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報告書&レポート

2007年2月15日 サンティアゴ事務所 中山 健 e-mail:nakayama-ken@entelchile.net
2007年14号

チリ・CODELCO Salvadorディビジョンのゆくえ

 El Salvador鉱山は鉱山部門を有するCODELCOの4ディビジョン(CODELCO Norte、Salvador、Andina、El Teniente)の1つであるが、CODELCOは、2005年9月鉱量枯渇のため2008から2011年にかけて段階的に閉山することを発表した。鉱山近傍のEl Salvadorの町は鉱山以外の産業は何も無い鉱山城下町で、Diego de Almagro郡の経済の50%が同鉱山に依存、また同鉱山はChanaral県の主要企業でもあることから閉山は地域社会に与える影響が大きく、地元自治体等が閉山に強く反対した。これに対してCODELCOは閉山ではなく、事業再転換であることを強調している(Villarzu, 2005)。
 El Salvadorは、世界最大の銅生産企業CODELCOにとって初めての鉱山閉山であり、チリにおける閉山のモデルとなることから、チリ政府関係者もEl Salvador鉱山の閉山には強い関心を持っている。最近同鉱山を訪問する機会があったので、鉱山の操業状況と同ディビジョンのゆくえについて紹介する。
1. El Salvador鉱山の歴史

 El Salvadorは、サンティアゴの北約800km、チリ第Ⅲ州Chanaral県Diego de Almagro郡に位置し(図1)、サンティアゴから毎日1便定期航空便がある。El Salvadorの町は、鉱山開発のためにアタカマ砂漠の中に作られた人口8,697人(2002年)の鉱山城下町である(写真1)。
 当地では、Braden Copper社が1920年にPotrerillos鉱山の操業を開始、その後Anaconda Copper社の子会社であるAndes Copper Mining社がBraden Copper社を買収、Andes Copper Mining社は、タイミングよくPotrerillos鉱床の鉱量が枯渇する前の1951年にEl Salvador鉱床を発見し、1959年に操業を開始した。1971年Allende政権により国有化された後、1976年のCODELCO設立にともなってCODELCOの第2ディビジョン(El Salvadorディビジョン)となった。

図1. El Salvador鉱山位置
写真1.
 
El Salvador市街と鉱山。後方左の山(写真2のTurquoise Gluch)の深部で坑内採掘、山と市街の間平坦部にExotic鉱床であるDamiana鉱床が広がる。後方右は選鉱プラント。




2. 地質・鉱床

 El Salvador鉱床は、Chuquicamata鉱床、Escondida鉱床といった大型ポーフィリー銅鉱床を産し、チリで最も銅鉱床に富む後期始新世~前期漸新世の鉱床ベルトに属する。
 El Salvador鉱床は、調査・研究が進んでおり、世界のポーフィリー鉱床の鉱脈分類のタイプのs固有名詞になっている(Gustafson and Hunt、1975)。鉱床は、白亜紀の安山岩および暁新世の流紋岩に貫入した41-43百万年前(始新世)の花崗閃緑斑岩に伴って形成されている。これら斑岩は、北北東―南南西方向に4か所に貫入し、凡そ1km間隔で並び、貫入順にX,K,およびLポーフィリーの3ステージに区分される。Kポーフィリーが主要な鉱化期で、後期のLポーフィリー貫入時期にモリブデンが晶出している。最大の鉱床はTurquoise Gluchでその北に衛星鉱床であるCopper Hill、Old Campが並ぶ(写真2)。鉱床形成直後から11百万年(中新世)の間にTurquoise Gluchから溶出した銅イオンが山麓の古水系に沿って沈殿してExotic鉱床であるDamiana鉱床(珪孔雀石+カッパーワッド)を形成した。同鉱床は、砂礫層中よりも風化した基盤の安山岩の裂罅を充填する割合が大きい。Damiana鉱床の規模は開発前の鉱物資源量で171百万t、銅品位は0.53%(カットオフ品位0.3%)である。

写真2.

 鉱山風景。Turquoise Gluchの深部で坑内採掘(パネルケービン)が行われている。クレータは坑内採掘による陥没。Damiana鉱床は右下に広がる。




3. 現在の生産状況

 CODELCO第2ディビジョンはEl Salvador鉱山と約25km南南東にあるPotorerillos製錬所からなる。従業員は鉱山部門に1,307人、製錬部門に420人を抱える。
 CODELCOのほかのディビジョンが生産拡大をするなか、El Salvadorディビジョンの生産割合は減少し、生産コストも高く、2002年前後の銅価格低迷時期には赤字操業を余儀なくされていた。残存鉱量も減少し、鉱石品位も0.6%以下に低下し、CODELCOの4ディビジョンのなかでも最も採算性の悪い鉱山である。2005年の直接コストは112.5¢/lb(Chuquicamataのコストは-18.3¢/lb)。ちなみに2005年のCODELCOのDNP(開発ビジネスプラン)によると残存鉱量:243百万t、品位:0.58%、銅量:約100万t。生産量は2005年:75,000t(実績77,500t)、2008年:97,000t、2012年:79,000t、2020年:22,000tとされている。

図2. CODELCO 4ディビジョンの銅生産推移

 現在採掘は、Turquoise Gluch(坑内採掘、パネルケービング)、Old CampとDamiana(何れも露天採掘)で行われている(写真2)。Copper Hillは2003年に終掘。なおDamianaは2002年に生産を開始し2008年で終掘の予定。Turquoise Gluchの生産量は34,000t/日、品位0.62%、Old Campの生産量は3,000t/日、Damianaの生産量は18,000t/日、品位0.7%。Damiana鉱床の酸化鉱はヒープリーチング、SX-EWでカソードを生産。硫化鉱は選鉱プラントを経た後、貨車でPotrerillos 製錬所に運搬され処理される。2005年の生産量は75,000tでそのうち25,000tがSX-EWカソードである。

写真3.

 Potrerillos製錬所。周辺には従業員宿舎のみあり、それ以外半径20km以内に人家はない。

 Potrerillos製錬所の主要設備はテニエンテ炉1基、Peirce Smith炉3基、Slag Cleaning電気炉2基、アノード炉2基、硫酸プラント、酸素プラント、流動床ドライヤー1基よりなる。年間生産能力は、精鉱処理:700,000t、アノード:21,500t、カソード:137,000tである。El Salvador鉱山の鉱石以外に近隣の鉱山からの鉱石を受入れている。製錬所と約20km離れたEl Salvador鉱山および125km離れたChanaral港まで鉄道が敷設されており、生産された地金は貨車で港まで運搬され輸出される。(写真3)

 

4. El Salvador鉱山閉山と将来計画

 CODELCOは2005年7月28日、鉱量枯渇のため2011年までに段階的にEl Salvador鉱山を閉山することを従業員に伝えたが、地元および政府内部からも強い閉山反対の声が上がり、また当時のLagos大統領にも閉山計画を知らされておらず政府内にも不満の声があがった。 最終的に2005年9月にCODELCO経営審議会でDamina鉱床の露天採掘を2008年に、Turquoise Gluch鉱床の坑内採掘を2011年に中止することが決定された。またオーストラリアの環境コンサルタントGolder Associateにも委託して経営資源の再転換を含めた閉山計画概要が取りまとめられ、閉山コストは100百万US$と見積もられている。
 それによると、El Salvador鉱山の採掘は中止するものの、550百万US$を投資してEl Salvadorディビジョンを今後15~20年間維持する。枯渇する現在採掘中の鉱床の代替として、旧Potrerillo鉱山に残存する酸化鉱(San Antonio鉱床、鉱石埋蔵量213百万t、銅品位0.48%)、Diego de Almagro市近くで発見したInca de Oro銅・モリブデン・金鉱床(資源量300百万t、銅品位0.5-0.6%)、Turquoise Gluch鉱床坑内の残存鉱床、その他周辺の衛星鉱床(Cerro Pelado)の開発を行う。Turquoise Gluch鉱床坑内の残存鉱床の回収方法にin situ リーチングがあげられている。その他既得の水利権(1,700ℓ/sec)の活用があり、既に鉱山用水(50ℓ/sec)とPorerillos製錬所の硫酸をCanadaのMinera Centenario社(2008年からEl Salvador北方約70kmのFrankenstein鉱床開発予定)に販売する交渉が進んでいる。一方Potrerillos製錬所は、現在のカソード生産137,000t/年体制から2010~2011年に50百万US$(上記550百万US$の内数)を投資して210,000t/年体制に拡張する。
 CODELCOから発表された再転換計画では、閉山ではないことが強調されているが、今回現地で取材して得た感触では、現在採掘中のEl Salvador鉱山に代わる鉱床は、何れも鉱床規模、銅品位が低く転換計画は非常に厳しいように思われた。Porerillos鉱床開発に合わせて建設されたPorerillos製錬所とChanaral港の間は鉄道輸送が可能であり、近隣の鉱山およびCODELCOの他鉱山からの鉱石処理で存続が可能である。Morales(2006)によると、Alejandro Hales鉱山から250,000t、Chuquicamata鉱山(あるいはAndina鉱山)から264,000tの鉱石供給が可能とされている。

 

5. おわりに

 世界最大の銅生産を誇るチリも、鉱山業が成熟期に入り、開発ばかりでなく閉山という問題が顕在化してきている。最近チリで閉山した大型鉱山にはBarrick Gold社のEl Indio鉱山があり、また近い将来Mantos Blancos(Anglo American)、Michilla(Antofagasta Minerals)といった鉱山の閉山が予定されている。チリ政府でもこうした差迫った閉山という現況を踏まえ、閉山法の立法化の準備を行っているところである。El Salvador鉱山の閉山は、国営企業CODELCOでは初めてのケースで、閉山コストや閉山にかかる環境問題等諸事象のスタンダードとなることから、政府もEl Salvador鉱山の閉山は気になるところである。
 鉱山規模は比較にならないが、チリ政府関係機関(複数)は、日本がかつて経験した閉山後の鉱山経営資産の活用や環境対策に強い関心を持っており、JOGMECサンティアゴ事務所への問合せも多く、日本の現状視察の希望もある。現在JICAのプロジェクトタイプ技術協力の「チリ鉱山鉱害指導体制強化プロジェクト」を実施中であるが、チリから大量の銅を輸入している我国にとって、チリ政府・鉱業界への我国の閉山対策技術分野の協力は、間接的ながらチリからの銅安定供給へ結びつくことになり、キャッシュで資源を獲得する諸外国との差別化が出来るのではなかろうか。

 
 参考資料
 Gustafson, L. B. and Hunt, J. P. (1975) The porphyry copper deposit at El Salvador, Chile. Econmic Geology, Vol.70,
     P.857-912.
 Morales, P. C. (2006) Smelting and refining development plan. Sohn International Symposium発表資料
 Villarzu, J.R (2005) Division Salvador Plan de Reconversion Productiva. Presenracion a la Comunidad, Septiembre de 2005.



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