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報告書&レポート

2006年12月28日 サンティアゴ事務所 平井浩二、中山 健 e-mail:hirai-koji@jogmec.go.jp nakayama-ken@entelchile.net
2006年105号

2006年チリ鉱業を振返って

 金属価格高騰に支えられ、2006年チリ産銅各社は、過去最高の売上・利益を出している。こうした背景下、順調な生産活動と投資が行われ、銅は2005年をやや上回る540万tの生産が見込まれ、鉱産物輸出も過去最高額を記録することが確実となっている。また2010年代までの鉱業投資は13億US$と見込まれており、2010年には620万tの銅供給が可能となる。
 順調な鉱業活動の一方、エネルギー資源をほとんど海外に依存しなければならないなか、アルゼンチンからの天然ガス供給が大幅にカットされ、エネルギーの安定供給問題が改めて露呈した。また鉱山を取巻く環境問題も一段と厳しくなり、新規鉱山開発や操業の停止に追い込まれないとも限らない環境争議が発生した。こうした2006年チリ鉱業界の1年を振返ってみるとともに、2007年の展望についてもコメントしたい。

1. 銅・モリブデン生産動向-銅は2005年並み、モリブデンは大幅な減少-

 チリ統計局の発表によると、2006年1月~10月の累計銅生産量は2005年同期間と比べ1.3%増の4,357千tとなり、最終的に5,399千tと予測されている(2005年は5,321千t)。岩盤の崩落事故のあったChuquicamata鉱山やストライキが発生したEscondida鉱山、当初から減産が見込まれていた、Andina鉱山、El Teniente鉱山、Los Pelambres鉱山で銅生産量の減少はあったものの、世界的な銅価格の高騰に支えられ、チリの産銅各企業は、安定的な生産を続けたこととなる。
 一方、モリブデンの生産量は2005年と比べ大幅に減少した。COCHILCOのデータによれば、チリの2006年1月~9月のモリブデン生産量は30,643tで、2005年同期間の33,891tから9.6%減少した。この主な原因はモリブデン価格の下落によるもので(2006年1~10月のモリブデン平均価格は2005年同期比23.8%減の24.7US$/lb)、2005年にモリブデン価格の高騰・高水準化にあわせてモリブデン回収に重点を置いていた鉱山が価格の下落により、通常操業に戻したことが生産量減少の一因と考えられる。
 

2. 鉱産物輸出動向-銅価格高騰により史上最高の輸出額を記録-

 2006年のチリの銅生産量がわずかな増加を示したのに対し、銅輸出額は過去最高額を記録した2005年を大幅に上回ることとなった。チリ中央銀行の発表によれば、2006年1~11月の銅輸出額の累計は前年同期比89.4%増の31,192百万US$で過去最高を記録した。これは、2006年1~11月の平均銅価格が2005年同期の167.1¢/lbから305.5¢/lbに大幅に上昇したためである。銅価格の高騰を受けてチリの産銅企業は大幅な売上増、収益増を記録することとなった。CODELCOの税引前利益は、2005年の49億US$からほぼ2倍の90億US$になると見込まれている。
 モリブデンの2006年1~11月の輸出額は生産減と価格の下落により、前年同期の3,034百万US$から16.1%減少し、2,547百万US$となった。また、銅・モリブデン以外の鉱産物輸出額の累計は前年同期比39.8%増の1,263百万US$となった。
 

3. 政権交代―新大統領に社会党Bachelete女史、鉱業政策に変化なしー

 1月15日に行われた大統領選挙決戦投票で、与党連合の推薦する社会党Bachelet候補が、野党同盟のPinera候補を破って当選した。1990年の民政移管以来継続して中道左派が政権を握ることとなった。チリではピノチェット軍事政権時代からシカゴ学派の自由主義経済思想が経済運営の基本にある。Bachelet政権も前Lagos政権の経済政策を継承、ボリビアやベネズエラで見られるような資源国有化の動きはない。Bachelet大統領は選挙公約どおり、閣僚の半分に女性を指名、鉱業エネルギー大臣も初めて女性大臣(Ponichik)が誕生した。鉱業エネルギー省ほかチリ銅公社(CODELCO)、チリ銅委員会(COCHILCO)、チリ鉱山地質局(SERNAGEOMIN)、チリ鉱山公社(ENAMI)、チリ鉱山冶金研究所(CIMM)といった政府鉱業関係部門のトップも全員交代したが、鉱業政策には大きな変化はない。
 

4. 労働争議-チリ民間鉱業界で史上最長となるストライキが発生-

 チリの産銅企業が歴史的な利益を計上し続ける中、チリを代表する鉱山において労働協約改正に伴う交渉の長期化やストライキが発生する事態となった。
 世界最大の銅生産量を誇るEscondida鉱山で8月7日にストライキが発生した。同鉱山の労使双方は前倒しで労働協約改定の交渉を行うことを取り決め、余裕を持って交渉を続けていたが、労働組合側が史上まれにみる条件(ベースアップ:13%、特別手当:16,000,000ペソ)を提示し譲らなかったことから合意に至らず、ストライキに突入した。ストライキは25日間続きチリの民間鉱山業界では史上最長のストライキとなった。この結果、ベースアップ:5%、特別手当:手取額9,000,000ペソというチリの労使交渉としては前例のない、極めて高いベースアップと特別手当の支給を含む条件により終結することとなり、他の鉱山の労使交渉に影響を与えることとなった。
 2006年のCODELCOの労働協約改正はVentanas事業所、Salvador管理職組合、El Teniente管理職組合、Andina事業所、CODELCO Norte(Chuquicamata)事業所で行われ、このうち、Andina事業所及びCODELCO Norte事業所の交渉が長期化すると予測されていた。Andina事業所の労働協約改訂交渉は前倒しで行われ、10月7日に特段の問題なくベースアップ:3%、一時金支給:6,425,000ペソの条件で終結した。一方、CODELCO Norte事業所では合同で労使交渉を行うことを決定した6つの労働組合が分裂し、交渉が複雑化したが、11月23日にChuquicamata第5労働組合、Antofagasta第1及び第2労働組合、12月19日にChuquicamata第2及び第3労働組合、12月20日にChuquicamata第1労働組合が、ベースアップ:3.8%、特別手当:8,000,000ペソの同一条件で妥結し、CODELCO Norte事業所の労働協約改訂交渉は当初から懸念されていたストライキが発生することなく終了した。
 

5. 生産開始-Spence鉱山、Escondida鉱山で新たに生産が開始される-

 2006年にチリにおいて新たに生産を開始したのはSpence鉱山とEscondida鉱山のバイオリーチィングプラントであった。
 BHP Billitonが保有するSpence鉱山で12月6日から銅カソードの生産が開始された。投資額は990百万US$、2004年に開発工事がスタートし、2007年からの生産開始に向けて鉱山建設が進められていたが、1か月前倒しで生産が開始されることとなった。2007年9月から本格操業に入り、SX-EW法により年間20万tの銅カソードを生産する。同鉱山の確定・推定鉱量は310百万tで銅品位1.14%(カットオフ品位0.30%)、マインライフは19年である。
 2006年7月からEscondida鉱山において低品位硫化鉱を対象としたバイオリーチングプラントが稼動を開始した。本プラントは開山以来貯鉱している低品位硫化鉱及び今後Escondida、Escondida Norte鉱床から生産される低品位硫化鉱を利用するもので、対象となる鉱量は11.3億t、銅品位0.52%、実収率は36%の見込みである。投資額は8.7億US$、年間180千tのSX/EWカソードを生産する。

 
6. 鉱業投資-依然旺盛な投資が続く、2010年までに13億US$-

 1990年から2005年の鉱業セクターへの外国企業の投資は175億US$で全体の32%を占めている。昨今の金属価格の高騰に支えられ、大型投資が計画されている。2006年にRegalito銅鉱床開発(Pan Pacific Copper)、Los Bronces銅鉱山拡張(Angloamerican)、Cerro Casale銅・金鉱床開発(Bema Gold)が新たに発表された。
 COCHILCOによると、2010年までの銅案件への投資は11.1億US$、金案件への投資は2億US$になる見込み。主な大型案件は、Esperanza銅鉱床開発(Antofagasta Plc、2010年から生産開始、投資額600百万US$)、Regalito銅鉱床開発(Pan Pacific Copper、2012年から生産開始、700百万US$)、Gaby銅鉱床開発(CODELCO、2008年から生産開始、898百万US$)、Cerro Casale銅・金鉱床開発(Bema Gold、2012年から生産開始、1,650百万US$)、Pascua Lama金・銀鉱床開発(Barrick Gold、2010年より生産開始、837百万US$)、Los Bronces銅鉱山拡張(Anglo American、2011年から生産開始、800百万US$)、Andacollo銅鉱山深部硫化鉱開発(Aur Resources、2010年から生産開始、350百万US$)、Los Pelambres銅鉱山拡張(Antofagasta Plcほか、2011年から生産開始)等である。これらの投資により、2010年には620万tの銅生産が見込まれている。
 とりわけPan Pacific CopperによるRegalito鉱床開発は、日本企業独自による大型開発案件であり(11万t/年のSX-EWカソードを生産予定)、また低品位鉱石に対するバイオリーチング技術の適用により開発が可能となるプロジェクトであり、新たな鉱山開発モデルとして注目される。

 
7.鉱業特別税法2006年1月から施行-優等生Escondida 鉱山鉱業特別税不払いで政府一時困窮-

 かねてより懸案になっていた鉱業ロイヤルティ法案(鉱産物の売上額に3%のロイヤルティを賦課)は2004年8月一旦国会で否決されたが、ロイヤルティ法案に代わる鉱業特別税制度(いわゆるロイヤルティⅡ)が2005年5月に成立し、2006年1月1日からが施行された。中小鉱山を考慮し、生産規模に応じて純利益の0.5~5%を賦課というものとなった。
 世界最大の銅生産量を誇り、開山以来加速償却制度を活用せず納税を続け、これまでチリ鉱業界の優等生と言われて来たEscondida鉱山は、鉱業特別税の納税対象にならないと納税を拒否し、政府の見込み違いと法律の曖昧さが露呈した。同社内には、変更税率を選択したグループと固定税率のままのグループがあり、固定税率を堅持している投資家がいる限り納税義務はないという解釈に基づくものであった。最終的に政府が法律を修正し、またEscondida 鉱山内で固定税率を選択してきたグループも一般税率を選択したことから解決した。
 当初、鉱業特別税(もしくはロイヤルティ)制度の創設により、鉱業活動の低迷が懸念され、事実Fraser Instituteの鉱業投資ランキングでも2004/2005は前年の第2位から第14位に落ちたが、鉱業特別税が鉱業投資に影響を与えているようには見えない。また鉱業特別税制度創設が資源ナショナリズムの現れという論評もあるが必ずしも的を得ていないように思われる。
 2006年鉱業特別税納税額は、好調な業界各社の売上げにより2006年上半期で既に525百万US$(当初年間見込み80~250百万US$)に達している。また鉱業特別税の使途は、鉱業州の振興と、鉱業技術イノベーション事業に当てられることになっている。

 
8.鉱山事故―Chuquicamata鉱山で落盤事故発生、復旧までに54日間を要する-

 7月23日にChuquicamata鉱山のオープンピット内で落盤事故が発生し、オープンピット内の破砕機から地表の選鉱場まで鉱石を運搬するため建設された坑道が崩落し、坑道内のベルトコンベアーが破損した。事故当初は復旧までに90日かかり、銅量53,000tの減産が予測されていたが、最終的に復旧期間54日間、銅量43,000t(採掘量ベース、実際の生産量は在庫調整により15,000tの減少)の減少となった。この事故によりCODELCOは330百万US$の減収を余儀なくされた。
 復旧後、CODELCOは損害額の補償について保険会社と協議を重ねていたが、12月に事故原因を調査を担当したコンサルタントが事故の原因は設計ミスによるものであると決定づけたことにより、坑道の設計・建設にかかわった請負業者やCODELCO内部の担当者の責任問題に発展するなど、多方面の注目を集めている。

 
9. 環境問題-日増しに厳しくなる環境への市民の目-

 鉱業国チリでは、これまで鉱業活動に絡む目立った環境争議は余りなかったが、近年環境問題がクローズアップされ、2006年には幾つかの特記すべき問題が発生した。
 Pascua Lama金・銀鉱床開発にあたり、下流域で氷河の融水を灌漑用に使用している地元農民達が氷河の取崩しもしくは移動により、灌漑用水の枯渇と汚濁を恐れて反対。これに環境団体が加わり鉱山開発の中止を求めて反対運動を展開した。最終的にチリ政府環境当局は、氷河の移動を含めて一切影響を与えないという条件で開発を許可した。
 Los Pelambres鉱山のEl Mauro廃さいダム建設にあたり、地元農民が灌漑用水に影響が出ているとして訴訟を起した。既にチリ政府当局の認可を得て建設中であったが、建設許可無効の判決がサンティアゴ高等裁判所から出された(ただし建設中止命令請求は拒否する判決が下された)、鉱山会社と政府は最高裁判所に上訴した。最高裁判所の判決が下るまで1年を要する見込み。
 El Mauroダムは、現在同鉱山山元にある廃さいダムが2008年に満杯になることから建設を進めているもので建設中止となると鉱山の操業自体が不可能となる。
 チリ国家環境委員会は、2000年に液状廃棄物を含む産業廃棄物の排出基準に関する大統領令第90号を公布、2006年9月から施行された。El Teniente鉱山ではこの新基準をクリア出来ないことから、特別基準(大統領令第80号)を定め6月30日付けで施行した。これに対して、チリ国会上下院の与野党議員団は、国営企業のみに甘い基準を適用することは国際的イメージを損ねると猛反発した。折しも7月になって、4月14日CODELCO El Teniente鉱山の廃さいダムが決壊し、重金属や硫酸を含む選鉱廃さいが流出、流域の農用地を汚染し多数の魚や家畜が死亡したことが公になり、政府の環境問題に対する対応の甘さが批判された。

 
10. 電力・エネルギー問題-天然ガスの供給不安により新たな電力・エネルギー確保に向けた取り組みを開始-

 チリ政府はアルゼンチン政府と液化天然ガスの供給協定を締結して、天然ガスの供給を100%アルゼンチンに依存しているが、かねてから供給体制の脆弱性が指摘されていた。2006年冬期にアルゼンチンからの天然ガスの供給停止が頻繁化し、チリの産業界は深刻な影響を受けることとなった。今後、アルゼンチンの天然ガス埋蔵量が30%減少する上、アルゼンチンの国内天然ガス需要が6%増加するとの予測もあり、2007年冬期も重大なエネルギー不足が生じる危険性が指摘されている。このような状況の中、天然ガスの供給不安に対処するため、チリ政府、産銅企業は、チリ国内で独自に電力・エネルギー確保を進めようとしている。
 BHP Bllitonは2010年以降チリ北部の鉱山操業に必要な電力を確保するため、発電能力200MWの石炭による火力発電所を2基建設する計画を発表し、2006年に入札を行った。BHP Bllitonは現在第Ⅰ州でCerro Colorado、第Ⅱ州でEscondida鉱山の操業を行っているが、2006年7月にEscondida鉱山で低品位硫化鉱バイオリーチングプラントの稼動を開始、12月にはSpence鉱山で銅カソードの生産を開始した。今後、中長期的に電力需要の伸びが予測されており、会社独自で発電所を建設し電力不足に対応する。
 Collahuasi鉱山は鉱区面積4,300haの範囲で1.1百万US$を投資し、地熱探査を開始した。Collahuasi鉱山周辺は火山地熱地帯で地熱資源ポテンシャルが高いとされる。また、チリ政府内(SERNAGEOMIN)でも地熱開発に力を入れていく方針を打ち出している。
 チリの石油公社(ENAP)は液化天然ガス購入を計画し国際入札を実施した。この計画は液化天然ガスの購入(1日当たり20百万m3)、輸送船の建設、Quintero港(Valparaisoの北約20km)におけるターミナルの建設及び液化天然ガスの再ガス化設備の建設を含むもので、建設費は総額55億US$以上が見込まれている。
 また、政府、電力会社、鉱山会社(CODELCO、BHP Billiton、Collahuashi、Phelps Dodge)が中心となってチリ・第Ⅱ州のMejillones市に液化天然ガスの再ガス化プラントを建設する計画が検討されている。

2007年のチリ鉱業の展望

 2007年の銅価格は、2006年を下回るとい大方の見方であるが、2003年に比べ依然高い水準にあり、チリ銅鉱業界は2006年度に引続き活況を呈するものと思われる。
 2007年の銅生産量は、銅精鉱(銅含有量):375万t、SX-EWカソードは:195万tで2006年より30万t増の570万tになると見込まれている。銅精鉱はCODELCO Norteディビジョンが2006年に引続いてやや減産になり全体として2006年並みであるが、SX-EWカソードはEscondida鉱山の低品位硫化物のバイオリーチングプラントおよびSpence鉱山がフル操業に入るため2006年に比べ約30万t増加する見込みである(COCHILCO,2006)。
 電力エネルーギー問題、鉱山用水問題、環境問題は依然としてチリの鉱業投資阻害要因として残る。電力確保のため、大手企業は独自に石炭火力発電所の建設やLNG基地建設計画を進めることになるものと思われる。
 2006年はCODELCO、 Escondida鉱山といった大規模鉱山で労働契約更改時にあたった。銅価格高騰による利益増から賃上げが認められたが、2007年は銅需要の後退で価格低下が予想されており、またエネルギーコストの上昇等コスト高の要因が大きく経営の圧迫が懸念される。

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