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報告書&レポート

2006年11月2日 シドニー事務所 久保田博志、永井正博 e-mail:kubota-hiroshi_1@jogmec.go.jp masahiro-nagai@jogmec.net
2006年82号

オーストラリアにおける湿式冶金技術による多金属回収の事業化の動き-Intec法によるHellyer鉱山廃さい等から多金属回収-

 多金属の回収が可能な湿式冶金技術「Intecプロセス」(Intec社が開発・保有)の商業化が、閉山したHellyer鉱山(タスマニア州西部)で進められている。実証プラントでの試験・F/S、商業プラントの建設・操業へと事業化は最終段階に入った。
 本稿では、Intec法によるHellyer鉱山廃さい等からの多金属回収事業の進捗状況について報告する。

1. はじめに

 独自の湿式冶金技術Intecプロセスを開発しその特許を保有しているIntec社(本社シドニー)は、閉山後のHellyer鉱山(タスマニア州西部)に堆積されている亜鉛・鉛・銀・銅・金などの有価金属を多量に含む選鉱廃さいと電気炉ダストや鉛スラッジ等のリサイクル原料等から、同社の技術を用いて有価金属回収事業を計画、実証プラントでの試験を終了してF/S調査を実施し、商業プラントの建設・操業へと事業化の最終段階に入っている。

図 -1.Hellyerプロジェクト位置図

2. Intecプロセスとは

 1990年代に銅の湿式冶金技術として研究開発が行われてきたIntecプロセスは、現在ではその他ベースメタルや貴金属の回収が可能。Intecプロセスは以下の各プロセスより構成される。
 
(1)Intec Goldプロセス(IGP)
 塩化物により難処理鉱石から金を回収する。浸出液:塩化物、酸素源:空気、温度:90~100℃、圧力:1気圧、反応時間:6~20時間。
 
(2)Intec Copperプロセス
 硫化物精鉱から銅・貴金属を浸出・電解により回収する。浸出温度は85℃、酸素は大気圧下で空気を供給、銅精鉱の粒度は40µ、銅は12~14時間で98.5%浸出。溶解している金は炭素フィルターで捕集、砒素は鉄砒素化合物として精鉱側に固体として残留。浄液前の貴液にはCo, Ni, In, Hg, Ag, Zn, Pbなどが含まれる。
 貴液は電解前に3段階の浄液を行う。第1段階で残渣中のCu2+をCu+に転換、第2段階でHgとAlを貴液に取込み、第3段階でFe, In, Biを石灰石を投入してpHを4.0~4.5に調整して沈殿させる。
 電解液はNaCl 250g/L, NaBr 28g/L, Cu+ 75g/L。電解工程でBrCl2(Halex)を添加。Cu 50g/L相当分が電解液からカソードにデンドライト状に析出する。
 
(3)Intec Zincプロセス
 複雑硫化物精鉱から亜鉛・その他金属を回収。電解液組成の違い以外の基本プロセスは銅の場合と同じ。プロセスは、浸出・浄液・電解から成る。浸出の前には焙焼が必要。浄液ではpH調整によるセメンテーションと沈殿が行われる。浄液後の電解液はZn 100g/L, NaCl 50g/L, CaCl2 50g/L, NaBr 110g/L。電解工程における電流密度は500A/m2、電解後の電解液中のZnは50g/L。
 
(4)Intec Nickelプロセス
 ベンチスケール、小規模パイロット・プラントでの実証試験段階で、ニッケル/コバルト硫化物精鉱からのニッケル・コバルトの回収を確認。臭化物・塩化物の電解液を使用し、酸浸出の前処理工程を加えて精鉱から製錬に影響を与えるMg・Feを除去するなどの特徴がある。

出典)Intec社Webサイトより

表-1.Intec Goldプロセス(IGP)における化学反応
反応式
反応内容
(硫砒鉄鉱反応系)*1
FeAsS+2O2→ FeAsO4+S(1)

2Cu++1/2O2+2H+→ 2Cu2++H2O(2)

FeAsS+7Cu2++4H2O → H3AsO4+Fe2++S+5H++7Cu+(3)
Cu2++Fe2+ → Cu++Fe3+(4)

H3AsO4+Fe3+ → FeAsO4+3H+(5)

3Cu2++Au+4Cl → AuCl4+3Cu+(6)

・金は自然金(native gold)としてではなく硫砒鉄鉱の格子構造中(lattice -bound)に固溶体として取り込まれていることが多い。
・IGPでは、酸素(空気)を加えることにより化学的酸化が起こる(間接的に)。
・酸素(空気)を加えるとにより、銅イオン (I)が酸化され銅イオン(II)を形成。
・銅イオン(II)による砒硫鉄鉱の酸化。

・更に酸素(空気)を加えるにより、2価鉄イオン(I)が酸化され3価鉄イオン(II)を形成。
・不溶性の鉄砒素化合物を形成(IGPの高濃度の塩化物溶液中では結晶を形成し安定)
・溶解している金が塩化物/臭化物化合物を形成。

(黄鉄鉱反応系)*
14FeS4+15O2+2H2O →8SO42-+4Fe3++4H+(7)
FeS2+14Cu2++8H2O →2SO42-+Fe2++16H++14Cu+(8)
2Fe3++3H2O → Fe2O3+6H+(9)

2H++SO42-+CaCO3 → CaSO4+H2O+CO2(10)

・黄鉄鉱は酸化により硫酸塩化合物の形成。
・銅イオン(II)による黄鉄鉱の酸化
・酸素(空気)を加えることにより、銅イオン(I)、2価鉄イオン(I)の酸化
・酸性溶液(pH1-1.5)に石灰を添加し、Feを赤鉄鉱として回収。
*1 難処理鉱石中の金は鉄硫化鉱物中(硫砒鉄鉱、黄鉄鉱)に取り込まれていることが多い。
出典)Intec社Webサイトをもとに作表

3. Intec社とは

 Intec社は、1990年代に研究開発した湿式冶金技術「Intecプロセス」の事業化を目指した冶金技術コンサルタント企業である。2002年5月にオーストラリア証券取引所に上場。2006年6月末時点での大株主には、ANZ Nominees社(ANZ銀行系、権益比率約11%)、Orian Holぢんg Corp社(カナダの鉱山会社Ivanho Mines社系、約10%)などがいる*。
 また、Intec社は、Rosebery鉱山、Mt.Lyell鉱山などの火山性塊状硫化物鉱床が多数分布するタスマニア州西部 Mt.Read地域において探鉱を行っているジュニア探鉱企業 Bass Metals社の権益21%を保有する同社の大株主でもある。
 現在、Hellyer鉱山の権益を保有し、同鉱山の堆積場に残された鉱山廃さい(10.9百万t)からの亜鉛精鉱生産と周辺鉱床が開発された際の選鉱施設の利用を見込んで選鉱所(1.5百万t/年)のメンテナンスを続けている。

* Intec社2006年アニュアルレポートより

4. Intecプロセスの実用化に向けたスケールアップの経緯

 1992年に「Intec Copperプロセス」の実用化を目指してIntec Copper Pty社が設立される。
 1994年8月~1995年11月までの290日間、ステージ1のパイロット・プラント(生産規模:55kg/日)が、Intec Copperプロセスの試験行われ、LME“A”グレードの銅の生産に成功する。
 1998年~1999年にかけてシドニー市内で、ステージ2の実証プラントが連続生産130日間を含む8か月間運転し、190tの銅を生産。商業化へ向けた準備段階に入る。試験費用約10百万A$。
 2002年5月、オーストラリア証券取引所(ASX)に上場。更に、難処理鉱石からの金回収プロセスである「Intec Goldプロセス(IGP)」を開発し、鉱物試験コンサルタントAmmtec ltd社施設(シドニー市内)にパイロット・プラントを建設。この時にIvanho社が出資し、Intec社の大株主となる。また、同試験にはオーストラリア政府から1.43百万A$の補助を受ける。
 2004年にHellyerプロジェクトを取得、2005年初より12百万A$を投資して多金属回収プロセスの実証試験設備の建設がBurnie(タスマニア北部)で開始される。この実証試験と平行して2006年半ばを目処とするF/S調査も開始された。なお、本プロジェクトのファイナンスにはMacquarie銀行があたっている。

出典)Intec社Webサイトより
 

5. Hellyerプロジェクト

(1) Hellyer多金属鉱山
 Hellyer鉱山は、火山性塊状硫化物鉱床が多数分布するタスマニア州西部のMt Read火山岩地帯に位置し、日本の黒鉱鉱床(特に深沢鉱床(秋田県)と類似)と同様に亜鉛・鉛・銀・銅・金などを含む多金属複雑硫化物鉱床。1988年にAberfoyle社によって操業が開始された。操業当初の埋蔵量は、15百万t、品位は亜鉛13%, 鉛6.7%, 銀158g/t, 銅0.3%, 金2.4g/tであった*。
 1998年にAberfoyle社はWestern Metals社に買収されたが、鉱山は2000年に閉山、選鉱所(鉱石処理能力:1.5百万t/年)と約11百万tの廃さいが残されていたものを、2004年にIntec社らが取得した。
* Intec社「Sydney AusIMM Disposal of Mining Waste conference」プレゼンテーション資料、2006年3月26日

表-2 Hellyer多金属鉱山の歴史
主な出来事
1983年 Que River鉱山操業開始、鉱石はRosebery鉱山選鉱所へ(Aberfoyle社)
1988年 Hellyer鉱山操業開始
1989年 Hellyer鉱山選鉱所操業開始
1998年 Aberfoyle社はWestern Metals社によって買収
2000年 Hellyer鉱山埋蔵量枯渇、選鉱所はメンテナンス状態
2003年 Western Metals社財産管理を受ける。
2004年 Intec/Ammtec社が、Hellyer鉱山/Buurnie取得
出典) Intec社「Sydney AusIMM Disposal of Mining Waste conference」プレゼンテーション資料、2006年3月26日より作表

(2) Hellyerプロジェクト
 Hellyerプロジェクトは、次の3ステージから構成されている。
Ⅰ.Hellyer鉱山の廃さいダムから亜鉛精鉱の回収
 Hellyer鉱山の廃さいダムからの亜鉛精鉱の回収は、同鉱山を所有していたAberfoyle社やWestern Metals社の頃から計画されていたが、金属価格低迷などから経済性に欠けると判断され、実施されていなかった。
 近年の金属価格高騰等の影響もあり、2006年に入り採算性の目処が立ったことから、Intec社とPolymetals社はJV(権益比率各50%)により同年10月より浚渫と選鉱により亜鉛精鉱を生産し、12月にはタスマニア州北部のBurnie港より中国等へ初出荷する予定。操業開始費用は6百万A$でPolymetals社が負担する。JVの期間は、4年又は6百万t処理するまでとされており、精鉱品位は亜鉛40%, 鉛11%, 銀170g/t。この処理によって得られる税引き前利益(EBITDA)は、18.7百万/年~53.5百万A$/年と試算されている。
Ⅱ.電気炉ダスト(EAF dust)とZeehan地区のスラッジからの亜鉛金属の回収
 Intec社がメルボルンに保有する20,000tの電気炉ダスト(品位:亜鉛27%、金属価値:23百万A$)とZinifex社が保有するZeehan鉛製錬所のスラッジ450,000t(品位:亜鉛13.4%、金属価値:220百万US$)をIntecプロセスで処理するもの。2008年に生産を開始する予定。
Ⅲ.廃さい・鉱石・酸化残渣からの多金属回収
 鉱石、廃さい、電気炉ダスト、鉛スラグ(Zeehan)、その他金属を含む残渣を選鉱所とIntecプラントを統合・処理し、亜鉛、鉛、銀、金、銅等の金属を回収するもの。2009年、生産開始予定。

出典)Intec社「Excellence in Mining and Exploration Conference」プレゼンテーション資料、2006年10月10日より

表-3 HellyerプロジェクトのIntecプロセスの原料
 
数量
品位
金属量
価値
電気炉ダスト   世界のEAFダストの発生量3~5百万t 20~40% (ZnO, ZnFe2O4)   EAFダスト処分 費用200A$/t以上
Zeehanスラッジ 450,000t Zn 13.4% Pb 1.7% Ag 54g/t In 50g/t   含有金属価値 220 US$m (490 US$/t)
Hellyer鉱山廃さい 10.9百万t Zn2.8% Pb3.0% Ag 88g/t Au2.6g/t Cu0.16% Zn 305,000 t
Pb 330,000 t Ag 30,850 koz
Au 910,000 oz Cu17,400 t
Zn 910 US$m (42%) Pb 309 US$m (14%) Ag 313 US$m (14%) Au 520 US$m (24%) Cu 122 US$m ( 6%)
    2,174 US$m(100%)
出典) Intec社「Excellence in Mining and Exploration Conference」プレゼンテーション資料、2006年10月10日に加筆
表-4 Hellyer鉱山廃さいの鉱物組成
鉱物
品位
性状等
金属
閃亜鉛鉱
方鉛鉱
黄鉄鉱
硫砒鉄鉱
黄銅鉱
四面銅鉱
4.2%
3.5%
51.0%
2.7%
0.5%
0.1%
50%は黄鉄鉱
緩やかに酸化
結晶化
Zn
Pb, Ag
Auの60~70%
Auの20~30%
Cu
Agの70%

図 – 2.Hellyer鉱山廃さい処理フロー
出典)Intec Limited社「Sydney AusIMM Dispsal of Mining Waste conference」プレゼンテーション資料、
2006年3月26日に加筆

6. おわりに

 先進的な湿式冶金技術(Intecプロセス)、技術の適用に適した原料(Hellyer鉱山廃さい等)に加え、最近の金属価格の高騰がプロジェクトの経済性を高め、事業化にとってまたとない好機となっている。
 本プロジェクトが湿式冶金技術を用いた多金属回収(製錬)の事業化の先例となって、資源の多様化に大きく貢献すると期待される。また、商業ベースで湿式冶金技術を用いた製錬と従来の乾式製錬との比較によって、湿式冶金技術を用いた製錬のコスト面や環境面での優位性の有無や商業ベースでの適用における課題が明らかにされることが新たな技術開発につながるものと考えられる。

参考文献
Intec社プレゼンテーション資料 2006.10.10、2006.3.31、2004.5.26
Intec社プレゼンテーションDVD 2006.10.10
Intec社 アニュアルレポート2006、2005
Intec社 Webサイト http://www.intec.com.au/html/home/default.shtm

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