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報告書&レポート

2007年2月22日 サンティアゴ事務所 平井浩二 e-mail:hirai-koji@jogmec.go.jp
2007年15号

CODELCOの労働協約改正交渉

 2006年のCODELCOと労働組合との労働協約改正交渉は、銅価格の高止まりによりCODELCOの利益が過去最高を記録する中で、Ventanas、Salvador、Andina、El Teniente、CODELCO Norteの各事業所で行われた。労働組合はCODELCOの利益の一部を労働者に還元すべきであるとして、大幅なベースアップと高額な特別手当を要求、労使交渉はCODELCOにとって厳しいものとなった。本稿では、2006年にCODELCOと各事業所の労働組合との間で行われた労使交渉の概要と合意内容を紹介するとともに、交渉結果を総括し、今後の展開について考察する。
 
※ 2007年2月1日現在、1US$=544.49ペソ、1円=約4.5ペソ

1. 労使交渉の概要

 2006年にCODELCOはVentanas事業所労働組合、Salvador事業所管理職組合、Andina事業所労働組合、El Teniente事業所管理職組合、CODELCO Norte事業所労働組合と労働協約改正に係る交渉を実施した。また、El Teniente及びAndina事業所の下請け従業員と下請け会社を含めた三者協議を実施した。それぞれの交渉の概要を以下に示す。
 
(1) El Teniente及びAndina事業所下請け従業員によるストライキ
 2006年1月上旬、Andina事業所及びEl Teniente事業所の下請け従業員が銅価格高騰を理由に、従業員1人当たり500,000ペソの特別手当の支給をCODELCOに要求、これをCODELCOが拒否したためストライキを決行し、激しいデモ運動を展開した。
 この紛争は1月4日に下請け従業員が特別手当の支給を求めてデモ行進を行なったのが始まりで、1月23日に下請け従業員側がCODELCO、下請け会社と予備協定書を締結し、ストライキは終結した。しかし、2月2日に合意内容の解釈の違いから、下請け従業員側が再度ストライキを行なうと宣言する事態となり、最終的に紛争が解決したのは、2月7日であった。
 三者交渉の結果、下請け会社は従業員に作業着を支給することとし、2006年1月1日からこの措置が実施されるまで、15,000ペソ/日の手当てを支払うこと、さらにAndina事業所においては、更衣施設を建設することとし、工事が完成するまで10,000ペソ/日の手当てを支払うことが決定された。CODELCOは、デモに参加したのは下請け従業員の20%だけで、生産には全く影響を及ぼしていないと発表した。
 この問題の背景には、CODELCOがコスト削減のため多くの作業を下請けに出し、直轄従業員を大幅に削減した経緯があるといわれている。事実、2005年末の下請け従業員は32,800人で2001年末の19,119人から70%以上増加したこととなる。また、CODELCOの直轄従業員と下請け従業員の給与・待遇の違いが問題を引き起こしたとされている。
 
(2) Ventanas事業所
 2005年12月~2006年1月にかけて、CODELCOはVentanas事業所の第1労働組合及び交代勤務者労働組合と労働協約改正に係る交渉を行った。下請け従業員によるストライキが続く中で交渉が行われたが、下請け従業員との交渉が難航したのとは対照的に、Ventanas事業所の労働組合との労使双方は特段の問題なく終結した。合意内容は第1労働組合がベースアップ2.8%、特別手当2,000,000ペソの支給、交代勤務労働者組合がベースアップ2.8%、特別手当2,300,000ペソの支給であった。
 
(3) Salvador事業所
 Salvador事業所の労働協約改正については、2006年8月から労使交渉が開始されたが、管理職組合が9月11日にCODELCOの改正案に同意することを採択したため、労働協約改正交渉はなんら問題なく終了した。組合は当初、ベースアップ3.5%、特別手当5,000,000ペソを要求していたが、Salvador事業所の生産コストがCODELCO社内で一番高いことを考慮し、CODELCOが提示したベースアップ2.5%、特別手当4,000,000ペソ支給の条件を受け入れることとなった。
 Salvador事業所の労使交渉は経営筋に近い管理職労働組合が相手方であったため、強硬な手段を主張する者がいなく、穏やかな交渉であったとされている。CODELCOの経営筋も組合は終始、分別のある対応を示してくれたと評価している。
 
(4) Andina事業所
 Andina事業所の労働協約改正交渉はCODELCOがストライキを避ける目的で、Andina事業所の2つの労働組合(労働統合組合、単一労働組合)に対し、前倒し交渉を申し入れ、組合側がこれを受け入れたため、通常の交渉開始時期より1か月以上前に開始された。
 CODELCOは9月26日にベースアップ3%、特別手当6,000,000ペソ及びソフトローン1,500,000ペソの貸与を提示し、労使交渉を行なった結果、10月7日に2つの労働組合とベースアップ3%、特別手当6,425,000ペソ及びソフトローン1,500,000ペソ貸与の条件で妥結した。
 Andina事業所単一労働組合はCODELCO事業所の中でも屈指の強行派組合で、交渉の難航が予測されていたが、目立った反対も無く早々に妥結することとなり、関係者を驚かせた。
 
(5) El Teniente事業所
 El Teniente管理職組合はCODELCOが提案した、前倒し交渉を拒否し、11,000,000ペソの特別手当を要求する等、交渉が難航すると予測されていた。これに対し、CODELCOは精力的な交渉を展開し、10月27日にベースアップ3.0%、特別手当6,500,000ペソの条件で合意に至った。
 El Teniente管理職組合理事は合意の理由として、「再三にわたり特別手当の増額を要求したにも拘らず、CODELCOがこれ以上要求に応じる姿勢を見せなかったため労働者が諦めたのではないか。」とコメントしている。
 
(6) CODELCO Norte事業所
 CODELCO Norte事業所の労働協約改正交渉は当初から予測されていた通り、CODELCOにとって、複雑で厳しいものとなった。
 CODELCO Norte事業所にはChuquicamata第1、第2、第3、第5労働組合及びAntofagasta第1、第2労働組合が存在する。当初、Chuquicamata第1、第2、第3、第5労働組合とAntofagasta第1労働組合が組合連合を形成し、合同で労働協約改正交渉を行うことを決定していた。
 CODELCOは、ストライキの発生を回避するため法定期間より余裕のある交渉を行いたいとして、組合連合に前倒し交渉の実施を提案したが10月25日、組合員総会の決議採択の結果、組合連合はこれを拒否した。しかし、10月28日に突然Antofagasta第1労働組合がAntofagasta第2労働組合に同調して、前倒し交渉を受け入れる旨会社側に通告、10月30日にはChuquicamata第5労働組合がこれに加わり、組合連合は事実上解体し、労使交渉は複雑なものとなった。
 Chuquicamata第1労働組合は単独で労使交渉を実施することを決め、ベースアップ8%、特別手当12,000,000ペソをCODELCOに要求、一方、Chuquicamata第2、第3労働組合は11月17日に合同で、ベースアップ6.6%、特別手当12,000,000ペソの支給を盛り込んだ要求書を会社側に提出した。これによりCODELCOは3つのグループと平行して労使交渉を実施することとなった。
 CODELCOは先ず、前倒し交渉を実施していた、Antofagasta第1、第2労働組合、Chuquicamata第5労働組合と労働協約改正の合意に成功した。合意内容は、ベースアップ3.8%、特別手当8,000,000ペソの支給及びソフトローン2,000,000ペソの貸与(但し、希望者に限る)であった。
 一方、Chuquicamata第1、第2、第3組合に対してCODELCOは、非常に厳しい回答を提示した。その内容はベースアップ2%の他、従業員とその家族の健康、教育、生活の質の改善について提案しているが、特別手当の支給に付いては一切触れていなかった。CODELCOの回答内容が組合の要求と大きくかけ離れている上、前倒し交渉を行った小規模労働組合との妥結内容より大幅に劣るものであったため、組合員に危機感を与えたといわれている。
 結局、Chuquicamata第2、第3組合が12月19日にCODELCOが提示した労働協約改正案の受け入れを決定し、Chuquicamata第1組合も、12月20日に同改正案の受け入れを決定したため、CODELCO Norte事業所の全ての労使交渉は終結した。最終的な合意内容はいずれの組合ともベースアップ3.8%、特別手当8,000,000ペソ及びソフトローン2,000,000ペソの貸与(但し、希望者に限る)であった。
 CODELCOのArellano総裁は、「Chuquicamata第1組合はCODELCO最大・最強の労働組合と言われており、同組合の要求する額が大きかったことから、交渉が長期化することが予測されていたが、妥結することができて満足している。」とコメントした。

2. 労働協約改正内容

 2006年のCODELCOと各事業所の労働組合(下請け業者除く)との労働協約改正に係る合意内容を以下にまとめた。

2006年のCODELCOと各事業所労働組合との労働協約改正内容
CODELCO
事業所
労働組合
組合
員数
交渉期間
契約期間
ベース
アップ
特別手当
(ペソ)
Ventanas 第1労働組合
600
2005.12-2006.1
36か月
2.8%
2,000,000
交替勤務者労働組合
315
2005.12-2006.1
39か月
2.8%
2,300,000
Salvador 管理職労働組合
180
2006.8-9
48か月
2.5%
4,000,000
Andina 労働統合組合
411
2006.9-10
36か月
3%
6,425,000
単一労働組合
616
2006.9-10
36か月
3%
6,425,000
El Teniente 管理職労働組合
398
2006.9-10
42か月
3%
6,500,000
Codelco Norte Antofagasta第1労働組合 Antofagasta第2労働組合 Chuquicamata第5労働組合
295
2006.11-12
36か月※
3.8%
8,000,000
Chuquicamata第2労働組合 Chuquicamata第3労働組合
3,026
2006.12
36か月
3.8%
8,000,000
Chuquicamata第1労働組合
2,765
2006.12
36か月
3.8%
8,000,000
*1US$=544.49ペソ(2007年2月1日現在)
※Chuquicamata第5労働組合は38か月

 上記結果を比較すると労働協約改正時期が遅いほど組合にとって有利な条件で合意している傾向がある。これは、2006年後半にAndinaやChuquicamata事業所の大規模で強力な労働組合との労働協約改正交渉があったことが一因であるが、銅価格の高止まりにより、CODELCOの利益が積みあがっていく中で、利益の一部を労働者に還元せざるを得なくなったと考えられる。また、2006年8月にEscondida鉱山がベースアップ5%、特別手当9,000,000ペソのチリ史上まれに見る高い条件で合意したことも影響しているものと思われる。
  2006年に合意した労働協約書の契約期間はいずれも長期(36か月-48か月)であるが、これはCODELCOにとって評価できる点である。Andina事業所の労働組合は契約期間の短縮(24か月)を強く要求したが、CODELCOは次回の労働協約改正までの期間短縮を嫌い、譲らなかった。
  また、CODELCOは同一事業所内の労働組合とは可能な限り、同一条件により労働協約改正を行っている。CODELCO Norte事業所の交渉では、3つのグループと平行で交渉を進めていたが、CODELCOは先に合意したグループより有利な条件を提示することは最後までしなかった。これにより、交渉を長引かせた労働組合が得をすることはないと、他の労働組合に示したのではないかといわれている。

3. 考察とまとめ

  2006年の労働協約改正交渉は、銅価格の高騰が続き、CODELCOの利益が過去最高を記録する中、労働組合が利益の一部を労働者に還元し、銅価格に見合ったベースアップ、特別手当を求めたものであった。
  組合は銅価格が低迷していた時に給与凍結等によりCODELCOに協力したが、銅価格が上昇しCODELCOが莫大な利益をあげている中、今度は利益の一部を労働者に分配すべきだと主張し、CODELCOに大幅なベースアップと高額な特別手当の支給を要求した。
  これに対し、CODELCOはCODELCOが利益の全てを国庫に納付するという特殊性を強調し、不当に高い給与は与えられないと主張した。Poniachik鉱業エネルギー大臣も「CODELCOは国営企業であり利益は全て国庫に納付されチリ国民のために使われる。CODELCOの給与は既に十分高いレベルにあり、社会的に突出した要求は国民が許さないであろう。」と主張し、世論を利用して、労働組合の要求を牽制した。
  労使交渉の結果、CODELCOは他の鉱山(Escondida鉱山除く)と比べ高い特別手当を支払うこととなったが、特別手当は2006年の利益の中から支払う1回きりの手当であり、長期的なコストアップに繋がるベースアップを2-3%台に抑えたこと、いずれの労働組合ともストライキに発展することなく、3-4年の長期協約を締結できたことは評価できる点である。
  一方、下請け従業員との交渉については、不安を残す結果となった。CODELCOは2006年1月の合意で下請け従業員との交渉は全て解決したとの立場を強調しているが、下請け従業員側は1月の合意で獲得できなかった500,000ペソの支給については、交渉の第2段階に持ち越しただけであると主張し、CODELCOと引き続き下請け従業員の待遇改善や直轄従業員との格差是正を求めた交渉を行うとしている。下請け従業員と直轄従業員の給与差は5対1であるといわれており、直轄従業員に多大な特別手当が支給される中、給与の改善を求めて、強硬な手段に訴える下請け従業員も出てくる可能性がある。
  CODELCOは2007年に、Radomiro Tomic労働組合(組合員数1,500人)及びSalvador労働組合(組合員数1,700人)と労働協約改正交渉を控えているが、これらの労働組合との労使交渉については、2006年のCODELCOの労使交渉状況を見る限り、問題なく協約改正が行われるのではないかと考える。しかしながら下請け従業員による紛争が起こる可能性は否定できず、この場合ストライキに発展する可能性もある。

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