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報告書&レポート

2007年1月18日 シドニー事務所 久保田博志、永井正博 、研究スタッフ:Natalie J Barnes e-mail:kubota-hiroshi_1@jogmec.go.jp masahiro-nagai@jogmec.net
2007年04号

Zinifex社、亜鉛製錬部門をUmicore社と統合-事業統合の概要とその背景-

 Zinifex Ltd.(本社メルボルン、以下Zinifex社)は、12月12日、同社の亜鉛製錬事業を分離し、Umicore S.A.社(本社ベルギー、以下Umicore社)の亜鉛事業部門と統合して新会社を設立すると発表した。更に、統合新会社を2007年後半に新規株式公開により上場する計画であることも明らかにした。
 本稿では、両社の亜鉛製錬事業統合の概要とその背景について報告する。


1. はじめに


 亜鉛生産量世界3位のZinifex社と同第4位のUmicore社の両社亜鉛製錬部門の統合により誕生する新会社は、従業員数4,500人、生産規模は、Korea Zinc社(韓国)、Xstrata社(スイス資本)を抜いて、世界の需要の10%に相当する年間1.2百万tの亜鉛・鉛及び合金を生産する世界最大の亜鉛・鉛製錬企業となる。統合後の新会社の本社はベルギーに置かれ、更に新規株式公開(IPO)が計画されている。
 

2. 事業統合の概要


(1) 統合される資産
 事業統合されるのは、Zinifex社からは、Hobart亜鉛製錬所(タスマニア州)、Port Pirie鉛・亜鉛製錬所(南オーストラリア州)、Clarksville亜鉛製錬所(米国)、Budel亜鉛精錬所(オランダ)、鉛バッテリー・リサイクル等のAustralian Refined Alloys:ARA(権益50%、ニューサウスウェルズ州、ビクトリア州)、Genesis亜鉛合金(権益50%、中国)など、一方、Umicore社からは、Balen亜鉛製錬所(ベルギー)、Overpelt亜鉛製錬所(ベルギー)、Auby亜鉛製錬所(フランス)、GM Metal亜鉛ダイカスト合金(フランス)、タイ国内に亜鉛製錬所と鉱山を保有するPadaeng Industry(タイ)、Galva 45亜鉛めっき(権益55%、フランス)、Yunnan亜鉛製錬・合金(権益60%、中国)、Fohl亜鉛ダイカスト(権益47%、中国)などである。
 
(2) 新会社設立のスケジュール
 両社は、2006年12月12日に亜鉛製錬事業統合に関する基本合意(MOU:Memorandum of Understandings)の締結、2007年第1四半期には、事前詳細調査(Due Diligence)による事業活動・法務・財務面の問題・リスクを確認後、本契約を締結、併せてオーストラリア外国投資調査審議会(FIRB:Foreign Investment Review Board)及び欧州規制当局(EC Merger Regulation)の承認手続きを行う。2007年第2四半期にはZinifex社の株主の承認を得て、2007年第3四半期には新会社を設立した後、新株公開上場(IPO)手続き開始する。
 
(3) 新会社の経営体制
 新会社はベルギーに本社を置き、ロンドンには国際事業の拠点事務所を、また、オーストラリアとベルギーには操業支援センターを配置する予定である。経営陣は、最高経営責任者(CEO)にZinifex社の最高執行役員(COO)のPaul Fowler氏、最高財務責任者(CFO)にはUmicore社亜鉛事業責任者(Controller for Zinc Specialties Group)が就任することになっている。

表-1.Zinifex社とUmicore社の統合される亜鉛製錬事業
 
Zinifex社
Umicore社
鉱山  Century亜鉛・鉛鉱山 
Rosebery亜鉛・鉛等鉱山 
亜鉛 

亜鉛
501.1kt*
70.9kt*
88.6kt*
25.1kt*
Padaeng Industry

亜鉛 

 

51.0kt

製精錬所  Hobart亜鉛製錬錬所 
Port Pirie鉛・亜鉛製錬所
 
Clarksville亜鉛製錬所 
Budel亜鉛精錬所 
Genesis亜鉛合金 
亜鉛 
亜鉛 
 
亜鉛 
亜鉛 
亜鉛 
254.9kt*
38.4kt*
229.3kt*
115.2kt*
224.6kt*
22.0kt*
Balen亜鉛製錬所
Overpelt亜鉛製錬所
亜鉛 
亜鉛・合金 
亜鉛 
亜鉛 
亜鉛 
亜鉛 ・合金 
亜鉛  
亜鉛 
220.0kt**
200.0kt*  
209.0kt*  
20.0kt**
60.0kt**
103.0kt*  
260.0kt*  
99.7kt*  
リサイクル ARA  
36.0kt**
貴金属リサイクル事業  
材料製造       機能材料事業
(光学電子材料、粉末冶金材料、特殊酸化物材料)
貴金属事業
(自動車触媒、貴金属化学、機能材料、薄膜製品、宝飾品)
 
  事業統合される資産
出典:*  
**
Raw Material Data, Nov.30, 2006(2005年生産量:金属純分)
2006.12.13 The Australian
図-1.Zinifex社とUmicore社の統合される主要生産拠点
出典:Zinifex website: ASX Release and Presentation 12/12/06




3. Zinifex社とUmicore社とは


(1) Zinifex社とは
 Zinifex社は、オーストラリア国内に亜鉛・鉛鉱山と製錬所、米国、オランダに亜鉛・鉛製錬所を保有し、鉱石から地金まで亜鉛・鉛の一貫生産を行う従業員約3,500人、総収入31億A$(2005/2006年度)の鉱山・製錬企業である。
 Zinifex社は、2001年に破綻したPasminco社の資産を引継ぐ形で誕生した。2004年4月にオーストラリア証券取引所(ASX)に上場(資本金975百万A$、1.95A$/株)、その後の金属価格高騰の効果もあり業績は好調で、2005/2006年度の総収入は3,062.7百万A$(対前年度61%増加)、純利益は1,080.2百万A$(同366%増加)となり、12月12日現在株価は18.10A$/株に達している。
 同社の前身であるPasminco社は、1988年7月にCRA Limited(現在のRio Tinto社)とNorth Broken Hill Peko Limited(後のNorth Limited、同社は2000年にRio Tinto社に買収された)の亜鉛・鉛資産の分離・統合により設立され(株式発行総額203百万A$)、1989年にはオーストラリア証券取引所に上場(権益比率はCRA社40%、North社40%、その他20%)した。このPasminco社設立の背景には鉱山や製錬所の鉛等の環境問題を回避する目的もあったと言われている。その後、CRA社、North社は共に権益比率を下げ、1995年8月にCRA社がPasminco社の残り保有株式の10%を市場で売却した結果、Pasminco社は、完全な独立会社となった。
 Pasminco社は、一時は世界最大の亜鉛生産者(亜鉛鉱石生産量43.3万t、同鉛鉱石16.5万t、金属亜鉛生産量32.6万t(2000/2001年度)、従業員は約3,800人)となったが、亜鉛価格の低迷や、Century Zinc亜鉛・鉛鉱山(クィーンズランド州)開発や企業買収による負債等によって経営体力が弱っていたところへ、1999年に行った為替ヘッジによる8億A$にのぼる為替損失が致命傷になり、2001年9月に経営破綻し管財人の管理下におかれた。
(2) Umicore社とは
 Umicore社は、機能材料、貴金属製品及び触媒、貴金属リサイクル、亜鉛製品の4事業を中心に事業展開する従業員約16,000人、総収入66億€(2005年度)の国際的な材料技術企業グループである。
 Umicore社の起源は、約200年前、1805年12月17日にJean Dony氏がVieille-Montagne鉱山(ベルギーとドイツ国境Moresnet)の鉱区を取得、1837年に“Société Anonyme des Mines et Fonderies de Zinc de la Vieille-Montagne”を設立したことに遡る。また、Umicore社の起源となるもう一社Union Minière社は、1906年に設立、ベルギー領コンゴでUnion Minière du Haut Katanga(UMHK)として銅、コバルト、貴金属の開発を行っていたが、1968年のザンビア政府による鉱山国営化により、同地を撤退し、1989年にMetallurgie Hoboken-Overpelt社(銅・鉛・コバルト・ゲルマニウム・貴金属類等)、Vieille-Montagne社(亜鉛)、Mechim社(エンジニアリング)をUnion Minière社のグループ企業として統合している。
 Union Minière社は、1990年代末頃から事業の中心を、貴金属や付加価値の高い亜鉛製品・コバルト及びゲルマニウムなどを用いた機能材料へと移し、鉱山等の非戦略的事業は売却を進め、2001年には「Umicore」に社名変更し、名実ともに鉱山部門から撤退、更に、2003年には、German Degussaグループの貴金属部門であるPMG社を買収して自動車触媒分野へ進出している。

表-2.Zinifex社とUmicore社の財務データ(2005年度)

 
Zinifex社(百万A$)
Umicore社(百万€)
2005/06年度
2004/05年度
2005年度
2004年度
総収入(Revenues/Turnover)
税引き前利益(EBIT)
税引き後純利益

(Net Profit after Tax/Profit of the period)
総資産(Total assets)
流動資産(Total current assets)
総負債(Total liabilities)
流動負債(Total current liabilities)
株主資本(Total equity)
3,062.7
955.6
1,079.9

3,041.7
1,468.8
838.9
358.7
2,202.8
1,897.5
223.3
231.6

1,877.3
648.2
663.1
230.0
1,214.2
6,566.5
183.5
192.5

2,936.9
1,748.5
1,921.5
1,268.0
1,015.4
5,685.0
269.5
154.6

3,533.3
1,724.2
1,867.2
1,059.0
1,666.1
出典:Zinifex社2005/2006年度年次報告書、Umicore社、2005年度年次報告書




4. 亜鉛製錬事業統合の効果


(1) 亜鉛製錬事業統合の効果
 Zinifex社とUmicore社は、亜鉛製錬事業統合について、亜鉛地金の生産規模が世界最大の年間1.2百万t に達する「亜鉛・鉛製錬業のリーダー的存在」となること、オーストラリア・オランダ・ベルギー・フランス・米国・タイ・中国など「全世界的な生産拠点」と「質の高い生産資産」を有すること、亜鉛・鉛精鉱(一次原料)はZinifex社所有の鉱山(現在、同社製錬所へ70%以上を供給している)から引続き精鉱が供給されること及びUmicore社の製錬所が既に20%以上のリサイクル原料(二次原料)を使用するなど「製錬原料が確保」されていること、製錬事業を挟んで鉱山など上流部門に強みのあるZinifex社と触媒・合金製造など下流部門に強みのあるUmicore社と「相互補完機能」効果があるなどの優位性をあげている。
(2) 統合後のZinifex社とUmicore社のメリット
 Zinifex社は、「同社が中核事業と位置づけている鉱山事業に投資を集中することが出来る。また、製錬事業の株式公開(売却)によって得られるキャッシュフローをDugald River亜鉛・鉛鉱床開発等の優良プロジェクトに注ぎ込むことができる」、他方、Umicore社は、「材料技術分野への事業集中を加速できること、亜鉛化学製品や建築材料の開発で世界をリードしていけること、下流事業への亜鉛の供給障害を防げること」としている。

図-2.Zinifex社とUmicore社の合併による企業規模の比較
Note: 1 2005 proportional production, 2 Post Falconbridge acquisition

出典:Zinifex website: ASX Release and Presentation 12/12/06

5. 亜鉛製錬事業統合の背景

 
Zinifex社のこの決定の背景には、採算性の低い製錬事業から採算性の高い鉱山事業への投資を強化する狙いがある。税引き前利益(EBIT)を2006年に10億A$台に乗せた同社は、2007年には18億A$に達すると予想しているが、そのうち鉱山事業は12億~12.5億A$、製錬事業は500百万~600百万A$程度と考えられている。Zinifex社の主要鉱山であるCentury鉱山(クィーンズランド州)は2016年、Rosebery鉱山(タスマニア州)は2011年までの鉱山寿命であり、2007年には開発が開始されるDugal River鉱山(クィーンズランド州)は2011年の生産開始を目指しているが、精鉱生産規模は200,000t/年でCentury鉱山の代替としては規模が小さく、これら鉱山プロジェクトへの投資とともに新たな探査プロジェクトや中小鉱山会社の買収・合併を考えているとの見方もある。また、Port Pirie鉛・亜鉛製錬所の鉛健康被害等の環境問題から逃れることも製錬部門の分離・新会社設立の理由の一つと考えられている。
 一方、Umicore社は、社名から鉱山をあらわす「Minière」をはずした1990年代から一貫して付加価値の高い材料分野への事業展開を志向しており、今回の製錬部門の分離(Zinifex社との統合)は、その一連の流れの中にあって、更に下流分野への事業集中を加速させたいとの企業戦略の現れである。

図-3.Zinifex社とUmicore社の収益構造とその推移 その1(Zinifex社)
出典:2005/2006年度年次報告書をもとに作成

図-3.Zinifex社とUmicore社の収益構造とその推移 その2(Umicore社)
出典:2005年度年次報告書をもとに作成

6. 亜鉛製錬事業統合の影響

 12月12日、両社の亜鉛製錬事業統合が発表された直後のZinifex社のオーストラリア証券取引所での株価は、前日の17.38A$/株から一時、18.58A$/株まで上昇(終値18.10A$/株)するなど、株式市場はZinifex社の「亜鉛製錬事業の分離」(最終的には新規株式公開による売却)を歓迎した。
 その理由として、「Zinifex社の好調な経営を支えているのは鉱山部門であり、相対的に採算性の良くない製錬部門が分離されても収益に影響はなく」、むしろ「分離で得られたキャッシュフローで鉱山部門への探鉱・開発投資が進み、更に、収益が上がる」、或いは、「分離で得られたキャッシュフローでKagara Zinc社、Aditya Birla社、CBH Resources社などの中小亜鉛鉱山会社を買収する」、「ラオスや国内での銅・金鉱山開発、国内の亜鉛鉱山開発で成長著しい中堅鉱山会社Oxiana Limitedと合併する」、「製錬部門を分離して小ぶりで収益性が上がる鉱山会社となることで国際的亜鉛大手企業のTeck Cominco社(カナダ資本)、Xstrata社やCVRD社(ブラジル資本)、中国系企業などの外資系企業による買収の新たな対象となる可能性が高くなる」などの思惑が拡がっていることがあげられる。
 

7. おわりに

 今回の合併は、採算性の低い亜鉛製錬事業から採算性の高い鉱山業に重心を移したい(回帰したい)Zinifex社と、同様に、より付加価値の高い触媒や機能材料などの川下事業への展開を進めたいUnmicore社とが、一時的に垂直方向の事業統合を行ったことになる。
 しかし、これは一時的なもので、両社とも非中核事業である亜鉛製錬事業を新会社として設立し、最終的には新規株式公開により完全に分離する(売却)する方針であり、金属価格が高騰するこの時期は資産売却(新規株式公開)には絶好の機会と言えよう。
 
参考文献
 “Zinifex in $2b tie with rival” SMH 13/12/06
 “Zinifex tie-up to bring in $2bn for mine expansion” AUS 13/12/06
 “Helter-smelter as Zinifex, Umicore seek to rule the zinc world” AUS 13/12/06
 “Merger leaves the phoenix attractive – and vulnerable” AUS 13/12/06
 “Selling smelters a smart move” SMH 13/12/06
 “Shares in black thanks to Zinifex, CSL, Macbank” SMH 13/12/06
 “Zinifex (ZFX) $18.10” AUS 13/12/06
 Zinifex website: ASX Release and Presentation 12/12/06, http://www.zinifex.com/UploadZinifexPublic/Document/ASX%20Release_%20Zinifex%20and%20Umicore_061212_FINAL.pdf [DA: 13/12/06]
 Umicore website: ASX Release 11/12/06, http://www.investorrelations.umicore.com/en/pressReleases/2006/PR_JV_Umicore_Zinifex_EN.pdf [DA: 13/12/06]


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