチリ国民全体に多大の損害を及ぼしただけでなく、将来銅の建値が下がった時、チリの銅鉱山は国際競争力を失う可能性もある。今回のストと合意内容が他の鉱山に及ぼす影響も心配である」。

 鉱業協会Ovalle会長:「産銅業界の給与は全国的にも最高のレベルにある。労働者ももう少しバランス感覚を持って欲しい。先行きが非常に心配だ」。
 Aur Resources Chile、Verdugo氏:「エスコンディーダ鉱山のストライキは他の民間鉱山会社労使間の話し合いのハードルを高くしてしまった。鉱山会社の競争力を殺いでしまう可能性がある。銅価格が正常化したら、チリの鉱山会社は労務コスト高に悩むことになるだろう。」

 外資系鉱山会社の経営者:「25日間もストライキしたのだから、最終会談では低い条件を提示すべきだった。良い回答を提示してしまったから、当然、他の会社の組合もストを長引かせれば、より良い回答が貰えるものだと思い込む風潮を生みかねない。他の鉱山会社の労使交渉にも影響を与えるのは必至である。」

 Los Andes大学Mies教授:「今回のエスコンディーダ鉱山の労使交渉は全てが敗者である。国は銅の生産量が落ち税収が減少、会社はストによる減収・減益を受けた。また、労使間の関係も悪化し、労使双方にとって大きなマイナス要因となった。中小企業も影響を受けることとなった。労務費の上昇が心配される他、今回の合意内容を見て、余りの待遇の違いに中小企業の労働者は完全に労働意欲を減退させてしまったに違いない」。
 

4. 今回のストライキが他の鉱山会社に与える影響

(1) CODELCOの労使交渉への影響
 今回のストライキの合意内容がCODELCOのAndina、CODELCO Norte両事業所の労使交渉に大きな影響を与える可能性は高いと言える。
 Andina事業所の労働協約は11月30日に有効期限切れとなる。労働組合(1,200名)が10月15日までに要求書を提出し、会社側は11月初旬に回答案を提示して、交渉を開始することになっている。
 しかし、労働組合は8月に入ると早々に経済コンサルタントMarcel Claude氏と契約を締結しており、既に要求書案の作成に取り掛かっている。労働組合が大幅なベースアップと高額の特別手当を要求することは確実であろう。
 一方、CODELCO Norte事業所では12月31日に現行の労働協約が期限切れとなる。11月15日に組合が要求書を提出し、会社側が11月30日に回答書を提示して、12月から労使交渉を行う予定であるが、Andina事業所と同じく、8月中旬から合計6つの労働組合(労働者数合計6,500名)が弁護士Alberto Muñoz氏を中心に交渉の手順を検討し始めている。
 こうした動きに反応してPoniachik鉱業大臣は、8月29日に記者会見を行い、「CODELCOの銅生産コストは極めて高く、銅1ポンド当り1.08US$に達しており、国庫に収納する利益額を圧縮している。コストが上昇した要因は主に人件費、選鉱費と請負費の上昇によるものである。Andina、CODELCO Norte両事業所での労働協約改定交渉については、エスコンディーダ鉱山とは事情が全く異なるものである。CODELCOは国営企業であり、利益は全て国庫に納され、チリ国民のための社会プログラムに消費されている。CODELCOの給与は既に充分高いレベルにあり、社会的に突出した要求は国民が許さないであろう。」と強調して、組合側の動きを牽制している。世論を味方に付けて、組合の行過ぎた要求を牽制する戦略をとるようである。

(2) 民間鉱山会社の労使交渉への影響
 BHP Billitonの子会社Spence鉱山会社は9月中旬から労使交渉を開始しているが、労組(370名)は会社が提出した回答案を拒否しており、ストライキに発展する可能性が高い。しかしながら、Spence鉱山は2007年早々に操業開始を目指して現在建設中のプロジェクトであり、エスコンディーダ鉱山とは事情が全く異なっている。生産実績がない上、従業員は現在研修中で容易に代替要員を採用できる立場にあるため、会社側は大きな問題と認識していないようである。
 Antofagasta Mineralsは2007年9月にLos Pelambres鉱山の労働協約改定交渉を開始する。同社のMarcelo Awad行副社長は、「エスコンディーダの合意内容を見てベースアップを要求しない労働者がいるだろうか。エスコンディーダの給与は元々業界でも屈指の高さだったが、今回の合意で国内の鉱山業界では最高のレベルになったのではないか。我々も2007年Los Pelambresの改定交渉を行うが、エスコンディーダの合意内容が残したハードルは余りにも高過ぎる。」と述べている。

5. まとめ

 銅価格の高騰により、チリの大手鉱山会社が歴史的な利益を計上し続ける中で発生した、エスコンディーダ鉱山のストライキは、チリの労使交渉としては前例のない、極めて高いベースアップと特別手当の支給を含む条件により終結した。エスコンディーダ鉱山のストライキが残した爪痕が実際にどのような影響を与えるのかは、今後行われる他の鉱山会社の労使交渉の結果を見ないと分からないが、労働者を奮い立たせ、会社側を困難に追いやったことだけは確かのようである。

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