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報告書&レポート

2006年12月21日 リマ事務所 西川信康報告 e-mail:ommjlima@chavin.rcp.net.pe
2006年102号

ペルー、余剰利益還元を巡る議論の行方

 ペルーでは、特に2006年の後半以降、昨今の国際金属価格の高騰・高止まりで企業業績が著しく向上している中、政府や国会内から、鉱業ロイヤルティの徴収強化や自発的拠出金(Aporte Voluntario)及び余剰利益税(Sobreganancia)導入など企業側に対して追加的な利益還元を求める様々な議論が噴出した。これらの共通の目的は、余剰利益を地方の貧困対策に振り向け、現在ペルー国内で頻発している地域住民問題の沈静化を図ろうという狙いがある。本稿では、主に7月のガルシア政権誕生後に繰り広げられているこれら議論の内容と現状を整理した。

1. 鉱業ロイヤルティ徴収強化を巡る議論

 ペルーでは、鉱業税制として利益の30%を課す所得税、及び精鉱売上高の1~3%を課す鉱業ロイヤルティ制度があるが、このうち、所得税の50%をカノン税(地方還元税)として、また鉱業ロイヤルティは全額、地方へ交付されることになっている。
 まず、利益還元も求める議論の口火となったのは、ロイヤルティ徴収強化を巡る議論である。前トレド政権末期の6月、もともと、鉱業ロイヤルティの徴収・監査・罰則に関する国税庁の権限を強化するという内容の改正法案に対し、税安定化契約を締結している企業を含めた全企業へ鉱業ロイヤルティ徴収を求める内容の条文が当時のアプラ党議員によって追加されたもので、当時の国会がこの法案を可決し、鉱業界で驚きと動揺が広がった。
 これに対し、行政府は、ペルー国会議長に対して書簡を送り、国会に本法案を差し戻し、再審議を求めた。この中で1993年憲法第62条によれば、立法機関は、企業とペルー政府間で結ばれた法的契約を修正することはできないことが定められており、従って、税安定契約下の企業にロイヤルティの支払いを義務化する法案は憲法違反になる旨が記されている。その後、国会は任期満了となり、本法案は次期政権に先送りされた。
 そのような中、7月に発足したガルシア政権の対応が注目されたが、8月、JOGMECリマ事務所がファン・バルビア新エネルギー鉱山大臣にこの問題について直接、聴取したところ、「新政権としては、外国企業の投資促進には、法的な安定が何よりも重要であると考えており、従って、国と企業との契約を遵守するという立場から、税安定化契約を有する企業に対してロイヤルティを求めることには反対である」とし、「前政府と同様の立場で、国会の中のエネルギー鉱山委員会で再審議を求めていく」との考えを示した。その後、10月27日、エネルギー鉱山委員会は、本法案に対する採決を行い、その結果、これを否決し、税安定化契約を結ぶ鉱山企業も含め全企業に対して鉱業ロイヤルティの支払いを義務化する内容の条文を削除し、企業の支払い実態の透明化を目指した国税庁(SUNAT)に対する権限強化に関する条文だけ残して国会に送られ、年内にも可決される見通しである。

2. 自発的拠出金問題

 自発的拠出金は、ガルシア大統領の選挙公約に基づき、全額地方の貧困対策費として支出されることを念頭に置いて政府より企業側に提案したもので、追加的な課税等のような国からの強制的な制度による支出ではなく、あくまで、企業側の自主的な寄付金という意味合いのものであることが特徴的である。企業側は、新たな課税制度は設けないという政府の姿勢に一定の理解を示し、また、安定的な操業には昨今頻発している地域住民との紛争の根幹である貧困問題の解決が緊急の課題であるとの認識から、当初から、この拠出金問題を前向きに受け入れる方向で話し合いが進んだ。
 ガルシア政権発足直後の8月下旬に政府と企業側との間で、本拠出金の基本的なフレームワークが合意したことを受け、具体的な徴収基準、徴収方法、管理・運営方法について話し合いが重ねられ、11月下旬に基本合意に達した。年内には、政府と各企業間で個別に調印する模様であるが、一部の鉱山会社が、これまで行ってきた社会投資を本拠出金として勘案するよう求めていると伝えられている。現在のところ、明らかになっている合意内容は以下のとおり。

  ・拠出金の総額は25億ソーレス(約7.73億$)。但し、これは、今後5年間にかけて支払われるもので、初年度は5億ソーレスが支払われ、その後は金属の国際価格に応じて金額が設定される。
・算定基準としては、税の安定契約によってロイヤルティを納めていない企業は年間利益の3.75%を支払う。ロイヤルティを支出している企業はその差額分を支払う。
・拠出金の管理は各企業が決定できるとし、その方法は信託基金の設置、第三者機関の利用、あるいは企業による直接管理など様々であるが、全てエネルギー鉱山省の監査対象であり、定期的(月毎ないしは四半期毎)に会計報告を行う。
・自発的拠出金の運用方法について、企業・住民・地方政府が立ち上げる評議会が取り決めることになるとし、さらに、拠出金は、鉱山地域と、鉱山地域が属する州内の貧困地域の2つの地域に配分され、その配分比率は、鉱山地域に3分の2、貧困地域に3分の1となる。
・拠出金の使途については、インフラよりも教育・健康・研修に関するプロジェクトを優先するとし、迅速なプロジェクト実行を目指す。但し、公共事業については、従来通り、公共事業の資金を管理する公共投資国家システム(SNIP)の審査を通すことになる。

 

3. 余剰利益税に関する議論

 これは、先の大統領選挙において僅差で落選したオジャンタ・ウマラ候補が主張し、その支持政党であったUPP党(ペルー統一党)が提案しているもので、昨今の金属価格の高騰による余剰分の利益から課税しようというもので、実質法人税率のアップを図ることを意図したものである。9月、ペルー国会のエネルギー鉱山委員会で審議が開始されたが、同委員会のサンティアゴ・フジモリ委員長(フジモリ元大統領の実弟)は、「私は安定化契約を破る法案が通るべきではないと考える。」と発言し、本法案に否定的な考えを持っているとされる。また、カルロス・デル ソラール鉱業協会会長は、鉱山企業の自発的拠出金は余剰利益税やロイヤルティの改正を導入しないなどいくつかの条件つきであることを明らかにするとともに、これら法案が可決されれば自発的拠出金に関する合意は取り消しになるだろうとけん制している。また、デル カスティージョ首相は、多くの鉱山会社は税安定化契約を政府との間に結んでいることから、この制度は実質的に効力がないとの見方を示し、「我々は、投資家からの信頼を失うような新たな課税制度を導入するのではなく、自発的拠出金を選択し、これによって、100億$の投資を確保される。」と主張し、政府与党であるアプラ党として支持しないことを公式に表明している。
 このような状況から、本法案に関しては、現在、国会のエネルギー鉱山委員会で審議中であるが、12月18日に、JOGMECリマ事務所が、この問題についてフジモリ委員長に確認したところ、「与党アプラ党やUN党(国民連合)が反対を表明しているため、年内にも否決される見通しである。」と語った。

4. カノン税率変更を巡る議論

 既存のカノン税の税率変更を巡る議論も行われている。
 11月に、政府は2007年の予算案の一部として、地方へ還付されるカノン税の割合を50%から40%に引き下げ、差額の10%分を地方平等基金(Foncor)として、鉱山がなくカノン税収のない地域へ再配分することを提案した。
 この法案に対し、有数の鉱山地帯であるカハマルカ県やアレキーパ県などの地方自治体が強く反発し、一部で抗議行動が発生した。また、ペルー経団連(Confiep)など産業界からも政府に対して地方での対立問題を誘発する恐れがあるとして反対の意向を示した。こうした中、ペルー政府は、最終的に、カノン税(鉱山会社の所得税の50%を当該地方に還元)の配分方法を変更する内容の予算案を取り下げる決定を行った。
 また、アプラ党議員からは、カノン税の比率を、現行の50%から75%へ引き上げること、鉱業活動によって支出される付加価値税などもカノン税の対象にすること、また現在、地方の公共工事に限定しているカノン税の使途を地方自治体の開発能力強化や教育・健康分野など広範な社会事業に拡大し、一般財源化するなどを骨子とするカノン税改正法案が提出された。
 これに対して経済財務省は、地方へ配分されるカノン税率を75%へ引き上げた場合、国庫収入が50%から25%に半減(年間約13億3,500万ソーレス減収)するが、その予算縮小による影響や分析が行われていないこと、付加価値税をカノン税の対象にする点に関しては、鉱業活動による所得税をカノン税の対象として定めている憲法に違反していること、さらに、カノン税の使途に関しては、カノン税は企業の経営状況によって増減する流動的な資金であることから、固定的な支出である一般財源へ充当させるべきはないと主張している。

5. 鉱業税制を所得税に一本化するという議論

 一方、ペルー国会のエネルギー鉱山委員長であるサンティアゴ・フジモリ議員は、12月18日のJOGMECリマ事務所との面談の際、現在、一議員としての私案であるとしながらも、新しい抜本的な鉱業税制改正案を検討しており、今後、コンセンサスを得るべく政府や企業と話し合いを行っていきたいとの考えを示した。
 これは、現行の課税制度(所得税、鉱業ロイヤルティ、自発的拠出金)が煩雑で不透明、不明確であるという欠点を補うために、これらを所得税に一本化し、そのかわりに、現行の所得税率30%を5%程度上乗せし35%程度にするといった内容である。企業に対しては、現在の税安定化契約を放棄してもらう必要があるが、この税制度を受け入れた場合は、新たに20年の税安定化契約を結ぶというインセンティブを与えるという。但し、これを受け入れず、現行の制度の選択した場合は、税安定化契約終了後の所得税率上乗せ分は8%となる。同氏は、この制度はチリと類似のシステムであり、企業にとって最も安心感、安定感のある受け入れやすい制度で、今後の投資拡大に繋がるとの見方を示している。
 この税制改正案はまだ公表されたものではないが、経済財務大臣の内諾を得ているということであり、2007年に向けて、鉱業税制そのものの考え方や既存制度との調整、本税制の地方への配分比率など新たな議論が展開されていく可能性がある。

サンティアゴ・フジモリ議員(左)

7. おわりに

  ペルーでは、この1年、大統領選における国家主義者のウマラ候補の台頭に始まり、ここで紹介したような追加的な利益還元を求める議論が次々に繰り広げられるなど、好調な鉱業投資に水をかける動きが相次いだ。余剰利益還元を巡る議論は、最終的には、自発的拠出金という形で一応の決着が図られる状況ではあるものの、最後に紹介したフジモリ議員の腹案が表面化すれば、来年に向けて、鉱業税制度を巡ってまた一波乱ありそうな気配である。

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