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報告書&レポート

2007年2月22日 リマ事務所 西川信康 e-mail:ommjlima@chavin.rcp.net.pe
2007年16号

ボリビア・鉱業税制改正および錫製錬所接収の行方-大幅税率アップで投資家より反発の声が拡大-

 2007年1月末、モラレス政権下で検討が進められてきたボリビアの鉱業税制改正法案のドラフトがようやく明らかになった。焦点だったICM(鉱業ロイヤルティ)の税率については、現行の最大7%から最大20%と世界の水準よりもはるかに高い税率となっており、外国投資家のみならず、国内生産者からも大きな反発の声が広がっている。本稿では、鉱業税制改正法案のドラフトの内容とその波紋、今後の見通しについて報告する。

1. 鉱業税制改正法案の内容

 ボリビアの鉱業関係者より入手した鉱業税制改正のドラフトによれば、ポイントは、現行の鉱業法では、所得税(25%)と鉱業補完税(*)(ICM:Impuest Complementario Minero、鉱業ロイヤルティに相当)のどちらか高い方を納税すればよいが、新鉱業法では、両者の支払いを求めることになるということ、さらに、鉱業補完税の税率は、現行と同様、鉱種毎、それぞれの国際価格毎に設定されているが、例えば、金、亜鉛の場合、現行では、それぞれ、4~7%、1~5%なのに対し、改正案では、金4~20%、亜鉛1~20%と大幅に税率がアップすることである。なお、政府の試算によると、この改正により、2006年の鉱業補完税収45百万$から2007年は、その6倍以上となる3億$に達するとされる。
 鉱業補完税の詳細は以下のとおりである。
 
・鉱業補完税は、鉱石の売上総額ベースに各金属の国際価格に応じて税率(国際価格が高いほど高税率)が設定される。主な鉱種の税率は表のとおり。

表 主な鉱種の改正案と現行の税率
 
改正案
現行
価格
税率(%)
価格
税率(%)

($/oz)
850以上
20
700以上
7
400~850
0.0356×CO-10.222
400~700
0.01×CO
400以下
4
400以下
4

($/oz)
22以上
20
8以上
6
7~22
0.983×CO-1.6333
4~8
0.75×CO
4~7
0.75×CO
4以下
3
4以下
3
亜鉛
($/lb)
3.28以上
20
0.94以上
5
0.94~3.28
6.41×CO-1.026
0.475~0.94
8.43×CO-3
0.475~0.94
8.602×CO-3.086
0.475以下
1
0.475以下
1

($/lb)
1.20以上
20
0.6以上
5
0.30~1.20
21×CO-5
0.3~0.6
13.4×CO-3
0.30以下
1
0.3以下
1

($/lb)
8以上
20
5以上
5
2.50~8
3.445×CO-7.636
2.5~5
1.6×CO-3
2.50以下
1
2.5以下
1

($/lb)
5以上
20
1~5
0.70~5
4.42×CO-2.093
0.70以下
1
その他、タングステン、ビスマス、アンチモン:1~20%等なっている。
注)CO:金属価格

・これによると、例えば、現在(2月15日時点)の亜鉛価格1.53$/lbの場合、現行5%のところ、改正案では8.8%、金価格670$/ozの場合、現行7%のところ、改正案では13.6%と大幅増となる。
・共同組合系鉱山、小規模鉱山等、国内生産者に対しては、国内販売に対しては、上記税率の60%、輸出に対しては、70%を課す内容となっており、外国企業より優遇されている。
・徴収された鉱業補完税収は、以下のとおり配分されるが、その6割が鉱山地域自治体に還元されることになる。

 地質鉱山技術サービス局(SERGEOTECMIN) 
 鉱業再生基金                    
 鉱山地域の市役所                
 地域住民開発基金                
 県庁  
15%
25%
10%
25%
25%

2. 鉱業税制改正法案の波紋

 上記のとおり、鉱業税率が現行の水準よりも大幅に上回ることが明らかになったことで、国内の生産業者が、これに猛反発し、2月はじめ、ラパスにおいて、3万人を超えるとされる大規模なデモ行進を行った。デモ隊は、鉱業税制改正法案の撤回とダレンセ鉱業冶金大臣の辞任を求め、一部は小型のダイナマイトで武装するなど、デモの過激化、治安悪化が心配された。
 この事態を重く受け止めたモラレス大統領は、デモを指導する鉱業協同組合連合会(FENCOMIN)と、自ら6時間にわたる協議をしきり、その結果、2月7日、双方で協約書への署名を取り付け、事態は一転収束に向かった。
 協定書では「より多くの利益を得るものが多くを支払う」という原則のもとに税制度の民主化が約束されているとし、2006年8月に交わした鉱業補完税を変えないとする合意事項をベースに、今後、大統領府、鉱業冶金省、国内生産者との間で協議していくというもので、事実上、本鉱業税制改正法案を取り下げ、共同組合系鉱山や小規模鉱山に対しては、税率は現状維持とすることをコミットしたものと見られる。
 一方、2006年9月に住友商事による資本参加が決定し、我が国への安定的な亜鉛鉱石供給に大きく貢献することが期待されているSan Cristobal亜鉛・銀鉱山開発プロジェクトについては、所得税、鉱業補完税に加え、別途Sur Tax(付加税:年間3,000万$以上の利益を出した企業に対し利益の25%を課税)が課せられる可能性が高く、その場合、実行税率が7割程度に達するという試算もあり、同鉱山の経営に大きく影響することが懸念される。さらに、追い討ちをかける動きとして、政府内で、輸出品に対する付加価値税(IVA、13%)の還付制度の廃止が検討されているとの噂もあり、ボリビア政府に対する不信感・不安感が広がっている。
 

3. Vinto錫製錬所の国有化宣言

 このような税制強化の動きに加え、2月9日、モラレス大統領は、アルバロ・ガルシア副大統領、ギジェルモ・ダレンセ鉱業冶金大臣、ウォルカー・サンミゲル防衛大臣などを伴ってVinto錫製錬所を訪れ、同製錬所の国有化を一方的に宣言するとともに、同製錬所の国有化を命じる最高政令29026号「Federico Escóbar Zapata」(1966年に死亡した鉱山労働者リーダーの名前に由来)を発令した。Vinto製錬所はスイスのGlencoreの傘下企業であるSinchi Huayraが所有していたもので、2005年の錫生産量は11.3千t。
 政令では、Vinto製錬所の全ての資産をボリビア政府が掌握し、今後Vinto製錬会社(Empresa Metalúrgica Vinto)が管理運営していくことが定められている。
 モラレス大統領は、Glencoreに対する賠償は1銭たりとも行わないとする一方で、同製錬所の施設近代化と生産性向上に対して1,000万$の投資を行うことを確約した。なお、この資金はベネズエラ政府から支援を受けているとされる。これに対し、スイス政府は、スイスとボリビアは投資保護協定を結んでおり、今回の製錬所接収は、明らかに本協定に違反しており、国際調停に訴えることも辞さないと主張している。
 モラレス大統領は、サンチェス・ロサダ元大統領(現在、米国に亡命中)が所有していた企業は全て再国有化されなければならないと警告しており、Sinchi Huayraの保有する鉱山資産(Bolivar鉱山、Colquiri 鉱山、Porco鉱山等)も今後、接収の対象になる考えを示唆している。但し、同大統領は、法律を守る企業、利益を公平に国に分配する企業は尊重する立場を表明しており、San Cristobal亜鉛・銀鉱山(米国Apex Silver社、住友商事)やSan Bartolome銀鉱山(米国Coeur d’Alene社)等、他の外国資産は、国有化の対象にはならないとの見方が一般的である。
 Glencore資産を巡っては、同社が2005年に、元ロサダ大統領の所有する Comsur社の資産を約1億$で買収した際、その取引が不透明であったこと、また、元ロサダ大統領が、Glencoreのボリビア法人Sinchi Wayra社の出資者であったことなどから、かねてから、不正取引疑惑の象徴として取りざたされていたもので、今回の一連の行動は、政治的な思惑が大きく働いているものと見られる。
 

4. 今後の見通し

 税制改正については、かねてから、課税強化の方向で検討が進められており、その税率について、モラレス政権の支持基盤である左翼グループや貧困層からの大幅な税率アップを求める声と投資促進の立場から税率アップを小幅に留めたいとする意見とが存在し、その落としどころが注目されていた。しかしながら、今回の改正案は、明らかに投資家に厳しい要求をつきつけるバランスを欠いたもので、これでは、新規投資の呼び込みは期待できず、政府関係者が再三口にしている外資導入を促進させて貧困問題を解決するというボリビアの最終的な目的を達成するのは難しいと言わざるを得ない。
 本改正法案については、国内生産者や外国投資家の猛反発により、政府は、本法案の国会提出を見送った模様である。今後、大統領府、鉱業冶金省、共同組合、COMIBOL等の国内生産者、外国投資家との間で、再度、調整し見直しを図っていくとのことで、最終的に確定するまで、さらに紆余曲折が予想される。
 2月下旬にJOGMECの有力者招聘制度で、ダレンセ鉱業冶金大臣及びエチャス鉱業冶金次官が来日し、講演会及び資源関係者との懇談が予定されている。ボリビア側は、我が国の長年にわたる経済協力支援等の実績や日本人の勤勉さを高く評価し、我が国に対する信頼感、期待感が大きいとされる。この機会を利用し、ボリビア側に対し、ボリビアでの我が国企業の投資促進に向けて、国際競争力のある鉱業税制度の確立と安定的な投資環境を確保すべきとの我が国鉱業関係者からの明確なメッセージを伝えることが肝要であろう。

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